山田祥平のRe:config.sys

WiMAXはなくなるの?




 たぶん安心していていい。どうやらそんなに簡単にはなくなることはないようだ。UQコミュニケーションズからは、次世代サービス「WiMAX 2+(仮称)」も発表され、この先のロードマップも見えてきた。今回は、この先、WiMAXがどんな未来を見せてくれそうなのかを考えてみる。

●トレンドはLTE

 WiMAXは、Intelが強力に推進していた次世代のWANインフラだ。都市を丸ごと包み込む巨大なWi-Fiのようなものでもある。特に日本ではUQコミュニケーションズの努力もあり、世界的にも突出したWiMAXのインフラができあがった。PCとの親和性も高く、WiMAX内蔵PCも、さまざまなタイプのものが各社から発売されている。

 この状況がずっと続くと思っていた。ところが、モバイルネットワークのトレンドが、LTEにシフトしていくにつれ、その雲行きは怪しいものになりつつあった。Intelも積極的な推進を継続しているとはいえない。なにしろ、親に相当するKDDIでさえ、LTEを声高に叫び始めている。これまでイケイケでやってきたUQコミュニケーションズにとっては、いってみれば途中でハシゴを外された形になってもいたわけだ。

 例えば、先日、IntelでUltrabookのブリーフィングが開催され、米国からIntelのUltrabook担当マーケティングのメンバーが来日していたのだが、そこで、Ultrabookの通信環境について、どのような手段を想定しているのかを聞いてみた。ところが、そこには明確なビジョンはないようで、通信についてはOEM各社にゆだねているという答しか返ってこなかった。以前のように、積極的にWiMAX+Wi-Fi環境をというものではなくなってきているのだ。実際、Ultrabookを名乗るための必須要件としても、WiMAXを含むWAN内蔵が規定されていない。Intel自身にまだ迷いがあるということなのだろう。

●WiMAX Release 2.1登場

 そんな中で、今週、米・イリノイ州シカゴにおいてWiMAX Forumによる4G World Conference & Expositionが開催され、そこで、今後のWiMAXエコシステムに関するロードマップが発表された。WiMAXのネットワークは現在、Release 1で運用されていて、来年後半にRelease 2.0のサービスインをめざしているが、それに加えてWiMAX AdvancedとしてWiMAX Release 2.1が発表された。これに併せて日本のUQコミュニケーションズも、それを採用する方向で検討に入ることになったという。当然、世界各国のWiMAX事業者も足並みを揃えていくことになりそうだ。

 WiMAX Release 2.1は、Release 2.0に対するExtended Modeとして、3GPPのTD-LTE規格と互換性を持つ要素を取り入れたもので、TD-LTEから無線部分、ネットワーク部分など規格の一部を参照し互換性を確保したものとなっている。もちろん、1.0、2.0の規格は、それぞれIEEE 802.16e、IEEE 802.16mとして包含している。

 ご存じの通り、現在日本で使われているLTEは、FDD(周波数分割復信)方式で、上りのリンクと下りのリンクを別の周波数でまかなっている。これに対して、TD-LTEは、TDD、つまり、時分割復信で上りと下りをまかなう仕組みで、電波リソースを効率的に使えるのだそうだ。WiMAXもまた、TDDで実現されている規格なので、TD-LTE互換のための拡張も、それほど難しい話ではなかったはずだ。

 TD-LTEについては、中国移動(チャイナ・モバイル)が熱心に開発を続けてきた経緯があるが、日本では旧ウィルコムがXGPとしてサービスイン、その後、AXGPとなって、ソフトバンクがSoftBank 4Gとして継承している。このAXGPはTD-LTEそのものだといってもいいだろう。

 また、米国ではWiMAX事業者であるClearwireがTD-LTE移行を視野にいれた戦略を表明しているなど、TD-LTEの存在が一気にメジャーなものになってきている。

 そんな中で、WiMAXがフォーラムとしてTD-LTE互換の道を拡張機能として選択したのは実に理にかなっている。今後のWiMAXが生き残っていくためには、これらの陣営との共存共栄を画策するのがもっともリーズナブルな方法だといえるだろう。その相乗りによって、基地局建設など、インフラを維持していくためのコストメリットも出てくる。重要なのは、TD-LTEがFD-LTE同様の巨大な勢力に成長する可能性を持っているということでもある。

●WiMAXはこれからだ

 今回のWiMAXフォーラムの決定により、WiMAXの道は大きく拓かれたともいえる。このままでは、FD-LTEはおろか、TD-LTEにまで飲み込まれてしまいそうな様相だっただけに、この長い(長くなりそうな)ものに巻かれるという戦略は苦渋の決断ともいえるが、それは大きな一歩でもあるわけだ。乱暴な言い方をすれば、最終的に拡張部分であるTD-LTE部分だけを残して合流してしまうような移行でもかまわないんじゃないかとも思う。ユーザーにとって大事なことは規格に準拠していることではなく、常にクラウドとつながっていられることの保証であり、リーズナブルなコストでその環境が得られるエコシステムだからだ。

 TD-LTE互換により、PCに内蔵されるモジュール、さらには、モバイルルーターで使われるモジュールなどもコストダウンが実現し、これまでのようなモジュール内蔵PCも復活する可能性も出てきた。モバイルルーターがいくら手軽でも、今後、Connected Standbyのようなテクノロジーが当たり前になっていく中で、個々のモバイルデバイスがWANモジュールを内蔵し、そちらに通信をゆだねられる方がラクに決まっている。夢のような話ではあるが、FDとTDの両方に対応したプログラマブルなLTEモジュールが出てきて、各国の周波数にダイナミックに対応できるようになれば、どんなにいいか。そして、そのころには、Intelも、WAN内蔵の重要性に気がついてくれるんじゃないかと信じている。

 気になるのはAppleの動きだ。現在、iPadやiPhoneといったiOSデバイスはFD-LTEのみのサポートだ。また、Mac OS搭載機も、WAN内蔵のものは見当たらない。だが、少なくともiOSデバイスとしてTD-LTE版、あるいは両対応版をリリースするようなことが起これば大きく状況は変わっていくだろう。中国を含め、世界各国の状況などを考えるとそれもありえない話ではない。

 今、移動体通信事業各社のネットワークは急増するトラフィックのために逼迫している。LTEへの移行をうながし、そして、それをきっかけにゆるやかに完全定額制を撤廃し、一定量を超える通信では帯域幅を極端に低下させるといった施策を展開している。

 それに対して、少なくとも、現在のWiMAXにはそのようなことはなく、また、UQコミュニケーションズの機器追加オプションのように、マルチデバイスが一般的になることを視野に据えたプランが用意されている。SIMとは無縁のシステムだからこそできることかもしれない。それがいつまでも続くのかわからないにしろ、いつでもどこでも広帯域の通信ができるPCの存在価値を支えるインフラとしては期待に応えてくれそうだ。