Windows 8.1カウントダウン
スタートボタンの功罪
(2013/8/7 00:00)
Windows 8.1で大きく話題になった要素の1つがスタートボタンの復活だ。だが、多くのユーザーが期待したスタートボタンとは、その意味合いは異なるようだ。今回は、その詳細を見ていくことにしたい。
かつて、全てをスタートさせたスタートボタン
スタートボタンは、Windows 95で実装され、Windows 7まで、ずっと使われてきたオブジェクトで、Windowsの象徴的な位置付けでもあった。ちなみに、Windows 95が登場した時に使われたイメージソングは、Rolling Stonesの「Start Me Up」(1981)だった。Windows 95が、Explore、Discover、Learning、Doing、Organizing、Connecting、Managing、Creating、Playing、Movingといった、あらゆる事象をスタートさせるということをアピールしたもので、当時でさえ14年も前のナツメロが、とても新鮮に聞こえたことが思い出される。そして、今、それから20年近くが経過したわけだ。
スタートボタンには功罪がある。功は、スタートボタンをクリックすれば、目の前のPCにインストールされているプログラムを一覧でき、さらには、コントロールパネルなど、設定に必要な入り口をカンタンに見つけることができる点。これで、PCに対するハードルは一気に下がった。
だが、スタートボタンの罪は、PCを使うという行為において、まず「プログラムありき」という考え方をユーザーに根付かせてしまったことにある。新規にファイルを作る時もそうなら、既存のファイルを開くときも同じで、まず、プログラムを開き、そのコモンダイアログでファイルを見つけたり、新たに作った内容にファイル名を付けて保存するという行為を当たり前にしてしまったのだ。
そのおかげで、ユーザーは、ファイルシステム全体を把握するのが難しくなってしまった。ファイルシステム内の中で、自分が今どこにいるのかが分からないのだ。もし、エクスプローラーなどのファイラーを使ってファイルを探し、見つけたファイルを開いたり、しかるべきフォルダに新規に空のファイルを作ってそれを開くというプロセスを踏めば、ファイルシステム内における自位置を把握するのはたやすい。でも、それをできなくしてしまったのがスタートボタンだといえる。保存したはずなのに、あのファイルが見つからないというトラブルは、ほとんどが、このファイルツリー内における自位置を意識せずに保存したことによるものだ。
つまり、データオブジェクトオリエンテッドになるはずだった環境は、スタートボタンのおかげでプログラムオリエンテッドな環境をユーザーに押しつけながら約20年近くが過ぎてしまったわけだ。
消えたスタートボタン
今、iOSを見ても、Android OSを見ても、ホーム画面に並んでいるアイコンの多くはプログラム、すなわちアプリだ。ファイルという概念は希薄になったが、アプリという概念は強烈だ。こうなったのは、少なからず、Windows 95で登場したスタートメニューの影響だと考えていいだろう。誤解を怖れずにいえば、諸悪の根源だったと言ってもいい。
それだけ影響力のあったスタートボタンが、Windows 8で廃止された。正確にはデスクトップに横たわるタスクバーの左端から消えた。
実際には、キーボードやタブレットに装備された物理ボタンとしてのWindowsロゴキーは、スタートボタン的なものとして機能するし、チャームを出せば真ん中にスタートボタンが表示される。なくなったのではなく、表示されなくなったのだ。
Windows 8以降のスタートボタンは、スタートスクリーンを表示させるためのボタンであり、スタートスクリーンにはインストールされているアプリの一部が表示されていて、任意のプログラムを大きなGUIからスタートさせることができる。つまり、スタートボタンはなくなったわけではなく、いわゆるスタートメニューのルック&フィールが変わっただけだったのだ。
だが、ルック&フィールの変更はユーザーの効率に大きな影響を与える。特に、かつてのスタートメニューにあったシャットダウンに関する項目が分離されてしまったため、Windows 8の登場時は、どうやってPCをシャットダウンすればいいのかというヘルプの声があちこちから聞こえてきた。チャームから設定を呼び出し、電源をクリックすればいいのだが、それが分からなかったのだ。また、各種設定についても入り口がわかりにくくなっていた。
