山田祥平のRe:config.sys

クラウドの魑魅魍魎




 クラウドはずいぶん身近な存在になった。Windows 8でも、その傾向は至る所に取り入れられている。もはや、個人で使うようなPCでも、クラウド依存なしには、運用は極めて煩雑なものになってきた。しかも、1人が複数のデバイスを適材適所で使い分ける。その便利さを知ってしまった個人が会社のPC運用に不満を持つのも無理はない。

●トランスフォームするクラウドテクノロジー

 グローバルに展開する企業向けクラウドソリューションをワンストップで提供するVerizon Enterprise Solutionsが、シンガポールでアジア太平洋地域のメディアを対象としたイベントを開催。現状と、今後の展開について説明した。

 モバイル環境が急激に伸びている中で、クラウドのテクノロジーは、今、「トランスフォーム」の時代にシフトしつつあるという。「チェンジ」ではないというところがミソだ。一天にわかにかき曇りというイメージではないということか。

 いずれにしても、そんな中で、クラウドベースのソリューションは、より安いものに、そして、より簡単なものになっていく。

 多くのグローバル企業が拠点を構えるアジア太平洋地域は、Verizonにとって極めて重要な市場だが、そこでリーダーシップをとるために、さまざまな施策が実践されている。いわば、クラウドインテグレータとして、ワールドワイドで物理的な回線から、クラウドコンピューティングに至るまでをワンストップで提案できるVerizonは、大企業や政府のような規模の大きな組織にとって、極めて頼りがいのあるソリューションプロバイダーであり、この地域でビジネスを推進するためには、その存在は欠かせないといってもいい。

 Verizonは、クラウドを活用できなければ、企業に未来はないという論調を展開しつつ、当たり前の話として、そこに潜在するセキュリティリスクについても入念に考慮しなければならないとする。企業内ネットワークの中だけに存在していることを前提に運用されていた従業員のPCが、今後、どんどんネットワークの外に持ち出されるようになる中で、どうすれば、企業機密を守っていけるかは重要なテーマだ。

 特に、従業員が自分の私物機器を使って業務の一部をこなすBYOD(Bring Your Own Device)のトレンドは、もはや、無視することができないまでに広がり、システム管理者の頭を悩ませている。しかも、冒頭にあげたように、コンシューマこそがクラウドの便利さに気がつき、その便利さが、業務用PCにももたらされることを当たり前だと感じるようになってきているのだ。

●かけがえのない情報が大事なのは個人も企業も同じ

 個人的にはかけがえのない情報や環境を、唯一のものにしないというのが、これからとても重要な考え方になっていくと感じている。それは、個人がスマートフォンで撮影した写真に始まり、ちょっとしたプライベートなつぶやきから、せっせと書いた報告書、会社の明日を左右するような営業データ、経営指針になるような決定をするための材料となるビッグデータに至るまで、さまざまな種類のデータがあるわけだが、それらが単一のデバイスに存在する時間を、できるだけ短いものにする必要がある。個人でも大企業でもそれは同じだ。

 BYODが一般的な環境になったとき、セキュリティ上の問題が発生した時にはリモートから消去すればいいというのは短絡的な考え方だ。というのも、BYODには、プライベートな情報とオフィシャルな情報、さらにはパブリックな情報が混在しているからだ。システム管理者がリモートワイプした結果、そのデバイスに保存されていた唯一無二の写真がこの世から消え去ってしまうかもしれない。そうした悲劇を起こさないために、クラウドアプリケーションは対策をしておく必要があるし、個人は個人で自分の財産であるデータを守るための自衛手段を確保しておくことも必要だ。こうしたことをひっくるめて面倒を見てくれて、初めてそれがクラウドだといえる。

 そういう意味では、クラウドサービスは、かつての銀行と似たような機能を持ち始めているといえるだろう。タンス預金というと例えが古いが、そういう時代はもう終わりだ。端末1つで買い物ができ、残高がオートチャージされるおサイフケータイなどはその方向性を指し示している。クラウドコンピューティングもまた、こうした簡便性を持つようになっていくのは間違いない。便利とリスクは表裏一体だが、それをひっぺがして別個に扱うことを考えなくてはなるまい。

●ITのコンシューマ化

 これまでは、企業内で使われるPCは会社のものであり、そこに自由はないのが当たり前という論調が強かった。知恵と工夫で使いこなすことはとがめられ、必要なこと以外はできなくてもいいということだ。そして、そのために、システム管理者はありとあらゆる工夫でPCに制限を加えてきた。そこには、会社のためという大義名分があったかもしれないが、システム管理者が少しでもラクをするためにという背景もあったにちがいない。

 会社のPCだから自由にならないのは仕方がない。でも、BYODは私物のデバイスを使う。自分が自分のお金で買ったデバイスだ。それを会社のために使わせてやるのだから、勝手にはさせない。そうした考えが出てくることも想定しなくてはならないだろう。

 かくして、クラウドソリューションは、複雑怪奇なものになっていく。そのうち、システム管理者さえBYODで会社の環境を管理するようになるのは目に見えている。MicrosoftがWindows RTの管理のために、ActiveDirectoryをサポートせず、Intunesを選んだのは、こうした背景もあってのことにちがいない。まさに、ITのコンシューマ化だ。

●便利とリスクの表裏一体はオンとオフの表裏一体に推移

 Verizonの言うように、こうしてクラウドは、少しずつトランスフォームを始めている。かつてのイメージとはまったく異なるクラウドができあがろうとしているのだ。それをしっかりと把握し、怪しい雲行きの中でも、風を味方につけることが求められる。

 ここ数年、週末のメールトラフィックは平日に比べて大幅に少ないという傾向があったが、それがなんとなく回復の兆しを見せている。会社アドレス宛のメールは会社のデバイスでしか読み書きできず、会社のデバイスは外に持ち出せないというしがらみからのトレンドだが、それが少し変わってきているようにも感じている。

 以前は、土日にメールをしても、相手が大企業に属する相手であればあるほど、返事は月曜日を待たなければならなかったが、今は、すぐに返事が得られることもあるようになりつつある。便利とリスクをひっぺがした結果、オンとオフがくっついてしまうということが次に解決すべきテーマになるかもしれない。人生とはそういうものだ。