山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
アップル「iPad mini 4」で電子書籍を試す
~電子書籍利用に最適、さらに薄く軽くなった7.9型タブレット
(2015/10/20 06:00)
「iPad mini 4」は、Apple製の7.9型タブレットだ。Retinaディスプレイが初採用された「iPad mini 2」から「3」への進化が指紋認証センサーのTouch IDの追加だけに留まったのに対し、本製品はさらなる薄型軽量化を実現し、性能の強化も図ったモデルである。
iPad miniシリーズは、5.5型の画面を持つiPhone 6 Plus(現行モデルはiPhone 6s Plus)の登場もあり、一時期に比べると影は薄くなった感はあるが、本のページの比率に近い4:3の画面サイズや、家庭内ではもちろん外出先にも持ち歩きやすい7.9型という画面サイズなど、電子書籍ユースでの存在感は未だ健在だ。
本稿ではこの製品を、「iPad mini 2」のほか、同等サイズのタブレットであるソニーのXperia Z3 Tablet CompactやAmazonのFire HD 8などと比較しつつ、電子書籍用途を中心としたレビューをお届けする。
CPUやメモリの強化に加え、本体の薄型軽量化など全方位的に進化
まずは従来モデルとの比較から。
iPad mini 4 | iPad mini 3 | iPad mini 2 | |
---|---|---|---|
発売年月 | 2015年9月 | 2014年10月 | 2013年11月 |
サイズ(最厚部) | 203.2×134.8×6.1mm | 200×134.7×7.5mm | 200×134.7×7.5mm |
重量 | 298.8g | 約331g | 約331g |
OS | iOS 9 | iOS 8.1 | iOS 7 |
CPU | 64bitアーキテクチャ搭載第2世代A8チップ、M8モーションコプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A7チップ、M7モーションコプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A7チップ、M7モーションコプロセッサ |
RAM | 2GB | 1GB | 1GB |
画面サイズ/解像度 | 7.9型/2,048×1,536ドット(326ppi) | 7.9型/2,048×1,536ドット(326ppi) | 7.9型/2,048×1,536ドット(326ppi) |
通信方式 | 802.11a/b/g/n/ac | 802.11a/b/g/n | 802.11a/b/g/n |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 最大10時間(Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生) | 最大10時間(Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生) | 最大10時間(Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生) |
価格(発売時点) | 42,800円(16GB) 53,800円(64GB) 64,800円(128GB) | 42,800円(16GB) 53,800円(64GB) 64,800円(128GB) | 41,900円(16GB) 51,800円(32GB) 61,800円(64GB) 71,800円(128GB) |
Touch ID | ○ | ○ | - |
本体色 | シルバー、スペースグレイ、ゴールド | シルバー、スペースグレイ、ゴールド | シルバー、スペースグレイ |
冒頭でも述べたが、iPad mini 2から3への変更点はTouch IDの追加のみで、新色であるゴールドが追加されたこと、また32GBモデルが廃止になったことを除けば、ハードウェアとしての違いはない。初代iPad miniから2へとモデルチェンジした際に約23g増加した重量もそのままで、CPUも同一だ。
それに比べると、今回のモデルではディスプレイのスペックこそ同一だが、CPUやメモリの強化をはじめ、本体の薄型化、さらに軽量化を実現するなど、全方位的に進化していることが分かる。全長こそミリ単位で大きくなってはいるが、両製品を重ねてみてようやく気づくレベルで、十分に許容できる範囲だ。また298.8gという、小数点以下まで記載した重量は、何が何でも300gを切るというApple側の執念を感じる。
続けて、8型前後の他社のタブレットと比較してみよう。解像度が近い製品としてはソニー「Xperia Z3 Tablet Compact」、後電子書籍ユースでは発売されたばかりのAmazon「Fire HD 8(第5世代)」辺りが、比較対象として妥当だろうか。例によってOSの違いなどもあり、スペックの中には直接比較できない項目もあるので、あくまでも参考として見てほしい。
iPad mini 4 | Xperia Z3 Tablet Compact | Fire HD 8(第5世代) | |
---|---|---|---|
Apple | ソニー | Amazon | |
発売年月 | 2015年9月 | 2014年11月 | 2015年9月 |
サイズ(最厚部) | 203.2×134.8×6.1mm | 123.6×213.4×6.4mm | 214×128×7.7mm |
重量 | 298.8g | 約270g | 約311g |
OS | iOS 9 | Android 4.4→5.1 | Fire OS 5 |
