山田祥平のRe:config.sys
Nexus 7(2013)の登場でどうするキャリア
(2013/7/26 00:00)
Googleがサンフランシスコでイベントを開催し、かねてより噂のあった7型タブレットのリードデバイス「Nexus 7」をリニューアルした。その搭載OSとして、Android 4.3が発表され、Galaxy Nexus以降の既存リードデバイスへのOTAアップグレードも始まるようだ。
1台の端末で北米の全キャリアに対応
新しいNexus 7は、北米において7月30日から発売され、数週間以内に日本を含む各国で発売されるという。昨年(2012年)6月に発売された旧Nexus 7は、悪くないデバイスだが、個人的な不満が2つあった。1つは、背面カメラを搭載していない点、もう1つはバイブレートによるフィードバックがないところだった。バイブレートの有無は好みにもよると思うが、背面カメラの有無はタブレットを使うシーンを狭めてしまうだけに残念に思っていた。
新Nexus 7はCPUがSnapdragon S4 Pro(1.5GHz、クアッドコア)になり、画面も1,200×1,920ドット(WUXGA)へとグレードアップしている。色再現性も向上しているということだ。まあ、これは1年という時間を考えると正統進化といえるだろう。
このほか、Bluetoothが4.0をサポート、スピーカーがステレオとなった。Wi-FiについてはIEEE 802.11aにも対応するようになっている。
また、LTEモデルが用意され、1モデルで米国内のキャリアの主要周波数に全て対応、当然、SIMロックフリーでの提供となる。これは重要だ。
重量は290gと、旧製品より50gも軽くなったにも関わらず、バッテリ駆動時間が延び、ワイヤレス充電にも対応した。サイズについても、長辺のベゼルが狭くなり、結果として旧製品より6mm程度横幅を縮小し、片手でも持ちやすくなっている。実機を手にしたわけではないので、気になるバイブレートフィードバックの対応についてはまだ分からないのだが、スペックを見る限り、現時点でかなり魅力的なAndroidタブレットになっている。
気になる価格は、北米において16GBモデルが229ドル、32GBモデルが269ドル、32GB+LTEモデルが349ドルだ。ここから計算するとLTE通信の付加価値として80ドルが計上されていることが分かる。
ただし、1台で全てというわけにはいかないようで、公式サイトによれば、北米バージョンのほかに、ヨーロッパバージョンも用意される模様だ。下記のように微妙に対応周波数が異なる。
北米バージョン
4G LTE:700/750/850/1,700/1,900/2,100MHZ (Bands:1/2/4/5/13/17)
HSPA+:850/900/1,900/2,100/AWS MHz (Bands:1/2/4/5/8/10)
GSM:850/900/1,800/1,900MHz
ヨーロッパバージョン
4G LTE:800/850/1,700/1,800/1,900/2,100/2,600MHz (Bands:1/2/3/4/5/7/20)
HSPA+:850/900/1,900/2,100/AWS MHz (Bands:1/2/4/5/8/10)
GSM:850/900/1,800/1,900MHz
日本ではLTEのBand 3が使えるのが望ましいので、ヨーロッパバージョンが日本向けにも販売されることになると予測できる。ただ、ヨーロッパバージョンには、北米バージョンにあるBand 13と17がないため、北米におけるVerizonやAT&Tでの利用に支障があるかもしれない。ちなみに、iPad miniでは、
AT&T向けモデル1454
LTE Bands: 2/4/5/17
Verizon向けモデル1455
LTE Bands: 1/3/5/13/25
となっていて、ソフトバンクもauも後者を販売している。今なお、あちらを立てればこちらが立たず状態が続いているが、ずいぶん整理されてきているのが分かる。北米では各キャリアからの発売も予定されているので、iPadのように専用プランの購入が必要なときにできるようになるとうれしいのだが、皮算用に終わってしまうだろうか。いずれにしても米国のキャリアが、この端末をどのように売るのかが気になるところだ。彼らのビジネスの動き方次第では最強のLTEルーターの位置付け(こちらやこちらを参照)も変わってくる。もっとも、新Nexus 7がテザリングをサポートしているかどうかは蓋を開けてみないと分からないのだが……。
