山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

有機EL搭載ながら実売2万円台半ばの6.4型Androidスマートフォン「モトローラ moto g31」

「moto g31」。実売価格は2万5,800円

 モトローラの「moto g31」は、Android 11を搭載した6.4型のスマートフォンだ。有機ELディスプレイを搭載しつつ、実売価格が2万5,800円という低価格を実現していることが特徴だ。

 6型クラスの大画面スマートフォンは、実売10万円を超えるフラッグシップ機から、エントリー向けの格安モデルまでさまざまな製品が存在するが、本製品の最大の特徴は、性能自体はミドルレンジながら、実売2万円半ばというリーズナブルさにある。なおかつ重量は188gと、このクラスとしては軽量なこともメリットだ。

 もっともこれだけ安価だと、どこか大きな欠点があるのではないかと不安になるのもまた事実。今回は筆者が購入した実機をもとに、電子書籍ユースを中心とした使い勝手をチェックする。

機能控えめの「Pixel 5a」

 本製品は画面サイズ、重量などの特徴からして、本連載で過去に紹介したモデルの中ではGoogleの「Pixel 5a(5G)」(以下Pixel 5a)に近い性格を持っている。まずはこの両製品を比較してみよう。

moto g31Pixel 5a(5G)
発売年月2022年1月2021年8月
サイズ(幅×奥行き×高さ)約73.9×161.9×8.55mm約73.2×156.2×8.8mm
重量約181g約183g
CPUMediaTek Helio G85 オクタコア(2.0GHz×2、1.8GHz×6)Qualcomm Snapdragon 765G
2.4GHz + 2.2GHz + 1.8GHz、64ビット オクタコア
Adreno 620
RAM4GB6GB
ストレージ128GB128GB
画面サイズ/解像度6.4型/2,400x1,080ドット(411ppi)6.34型/2,400×1,080ドット(415ppi)
Wi-Fi802.11ac802.11ac
コネクタUSB Type-CUSB Type-C
メモリカード対応(最大1TB)-
防水防塵IP52IP67
生体認証指紋認証、顔認証指紋認証
駆動時間/バッテリ容量5,000mAh最小 4,620mAh
標準 4,680mAh

 このように、Pixel 5aとは多くのスペックが似通っている。画面サイズはほぼ同等で解像度は同じ、重量もおおむね横並びだ。メモリこそ若干少ないが、ストレージ容量も同一。さらにイヤフォンジャックを搭載している点もそっくりだ。Pixel 5aと違ってメモリカードに対応するほか、顔認証が使えるのも利点だ。

 一方で、おサイフケータイ対応やUSB PD準拠の急速充電、ワイヤレス充電の搭載が見送られているなど、機能面では省かれている点も多い。またカメラ機能は色合いにやや癖があり、特に夜景まわりの撮影性能は、それらが売りのPixelシリーズとは相当な差がある。機能控えめの「Pixel 5a」といったところで、価格差にも納得がいく。

 ただし一昔前の格安スマートフォンが、Wi-Fiが2.4GHz帯のみ対応だったり、端子がUSB Type-CではなくMicro USBだったりと、フォームファクタ自体に古さが見られたのに対し、本製品はそうした問題もない。5Gは非対応、さらに(これはPixel 5aもそうだが)Wi-Fi 6ではなくWi-Fi 5だったりと、通信まわりの機能がやや弱いのが目立つくらいだ。

 それゆえ本製品は、メインのスマートフォンとしてバリバリ運用するにはやや厳しい印象だが、本稿で紹介するような電子書籍ユースのサブ端末としての利用であれば、リーズナブルな価格で入手できる点も含めて、非常に魅力的と言える。

製品外観。前面カメラはパンチホール式
背面。トリプルカメラを搭載するが、やや色合いに癖があり筆者は使用していない
右側面。指紋認証センサーを内蔵する電源ボタンの上に音量ボタン、さらにGoogleアシスタントボタンを備える
左側面。SIMカードスロットを備える。microSDも利用できる
上面にはイヤフォンジャックを備える(上)底面にはUSB Type-Cポートを備える
重量は実測182gと、このクラスのスマートフォンとしては軽量だ
Pixel 5a(右)との比較。画面サイズはほぼ同等、ベゼル幅やパンチホールカメラなどの特徴が非常に似通っている
背面の比較。ヘアライン加工が施されていたりと、本製品のほうが高級感がある
電源ボタンと音量ボタンの配置は本製品(上)とPixel 5a(下)で逆になっている
上面のイヤフォンジャック、底面のUSB Type-Cポートなど共通項は多い

ローエンド機とは一線を画すパフォーマンス

 セットアップの手順は一般的で、とくに奇をてらったフローはない。プリインストールアプリも、同社オリジナルの「Moto」アプリが目立つくらいで、Pixelシリーズ並みにスッキリとしている。以前紹介した「Moto e7」もそうだったが、こうしたシンプルさはMotoシリーズに共通する特徴であり、個人的には好印象だ。

デフォルトのホーム画面。Google関連のアプリはフォルダ内にまとめられている
プリインストールアプリの一覧。独自要素は少なく、ほぼ素のAndroidといった状態。電子書籍アプリはない

 ハードウェア面で特徴的なのは右側面のボタンだ。電源ボタンと音量調整ボタンに加えて、Googleアシスタントボタンを搭載する。また電源ボタンは指紋認証センサーと一体化しており、軽く指を当てるだけでロックを解除できる。

 もっとも実際に使ってみた限り、この指紋認証センサーの配置はやや使いにくい。本体の正面もしくは背面中央に配置されていれば左右の手どちらでもシームレスにロックを解除できるのに対して、この配置だとスムーズに解除するための握り方が左右の手で異なるからだ。

