■山田祥平のRe:config.sys■
日本通信がLTE対応の新しい通信サービスを開始する。そのサービスの根底にあるのが、BTOネットワークと呼ばれるアーキテクチャだ。今回は、その戦略の将来性について考えてみることにしよう。
●BTOネットワーク・アーキテクチャを提案日本通信は老舗のMVNOとして各種のモバイル通信サービスを提供しているが、今回の新製品は、ドコモのLTE網を使ったもので、その名も「カメレオンSIM」とユニークなものとなっている。
なぜカメレオンなのかというと、ユーザーのニーズに応じて購入後にプランを任意のものから選ぶことができるからなんだそうだ。
ユーザーはまず、量販店などで「カメレオンSIM」のパッケージを購入する。これが5,800円となっている。このSIMをモバイルデバイスに装着し、携帯電話や固定電話などで開通手続きをすると、初回接続時から起算して21日間、または3GBまでの通信ができるようになる。この3週間の間に、自分のデータ通信の様子をチェックして、使い方にあったプランを選択するというわけだ。
用意されているプランは現時点で3種類だ。
U300 1M | 2,480円 | 30日間プラン。上り下り300Kbps制限 |
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フラット 1M | 5,400円 | 30日間または5GBに達するまで。速度制限なし |
Fair 1GB | 8,800円 | 120日間または1GBに達するまで。速度制限なし |
以前に紹介したIIJmioのmio高速モバイル/Dでは、100MBを525円のクーポンで購入というスタイルでそのカスタマイズが可能だが、カメレオンSIMの場合は、それをプランの切り替えというスタイルで対応した形だ。
日本通信としては、移動体通信キャリアの料金が画一的で少品種大量サービスであるのに対して、同社では戦略として多品種少量サービスを提供することを選んだのだという。ネットワークサービスのカスタマイズともいえるこのサービス、しかもサービス加入後に切替ができるというビジネスモデルの背景には、実は、PCなどではお馴染みのダイレクト販売サイトにおけるBTOが参照モデルとなっている。
かつてDellが脅威として君臨し、そこにHPやコンパックなどの巨大ベンダーが追いつけなかったのは、このBTOモデルを確立するのに立ち後れたからであり、日本通信も、そのモデルへの切り替えが必要になったのだと同社代表取締役社長三田聖二氏はいう。こうしたことから生まれたのがBTOネットワーク・アーキテクチャだ。
●カメレオンのように変化するSIM今のところ、カメレオンSIMのために用意されたプランは、すでに紹介した3種類のみだ。だが、これからプランのバリエーションはどんどん増えていくという。
たとえば同社はイオンやヨドバシカメラとのコラボレーションで、独自のプランを提供している。月額980円で上り下り100Kbps制限のプランや、さらにその音声通話付きプラン、基本料0円で使わなかった月には維持費がゼロになるプランなどがある。これらは本家のb-mobileでは用意されていない各社とのコラボプランだが、双方の話し合い次第では、カメレオンSIMのプランに加えられる可能性もあるだろう。また、IIJmioのように、1つの契約で複数枚のSIMを使えるプランも近い将来には実現したいとしている。
こうしたモバイルネットワーク接続のプランを、コンポーネントのように用意しておいて、ユーザーが、自分の使い方に応じて、それらを組み合わせることで、最適なプランを組み上げることができるというのは実に魅力的だ。また、その動向を検証すれば、ユーザーはいったい何を求めているのかを同社が把握することもでき、今後の新サービスに活かせるはずだ。
ただ、サービス開始時にはプランの変更は1カ月単位となっているのが残念だ。ユーザーが変更しない限り、プランは最初に接続した日を起点として、1カ月ごとにオートチャージされていくが、プラン変更をしても、それが適用されるのは翌月からとなってしまうのだ。ここはひとつ、日単位のプラン変更にも対応してほしい。たとえば、明日から出張で3日間だけフルに使いたいが、出張から戻ったら最廉価のプランに戻すといったことができるといい。もっと極端には、平日の昼間だけ高速で、夜間や土日は低速とか、逆に、土日だけは高速で、その他の日は最廉価のプラン適用など、いろんな組み合わせが考えられる。使いたいときだけ使うというような完全従量制があってもいい。
組み合わせ料金の計算はややこしくなるかもしれないが、コンピューターの力でクリアして、ぜひチャレンジしてほしいものだ。ついでにいえば、自分のデータ通信のデータ転送容量や日時別詳細パターンも確認できるようになっていて、それを目安にコンポーネントを組み合わせられるようになっていればもっといい。おすすめプランの提案があっても重宝されそうだ。
日本通信では既存携帯キャリアが画一的な少品種大量サービスを提供しているというが、実際にはそうともいえないと感じている。
たとえば、ぼくが使っているキャリアであるドコモでは、FOMAの通話プランに関して1カ月に2回まではプランの変更が無料でできる。データ通信に関してもそうだし、通話に関してはもっと柔軟だ。
ちなみに、ぼく自身のFOMAケータイは、タイプSSバリュープランを選択し、基本使用料として980円を支払っている。ファミ割MAX50などが提供され、本来の基本使用料(1,957円)の半額となっている。
プランをS、M、L、LLとあげていくことで、無料通信分が増えていき、30秒あたりの通話料金も安くなっていく。半額適用は同様なので、これから大量の電話をして2カ月繰り越しでは危ういというときに、臨時にプランを上のものにして、終わったら元に戻すというやり方でコストを抑えることができるのだ。たとえば、海外出張の際にはローミングなどで通話料がかさむので、あらかじめプランを最大のものにしておき、日本に戻ってきたら元に戻すといった具合だ。プラン変更に伴う料金の増減に関しては日割り適用されるので、使った額に応じて元のプランに戻す日を調整するようにする。
●通信コストにもっとシビアになろうユーザーは、自分の携帯電話の料金プランに関してとても無頓着だ。こうしたことができるようになっていても、わざわざウェブで設定ページを開き、こまめにプランを変更するユーザーは少ないだろう。多くの場合、最初に契約したときのプランのままで使い続けているにちがいない。そして、本来なら払わなくてもすんだはずの料金を、そのまま払い続けているわけだ。
日本通信が、今回のようなサービスを開始したことで、そのプラン変更がどのくらい行なわれるのかは、実に興味深い。ただ、こうしたSIMを買ってまでデータ通信をしようというユーザーは、その多くがパワーユーザーだ。そして、データ通信のコストについても普段からシビアに考えているだろう。極めてフレキシブルにコンポーネントを組み合わせられるようになっていれば、日本通信のマーケティングのために、とても貴重なデータを提供してくれるに違いない。
もちろん、それによって、日本通信が得られたはずの「使わなかったパケット」の料金は得られなくなってしまうかもしれない。でも、日本通信は同社の使命として「キャリアができない、あるいはやりにくいサービス」を提供することを掲げている。そろそろ、そういうことを考えてもいいフェイズに入っているんじゃないだろうか。今回の新サービスが、そのきっかけとなってほしいものだ。