■山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ■
ソニーの「PRS-T2」は、E Ink電子ペーパーを搭載した電子書籍端末だ。6型、Wi-Fi対応などの基本スペックは従来モデルを継承しつつ、従来モデルを大きく下回る低価格が特徴の製品である。
海外での発表から国内での出荷開始(9月21日)までに1カ月以上の日数が空いたこと、また国内での出荷開始日がiPhone 5とバッティングしたことで(ちなみに先にこの日の発売をアナウンスしたのはソニーである。同社もまさかiPhoneとぶつかるとは思っていなかっただろう)、かなりひっそりとした立ち上がりという印象がある。しかしながら、高い完成度を誇っていた従来モデル「PRS-T1」の後継ということで、電子書籍に興味を持つユーザにとっては注目すべきモデルといえる。
中でも、本製品発表直前まで16,800円で販売されていた「PRS-T1」を大きく下回る9,980円という価格は、Reader Storeの蔵書数、およびこれまで2年間運営されている実績も踏まえ、国内における電子書籍ストアがぐっと身近になったものとして注目される。ちなみにPRS-T1は発売当初は19,800円だったので、わずか1年で実に半値近くまで下がったことになる。
今回は本製品について、実際にソニーストアで購入したモデルを用いてのレビューをお届けする。前編では従来モデルとの違いを中心に基本的な使い勝手を検証し、次回の後編ではストアの購入フロー、および新機能のFacebook/Evernote連携機能についてチェックしていく。
●9,980円という価格は魅力。バッテリはさらに長寿命に
まずは主な仕様をざっと他機種と比較しつつ、本製品の特徴を見て行こう。
ソニー | ソニー | 楽天 | Amazon.com | |
PRS-T2 | PRS-T1 | kobo Touch | Kindle Touch | |
サイズ(最厚部) | 110×173.3×10.0mm | 110×173.3×9.6mm | 114×165×10mm | 120×172×10.1mm |
重量 | 約164g | 約168g | 約185g | 約213g |
解像度/画面サイズ | 600×800ドット/6型 | 600×800ドット/6型 | 600×800ドット/6型 | 600×800ドット/6型 |
ディスプレイ | モノクロ16階調E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調E Ink電子ペーパー | モノクロ16階調E Ink電子ペーパー |
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n |
内蔵ストレージ | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.3GB) | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.4GB) | 約2GB(ユーザー使用可能領域:約1GB) | 約4GB(ユーザー使用可能領域:約3GB) |
メモリカードスロット | microSD | microSD | microSD | なし |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 約30,000ページ、最長2カ月(Wi-Fiオフ、1日30分読書時)、最長1.5カ月(Wi-Fiオン) | 約14,000ページ、最長5週間(Wi-Fiオフ、1日30分読書時)、最長3週間(Wi-Fiオン) | 約1カ月 | 6週間(Wi-Fiオン)/2カ月(Wi-Fiオフ) |
電子書籍対応フォーマット | XMDF(mnh/zbf).book、EPUB、PDF、TXT、JPEG、GIF、PNG、BMP | XMDF(mnh/zbf).book、EPUB、PDF、TXT、JPEG、GIF、PNG、BMP | EPUB、PDF | Kindle (AZW)、TXT、PDF、unprotected MOBI、PRC natively; HTML、DOC、DOCX、JPEG、GIF、PNG、BMP through conversion |
電子書籍ストア | Reader Store、紀伊國屋書店BookWeb | Reader Store、紀伊國屋書店BookWeb、楽天イーブックスストア(Raboo) | koboイーブックストア | Kindle Store |
価格(2012年9月22日現在) | 9,980円 | 8,980円 | 7,980円 | 139ドル(広告なしモデル) |
備考 | ソニーストアでは販売終了 | PDFは楽天koboで販売しているPDF書籍のみがサポート対象。対応フォーマットは仕様として公表されている以外にCBZ、CBR、JPG、GIFなどの表示が可能 | 販売終了、後継はKindle Paperwhite |