いずれにしても、こうした端末の登場によって、SIMロックフリーの市場が、今よりもぐっと大きく拡がる可能性が出てきた。願わくば、日本での販売に際して、Wi-Fiモデルのみといったことがないようにして欲しい。LTEモデルとの差額は現行レートで約8,000円。もともと超高額な端末ではないので、実に3割高となってしまい、割高感たっぷりなのだが、モバイルノートPCをはじめ、単独でWAN通信ができないデバイスのオンパレードとなっている現状を打破するカンフル剤になってほしいものだ。
Android は、Jelly Beanのまま4.2から4.3へとアップデートされた。Nexus 7は4.3を搭載する最初の端末となる。4.2でサポートされたマルチユーザー機能が、さらにブラッシュアップされてペアレンタルコントロール的なこともできるようになったという。また、Bluetooth Smart対応により、健康グッズ的なデバイスとの接続によるアプリケーションの領域が拡大されている。さらに、OpenGL ES 3.0のサポートも、ゲームアプリにとっては朗報だろう。DRM APIも目新しい。これはこれで、情報消費端末としてのタブレットの活用領域を大きく拡げることになりそうだ。
発表会の中継では、4.3アップデートはOTAで、既存機種にすぐにも配信されるそうなのだが、この原稿を書いている約12時間経過した時点では、未達となっている。もっとも古い端末は、Galaxy Nexusということになり、2011年秋の製品だ。そこまで古い端末でも最新OSになって蘇るというのは驚きだ。
デバイス間連携のカギとなるChromecast
今回の発表会で披露されたもう1つのデバイスが「Chromecast」だ。わずか2インチのUSBメモリ程度の大きさのChrome OSデバイスで、TVのHDMI入力に装着するだけでいいという。
このデバイスを使うと、スマートフォンやタブレットで再生しているコンテンツを、TVに送ることができる。正確には、Chromecastに送られるのはコンテンツへのリンクと、それを閲覧するための権利のコピーであり、実際のコンテンツはChromecastが自分でインターネットから受信する。
どこかで聞いたことのあるソリューションだと思ったら、これは2012年のGoogle I/Oで発表され、発売されないままディスコンになってしまった「Nexus Q」そのものだ。今回のChromecast対応のアプリケーションのために、Google Cast SDKも公開され、開発者は既存のモバイルアプリ、Webアプリを、Chromecast対応にできる。もちろん、iOSを含むマルチプラットフォームだという。しかも、Chromecastのハードウェアとしての価格は35ドルに設定されている。かなり戦略的な価格だ。個人的には、これに、Miracastなどの機能も包含していくことになれば面白いと思っている。
今、日本におけるTVやビデオレコーダーの多くには、DLNAサーバー、クライアントの機能が実装されていて、各機器に置かれたコンテンツを、どの機器からでも再生できるようになっている。デジタルメディアコントローラー(DMC)とデジタルメディアレンダラー(DMR)も標準的な機能だ。これと同様に、Chromecastの機能が内蔵されるようになれば、さらにおもしろいことができるようになりそうだ。
また、このデバイスを携帯すれば、訪問先の会議室のTVに装着し、その場でタブレットを使ってワイヤレスプレゼンテーションもできるようになるだろう。そういう使い方をするためにも、やはり、タブレットは単独で通信ができることが望ましいのだ。
キャリアビジネスの未来はどうなる
今、980円SIM周辺がホットだ。さまざまな制限はあるにせよ、980円/月である程度のLTE通信ができるMVNO各社のサービスが提供されているのは嬉しい限りだ。
今のところ、MVNO各社はドコモの回線を利用しているが、auやソフトバンクが、広がりつつあるこの市場を指をくわえて見ているとも思えない。例えば、既存契約に500円プラスすれば2枚目、3枚目のSIMが提供され、ユーザーが自分で調達したSIMロックフリー端末に装着できて、1つのパケット定額契約を複数の端末で共有できるようなソリューションが提供されるようなこともあるかもしれない。MVNOにとってはたまったものではないかもしれないが、そこは別の切り口でサービスをリフレッシュしていってほしい。
それに、そのくらい気軽な導入ができるようになれば、SIMロックフリー端末の市場は、さらに拡大するだろう。キャリア同士の競争、端末メーカー同士の競争、そして、キャリアとメーカーの協調などによって、市場の活性化が進むにちがいない。そうなれば、80ドルもの差額はどんどん縮小されていくようにも思う。その先には、キャリアとの関係を捨て、OTTと強く結びつく端末ベンダーも出てくる可能性だってある。
1つの端末のマイナーチェンジでここまで妄想をふくらませるのはどうかとも思うが、とりあえず、いちはやく手に入れたい製品の1つではある。