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【特別編】Nexus Qが示す次世代の共有




 Google I/O 2012で登場した新しいデバイスの1つが「Nexus Q」だ。Nexusを冠していることから、ピュアなGoogleデバイスであることがわかるが、いったいどのようなコンセプトを持っているのか。今回は、そのあたりを見ていくことにしたい。

●Qは待ち行列のQueue

 Nexus Qは、黒い球状のデバイスで、その直径は約116mmだ。CDやDVDの直径が約120mmなので、それがそのまま球状になっていると思えばいい。つや消しのダイキャスト仕上げで質感は悪くない。また、重量は約1kgで見かけよりはズッシリ感がある。もちろん、完全な球のままでは設置もままならない。だから、底面は平だ。また、ちょうど斜め半分の位置で上部がクルクル回るようになっている。

 球なので、どこが前で後ろなのかよくわからないのだが、いくつかの入出力端子が装備されている。まず、アナログオーディオ出力のためのバナナジャックがL、Rチャンネル用にそれぞれ2つある。そして、その下に、S/PDIFの光オーディオ出力、Ethernet端子、Micro HDMI端子、Micro USB端子が並んでいる。さらにその下にはAC入力端子がある。外観はこれだけで、スイッチ類は見当たらない。

 Googleでは、このデバイスをソーシャル・ストリーミング・メディア・プレーヤーというカテゴリに分類している。さて、どのようなことができるのか。

 動かすために最低限必要なのは、電源の供給と、映像や音声の受け口の用意だ。また、インターネット接続ができる有線LANまたはWi-Fiが必要になる。まずは、映像と音声のためにHDMIケーブルでディスプレイをつなぎ、次いで電源を供給。電源スイッチもないので、電源を供給するとすぐに、地球儀にたとえれば赤道の部分が内部のLEDで照らされ青く光り、起動していることが分かる。ディスプレイには、なにやら青いグラフィックスアートが表示される。

 マニュアルによれば、Android端末にNexus Qアプリをインストールして実行せよとある。アプリはGoogle Playにあるが、NFC搭載スマートフォンをタッチすると、ダウンロードページが表示されるようにもなっている。

 Gingerbread(Android 2.3)以降のAndroidデバイスで動くとされているのだが、手元の端末の中で対応しているのは、Google I/Oで配布されたGalaxy NexusとNexus 7だけで、現時点では他の端末にはインストールができない。

 Galaxy NexusをWi-Fiに接続した状態で、アプリをインストールして実行すると、間近にあるNexus Qを自動的に見つける。LANには接続されていないので、試しにBluetoothを切断してみると、Bluetoothが必要という警告が出たので、設定情報などはBluetoothを使ってやりとりされているようだ。

 「Nexus Qはどこにありますか?」と尋ねてくるので「サンフランシスコホテル」などと適当に入れると、今度は、Galaxy Nexusが接続しているWi-FiのSSIDに接続するためのパスワードを入れろという。言われた通りに入力するとしばらくして、セットアップが完了、ディスプレイからはオープニングサウンドが流れ、画面には各国語でウェルカムのメッセージが表示されている。その中には日本語の「ようこそ」もある。

 この状態で、Wi-Fiネットワーク上で誰でも使えるようになったという表示が出た。具体的にはアプリケーションのPlay Musicと、Play Movies & TV、YouTubeが対応しているそうだ。とりあえず、YouTubeを起動してみると、スクリーン上部に再生ボタンとスピーカーを組み合わせた新しいボタンが表示されている。このボタンをタップすると、再生ボタンが青くなり、以降に視聴するコンテンツは、端末本体ではなく、HDMI接続されたディスプレイで再生されるようになった。

 一方、Google Musicを起動すると、同じようにボタンが表示される。Google Musicは、米国内でのみ提供されているサービスで、音楽を購入できる以外に、自分が持っている音楽ファイルを1アカウントにつき2万曲まで無料でアップロードしておける。

 たまたま、以前、渡米したときにサービスにサインインし、日本に戻ってから手持ちの楽曲ファイルを約2万曲アップロードしてあった。サインインさえ米国内でしておけば、アップロードなどは日本からもできるのだ。

 アプリで楽曲を選び、YouTubeの時と同じように、新しいボタンが表示されていて、それをタップして青い状態にすると、再生する楽曲がNexu Qに接続したディスプレイから再生されるようになった。

 この状態で、Nexus 7にもNexus Qアプリを入れ、Google Musicを起動すると、同じように再生ができる。楽曲をいきなりタップすると、そのとき再生中の曲が中断されて、そこに割り込むようにして指定した曲が再生される。

 楽曲を長押しすると、コンテキストメニューがポップアップし、その中に「キューに追加」とある。ボタンを青い状態にしておくと、この項目は「ホテルに追加」となる。つまり、今接続しているNexus Qのキューに指定した楽曲をためていけるようだ。つまり、Qは、Queue、つまり待ち行列の意味だったのだ。決して「球」の意味ではなかった。