CPU | 64ビットアーキテクチャ搭載第2世代A8チップ、M8モーションコプロセッサ | Qualcomm Snapdragon 801 Quad-core 2.5GHz | クアッドコア 1.5GHz×2、1.2GHz×2 |
RAM | 2GB | 3GB | 1GB |
画面サイズ/解像度 | 7.9型/2,048×1,536ドット(326ppi) | 8型/1,920×1,200ドット(283ppi) | 8型/1,280×800ドット (189ppi) |
通信方式 | 802.11a/b/g/n/ac | 802.11a/b/g/n/ac | 802.11a/b/g/n/ac |
内蔵ストレージ | 16GB 64GB 128GB | 16GB 32GB | 8GB(ユーザー領域4.5GB) 16GB (ユーザー領域11.6GB) |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 最大10時間(Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生) | 約12時間(Wi-Fi Web閲覧時) | 8時間 |
microSDカードスロット | - | ○ | ○ |
価格(2015/10/5時点) | 42,800円(16GB) 53,800円(64GB) 64,800円(128GB) | 46,500円(16GB) 52,500円(32GB) | 19,980円(8GB) 21,980円(16GB) |
備考 | - | 防水対応(IPX5/8) | - |
こうして見ると、やはり解像度の高さは突出していることが分かる。また容量128GBをラインナップするモデルは、競合製品ではほぼ皆無だ。これは本製品がメモリカードに対応しないといった事情もあるが、カメラが500万画素から800万画素へと進化して写真や動画のサイズが大きくなり、より容量に余裕があるモデルが求められるようになってきている証だろう。特に電子書籍ユースにおいては、コミックなど容量の大きいコンテンツを多数持ち歩きたい場合に大きな利点となる。
ちなみに上記以外で8型前後のタブレットを挙げると、AndroidではASUSのZenPad S 8.0(Z580C)、NECのLAVIE Tab S(TS508/T1W)、Windowsでは同じくNECのLAVIE Tab W(TW508/CAS)などが、ここ1年以内に発売され、かつフルHD以上の解像度を備えたモデルとして挙げられる。実売価格は3~4万円と本製品よりも安価だが、解像度など何かしらのスペックにおいて本製品に優位性があることがほとんどだ。
実機を手に取ると薄型軽量化は一目瞭然
さて今回のiPad mini 4、手に取って強く感じるのは薄型軽量化の恩恵である。厚みで言うと1.4mm、重さで言うと約31gの削減は、値だけ見るとなかなか実感が湧きにくいが、実機を手に取ってみるとその差は一目瞭然である。初代iPadがiPad 2に進化した時の驚き……と言うとややオーバーかもしれないが、感覚的には近いものがある。ちなみに「1.4mm減って厚さ6.1mmになった」というのは、iPad Airから2へ進化した時と同じである。
もっとも、外観ベースでは、従来までのモデルとそう大きな違いがあるわけではないので、遠目に見ると違いが分かりにくい。iPad mini 2と比較した場合はTouch ID周りのデザインが異なること、また側面の画面回転/ミュートボタンが省かれたのが主な相違点だが、せいぜいそのくらいで、2台並べて置くと、見間違えることもしばしばだ。
画面回転/ミュートボタンは、昨年(2014年)iPad AirがAir 2に進化する過程で既に省かれていたとは言え、本製品は9.7型のiPad Airに比べて縦横を切り替える機会は多いと考えられることから、使い勝手で言うと一歩後退した感がある。もちろん回転ロックの有無はコントロールセンター経由ですばやく切り替えられるので、致命的というわけではないのだが、電子書籍ユースでは単ページ表示と見開き表示を切り替える頻度も高いので、物理ボタンのほうが小回りは効くのは事実である。
もっとも、iPad Air 2で省かれた当時に比べると、この機能の省略はある程度予期されていた部分ではあり、今や物理ボタンを持つデバイスを見つけるほうが難しい現状からして、進化の方向性としては違和感はない。何よりも本体の薄型化のトレードオフということで、致し方ないところだろう。とは言え、どうしても物理ボタンにこだわるのであれば、敢えてiPad mini 2を継続利用するという選択肢もあるだろう。
ちなみにメモリが1GBから2GBに増量されているのも、本製品の1つの目玉と言っていい。電子書籍ユースではそれほど真価を発揮する機会はないかもしれないが、「3DMark Ice Strom Unlimited」を用いたベンチマークの結果は以下の通りで、ほとんどの項目が2~3割増しのスコアとなっている。
iPad mini 4 | iPad mini 2 | |
---|---|---|
Ice Storm score | 18910 | 14738 |
Graphics score | 25422 | 19235 |
Physics score | 9970 | 8106 |
Graphics test 1 | 130.6FPS | 103.0FPS |
Graphics test 2 | 95.8FPS | 70.4FPS |
Physics test | 31.7FPS | 25.7FPS |
電子書籍ユースへの活用が期待できるマルチタスキング機能
本製品で採用されたiOS 9は新たにマルチタスキング機能に対応し、メインの画面を閉じることなく画面右にサブウィンドウを表示できる「Slide Over」や、画面を2つに分割できる「Split View」などの機能が利用できるようになっている。これらの特徴と、電子書籍ユースでの活用方法、および将来の可能性について見ていくことにしよう。
