山田祥平のWindows 7カウントダウン

本当にHome Premiumで十分かどうかを再考しよう



 パッケージとして発売されるWindows 7のエディションは3種類だ。プリインストール機の購入では、Starter Editionのものもあるが、既存機のアップグレードや、自作機への新規インストールでは、Home Premium、Professional、Ultimateのどれかを選ぶしかない。一般的な使い方には、Home Premiumで十分だとされているが、果たして、本当にそうなのだろうか。

●1万円で得られるのは何か

 価格の点で、ごくおおざっぱな比較をすると、Home Premiumに1万円を上乗せするとProfessionalが入手でき、さらに、それに1,000円上乗せするとUltimateが手に入る。これらのエディションは、上位エディションが下位エディションを完全に包含し、下位エディションにあるのに、上位エディションにないという機能は存在しない。

 ProfessionalとUltimateの差はBit Locker暗号化と多言語ユーザーインターフェイスで、それが1,000円分に相当する。

 また、ProfessionalとHome Premiumの1万円差は、

・Windowsドメインへの参加機能
・リモートデスクトップサーバー
・オフラインファイル

と考えればいいだろう。

 Vistaの時代は、Complete PC BackupがHome Premiumに含まれていなかったが、今回のWindows 7では、Home Premiumにも相応の機能が用意され、バックアップに関しては、大きな違いはなくなった。ネットワークドライブへのバックアップができないといった制限があるが、そんなに不便を感じることはなさそうだ。

 また、Windowsドメインへの参加機能は、自宅にWindows Serverを稼働させているような環境では、とても便利なものだが、個人のユーザーでそういうケースは、ほとんどないだろう。本当は、少人数のオフィスなどで使っても、とても便利な仕組みなのだが、やはり、コスト的に二の足を踏んでしまう。だから、Windowsドメインへの参加機能がなくても、困るユーザーはあまりいないのではないだろうか。

●リモートデスクトップでネットワーク越しにPCを使う

 Home PremiumとProfessionalの相違として、残りの2つの機能、リモートデスクトップのサーバー機能と、オフラインファイルの機能はどうか。この2つの機能のためだけに1万円を支払うかどうか。1万円という絶対的な価格よりも、1.5~1.6倍の価格になる計算になると考えると、余計に割高感を感じてしまう。ちなみにWindows Anytime Upgradeで、Home PremiumからProfessionalにアップグレードした場合も1万円程度だが、Ultimateへは16,800円と異様に高い。Ultimateに移行するなら、最初からパッケージを買っておいた方がよさそうだ。

 言い切ってしまうと、この2つの機能はWindowsの使い勝手を著しく向上させる。さらに、Windows 7では、これらの機能が、Vista時代よりも、使い勝手も多少向上している。

 まず、リモートデスクトップ。この機能は、ずっと以前からお馴染みのもので、稼働中のWindow PCを、ネットワーク経由で呼び出し、リモートで使用できるというものだ。この機能を使うには、システムのプロパティのリモートタブで、リモートデスクトップによる接続を許可しておく必要がある。一方、リモートデスクトップのクライアントは、どのエディションにも含まれているので、たとえば、Starter Editionのようなエディションからでも接続することができる。

 Windows 7では、リモートデスクトップのバージョンが更新され、RDP 7.0となった。それにともない、グラフィックスの処理などを、できるだけローカルで行なうようになった。たとえば、リモート側で再生される動画ファイルなども、それなりのパフォーマンスで動く。Aeroによる半透明の効果などもローカル側で処理される。これによって、占有する帯域幅も以前より少なくなっている。

リモートデスクトップのクライアントは各エディションに用意されているが、サーバーになれるのはProfessional以上だ
リモートデスクトップのサーバーになるためには、コンピューターのプロパティのリモートタブで、オプション設定しておく
リモートデスクトップ接続時のエクスペリエンスは帯域幅に応じて柔軟に設定できる

 リモートデスクトップが使えることで、たとえば、地方在住の両親など、別居している家族のPCをメインテナンスすることが可能になるし、ネットブックなど、非力な処理能力しか持たないPCから、強力なプロセッサを搭載した自宅のPCに接続すれば、デスクトップマシンを持ち運んで外出先で使えるのと同義だ。そこそこの帯域幅のネットワーク接続さえ得られれば、そんなこともできる。クライアントとして使うPCには、一切の個人情報を入れないようにすれば、セキュリティも確保できる。また、外出時にノートPCを携帯するユーザーは、自宅に帰って、小さな画面、小さなキーボードと格闘することなく、デスクトップの大型ディスプレイで優雅に操作ができる。

