山田祥平のRe:config.sys
遠くのニュース爆盛り
(2015/12/4 06:00)

スマートフォンの時代、メディアとニュースコンテンツのバランスに変化が生じている。これまでのセットの関係が崩壊しつつあるといってもいい。メディアの威信はそのくらい揺らいでいる。今回は、ニュースメディアとスマートデバイスについて考えてみる。
トークでニュース
LINEがニュース事業における新たな展開および新サービスとして「アカウント・メディア・プラットフォーム」を発表した。人と情報/コンテンツ間における情報流通のハブとしてLINEアカウントを位置付け、アカウントを通じた生態系を築くという。その第1弾サービスとしてメディアアカウントにニュース配信機能を開放するチャレンジだ。
早い話が、LINEの友だちとしてニュースメディアを登録すると、適宜、そのメディアのニュースコンテンツがトークとして送られてくるというものだ。
Web一強だったPCの世界に対して、スマートフォンはアプリあってナンボの世界だ。それほどアプリが受け入れられている。LINEによれば、スマートフォンでは使用時間の7割がアプリを使用する時間になっているという。
それでも、83%のアプリがほとんどユーザーの目に触れることなくゾンビ化しているということだ。現時点での日本国内におけるアプリのシェアランキングはLINEがダントツで10.4%、続いてTwitterの7.5%、そしてそれをFacebookが5.9%で追いかけているとのこと。この3つのアプリを合わせれば25%近くを占有する。興味深いのは、上位3つのアプリがすべてコミュニケーション系であるということだ。
そして今LINEは、日本で5,800万人が使っているお化けアプリであり、1日に何度も起動され、トータルではとても長い時間がLINEアプリの中で費やされている。だったら、スマートフォン時代のコンテンツハブになれるんじゃないかとLINEは考えた。それでプラットフォーム戦略を打ち出したのだ。
ご存知のように、LINEはもともとLINEアプリから別のアプリを呼び出す戦略を展開していた。だが、それではゾンビ化の手から逃れられないことに気がついた。リッチなコンテンツについてはそれでいいが、シンプルなトランザクションは、むしろ、LINEのトーク的なものの方が読まれるのではないかと考えたわけだ。
10%しかないとも言われているメールの開封率だが、LINEのトークは「既読スルー」などという言葉が出てくるくらいに無視しにくい構造になっている。当然、双方向のやりとりも可能だ。だからこそ、友だちとしてメディアを登録させ、トークとしてコンテンツを届けられるようにすれば、メディアの威信が効果的に伝わるかもしれない。
コンテンツの正規化
今回のLINEの試みは決して新しい発想ではない。例えばSmartNewsでは、ずっと前から「チャンネル」という形で各メディアを登録できていた。
ニュースアプリで配信されるニュースコンテンツは、媒体名が認識されにくいという面もある。コンテンツそのものが列挙されるだけで、そのメディアのアイデンティティが希薄になってしまうのだ。特に、Yahoo!ニュースなどでは、コンテンツのフォーマットがYahoo!ニュース用に正規化されているため、それがどのメディアによるニュースなのかを読者は意識しにくくなってしまっている。もちろん、コンテンツを読む側にとってはその方が読みやすい。本来は多種多様なエディトリアルデザインで提供される各メディアのコンテンツをごちゃまぜ順不同でつまみ食いすることが前提なら、その方が読みやすいのは自明だ。
LINEの今回の試みは、トークのメッセージという点で、各メディアともにコンテンツが正規化されている。トークのメッセージとして提供される記事一覧のフォーマットは異なるメディアであっても似たようなものだ。メッセージ内には写真や見出しが並んでいるが、それを開いた時に表示される個々のコンテンツフォーマットも同様だ。
だが、そのコンテンツは自分が「友だち」として選んだメディアのものだ。だからメッセージフォーマットが似たようなものであってもそこにオリジナリティを見いだせる。普通の友だちのトークメッセージが同じフォーマットで送られてきても、その文体などで誰のものなのかがすぐに分かるのと同じだ。
こうしてLINEは失われつつあるメディアのアイデンティを復権させようとしているとも言える。
メディアのポータビリティ
メディアとコンテンツの剥離は、何も、昨日、今日、始まったわけではない。例えばビデオレコーダーでTV番組を視聴するようになって、例え自分が予約を指示したのだとしても、その番組がどの局のものなのかはわかりにくくなってしまっている。「偽装の夫婦」がおもしろくて毎週見ているとしても、それが日テレのドラマだということを意識しているのかどうか。少なくともぼくは、この原稿を書くために調べた。画面の右上には局のロゴがうっすらと表示されてはいるものの、ぼくらの眼はその存在を意識しないように飼い馴れされてしまっている。
もっと古くには、手書きのメッセージといった個性もあった。ワープロやPCの普及、そしてメールやSNSメッセージの普及で、日常の生活には無縁のものになりつつある。本当にこれでいいのかという危惧もあるが、それが時代というものなのだろう。
ニュースの世界には、通信社という伝統的な存在が古くからあった。メディアであっても世界中の隅々までアンテナを張り巡らせるわけにはいかず、ニュースコンテンツの一部、あるいは大部分を外信に頼っている。地方紙などは国内ニュースなども通信社頼りになっているケースは少なくない。
LINEがコンテンツの送り手であるメディアの存在感を強調する戦略を展開する背景には、いろいろな思惑があるのだろう。もちろん、NHKのニュースを見ながら、朝日、毎日、読売、日経に目を通し、トップ記事の違いや、重要トピックスの扱いの差、見解の相違などを想像し、通勤途中には、その日発売になった週刊誌を指名買いするような時代の再来を願っているわけではなさそうだ。
ちなみに、メディアが自アカウントを登録するには費用がかからず、広告売上については、折半だそうだ。メディアがメディアを捨て、新たなプラットフォームに乗っかるようにも見えるこのチャレンジ、いわばメディアのMNP。コンテンツを広げて待っているだけで読みに来てもらえるWebの時代の終焉も、そう遠くない話なのかもしれない。
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