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【番外編】世界最軽量「Let'snote RZ4」開発者インタビュー

〜軽くするためにファンを搭載、実は「VAIOを超えたかった」

 世界で5社と言われていた初のCore Mプロセッサ搭載PCからほぼ時を置かずして、まさかの国産ブランドであるパナソニックの「Let'snote RZ4」が発表された。久しぶりに人に見せびらかしたくなる製品の登場だ。部外者が持ってもそう思うのだから、開発した側の想いはさらなるものだろう。その開発を指揮したパナソニックITプロダクツ事業部テクノロジーセンター プロジェクトリーダーの星野央行氏に話を聞いてきた。

パナソニックITプロダクツ事業部テクノロジーセンター プロジェクトリーダーの星野央行氏

――まさにこうしたノートPCが欲しかったと思っていました。現状の市場にスッポリと抜けていたカテゴリの製品になっていますね。

星野氏:そうですね、Let'snoteでいえば、「J」以降、4年間、10型サイズのモデルがありませんでした。しかし、顧客からは以前の「R」や「J」のサイズ感が欲しいという声が多かったのです。それで1年前に開発を始めたという経緯です。タブレットはもちろんPCとしても良いものを目指し、一番の目標は世界最軽量ということでした。ですから、当初から750gを切ることを最大の目標としていました。

 もちろん、簡単ではなかったですし、当初はどこまでできるのか見当がつきませんでした。

――ボンネット構造を部位ごとに肉厚の異なる「VHフレームストラクチャ」を使うなど、さまざまな工夫で“グラム単位”の減量にチャレンジしたわけですね。

星野氏:軽くしても頑丈さは踏襲しなければなりません。ですから家の骨組みをヒントにして、部位によって厚みが異なるようにするといった工夫をしています。開発側としては「VH」といった名前なんてどうでもいいんです。とにかく最軽量を実現するために追求したら、できた結果に名前が付いただけなんです。名前を付けるのがおこがましいくらいですよ。たまたまここにたどり着いただけなんです。

部位ごとに厚みが異なることで軽量化したVHフレームストラクチャを採用するキーボード面キャビネット
こちらは底面側のキャビネット
天板はボンネット構造を踏襲するが、内側は異なる硬度の2枚のダンパーを配する「複合ダンパー」構造で耐久性を高めている

――でも、構造に名前があった方がアピールできそうです。さらに今回は、これまでとは趣きの異なるカラーリングも用意されました。

星野氏:「ブルー&カッパー」ですね。他人と違うPCを持ちたいというニーズを狙ったものです。これまでLet'snoteを使ったことがない人にもアピールしたいという想いがあり、さまざまなビジネスシーンでかっこよく使って欲しいということから、このカラーコンビネーションを考えました。

 この色のポイントは、本体は落ち着いて、天板はアクセントにということなんですが、これが技術的には想像以上に大変でした。色出しについての問題が山積みだったのです。大事なのは、目的の色を叶えて、耐久性を両立させることなんですが、短期間でこの目標をクリアするのは大変でした。それもチャレンジです。

 技術的に色の提案は難しく、走りながらでないと分からないところがたくさんあります。塗料メーカーとの話などを含めて、それぞれのベンダーに太いパイプを持っているのが功を奏して実現できました。樹脂部分とマグネシウム部分で色が微妙に違うのは当たり前だと思われるでしょうが、それをできるだけ同じ色に見せるなど苦労も多かったのです。

――発表会ではITプロダクツ事業部テクノロジーセンターの金子晴香主任技師が登場しましたが、彼女は、かつてのJシリーズを担当していましたよね。今回の構造などを含めて、4年前からは大きな進化がありますが、それは4年前では難しかった技術なのでしょうか。

星野氏:金子は現在はすでに次機種の開発に携わっていますが、ほぼ1年前にできた当初の開発チームにいて、この製品に関わっています。

 やはり、この構造などは4年前は無理でしたね。なにしろ、こんなマグネシウム合金は鋳造できませんでした。ベンダーの技術が向上したんです。そういうタイミングも今回の製品に貢献しています。

――結果として745g。なぜ800gでもなく、700gでもなく、750gを目標にされたのでしょう。

星野氏:開発を開始した時点で750gを目標にしました。その時点でソニーの「VAIO Pro 11」 がありましたが、そのタッチなしモデルが770gでした。だから、タッチパネルを付けてそこを超えるということを目指しました。もっとも、そのVAIOがなくても近い数字になったでしょうね。

 実は、上層部に仕様を見せながら開発を続けるのですが、ドキュメントを見せるだけでは、上に行けば行くほど「700gを切れ」という意見が多かったのです。それで世界最軽量と言えるかどうかという不安があったようです。でも、実際にモックアップなどを作って触ってもらうと、「この大きさでこれなら、軽いと感じてもらえるはずだ」という意見に変わりました。

 パナソニックは「TOUGHPAD」などの重厚なものしか作っていなかったので、この領域は経験したことがなく、そこに技術的な差がどのくらいあるのかも含めて暗中模索の開発プロセスでしたね。

――今回はCore M搭載ということでも新しいチャレンジです。

星野氏:そうですね。一番の苦労はプロセッサ関連だったかもしれません。新しいプロセッサを採用することと、新しい構造のキャビネットを作ることを同時に行なうのは難しいんです。過去においてもずっとそれを避けてきました。でも今回は同時です。

 プロセッサ制御については詳細は申し上げられないのですが、Intelさんも相当苦労されていたようです。それに、いろんな情報がなかなか入って来ないことにもやきもきして、まるで片肺で飛んでいるような状況が続きました。