 この状態で、Nexus Qには、Nexus 7とGalaxy Nexusがぶらさがっている状態だが、Google Musicのスクリーン下部には、今、再生中の曲が表示されている。また、HDMI接続されたディスプレイにはアートグラフィックスが表示されている。このグラフィックスは選択肢がいくつかあって、その中にはトラック情報もある。

 スクリーン下部の再生中楽曲をタップすると、キューとしてたまっている曲が一覧表示される。このリストはドラッグで自在に順番を変えられるようだ。もちろん曲の削除もできる。

 Nexus Qの本体そのものも、LEDが鮮やかに色を変えながらイルミネーションされている。頭をなでるように手をかざすと音楽はミュートされ、もう一度同じようにすると再開される。また、上部を回すとボリュームとして機能するようになっている。

 よくわからないままに、これだけのことができることがわかった。Bluetoothスピーカーになるかと思いきや、端末から探しても見つからない。NFCはどうかと、Google Musicを起動した状態のGalaxy NexusをNexus Qに近づけてコツンとぶつけると、Androidビームが作動しタップして送る旨のメッセージが表示されるので、言われた通りにすると、何かを送っているように見えて何も起こらない場合と、QアプリのダウンロードページをGoogle Playアプリが開く場合があって、どうも仕組みがわからない。

●Qが実現するダイナミックマルチアカウント

 ここまで一通りのことをやって理解できたのは、Nexus Qというデバイスは、LAN内にある不特定多数のAndroid端末から、指定したコンテンツをキューにためることができ、そのキューを順次再生していくことができるということだ。

 それも、端末からコンテンツデータを送るのではなく、アカウント情報やパーミッションを得るために必要な情報だけを送り、データそのものはNexus Qが、代行してそのストリームをクラウドから受信して再生しているようだ。AppleのAir Playを使っても同じようなことができるが、Nexus Qでは、このデバイスが本人に成り代わってデータストリームを受信している点がポイントだ。

 これで、どのような使い方ができるかというと、たとえばホームパーティをするようなときに、QをLAN内で開放しておき、参加者が持ち寄った端末で、好きな曲をどんどんキューにためて、順次再生していくといったことが考えられる。ただ、アプリの使い方を間違うと、再生中の曲をいきなり中断して、自分の好きな曲を割り込ませることになり興ざめにもなりかねない。

 使い方のバリエーションは、まだまだこれからといったところだろう。QそのものがWi-Fiのアクセスポイントになれるのかどうか、Bluetoothでデータを送れるのか、NFCがあれば何ができるのか。さらに、端末からQに対してデータをストリーミングできないのか。写真は送れないのか、プレゼンデータはどうなのかなどなど、いろいろと謎は多い。

 Qそのものは、プロセッサとしてOMAP4460を搭載し、16GBのROMを持つICS(Android 4.0)デバイスだそうなので、ハック次第で、いろいろなことができるようになりそうだ。装備されているMicro USB端子はそのためのものだという。

 ソーシャル・ストリーミング・メディア・プレーヤーが冠する「ソーシャル」は、いったい何を意味するのか。確かに、このデバイスは1人で使ってもさほど楽しいものとは思えない。普通のBluetoothスピーカーを使うなり、HDMIケーブルでTVにつないだって似たようなことはできる。でも、複数のユーザーのパーミッションを背負い、代行してコンテンツストリーミングを受信して出力することができれば、いったいどのような可能性が出てくるのだろうか。

 個人的に思うのは、このデバイスは、Androidデバイスとして、初めてマルチユーザーを前提としたものになっているんじゃないかということだ。しかも、ダイナミックにユーザーが入れ替わる。これまでのAndroidデバイスは、それでできることのほとんどを特定のアカウントを使ってパーミッションを得る必要があった。なんらかのアカウントを設定しなければ、ほとんど何もできないに等しかった。だから、家族がリビングルームで共有するタブレットには、誰が使ってもいいように、それ専用に家族アカウントを設定しておくしかなかった。それではTwitterもできないし、Facebookも見ることができない。メールだって家族には見られたくない。

 でも、Nexus Qには、特定のアカウントをセットする必要がない。このような概念でインターネットサービスが利用できるのなら、一時的に自分のパーミッションを特定のデバイスに委託するような使い方ができるようになるかもしれない。たとえば、リビングルームのタブレットに、NFCでコツンとスマートフォンをぶつければ、その瞬間から自分の権限がすべてタブレットに委譲されるといったイメージだ。そして、使い終わったら委譲を解除することで、元の家族共有タブレットに戻る。

 Nexus Qは、まだ生まれたばかりの段階だ。とりあえず、音楽や映像などのコンテンツを共有し、みんなで楽しむことから始めてみたに過ぎないように思う。それがもっともわかりやすいカタチだからだ。だからプレーヤーのカタチでデビューした。

 でも、GoogleがQで提示したコンセプトから派生するであろうさまざまな使い方のモデルは、Andoroidに限らず、社会と個人の関係や、個人間のプライバシー、サービスのあり方といった、既存のデバイスが抱えるさまざまな矛盾や不便を解決する方向に向かわせるかもしれない。そう考えるのは、さすがに早計というものだろうか。