山田祥平のRe:config.sys

【特別編】ついに登場したBlueこと Windows 8.1

 Microsoftが、米国サンフランシスコで開催した開発者向けカンファレンス Microsoft Build 2013において、Windows 8.1のプレビュー版を発表、その全貌が明らかになった。ここでは、この新しいWindowsについて、基調講演やカンファレンスでの説明、そして、実際にインストールして判明したことなどを見ていくことにしよう。

Microsoftのプロダクトは伝統的に0.1で大きく飛躍

 0.1で大きな変化があったのは、Windows 3.0から3.1、Windows 95の4.0が4.1でWindows 98になったり、Windows 2000の5.0がWindows XPの5.1に、そして直近ではWindows Vistaの6.0がWindows 7で6.1に、Windows 8で6.2になったときのようなことが思い浮かぶ。

 Windows 8.1は、現時点で内部バージョンを確認するとWindows 6.3だ。つまり、このOSはVistaの流れをくむ3番目の製品だということになる。x.0がx.3まで進むのは異例のことだ。個人的には、Windows 3.1がWindows for Workgroupsで3.11になった時と似た印象を持っている。0.1どころか0.01のバージョンアップだったがここでの飛躍はすごかった。

 Windows 8.1は、Windowsプラットフォームを支える極めて多彩なフォームファクタを持つハードウェア群を、より強力にサポートするために設計されているといってもいい。レガシーなデスクトップPCやノートPCはもちろん、タッチに対応した2-in-1PCのフォームファクタ、あるいはピュアタブレットから、スモールスクリーンなど、とにかくすべてだ。Windows 8を懸念し、今でも旧OSからWindows 7への移行を検討するユーザーも多いようだが、その意味がなくなるといってもいいくらいだ。

 さらに、それらのハードウェアをユーザーがタイプの異なる複数台を併用することを前提に作られている。そして、どのデバイスでも体験が損なわれないような工夫がちりばめられている。いわゆるマルチデバイスを使うことによる不便を徹底的に取り除こうとする姿勢が感じられる。

 また、タッチに関しては、数の上では急増しているように見えるストアアプリに加え、ブラウザであるInternet Explorer 11を投入し、その裾野を拡げようとしていることが分かる。

 今回のカンファレンスでは、参加者に対して2台のデバイスが配布された。1台は「Surface Pro」、もう1台はAcerの8型タブレット「Iconia W3」だ。

 後者は、Windows 8.1プレビューが対応しないAtom機だが、Windows 8.1に対応させるための方法が提供されている。これらのデバイスそのものはWindows 8がプリインストールされた状態で提供され、添付のUSBメモリに、32bit版、64bit版それぞれのWindows 8.1が収録されているのに加え、両機種用にパッチをあてるためのプログラムが用意され、それを適用することで、問題なくインストールができるようになっている。

 また、配布された製品は英語版で、日本語版相当への表示言語変更には、言語パックの導入が必要だが、プレビューのインストールによって、言語パックの機能が失われてしまう。だが、発表の翌日夕方には、大量のWindows Updateが適用され、少なくともIconia W3では日本語版相当の言語パックを適用できるようになった。Surfaceの方はファームウェアのアップデートがWindows Updateに出現したものの、アップデートができないので、いったんリカバリして、もう一度Windows 8.1を入れ直したところ、セットアップ時にアップデートが適用され、ローカルアカウントでインストールができるようになり、その直後に言語パックを入れることができた。ただし、ファームウェアの適用には再び失敗しているようだ。このあたりの問題は、日本に戻って日本語版のISOファイルでインストールしてみて解決するかどうかを試行錯誤してみることにしたい。

 極めて全うに見えるプレビュー版だが、アンインストールがサポートされていないため、使用をやめるには、システムを初期状態に戻すなどの処置が必要となる。その覚悟があれば、この新しい環境を手に入れるために必要な時間は、1時間に満たない。

新しいIEがストアアプリの不足をカバー

 標準のブラウザであるIE10はIE11となり、その機能に磨きがかかった。ちなみにMicrosoftでは、IE専用のサイトを用意して、IEに関する各種の最新機能を試せるようにしている。セールスポイントとしては、より少ない消費電力でよりリッチな体験ができるようになるということだ。WebGLなどへの対応やHTML5との互換性も高まっている。

 目新しい機能としてはライブタイルへの対応がある。Windows 8では、スタートスクリーンにタイルとして並ぶストアアプリの見かけが最新の状態に更新されるようにできる。それと同じことが、スクリーンにピン留めしたサイトでもできるのだ。各サイトは簡単な記述をサイトに加えることで、ライブタイル対応ができるようになる。

 プレス向けに行なわれたIE11のセミナーでは、たとえばフォームへの項目入力時にWindows 8.1のソフトウェアキーボードの種類が、項目ごとに変わる様子などがデモンストレーションされていた。やはり、OSそのものとの緻密な統合は純正ブラウザならではのものだ。

 また、ストアアプリ版のIE11では、アプリケーションメニューとしてタブの切り替えが実装され、これまでよりも直感的に開いたタブを切り替えることができるようになっている。さらに、お気に入りことブックマークへのアクセスも、きちんとサポートしている点も見逃せない。

