山田祥平のRe:config.sys

Windows 10 Mobileに萎えるのはなぜか

 Windows 10 Mobile搭載スマートフォンが8社ものベンダーから発売されるなど、世界的にも珍しい地域になろうとしている日本。それまでのゼロが8になるのだから驚きだ。だが、そこはそこ、一筋縄ではいかない面もある。

アプリに萎える

 今、4月に発売が予定されている「VAIO Phone Biz」を評価のために使わせてもらっている。実機はまだ製品相当ではなく不具合も散在するがハードウェアとしては悪くない。ビジネスの道具として優れた質感がある。これでAndroid端末だったらそれなりに売れる製品になっていたかもしれないとも思う。

 ただ、VAIO Phone Bizは、よくも悪くもWindows 10 MobileをOSとして採用している。ブランドとしてのVAIOの知名度もあり、そのVAIOがWindows 10 Mobileに取り組むからこそ話題にもなった。まさに真打ち登場とも言える。

 Windows 10 Mobileはアプリのプラットフォームとしては悪くないと思う。当たり前のことだが、PC用のWindows 10とも親和性が高い。アプリさえ揃えば広く受け入れられてもおかしくない。デバイスを買ってきたそのままでも、メールにカレンダー、Skypeと、Twitter、そしてfacebookが動き、Googleで検索ができて、Office 365の各アプリが使えれば十分といったことなら明日からでも即戦力になるだろう。

 とりあえず一通りのことはできるし、Officeの各アプリも揃っている。それに、いざとなったらWebがある。アプリが先か、ハードウェアが先かはニワトリと卵の問題だ。普及しさえすればアプリは揃っていくだろう。今の時点ではTwitterもfacebookもアプリとしてはひどい有様だ。ただ、企業で使うことを考えた時に、これらのアプリが優れていることの方が都合が悪いという考え方もできる。でも、コンシューマには無理だ。

フォントに萎える

 PC版のWindows 10で、ユニバーサルアプリを使ってみても感じることだが、やはり日本語フォントの字面のバランスにガッカリ感がある。はっきり言ってプアだ。小さな文字ではそれほどひどくは感じないのだが、ある程度文字を大きくすると英語と比べて稚拙な印象になる。個人的には文字間隔が広すぎる印象を持っている。特に漢字とカタカナのバランス的な落差が大きすぎるようにも感じられる。

 ユニバーサルアプリはコンテンツ表示に使うフォントをアプリ開発者が自由に指定でき、必要に応じてアプリに埋め込めるそうだが、指定がなかった場合にはYu Gothic UIを使うようだ。游ゴシックは、かつて慣れ親しんだメイリオよりもウェイトが軽く、余計にスカスカ感を感じる上に、ひらがなやカタカナのデザインがかなり幼稚なものに感じる。游ゴシックでは線の細さを感じるだけだから、Yu Gothic UIの特徴なのだろう。この時代に、文字の横幅を節約することをコンセプトにしたUIフォントを用意することが、果たして正しいことなのかどうかは、Microsoftの中でも議論されているようだが、とにかくWindows 10 Mobileのシステムフォントはいただけない。ここがもっとも萎えるところだ。メイリオとは言わないまでも、Yu Gothic UIではなく、游ゴシックをデフォルトにすれば、その印象は大きく変わるだろうだけに、実にもったいない話だ。

 PC版のWindows 10では、一般的な方法でデフォルトのシステムフォントを変える機能がない。Windows 10 Mobileも同様だ。だから、どんなにプアでもこのフォントを受け入れるしかない。もちろん、アプリへの埋め込みフォントは話が別だ。例えばWordを起動して既存の文書を開いてみると、もう気分はビジネスだ。まったく違和感のない美しい文字面がそこに展開される。

 この辺り、アプリにおけるフォントの位置付けをもう少しなんとかしないことには、プアな印象ばかりがつきまとうのではないだろうか。

キラー機能に萎える

 Windows 10 Mobileは、Continuumがそのキラーファンクションとして取り上げられることが多い。スマートフォンに有線/無線で大きなディスプレイを接続し、WordやExcelを使ってまるでPCのように使えるというものだ。

 ただ、どんなに大きな画面であってもそこに表示できるのは1つのアプリだけだ。アプリのウィンドウを並べて、片方を参照しながらもう片方で作業するといった使い方はできない。アプリは必ずフルスクリーンで開く。しかも、こうした使い方ができるのは、ユニバーサルアプリだけだ。

 まるでPCのように使えるという謳い文句に過度な期待をしてしまうと、ちょっとガッカリしてしまうかもしれない。でも、方法がないわけではない。ユニバーサルのリモートデスクトップクライアントアプリがプレビュー版としてリリースされているからだ。VDIやRDPを使える環境にあって、広帯域でネットワーク接続ができるのなら、スマートフォンを大画面ディスプレイに繋いでまさにPC代わりに使える。Win32デスクトップアプリだろうがなんだろうがPCそのものなのだからまったく問題ない。

 宿泊先のホテルのインターネットが十分に高速で、フルHD解像度のTVが部屋にあることが分かっていれば、Windows 10 Mobileスマートフォンとワイヤレスディスプレイアダプタ、外付けキーボードだけをもって出張するというのも現実的になるかもしれない。そんなことをするくらいならスティックPCでいいじゃないかという声も聞こえてきそうではあるが……。

 いずれにしても、スマートフォンデバイスを既存のPCと同等の管理下においてセキュリティを確保することができるという点だけでも、Windows 10 Mobileデバイスを選ぶ理由になると考える管理者は少なくなさそうだ。

盛り上がりに萎える

 それでも実はちょっとした懸念がある。少なくとも、日本におけるWindows 10 Mobileを取り巻く状況は、日本マイクロソフトがせっせとベンダーの尻を叩いてデバイスを作ってもらって今があるというよりも、ベンダー側が率先して盛り上げてしまった感があるからだ。

 そこにはある種の温度差があって、日本マイクロソフトは、この盛り上がりを本当に歓迎しているのかどうか怪しいようにも感じられるのは気のせいなのか。

 音頭をとっておいて、いきなりハシゴを外すようなことをするよりは、はるかにいいとは思うが、日本マイクロソフトとして、なりふり構わず本気でモバイル市場を取りに行くという意気込みに欠けるように感じられるのは思い過ごしだろうか。日本マイクロソフトがハードウェアもアプリも積極的にリクルートして、そのリーダーシップの元に市場を開拓していくという雰囲気がもっと明確に感じられれば、こんな不安に似た気持ちも払拭できるのにと思う。

(山田 祥平)