表を見ればお分かりいただけるように、他機種に比べて薄型軽量であるという特徴はそのままで、言い替えるとハードウェアとしては突出した特徴はない。かつてKindle 2から3(現Kindle Keyboard)への進化がそうだったように、端末の原価を下げることがモデルチェンジにあたっての大きな目的の1つであり、とにかく機能を維持しつつコストダウンに注力したモデル、と見るのが正しいだろう。従来のPRS-T1との違いといえば、バッテリの持続時間がやや伸びているのが目立つくらいだ。
もっとも、Kindleが第2、3、4世代と進むにつれ明らかに本体の質感が低下していったのと異なり、見た目に安っぽさを感じないのは秀逸だ。一方で9,980円という低価格を実現していることは驚嘆に値する。国内外の価格差を考えても、149.99ドルの従来モデルが国内では19,800円と割高感があったのに対し、129ドルの今回のモデルが9,980円で提供されるのは、まさに破格である。
ただし、米国で去る9月上旬に発表され、近い将来の国内投入も考えられるAmazonの「Kindle Paperwhite」は、E Inkパネルの高解像度化という新しいトレンドを打ち出してきているほか、競合となるNOOKに対抗すべくバックライト内蔵という新たな付加価値を搭載している。本製品は、2012年前半までの競合製品と比較する限りでは機能も見劣りせず価格競争力もあるが、これらのトレンドを取り入れた上位機種の投入いつであっても不思議ではないというのが、筆者個人の見解だ。
ところで上の仕様一覧はあくまで主だった仕様を並べたものであり、細かいところでの変化は多い。中でもハードウェアに関連する機能の相違として、音楽再生機能が削減されたことは要注目だ。個人的には特に不都合を感じないが、イヤフォンジャックがなくなったということは、将来の音声読み上げ機能の追加搭載の道も絶たれたわけで、そこは気をつけておいた方がよいだろう。もっとも、音声出力機能は前述のKindle Paperwhiteでも省かれているので、E Ink端末から音楽再生を含む音声出力機能がなくなる流れは今後加速するのかもしれない。
左から、本製品、kobo Touch、Kindle Touch。いずれもタッチ操作に対応した6型のE Ink端末だが、ページめくりボタンを備えているのはこの3製品の中では本製品だけだ | iPhone 4S、本製品、iPadの比較。サイズ的にはほぼ中間 | 本体底面を従来モデル(下)と比較したところ。音楽再生機能が削減されたため、イヤフォンジャックが省かれた |
●外観周りは基本的に同一。ボタン周りが従来モデルと大きく変化
では外観から見て行こう。前述の通り、外観は一般的な6型のE Ink端末である。従来モデルに比べると下部のボタンが横長ではなくアイコンになっているが、機能がそのままボタンの形状で表現されているため、目で見なくても指先の感触だけでボタンの区別がつくほか、ボタン位置が相対的に上に移動しているため、片手で本体をホールドした際の押しやすさは向上している。
ただし押下時の音はカチカチとやや耳障りで、長時間操作していると突起部で痛みを感じることもある。使い始めたばかりで現時点ではまだ分からないが、シルバーの塗装ということで剥げやすさも気になるところだ。メリットとデメリットが相殺し合ってトータルでは若干ながらプラス、といったところだろうか。
もっとも、モデルチェンジにあたってボタンそのものを残した同社の判断は評価したい。電子書籍を読む際の姿勢は、常に両手が自由というわけではない。吊り革につかまって片手で操作することもあるし、寝転がって仰向けに端末を支えながら読む場合もある。その際、画面のタッチ操作以外にページをめくる手段が用意されていれば、姿勢に合わせて使い分けることが可能だからだ。
単純に設計の問題だけで言ってしまえば、物理ボタンがあればそれだけ金型代などのコストに跳ね返るわけで、タッチスクリーンのみにしておいた方が原価は安く済む。それをこだわってボタンを残しつつ、前述のような低価格を実現したことは、素直に賞賛したいところだ。もちろん、ボタンを長押しすることでページの早送りができるReaderならではの機能も健在である。E Ink端末のライバルとなるKindle、koboはもちろん、スマホと比較した場合の強みになるだろう。個人的には今後も搭載し続けてくれることを希望したい。
本体上面。コネクタ類は何もない | 本体底面。リセットボタン、MicroUSB端子、電源ボタンを備える。イヤフォン端子がないことを除けば従来モデルと同じ | 本体左側面。microSDスロットを備える |
本体右側面。コネクタ類は何もない。このあたりは従来モデルと同じだ | 本体裏面。表面はピアノ調の光沢があるのに対し、この裏面は滑り止めの加工が施されておりマットな質感 |