 Windows 8.1のデバイスを複数所有している場合、タブのほかに個々のデバイスが表示され、別機で開いているサイトを参照できるようにもなった。GoogleのChromeなどではすでにサポートされている機能だが、IEでもようやく取り入れられた形だ。ここでの弱点は、AndroidやiOSなど、モバイルデバイスでシェアの高いOS用のIEが用意されていない点だ。これらのOS用のIEが提供されることで、その使い勝手が飛躍的に高まるはずだ。

 IE11の使い勝手が高まることで、ユーザーはストアアプリの不足をWebで補えるようになっていく。サイト運営側にとってもWebアプリを書けば、その可用性は高く、Windowsに縛られることなく、さまざまな環境に対してサービスができることになる。そのことで、特にWindowsだけに依存しないサービスの提供が可能となり、それが結果としてWindowsユーザーの利便につながっていく。Windows 8.1 PCが、そのおかげでAll-in-Oneになるというわけだ。

 Bingによる検索結果のマッシュアップなども、IEそのものの可用性を高める。ユーザーはIEを使いながらも、IEの存在を意識することなく、まるでアプリを使っているかのような錯覚に陥ることができる。それこそが、Windows 8.1におけるIE11の役割だ。

SkyDriveがマルチデバイス時代を支える

 Windows 8.1の肝は、なんといってもSkyDriveの統合に集約されるといってもいい。これは手持ちのPCというデバイスの概念を根底から覆す大改革だ。SkyDriveは従来から提供されていたMicorosoftのクラウドストレージサービスだ。

 Windows 8.1では、このサービスがOSそのものに統合された。具体的にはエクスプローラーのナビゲーションペインにSkyDriveという独立した項目ができ、システムフォルダーとしての扱いに変わった。これまでのストレージサービスは、大事なファイルをクラウドにバックアップしておくという感覚で使われてきたが、これからは、すべてのオリジナルをクラウドに置き、必要なファイルを必要な時だけ持ってくるという感覚に変わる。考え方としては10年以上前からあったもので、NASなどを使っているユーザーには新しくもなんともないのだが、それをごく普通のユーザーに新しい当たり前として提示していることに意味がある。それによって世の中が変わるといってもいいくらいの革新だ。

 これまでのSkyDriveでは、デスクトップアプリが提供され、それを使って、特定フォルダ以下のツリーに関して、フォルダごとに同期するしないを指定することができたが、Windows 8.1では、個々のファイルごとでもオンラインで使う、使わないを指定できるようになっている。また、各レガシーデスクトップアプリからもクラウド側のSkyDriveにあるファイルに対して読み書きができるようになっている。つまり、ファイルのオープンや、セーブがコモンダイアログから直接SkyDriveにできるようになったことで、オンライン状態であれば、ローカルストレージの状態を気にすることなく自分のファイルにアクセスできる。

 つまり、たかだか64GB程度のストレージしか持たないタブレットを使っている時と、数TBのHDDを内蔵したデスクトップPCを使っている時で、同じストレージを持っているかのように振る舞う。ローカルにないファイルを参照しようとした場合は、その場でダウンロードされファイルの内容が読み込まれる。

 動きとしては、従来からあったオフラインフォルダの仕組みそのもののように見える。いずれにしてもこれによって、オンラインでさえあれば、いつでもどこでもどんなデバイスからでも自分のファイルを自在に参照できる。ローカルストレージと同じ感覚でクラウドストレージを扱えるのだ。

 今のところ、SkyDriveの容量は無料の25GBが提供されているほか、有償で100GBなどのパックを購入することができる。つまり、現時点では125GBが上限になっているように見えるが、参加者に配布されたSkyDriveの100GBクーポンを適用したり、Office 365のサブスクリプションの適用による20GBなどを追加することによって、数百GBまで増量できてしまうことを見ると、Windows 8.1の正式リリースがあるころには、さらに大容量のストレージを自在に購入できるようになる可能性は高い。

 こうしたクラウドストレージサービスがOSに統合されることによって、ユーザーは自分のファイルを守るということをあまり考えなくてもよくなる。ローカルストレージは単なるキャッシュに過ぎず、その容量に応じて優先順位の高いものをオフラインで使えるようにしておくだけで、ほとんどがオンラインでいられる現在の通信環境の下では、ローカルストレージの容量はほとんど考える必要がなくなるということだ。少なくとも、自分の手でバックアップをとってファイルを守るよりも、ストレージサービス側でのバックアップの方がずっと安全で信頼できる。それに、デバイスの追加や買い替えなどにおいても、移行ということをほとんど考えなくてもよくなるだろう。これは大きい。

 これからは、ファイルのオリジナルはクラウドに置くのが当たり前となるという意識の変化をWindows 8.1のSkyDrive統合は提案している。ちょうど、GmailやHotmailなどのWebメールが普及し、ユーザーがメールの管理をクラウド側に委ねるようになったのと同じことが、一般的なファイルにおいても起こるということだ。

 問題は、そのコストにどこまで支払えるかだが、これについては、いわゆる価格破壊を期待したいところだ。

 Windows 8.1はIE11とSkyDriveによって、Windows 8 PCの使い勝手を大幅に向上させる。スタートボタンの復活やレガシーデスクトップからの起動といった点ばかりが取り上げられることが多いようだが、そんなことは枝葉末節に過ぎないと言えそうだ。

(山田 祥平)