山田祥平のRe:config.sys

【特別編】Jelly BeanはAndroidの未来を見せる




 Googleが、米・サンフランシスコで開催した開発者向けカンファレンス Google I/Oで、Andoroidの最新バージョンとして、Jelly BeanことAndroid 4.1を発表した。7月から順次OTAなどでアップグレードされることになっている。今回は、この新しいOSの方向性について考えてみたい。

●限られた端末でJBがスタート

 Google I/Oの参加者には、さまざまな評価用ハードウェアが配布されるが、今回は、その中にGalaxy Nexusとタブレット端末のNexus 7が含まれていた。

 まず、Galaxy Nexusは、開封してAT&TのSIMを装着して電源を入れると、いったんはICS、つまり、Android 4.0で起動した。だが、端末情報からシステムアップデートを試みると、すぐに更新が見つかり、約140MBのファイルをダウンロードしたあと、Andoroidは4.1になった。カンファレンスに同行していた知り合いの中に、インターナショナル版のGalaxy Nexusを米国内で常用しているユーザーがいたので聞いてみたが、OTAは未だにないということなので、配布された評価用ハードウェアのビルドだけが対象で、他のGalaxy Nexusについては7月を待たなければならないのかもしれない。

 一方、Nexus 7は、7型スクリーンを持つタブレットだが、最初からJelly Beanがプリインストールされていた。ただ、言語が英語で、日本語が実装されていなかったのだが、こちらもシステムアップデートを試みると、その場で更新を見つけてアップデート、日本語ロケールが選べるようになった。

 機材が配布されたのは現地時間の16時だったが、受け取ってホテルに戻った17時過ぎにはアップデートを適用することができた。いずれにしても、現時点では、Jelly Beanを試すことができる端末は限られているようだ。Google I/Oの参加者は約6,000名とされている。ソーシャルストリーミングメディアプレーヤー「Nexus Q」のAndroidはICSだったので、少なくとも、今、世界では、約12,000端末でJelly Beanが動き出していることになる。

 折しも、カンファレンスの最終日、米カリフォルニア州サンノゼの連邦地裁が、Appleの申し立てを認め、Galaxy Nexusの販売を差し止める仮処分を命じたというニュースが流れた。Galaxy Tab 10.1の販売差し止めが命じられた直後でもあり、Jelly Bean公開のタイミングと重なってしまい、ちょっと間の悪いことになっている。

 ただ、米国内でGoogle Playを開く限り、6月30日の時点でも、直販のGalaxy Nexusは購入可能で、在庫もあり「3~5営業日以内にお届けします」となっている。価格は349米ドルだ。しかも、説明には「初のAndroid 4.1搭載端末です」と明記されている。

 残念ながら、日本からの購入は難しいが、Nexus 7がまだプリオーダーで、2~3週間以内に発送となっているため、現状ではここで入手できるGalaxy Nexusだけが、すぐにJelly Beanを試せるはずの端末となっている。

 ただし、日本の技術適合証明が得られているわけではないので日本国内での利用は制限される。この記事についても、すべて米国内で実機操作をした結果をレポートしている。

●通知バーはスクリーン上部に決まりか!?

 さて、そのJelly Beanだが、当初はAndroid 5.0ではないかという噂も流れていたのだが、蓋を開けてみると4.1と、わずか0.1のアップデートとなっている。

 個人的にはWindows 3.0が3.1になったときや、Windows 95がOSR2になったとき、Windows 98がSEになったときなどをデジャブするような感覚を持った。かなりの好印象だ。直近ではWindows 7がWindows 8になるという感じだろうけれど、ちょっと違うかもしれない。AndroidでいえばFroyoからGinger Breadといったところか。

 いずれにしてもカーネル部分には大きく手を入れることなく、ICSをベースに、ユーザーにも、そして、開発者にもメリットをもたらすさまざまな新しい機能が盛り込まれている

 まず、筆頭に描画とタッチの操作性の向上が挙げられる。Vsyncのタイミングが拡張され、16msとなったことで、描画性能が向上するとともに、グラフィックスのパイプラインがトリプルバッファリングになり、操作性がスムーズになったとされている。これに伴い、タッチ操作の応答も向上し、操作性が向上しているということだ。実際に操作してみると確かにスムーズになったようにも感じるのだが、そこまでいうほどという印象もないわけではない。ただ、ずっとGalaxy Nexusを常用してきたわけではないので、冷静な比較をする立場にはないことをご容赦いただきたい。

 外観上で気になる点としては、4.65型スクリーンのGalaxy Nexusも7型スクリーンのNexus 7も、両方ともホームやバックなど物理的なボタンを持たないのだが、両方とも通知バーがスクリーン上部に位置することだ。

 Honeycombは通知バーがスクリーン下部だった。ICSでは、現状で出ているものを見る限り、タブレットでは下部、スマートフォンでは上部となっている。同じOSで、同じことをするのに上部と下部というのでは、併用するときにとても困る。正式にアナウンスされたわけではないが、通知バーはスクリーン上部ということになったのではないかと想像できる。それは、新機能としてのGoogle Nowの実装を見ればわかる。