左側面のmicroSDスロット。32GBまでの容量に対応する | 付属のタッチペン。文字入力や手書きメモなど細かい操作に使用する。本体には収納できないが、付属の保護ポーチに挿入口があり、持ち運べるようになっている |
●リフレッシュレートの設定改善、既読ページの同期機能も搭載
つづいて画面構成および設定項目について見ていこう。
ホーム画面は、従来が2ページだったのが1ページにまとめられたのが大きな変化だ。従来のホーム画面は、利用頻度が高い項目が1ページ目、そうでない項目が2ページ目と分けられていたのだが、「ホーム画面が2つに分かれている」ということ自体、階層構造のメニューとしてはあまり例がなく、機能を見つけにくく感じることもしばしばだった。
本製品では、従来2ページ目にあった項目をまとめてホーム画面右下に移動させ「アプリケーション」というラベルをつけている。これらには設定画面なども含まれているため「アプリケーション」という文言に多少の違和感はあるが、ホーム画面になければとりあえずこの「アプリケーション」にタッチすればよいという意味で、わかりやすくなったと感じる。
ボタンの数もやたらと多すぎるということはなく、画面下部に「本棚」、「Reader Store」、「アプリケーション」と目的別に大きなアイコンでまとめられているので、初めて使うユーザーでも迷いにくいだろう。既読割合の表示、書籍ごとのサムネイル縦横比の反映など、細かな進化も多く好印象だ。Readerはこれまで新機種が出るたびにレイアウトが大きく変わっていたが、1つの到達点を迎えたと言ってもよさそうだ。
設定項目は従来のメニューを踏襲しつつも、細部に違いが見られる。なかでも従来モデルとの大きな違いは、残像を消去するためのE Ink特有のリフレッシュレートが調整できるようになったことだ。従来モデルでは1ページに1回に固定されていたため、ページをめくるたびに画面が白黒反転していた。競合製品では数ページに1回の白黒反転にとどめることができたので、使い比べた場合、Readerでのページめくりはどうしても目障りだった。
本モデルではこのリフレッシュが最大15ページにつき1回(または10分に1回)に抑制されるようになったので、読書中に気を削がれにくくなった。この15ページに1回というのは、5ページに1回のKindleや、6ページに1回のkobo Touchへの対抗のために無理をしているわけではなく、リフレッシュなしのまま10ページ以上読んでもそれほど目障りな残像を感じない。従来モデルと比べてもざらつきは少なく、表示品質が向上しているのは一目瞭然だ。
ただし画像中心のコンテンツでは強制的に1ページに1回のリフレッシュとなり、こちらはやや頻度が高すぎるように感じる。リフレッシュが多いとそのぶんページめくりの反応が遅くなるので、画像中心のPDFでは、結果として従来モデルよりもレスポンスが悪くなってしまっている。もう少し柔軟に設定できるようにして欲しかったところだ。このあたりはのちほど動画でご確認いただきたい。
また本製品では、待望の同期機能も搭載された。Kindleの「Whispersync」で実現しているのと同じく、同じコンテンツを表示している他端末とページの既読位置を同期する機能である。現時点ではまだ本製品同士でしか同期できず、Readerアプリを搭載する同社のタブレットやスマホとの同期はまだしばらく先となるが、機能としては一歩前進である。将来的には、現状サポートしていないメモの同期にも期待したい。
●動作の高速化に加え、画質面ではモアレも低減
さて動作チェックである。使っていて感じるのは、従来モデルに比べてあきらかにレスポンスが高速ということだ。従来モデルもE Ink端末としてはかなりサクサク動く部類だったが、今回のそれはさらにその上を行く。Kindle Touchはもちろん、NOOK Simple Touchなどと比べても明らかに速い。
ただし前述のリフレッシュレートの関係で、自炊などで生成したPDFデータについてのみ、ページめくり時の動きがもっさり感じる(以下の動画参照)。「メニュー操作=高速」、「テキスト中心のページめくり=高速」、「画像中心のページめくり=やや高速」、「自炊データ=並」といった表現になるだろうか。まあそれでもkobo Touchよりは明らかに速い。
【動画】スタンバイ状態から復帰したのち、ストアからのおすすめとアプリケーション画面をいったん表示し、ホームに戻って本棚を開き、書籍を表示してスワイプ/ボタンそれぞれによるページめくりやスライダによるページ移動、文字サイズ変更などを試す様子。レスポンスはきびきびとしており、ストレスはたまらない |
秀逸なのは、タップやスワイプといった反応に対する取りこぼしがほとんどないことだ。操作は受け付けられているはずが数秒~数十秒固まっている、という従来モデルでよく見られた症状も明らかに減少している。またサムネイルの生成で長時間フリーズする症状も抑えられているので、従来のPRS-T1のユーザも、買い替えればずいぶんストレスが軽減するはずだ。