まずは簡単に機能のおさらいをしておこう。iOS 9には、画面の右端から左へとスワイプすることで右端1/3の領域に別のアプリを表示できる「Slide Over」という新機能が追加されている。この「Slide Over」で表示できる領域は右端の3分の1ほどで、メインのアプリを閉じることなく予定やメッセージを確認するなどの用途にはぴったりだ。ちなみにこの機能が使えるのは現時点でiPad mini 2以降、およびiPad Air以降のみとなっている。
さて、このSlide Overでアプリを表示したまま、境界線を左にドラッグすると、ちょうど画面が2等分されるところまで領域が拡張され、左右均等な2画面表示になる。これがSplit Viewである。ちなみに2等分の状態から左端いっぱいまでドラッグすると、もともと表示されていたアプリ画面が消えて完全に入れ替わる格好になる。
このSplit View機能はあらゆるアプリが使えるわけではなく、今のところApple純正のアプリが中心になっている。電子書籍アプリについては、本稿執筆時点で対応しているのはiBookくらいで、PDFやZIPで圧縮したJPGのビューアアプリ「SideBooks」が最近になって対応したのが目立つ程度だ。また機種の制限はSlide Overよりもさらに厳しく、現時点でiPad mini 4とiPad Air 2、およびiPad Proのみの対応となっている。
電子書籍ユースでこれらを活用する手段としてまず思いつくのが、電子書籍を見ながらメモを取ったり、あるいは電子書籍を見ながらのWeb検索だ。電子書籍アプリの多くはメモ機能やWikipediaでの検索機能を内蔵しているが、Slide OverやSplit Viewであれば、普段使い慣れたブラウザやメモアプリが(アプリさえ対応していれば)そのまま使える。本文中の単語を選択してGoogleやWikipediaにすぐジャンプできる便利さこそないが、フリーワードで検索が行なえる上、メモした内容をほかのアプリに渡すのも簡単だ。
また、ビューアアプリで本を表示したまま、Split Viewでブラウザ(Safari)の購入画面を開き、ストアで続巻を購入するという使い方も考えられる。やっていることはアプリを切り替えながら操作しているのと変わらないのだが、コミックを読み終えたらスワイプ操作でストアを表示して続巻を買い、読み終えたらまたストアを表示して続刊を買う……といった具合に、アプリ内で本を購入できないiOSの制限を補う形で使用できることが期待される。
このほか、動画の定額配信サービスで作品を見ながら隣で原作コミックの同じシーンをめくったりと、アイデア次第で電子書籍ならではの楽しみ方が広がりそうだ。中には異なる電子書籍アプリを立ち上げ、一方を参照しながらもう一方を読む、といった強者もいるかもしれない。ともあれ、まずはアプリが対応しないと話にならないわけで、各社アプリの対応が早期に進むことを期待したい。
なお電子書籍ユースでは、解決しなくてはいけない問題もある。それはコミックを見開きで表示している場合、Split Viewを使って2画面表示にすると、そのままでは見開きの状態のまま全体が縮小されてしまうことだ。本来なら領域が縦長になるのを検知して見開き表示から単ページ表示に切り替わるべきなのだが、iBookでは、こうした切替機能はない(テキストコンテンツは、サイズの変化を検知して適切なレイアウトへと変化する)。Split Viewそのものへの対応に加えて、こうした挙動への対応が望まれるところだ。
電子書籍利用に適したタブレットの筆頭に挙げられる製品
「電子書籍を読むのにお勧めの端末は何ですか」という質問に対して、2~3年前であればNexus 7(2012)を候補の筆頭に挙げていたものだが、その後のモデルチェンジや価格帯の変化などもあり、最近はiPad miniシリーズを挙げることが多い。利点として挙げられるのは本体および画面サイズの手頃さ、コミックなど固定レイアウトのコンテンツと相性が良い4:3という画面比率、そして解像度の高さといったところだ。
今回のiPad mini 4ではこれに(画面サイズの割には)軽量、かつ薄型という特徴が加わり、よりいっそう電子書籍端末としては使いやすくなった。アプリ内でコンテンツを直接購入できず、ブラウザでストアを別途表示して購入しなくてはいけないというiOSの制約は依然としてあるが、電子書籍を端末上ではなくPC上で買うユーザにはあまり問題にならないだろう。人によって評価が大きく分かれるポイントだと言える。
筆者はTouch ID以外にほとんど変化のなかったiPad mini 3は購入せずスルーしたクチだが、今回のiPad mini 4は買い替える価値のあるモデルだと感じる。電子書籍を使うだけならメモリの増量などはあまり実感するシーンはないが、重量の差、および厚みの差は意外に大きく、しばらく本製品を使った後でiPad mini 2を使うと野暮ったく感じるほどだ。
後はハイスペックな製品ならではの価格を許容できるどうかの問題で、ほかに買い替えを促す要因、例えばストレージ容量が足りないとか、Wi-FiモデルからWi-Fi+Cellularモデルに買い替えたいといった後押しの要因があるなら、迷わず買い替えるべきというのが筆者の意見だ。7~8型クラスに限らず、タブレットというカテゴリの中で見渡した場合も、電子書籍利用に適した製品として筆頭に挙げられる存在であり、初めて電子書籍用の端末を探しているユーザーにもお勧めできる。
なお容量は16/64/128GBという、32GBの抜けたややいびつなラインナップだが、電子書籍ユースで考えるのならば、64ないしは128GBが良いだろう。iPad Airシリーズにも言えるが、製品として1つの完成形に到達しており、ここからの劇的な進化というのが考えにくいだけに、長期利用を見越した容量の選択を心掛けたい。