 ただし、自宅のPCに、外部からインターネット経由でリモートデスクトップ接続をするためには、インターネット接続に使っているルーターで、標準ポートである3389番を、接続したいPCにフォワードしたり、別途VPNサーバーか、その代替となる機能を用意しておく必要がある。ルーター内蔵のVPN機能やPacketiX VPNシリーズのようなソリューションで解決したい。

●オフラインファイルで、PC同士を完全同期

 個人でPCを2台以上持っているユーザーなら、オフラインファイルはぜひとも活用してほしい機能だ。この機能は、ネットワーク上で共有されているファイル、あるいはフォルダを、ネットワークに接続していないときにも使えるというもので、具体的には、ファイルをあらかじめキャッシュしておき、ネットワークに接続していないときには、キャッシュ側のデータを参照し、ネットワークがつながったところで、相互の整合性をとるために同期をするというものだ。ネットワーク共有であれば相手はなんでもかまわない。NASだっていいし、共有さえできていればいいので、相手のWindowsのエディションも問わない。

 たとえば、2台のPCがあったとして、片方のPCで共有を設定し、もう片方からその共有フォルダを参照できるようにする。このままでは、ネットワークが切れると、参照そのものができなくなってしまうが、ネットワークがつながっているときに、その共有フォルダ、あるいは、その中の任意のフォルダやファイルを右クリックし「常にオフラインで使う」をクリックすると、キャッシングの作業を開始、データがコピーされて、ネットワークが切れた状態でも、それらのファイルが読み書きできるようになる。

 Windows 7では、コントロールパネルから「オフラインファイル」という項目がなくなったが、「同期フォルダ」のナビゲーションペインに「オフラインファイルの管理」というコマンドリンクが存在する。ここで、同期に関する細かい設定ができるようになっている。

オフラインファイルの同期は、同期センターからコントロールできる。スケジュールやトリガーなども設定できる。詳細設定は、左側ペインに「オフラインファイルの管理」が用意されている。

 使い方にもよるが、ここで、ディスク使用量をある程度大きく設定しておけば、任意のフォルダを母艦とノートPCなどで二重化することができるようになる。つまり、バックアップを意識しなくても、勝手にファイルが二重化されるのだ。これなら、どちらかのPCが壊れてしまってもデータは失われない。

オフラインファイルのディスク使用量は上限を設定できる。同期させたいファイルの総容量を自分で管理できるのなら、100%にしておき、必ずすべてのデータが同期されるようにしておくと安心だ

 また、Vistaまでのオフラインフォルダは、低速な接続では自動的にオフラインで作業する機能が正常に稼働していなかったが、Windows 7では、ようやくまともに動き始めたようだ。オフラインフォルダは、ネットワークがつながっている限り、帯域幅が狭くてもネットワークの先の共有フォルダを参照しようとする。だが、これでは、ファイル1つ開いたりするにも、遅延が発生するケースがある。外部から細い回線でVPN経由で接続されているような場合だ。

 Windows 7のオフラインファイルは、指定した時間ごとに、現在の接続が低速かどうかをチェックし、低速な場合はオフラインであるとみなして作業をすることができる。もちろん、オフライン、オンラインは、エクスプローラのボタンなどで任意に切り替えができるので不自由はない。

オフラインファイルは、ネットワークの帯域幅を定期的にチェックして、低速なネットワークであることがわかると、オンラインであってもオフラインとして扱われる

 なお、Windows 7のデフォルトでは、タスクマネージャーに、6時間おきに同期するように設定されている。また、任意のユーザーのログオン時にも同期されるトリガーが設定されている。Vistaのときは、そうしたデフォルトスケジュールはなく、オンライン、オフラインなどのネットワークの状態の変化で自動的に同期が行なわれ、そちらの方が便利だったようにも思う。仕方がないので、手動でスケジュールし、1時間おきの同期を設定してしのいでいる。

 リモートデスクトップも、オフラインフォルダの機能も、基本的にはフリーソフトウェアなど、他のソリューションで解決できることかもしれない。便利さの割には、あまり声高にアピールされない機能でもある。だが、Windows 7と高度に統合化されている使い勝手は、やはり捨てがたいものがある。だからこそ、今後のPCの使われ方を考えると、この2つの機能は、本当は、Home Editionにも搭載してほしい機能だった。それだけのことで、1人がPCを複数台持つトレンドを加速できたかもしれないと考えると、ちょっと残念だ。