また、これは従来モデルにも言えたことだが、ページめくりに関してはハードウェアキーを使ったほうがきびきびと動くように感じられる。これはボタンを押下した際のカチッという音の効果や、押したボタンが戻るまでのバッファなどもあるはずなので一概には言えないのだが、体感的にはこのハードウェアキーを使っての操作の方が心地良く操作できる。本製品はタッチ画面上でのページめくりはスワイプにしか対応せず、タップは項目選択に割り当てられているので、そうした意味でもハードウェアキーの利用機会は増えそうだ。
【動画】従来モデル(右)と、テキスト中心のページめくりを比較した動画。従来モデルでは毎ページごとに白黒反転するのに対し、本製品は15ページに1回のみ白黒反転しているのが分かる。これはボタンでもスワイプでも同様だ。またボタン長押しによる早送りは、めくり速度こそ同等ながら、最初の1ページ目がめくられ始めるまでの時間が短いため、従来モデルよりも早く目的のページにたどり着ける |
【動画】従来モデル(右)と、画像中心のPDFのページめくりを比較した動画。白黒反転が強制的に1ページに1回となるため、従来モデルと比較するとむしろ低速で、また操作に対するひっかかりもある。とくにボタン長押しによる早送りではかなりの差が出る。ただしストアから購入したコミックで比較した場合は、むしろ本製品の方が通常のページめくり/早送りともに高速だ |
【動画】kobo Touch(右)と、テキスト中心のページめくりを比較した動画。めくりの操作はスワイプに統一している。もともとkobo Touchはテキストのページめくりは高速なので見た目の差はないが、スワイプの取りこぼしの少なさも踏まえると本製品に分がある。ただし表示しているコンテンツがそもそも異なるため、挙動に影響を与えている可能性は差し引いてほしい |
【動画】kobo Touch(右)と、画像中心のPDFのページめくりを比較した動画。先ほどのPRS-T1との比較では遅く感じられた本製品だが、kobo Touch相手では操作の取りこぼしがないことも含めて、使い勝手は圧倒的によい |
画像の表示品質も明らかに違いがある。顕著なのがモアレで、例えば以下の「ラブひな」の画像は、従来モデルのほか、Kindle、koboではいずれも同等のモアレが発生していた。ところが今回の製品ではじっくり見ないと気づかないほどモアレが軽減されている。あわせて細かい文字のカスレもなくなり、視認性も全体的に向上しているので、「E Ink端末で漫画はちょっと……」と抵抗があった人も、いまいちど試してみてほしい。
また本を裁断してスキャンする、いわゆる自炊で生成したPDFについては、従来モデルとは表示の傾向がやや異なる。E Inkということで、例によってドットバイドットにしてやることで細かい文字も見やすく表示され、モアレも発生しにくくなる。その値は従来モデルと同じ584×754ドットということで間違いなさそうだ。
しかしそれ以外のサイズであっても、従来モデルのように細い線が間引かれたり、あるいはギザギザが目立つことなく、多少にじむものの、そこそこ読めてしまう。これまではサイズが大きすぎる画像はフリーソフト「ChainLP」などによる最適化が必須だったが、本製品で表示する際は無理に最適化しなくても構わなさそうというのが筆者の感想だ。詳細は以下の画像を見て欲しい。
なお、冒頭でも述べたように、昨今E Ink端末に高解像度化の兆しがある。おそらく本製品も、次期モデルでは高解像度化の波をかぶることだろう。そのため自炊データを作成する際は、間違っても最適化後に元データを処分せず、将来的に端末の高解像度化が進んでも再生成できるようにしておくことをおすすめする。
最後になったが、ウェブブラウジングについては、従来モデルと挙動は大きく変わらない。こちらは動画でご覧いただければと思うが、スクロールなどはなかなか快適だ。ただし動画内でもミスをしているように、スクロールが完全に静止して画面がリフレッシュされる前にタップすると誤ってリンクに触れてしまう場合がある。このあたりは慣れの問題と言えそうだ。
【動画】ブラウザを起動してPC Watchにアクセスし、スクロールやクリックを行なう様子。従来モデル同様、画像が多いページではパーツが読み込まれるたびに白黒反転が発生する欠点があるが、タッチ操作によるスクロールなどの挙動はなかなか快適 |
以上、従来モデルとの違いを中心に、基本的な使い勝手をお届けした。ここまで見る限り、他社製品をよく研究して機能の追加および改善を行なっており、かなり完成度は高いと感じる。後編ではストアの購入フローのほか、新機能であるFacebook連携、そして目玉機能となるEvernote連携機能について見ていきたい。