スタートボタンの復活を望む声に応え、Windows 8.1では、タスクバー左端に、スタートボタンが復活した。だが、このボタンはユーザーが望んでいたものではないのかもしれない。
とりあえず、このボタンをクリックまたはタップすると、キーボードやタブレットの物理ボタンを押したときと同じように、スタートスクリーンが表示される。これまでは、チャームを出すという一手間が必要だったわけだが、それがワンタッチで済むようになった。
でも、こうして表示されるスタートスクリーンは、これまでと、そんなに大きくは違わない。求めているものがそこにはないという点ではWindows 8のスタートスクリーンと同じなのだ。
復活したスタートボタン
だが、復活したスタートボタンを右クリックすると、ショートカットメニューが表示される。これは一部のユーザーにとっては期待に近いものがある。そして、このメニューは、スタートボタンを押さなくてもWindowsロゴキー+Xでも表示されるのだ。
Windows 8においても、Windows+Xを押すと、ショートカットメニューが表示されていた。その内容を比べてみよう。
Windows+Xメニュー
プログラムと機能
電源オプション
イベントビューアー
システム
デバイスマネージャー
★ネットワーク接続
ディスク管理
コンピューターの管理
コマンドプロンプト
コマンドプロンプト(管理者)
タスクマネージャー
コントロールパネル
エクスプローラー
検索
ファイル名を指定して実行
★シャットダウン
デスクトップ
★が8.1で追加された項目だ。ここからシャットダウンできるようになっただけで喜ぶユーザーもいるかもしれない。相変わらず「デバイスとプリンター」がないのは不思議だ。
しかも、Windows 8.1では、このスタートボタンをカスタマイズできるようになった。タスクバーを右クリックしてプロパティを表示させると「タスクバーとナビゲーションのプロパティ」が表示される。ここにナビゲーションタブが用意され、「スタート」に関するさまざまな設定ができるようになっているのだ。
細かいところでは、Windows+Xの押下時に、コマンドプロンプトをWindows PowerShellに置き換えるかどうかといった指定ができる。
スタートスクリーン遷移に関する主な設定項目は次のようになっている。
- サインイン時にスタート画面ではなくデスクトップに移動する
- スタート画面にデスクトップの背景を表示する
- Windowsキーを押したときに常にスタート画面を表示する
- スタート画面への移動時にアプリビューを自動的に表示する
- アプリビューからの検索時にアプリだけでなく全ての場所を検索する
- デスクトップアプリをカテゴリ順に並び替える場合に、アプリビューで最初に一覧表示する
これらについてのオン/オフを設定できるようになったのだ。
特に歓迎されるのは、サインイン時に直接デスクトップに移動する設定と、スタート画面への移動時にアプリビューを自動的に表示するの2項目だろう。これによって、Windows 7までと同様に、サインインすればすぐにデスクトップが表示されるようにできる。また、スタートボタンをクリックすれば、いわゆるダイジェストメニューではなく、全てのプログラムの一覧であるアプリビューを直接開くようにも設定できる。
スタートボタンであってスタートボタンではない
確かにスタートボタンは復活した。だがそれは、今まで見えていなかったWindows+Xメニューへの入り口が見えるようになったにすぎない。そして、そこで表示されるメニューに追加された項目はたかだか2個なのだ。ユーザーによっては、ボタンの幅分、タスクバーが短くなってしまい、解像度の低いスクリーンで使うときに不便だという声まで聞こえてくる。
Windows 7までのスタートメニューは、よく使うプログラムが最初から表示され、「全てのプログラム」がその下にサブメニュー表示されていた。
また、ライブラリの各項目を直接開くことができ、コンピューターやコントロールパネル、デバイスとプリンターといった要素にもアクセスできた。もちろんシャットダウンもここからできていた。
Windows 8.1のスタートボタンは、これらの機能を全て提供するものではないということだ。