 実際、指紋認証でロックを解除するにあたっては、一方の手でロックを解除してからもう一方の手に持ち直すことも多く、そうした一手間が面倒に感じられる。本製品は顔認証にも対応しているので、両者を併用することでカバーすることは可能なのだが、マイナスもあることは知っておいたほうがよいだろう。

電源ボタンと指紋認証センサーが一体化しており、指でなぞることでロック解除できる
指紋認証(左)だけでなく顔認証(右)にも対応する

 パフォーマンスはどうだろうか。ベンチマークアプリ「Wild Life」のスコアは「709」と、GoogleのPixel 5aの「1661」の半分程度。電子書籍ユースに問題はないが、ゲームなどパワーを必要とする処理は苦手であることがうかがえる。このあたりはやはり、値段相応ということになるだろう。

 ただし以前の「Moto e7」が、YouTubeで2倍速再生にしただけで強制終了が頻発していたのに対して、本製品ではそうしたレベルの問題は見受けられない。「Sling Shot Extreme」におけるスコアは、Moto e7の「417」に対して本製品は「1415」と圧倒しており、ローエンドとは一線を画している印象だ。ちなみにNetflixやAmazonプライムビデオも試したが、なんの問題もなく利用できたことは補足しておく。

ベンチマークアプリ「Wild Life」のスコアは「709」と、GoogleのPixel 5aの「1661」に比べるとかなり控えめだ(本製品はAndroid 11、Pixel 5aはAndroid 12での測定値)

電子書籍端末として高い実用性。ボタンは一長一短?

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を用いている。電子書籍アプリはKindleを利用している。

 本製品の解像度は400ppiオーバーと、表示のクオリティは何の問題もない。本製品の有機ELディスプレイは彩度が高く、原色が派手めに見える傾向があるが、単体であればあまり気にならないだろう。白黒のコンテンツが多い電子書籍ユースであればなおさらだ。

 スペックが低い端末で電子書籍を閲覧した場合、ページめくりなどの一般的な操作は問題なくとも、本のダウンロードで何倍もの時間がかかることがあるが、11ac環境においてKindleストアで6冊の本をダウンロードするための所要時間は14秒と、iPhone 13 Pro Maxの11秒と遜色なく、ストレスは貯まらない。

右手で保持した状態。親指で音量ボタンを押してページをめくれる
左手で持った場合は人差し指で音量ボタンを押してページをめくることになる
横幅は66mm。これはPixel 5aとまったく同じ値。ちなみにPixel 6 Proだと71mmある
テキストを表示した状態。バランスもよく読みやすい
いくつかの電子書籍アプリで試した限り、パンチホールカメラと本文の間隔はあまり詰められないようだ

 本製品の利点として、音量ボタンが比較的軽く押しやすいことが挙げられる。音量ボタンによるページめくりをサポートしていても、肝心のボタンが硬く、繰り返し押しているうちに指先が疲れてしまい、次第に使わなくなってしまうのはよくある話だ。

 その点本製品は、かなり軽めのスイッチを用いており、何十回と繰り返し押しても疲れない。同じ「できる」でも、実用性の高い「できる」というわけだ。ヘビーに使い倒すことを考えるならば、このことは大きなメリットだ。

 本製品ならではのユニークなギミックとしては、電源ボタンの表面をダブルタップすることで、ランチャーを起動できる機能が挙げられる。このランチャーにはアプリを最大6つまで登録できるので、電子書籍アプリを登録しておけば、どの画面にいてもすばやく電子書籍の続きを読めるほか、別の電子書籍アプリに切り替えるのも簡単だ。

 もっともこの電源ボタンを覆うようにして本体を握っていると、自分では指を動かしていないつもりがダブルタップと判定され、ランチャーが不意に起動することがある。感度の調整機能もなく対処のしようがないことから、筆者は最終的に無効化してしまった。電源ボタン上の音量ボタンに指をかけた状態ではこの症状が出やすいので、注意が必要だ。

「ジェスチャー」→「パワータッチ」でアプリを選択すると、電源ボタンの表面をダブルタップすることでアプリのランチャーが表示できる

自分好みのサブ端末に仕立て上げるには最適な1台

 もともとAndroidは、音量ボタンによるページめくりが使えたり、ストア内でコンテンツが購入できたりと、電子書籍を扱う上では便利な仕様を備えている。しかしながら最近は、スマートフォンはともかくタブレットは製品自体の選択肢が極端に減っている。特に片手で持てる8型前後の製品は、ほぼ絶滅に近い状態にある。

 そうした中、画面サイズ6~7型のAndroidスマートフォンは、その代替として利用できる存在だ。特にSIMフリーモデルの場合、SIMカードを入れずにWi-Fiだけで運用することも可能なので、メインで使っているスマートフォンとは別に、自宅内で寝転がって楽しむ軽量な電子書籍用端末として導入するのに向いている。

Androidゆえ、前回紹介したリモートでページをめくるためのBluetoothデバイスも使用できる

 こうした用途で新規に購入するには、ある程度安価なことが条件となるが、実売2万円台の本製品はそうした意味で理想的だ。フラッグシップ機のような目玉機能はないものの、あからさまな欠点はないことに加えて、電子書籍で重要視される解像度まわりのスペックは十分だ。重量が約181gと、このクラスの製品の中では軽量なもよい。

 ボタンまわりのギミックは、実用性という点ではやや疑問符がつくが、もしお節介な挙動が目につくようであれば、無効化してしまえば足を引っ張ることはない。余計なアプリが入っていないシンプルさもあり、お好みの電子書籍や動画アプリを入れて自分好みのサブ端末に仕立て上げるには、ぴったりの1台と言えそうだ。