●Nowカードが世話をやく

 Google Now(表記についてNowとされている場合とnowと表記されている場合が混在している)は、Nowカードと呼ばれる矩形領域を用意し、それをトランプのようにスタックし、それぞれのカードに、今、ユーザーが必要としているであろう情報を表示する。それは、予定表のデータやGPSによる位置情報などから推測されるもので、今、こうしてサンフランシスコにいると、サンフランシスコの気温と天気、英語と日本語の翻訳ウィジェット、米ドルと日本円の為替レート、自宅のある東京のローカルタイム、直近にマップでスターをつけた位置への移動手段、道路の混雑状況などが表示される

 Google Nowを呼び出すトリガーは、スクリーン下部からのスワイプインだ。もし、下部に通知バーがあると、このアクションを取るのが難しくなってしまう。だから、通知バーはスクリーン上部に統一されるのではないかという推測ができるわけだ。

 ちなみに、Googleオリジナルアプリのうち、Google+やChromeでは、メニューボタンがスクリーン右上になってICSの作法を踏襲しているが、GoogleマップやGmailのメニューボタンはスクリーンの右下に位置する。これは、最終的には右下に統一されるような気がしているが、まだ、迷いが感じられ、模索の状態が続いているようだ。

●饒舌になった通知バー

 通知バーについては、上部からのスワイプインで引きずり出すのはICSまでと同様だが、その表現力が著しく高まった。これまでは文字列で何らかのメッセージを表示する程度のものだったが、画像を表示したり、ボタンなどを使ってインタラクティブに操作することができるようになっている。たとえば、カメラで写真を撮ると、Google+がインスタントアップロードでそのデータをアップロードするが、それが終了すると、どんな写真をアップロード完了したのかが通知バー内でわかるわけだ。

 不在着信やメールの到着などでも、ダイレクトに返信ができるなど、さまざまな場面で、操作のワンステップを省略することに成功している。

 通知といえば、ホームスクリーン上でリアルタイムで内容を更新するウィジェットは、その移動やリサイズ時に、配置したい場所にあったアイコンを押しのけるように振る舞うようになっている。アイコンがウィジェットに場所を譲り、別の場所に再配置されるのだ。これまではウィジェットを置く場所がないと冷たくあしらわれていたことを考えると、かなり好感度が高まった。

●自然語検索に対応したフレームワーク

 検索のフレームワークもアップデートされた。音声入力を含む自然語による検索が可能になり、その検索結果も、単なる一覧ではなく、きわめてリッチなものになっている。この新しい検索は、ホームスクリーンの検索ボックスをタップすることで起動する。ただし、現段階ではロケールが英語になっていないと機能してくれない。

 たとえば、「How tall is the Tokyo Tower」などと入れると、東京タワーの高さが写真入りで表示されたりする。基調講演のデモでは「日本の総理大臣は誰」といった検索もデモされていた。

 検索は当然、端末がデータ通信可能な状態でなければできないが、音声入力だけであれば、一般的な入力画面において、オフライン状態でも音声入力ができるようになった。

 IMEとして、Google 音声入力を有効にしておくと、そのときのデフォルト言語の音声認識が可能になる。Galaxy Nexusには日本語IMEとしてGoogle日本語入力、Nexus 7にはiWnnが入っていたが、iWnnではソフトキーボード上にマイクのボタンが用意され、それをタップすると音声で文字を入力することができた。

 なお、最初から入っている音声認識用のデータは英語だけで、他の言語については別途ダウンロードインストールが必要だ。設定の「言語と入力」にある「音声検索」のメニューからインストールができるようになっている。ここでデフォルトの言語も決めておけるが、各国語のキーボードに装備されたマイクボタンをタップしたときに、音声認識する言語も、その言語に切り替わるようになっているようだ。

 ちなみに、英語の音声認識データが22MBであるのに対して日本語は15MBだった。このほかヨーロッパ各国語、ブラジル語、中国語、韓国語などをサポートしている。

 言語については右から左に書く言語がサポートされるようになり市場の拡大に貢献しそうだ。また、日本語についてはいわゆる中華フォントではないことを特記しておきたい。

●少し先の未来を先取るJelly Bean

 こうしてJelly Beanを見ていくと、今、Androidは音声を含むユーザーとのインタラクティブな対話を重視していることがわかる。そして、過去の操作履歴を分析しつつ、先回りして、ユーザーがやりたいことを推測し、尋ねられる前にその結果を提示できる存在になろうとしているわけだ。検索したいキーワードが明確に決まっているのならサジェスチョンの必要はない。でも、そういうときばかりとは限らない。何をどうすればいいのかを気づかせるためにはどうすればいいのかという、さまざまなアプローチを模索しているように見える。

 その向こう側にiOSのSiriが見え隠れしているのは明確だが、Siriよりもずっとおせっかいなようにも感じる。ドコモの「しゃべってコンシェル」は、明らかにSiriを意識しているが、Androidのそれは、少し方向性が異なるのではないか。このあたりが、今後、どのようにブラッシュアップされていくのかが気になるところだ。

 日本の端末はICS化が始まったばかりだが、できることなら早期にJBへのアップグレードを実現してほしい。Googleは、あとさき考えずにOSの仕様を変更し、かえってユーザーを混乱させてしまっているという印象も強いのだが、少なくとも、ICSからJBでは、ユーザーが混乱するような要素は見当たらず、大きなメリットが得られる面の方が多いように思う。