――Intelとしては、Core Mプロセッサ搭載で、薄くて軽いファンレスPCが作れることをアピールしています。今回、なぜ、冷却ファンを搭載されたのでしょうか。もっとも気が付かないくらいに静かで、最初はファンレスだと思い込んでいたのですが。

星野氏:最も軽量にするのはどうすればいいかを考えた結果です。それを考えるとファンを付ける方がいいんです。ヒートパイプを最小限にすることができるからです。もちろん熱はキーボードに逃がすといったこともやっていますが、ファンの効率には一目置かなければなりません。

 ファンレスを狙えば他社と同じようなものはできますが、ほかと違うことをしないとできないこともあるわけです。これで、Core Mプロセッサのフルパワーを出せるLet'snoteが出来上がりました。

――今回は、キーボードが画期的によくなったと思います。実に打鍵しやすいですね。Let'snote AXやMXのキーボードはいったい何だったのかと思うくらいです。

星野氏:キーボードが画期的によくなったと言われるのですが、ストロークは確かに1.2mmから1.5mmに改善しましたが、MXから構造自体は変わっていないんですよ。あるとすればキートップをさらに薄くしたことと、単純に小さくしたことぐらいでしょうか。全ては軽量化のためなのですが、フィーリングに関しては小型のPCを使ったことのある人の意見を数多く聞きました。アイソレートキーボードは操作性が悪いことは間違いないんです。ですから、Let'snote SX時代のような、以前のものを超えるのはなかなか難しい。壊れにくさを両立して、これからもさらに入力のしやすさを追求していきます。

――ただ、個人的には、このカテゴリの製品は薄暗いところで使うことも多いので、キーボードバックライトがあればよかったと思います。

星野氏:バックライトは中の構造物を犠牲にすればできるのですが、この厚みでできるかどうかはやってみないと分かりませんね。干渉や圧迫など、中の構造に影響があるので難しいかもしれません。最初から制限がなければやっていたかもしれませんが、Let'snote AXの18mmありきの19.5mmです。まずは、そこがターゲットでしたから意地もありますね。

――重量、厚みなどで決断を迫られたことはありましたか。

星野氏:小さくなるのだから、本当はもっと薄くしたかったのです。でも、ちょっと厚ぼったくなってしまいました。各種の標準インターフェイスは絶対に外せないものの、20mmを超える厚みは避けたいと思っていましたから、それを切ることは諦めようと思いませんでした。

 取捨選択のタイミングはいろいろとありましたよ。例えばタッチパネルの素材です。いろいろ検討した結果、最終的にガラスを採用しています。いろいろなチャレンジの中で、さまざまな素材を集めて軽量化、薄型化の試みを繰り返しています。タッチパネルの素材は、結局最後の最後まで決まらなかったのですが。

――このカテゴリのノートPCにも性能は必要でしょうか。例えば、Atomプロセッサを使えば、もっと軽く薄くできたとか。また、Let'snote MXで実現されたInstantGoなども一部のユーザーには求められるのではないでしょうか。

星野氏:性能は絶対必要です。だからAtomは最初から想定外ですね。そして、ビジネスに全方位展開するにはInstantGoは邪魔なんです。もちろん個人ユースではありかもしれません。でも、パナソニックとしては、企業のお客様のことを考慮すると安易にInstantGo対応を謳うことはできないのです。現時点では法人ユースではニーズは皆無でしょうね。

――このカテゴリの製品の市場はどのように考えられていますか。

星野氏:ボリュームは大きくないとは思いますが、ある程度のニーズはあるのが10型の画面サイズです。どう化けるか分からないですね。でも、今までとは一線を画したところがあります。かつての「J」は安く作ることを優先していましたが、今回は違います。

――InstantGoについては本心をいえば欲しかったです。でも、実際に使ってみると、InstantGoがなくても、電源を入れたまま持ち歩いても10時間程度はバッテリが持つのですね。ほんのり暖かくはなりますが、これならInstantGoどころか、AlwaysGo機としても現実的です。

星野氏:予備バッテリに交換ができることも重要ですね。もちろんこだわりました。バッテリだけで200gなのですが、今回は新開発のセルを使うことができました。バッテリ技術の進化のタイミングにうまく合わせられました。大きいのは電圧が変わったことで、3.8Vの高電圧が使えるようになり、容量としては増えたんです。

――できあがってみて振り返る苦労はどのあたりでしょう。

星野氏:最初のモックは700gちょっとだったのです。本当はもっと軽くを目指してもよかったかもしれません。でも、これ以上軽くして意味があるかどうかですね。技術者として見ると、けっこう完成系に近いんじゃないかと思っています。

――次はどの領域を目指しますか。

星野氏:今言えるのは、クラムシェルでもっと軽いものということだけ(笑)。いずれにしても、サブのPCではなく、性能的にも唯一のPCとして使えることを想定しています。でも、売り方としては2台目のPCとしての使い方も訴求したいところですね。

 設計としてやり方は今までと同じやり方を続けてきましたし、これからもそうです。今回も、USB端子は3つ付けました。我々として、それは当たり前なんです。コネクタ自体の重さはそんなに影響しませんしね。大したことではないので、それよりは便利さを取るわけです。

 実は、昔から自分の中で800gの閾値をもっていました。今回はそれを超えることができました。そこは及第点。でも、まだまだ積み残しがいっぱいあります。Windows自体が洗練されていない面もありますから、今がベストではないかもしれません。

 たまたま私が指揮を執りましたが、誰が作ったというわけでもなく、チーム全員が一丸となってここまできました。ぜひ多くの人に使って欲しいと思います。

――ありがとうございました。

(山田 祥平)