山田祥平のRe:config.sys

スマホとコンデジ、撮るならどっち

 スマートフォンのカメラ機能の向上は著しい。だが、その進化の方向にちょっとしたズレを感じることもある。そんなわけで3年ぶりに常用コンパクトカメラを買い換えた。今回は、そのインプレッションを紹介したい。

カメラに求める要件

 この3年間、ソニーの「Cybershot HX9V」を、ほとんど肌身離さず持ち歩いてきた。購入したのは忘れもしない2011年3月11日で、新宿の量販店で購入し、店を出た途端に大地震に遭遇した。それまでの常用カメラは自宅に置いてきているし、買ったばかりのカメラは箱の中でおそらくバッテリも空っぽ。メモリカードもない。あの瞬間を撮ることができないもどかしさを感じながら、自宅までの道を歩いた。

 ここ数年は、カメラに対してちょっとしたポリシーを持っている。その必須機能として、

1. GPSが付いていること
2. Wi-Fiに対応していること
3. 一眼レフの場合はフルサイズセンサーであること

という条件に合致するものしか買わないことにしている。今回は、コンパクトカメラなので、1と2を満たすということとで、ニコンの「COOLPIX S9700」を選んだ。2.については、「Eye-Fi」などを使う手もあるのだが、やはりカメラ自身が機能を持っていた方がいいと思う。

 この間までの愛機、Cybershotは1.を満たしていたが2.は満たしていなかった。画素数は約1,600万画素でほぼ同じ、センサーサイズも同等だ。ただし、ズーム倍率は35ミリ換算で25-750mmと、それまでの24-384mmに対して長くなった。その代わり、ワイド端の開放F値はほんの少し暗くなっている。ただ、これまで3,200までしか設定できなかったISO感度が6,400まで設定できるようになっている。緊急用としては安心だが、ISO AUTOで3,200まで自動的に上がっていた感度が、1,600までしか上がらなくなってしまった。3,200や6,400を使いたい場合は手動で設定しなければならない。画質以前に、とにかく撮影できていればいいという場合も多いので、ちょっと不便になった印象もある。

 取り回しという点ではバッテリ込みの重量が232gと、13g軽くなった。サイズについては画面サイズは3型で同じなのに、一回りというほどではないが大きくなってしまった。手に持ったときの高級感は、圧倒的にこれまでのCybershotの方が上だ。COOLPIXははっきり言って安っぽい。

GPSとWi-Fi

 こだわったGPSはそれなりに満足できるものだ。測位も速く、かなり短時間で自位置を捕捉する。いわゆるロシア版GPSであるGLONASSにも対応したことの恩恵だと思われる。常時スマートフォンを携行しているので、あまり使うことはないと思うが、世界地図を内蔵し現在位置を確認することもできる。撮影済み画像の撮影位置を、その場で地図で確認できるのは便利だ。ただ、それまで使っていたSDカードをそのまま差し替えたのだが、CybershotのGPSで記録された位置情報は認識されない。

 そして、Wi-Fiはどうか。このカメラのWi-Fiは、ほかのアクセスポイントに接続する機能は装備されず、ほかのデバイスがカメラに直接接続することしかできない。

 カメラに接続してできるのは、カメラ内の画像を見ることと、カメラのリモートコントロールによる撮影だ。リモートコントロールでは、カメラ側のシャッター操作、接続したデバイス側の操作のどちらでもシャッターが切れ、撮影した写真が転送されてくる。

 これらの機能を実現するのが「ワイヤレスモバイルユーティリティ」アプリで、iPhone用とAndroid用のものが無償で提供されている。残念ながらiPad用に最適化されたバージョンは用意されていない。カメラには複数台のデバイスを接続できるが、同時にアプリを接続できるのは1台だけだ。しかも、1台が接続すると、アプリを終了してもWi-Fi接続を切断するまでは、別のデバイスのアプリからのコントロールができなくなってしまう。

 ちなみに、ぼくの使っているスマートフォンには、Wi-Fi接続時にインターネット接続が不安定な場合、LTE接続に自動切り替えする機能が付いている。カメラはインターネットに接続できないので、当然、不安定な接続となり、繋がってすぐに別の接続に切り替わってしまう。そのため、アプリを使うごとに、この機能をオフにする必要があり、ちょっと面倒に感じた。

 カメラ内の画像を読み取る際、サムネールを取得するのだが、その速度がかなり遅い。パッと撮影してサッと取り込むというわけにはいかない。カメラからメモリカードを取り出してPCで取り込むのとどちらが早いかというと微妙なところだ。このあたりの使い勝手はまだまだ改良の余地がありそうだ。

 ぼくがコンパクトカメラのWi-Fiに期待するのは、スマートフォンのカメラではちょっと撮影が難しいシチュエーションや、焦点距離やシャッターチャンスといった点でスマートフォンよりも多少はマシな写真を撮影し、それを即座にデバイスに取り込みたいからだ。そういう意味では是非、Windows用のアプリも用意してほしいものだ。クラムシェルノートPCの多くは背面カメラが装備されていないので、撮影についてはほかのカメラに頼るしかないからだ。

汎用機としてのスマホ、専用機としてのコンデジ

 特にスペック的には大きく変わっていないのに、3年間という時を経たコンパクトカメラの進化は目覚ましい。起動の速さ、撮影時のAF、画質など、どれをとってもよくなっている。ニコンはコンパクトカメラのカテゴリがあまり得意ではないという印象があるが、なかなかどうして悪い買い物ではなかったと思う。

 ぼくは、スマートフォンで写真を撮影するのが苦手で、コンパクトカメラはきっと当分使い続けると思う。一眼レフカメラがクルマだとすれば、スマートフォンカメラは自転車、コンパクトカメラは原付といったところだろうか。だから、なくなってしまっては困る。でも、モバイルノートPCと同様に、選択肢が少なくなるのは覚悟しなくてはなるまい。

 デジカメが一般的になって、人が写真を撮る機会は圧倒的に増えた。さらに、スマートフォンで写真を撮るようになって写真のスキルは大きく向上したのではないか。ズームに頼らない、ストロボに頼らない写真をなんとか見栄えのいいものにしようと努力するようになったからだ。もちろんいい写真を選ぶ審美眼も養われた。

 古くから写真はコミュニケーションのためのツールではあったが、SNSの時代は、その役割をさらに加速した。撮った写真にコメントを付けてササッとアップロードして公開、その体験を他者と共有するようなコミュニケーションは、まだ、単体のカメラでは逆立ちしたってスマートフォンに敵わない。

 人々が、スマートフォン撮影の気軽さとコミュニケーションのたやすさを取るのか、思い通りに撮影できるコンパクトカメラの実用性を取るのかは、火を見るよりも明らかだが、コンパクトカメラにできることはまだまだたくさんあると思っている。スマートフォンは汎用機。使い勝手は専用機のコンパクトデジカメの方が確保しやすい。まるで、PC全盛期にワープロ専用機を応援するような論調だが、少なくとも、独立した道具として成立するくらいの饒舌さを持ち続けてほしいと思うのだ。

(山田 祥平)