山田祥平のRe:config.sys

期間定額パック・イン・インターネット




 ドコモがデータ通信サービス「Xi(クロッシイ)」の料金プラン見直し、帯域制限の盛り込みなどを発表した前週、日本通信は新サービス「b-mobile 1GB定額」を発表、9月10日にサービスインする。インターネットにつなぐという単純になりがちなビジネスの中で、ニーズをにらみながらバリエーションに富んだサービスを精力的に提供し続ける同社の最新サービスだ。

●つながりっぱなしモバイルにいくらまで払える?

 b-mobile 1GB定額のSIM同梱パッケージは3,480円。Amazonなどではこの価格で売られているが、量販店で購入すればポイントサービスなどによって、もう少し割安感が出てくるかもしれない。このパッケージを買えば、1GBまたは30日間のどちらかに達するまでの通信ができる。まさにパック・イン・インターネットだ。

 日本通信によれば、超ヘビーユーザー以外は1カ月あたりのデータ通信料が1GB以内に収まっているそうなので、このパッケージを購入する多くのユーザーにとっては、このパッケージは「1GB定額」ではなく「30日間定額(ただし1GB上限)」ということになる。

 先行サービスとして、同社は「b-mobile Fair」を提供してきたが、こちらは1GB上限は変わらないものの「120日間定額(ただし1GB上限)」で9,800円と、絶妙な差別化ができている。

 容量や日数でサービスの期限が切れた場合、追加のチャージをすることで、新たな30日間を始めることができる。その場合は、SIMの料金がいらないので、少し安くなって3,100円となる。オートチャージにも対応し、有効期限の5日前、または、残データ量が100MBになると自動的にチャージが行なわれる。なお、チャージで更新ができるのは、利用期間が終了してから10日間までで、それを過ぎると、SIM同梱パッケージを新たに購入する必要がある。

 多くのユーザーにとって、このサービスを利用するデバイスは、おそらく追加のデバイスに違いない。ほとんどの場合、音声通話用を兼ねた携帯電話を持ち、それとは別にタブレットやスマートフォンを持つ。追加機器のためにキャリアと契約するのではなく、少しでも安い接続手段を求めているわけだ。そのニーズに的確に応えようとしているサービスなのだろう。格安と手放しで喜べる価格ではないとは思うが、帯域制限のない3Gデータ通信サービスとしては最安だ。

 日本通信は、デバイスと通信サービスを完全に分離し、ユーザーが、好きなベンダーのデバイスを購入し、好きなキャリアの通信サービスを選択するという世の中を目指している。ただ、日本国内で入手できるSIMフリー端末はまだまだ少ない。

 でも、日本通信はたまたまドコモのFOMA網をバックボーンにしたMVNOなので、同社のSIMはFOMAカードそのもので、ドコモロックの端末でも使える。ということは、ドコモのユーザーが、現行で使っている端末を機種変更することにして新たな端末を入手し、今までの端末を今までのSIMでそのまま使いながら、このサービスで新たに入手した端末の接続料金を安く上げるといった使い方も可能だ。

 個人的には、このサービスに魅力を感じるかどうかというと、ちょっと微妙だ。というのも、現在は、ドコモのスマートフォンをメインに使っていて、そのためのパケット料金として、パケホーダイフラットで毎月5,460円支払っている。SPモード契約が必須なので、315円を加えた5,775円がデータ通信のための最低限の出費だ。

 ここに新たにタブレットやスマートフォンなどの3G通信対応機を併用しようした場合の選択肢の1つが、この新サービスとなる。日本通信は、ドコモの定額データプランフラットバリューとSPモード(2年縛りなしの場合9,555円)や、定額データ スタンダード割2適用後(2年縛りありの場合5,775円)と比較して、「キャリアではあり得ない」と、その廉価さを喧伝している。

 でも、ぼくの使い方では、手持ちのスマートフォンのテザリング機能を使う方法もある。その場合、テザリングをオンにすると、上限5,460円の定額は、上限10,395円に跳ね上がる。その差額は4,935円だ。日本通信の3,100円との差額は1,835円。日本通信のサービスで万が一、1カ月あたりのデータ通信量が1GBを超えてしまった場合を考えると微妙なところだ。チャージなどのことを考えずに、使った月だけ4,935円が余分に必要になると思っていればいい。使わなかった月は払わなくてもいいわけだ。このあたりは考え方次第だが、日本通信の腹づもりとしては、期間を1カ月間に限定することで、通常使用においては1GB通信ができる権利の多くが捨てられる、つまり通信されないと踏んでの価格設定なのだろう。

●単発利用でリーズナブルなパッケージング

 どんなデバイスでも、3G通信は単独でできた方が便利なことはいうまでもない。家の中だけで使うデバイスならともかく、外に持ち出す可能性があるモバイルデバイスは、すべてにおいてそうだ。どこにでもWiFi環境があるとは限らないからだ。

 初代のiPadを買って痛感したのだが、3G機能とGPSとカメラのない端末は、なんて不便でつまらないんだろうと思った。多くのアプリを見ればわかるが、これらの機能がないことで極端に楽しみが減ってしまう。

 普段は使わないにしても、出張や旅行で地方にでかけるときには3G通信ができた方が心強い。そんなときに、引き出しの中にストックしておくなり、通販で注文して前日に届いた3,480円のSIMを装着してでかけられるというのは悪くない。

 それにSIMスロットさえあれば、海外にでかけたときには、現地のSIMを使ったデータ通信が安上がりで重宝するだろうし、端末によってはルーターにもなるので便利だ。

 だからSIMスロットはあるにこしたことはないし、今回の新サービスのように、長期間の契約に縛られず、任意の期間だけ、リーズナブルな料金で使える通信サービスの存在はうれしい。理想をいうなら、「1週間定額(ただし1GB上限)」を1,000円といったバリエーションも望みたいところだ。更新を繰り返す継続利用というよりも、むしろ単発利用でリーズナブルなパッケージングだという印象を持っている。

 日本通信がいうような、端末とサービスを個別に選べる世の中は、まだまだできあがったとはいえない。入手が容易で日本国内での使用ができる魅力的な端末も少ない。IDEOSやLight Tab、b-mobile WiFiのようなSIMフリー端末のバリエーションを同社がもっと増やしてくれればとも思うのだが、それでは本末転倒になってしまう。このあたりは、ハードウェアベンダーがビジネスモデルを再考してくれるのを待つしかないのだろうか。

●音声通話がデータ通信と融合する可能性

 個人的に、次のブレークスルーはモバイルデバイスにおけるIP電話が実用的に機能し始めるときだと思う。もちろん今でも使えるのだが、待ち受け状態を維持すると大量に電力を消費し、ただでさえもたないスマートフォンのバッテリが、ますます早く減ってしまう。

 これを解決するには、スマートフォンの省電力化やソフトウェアの工夫など、いろいろな課題をクリアしなければならない。IP電話の待ち受けに要する電力が、今の3G電話の待ち受け程度になれば移動体通信デバイスの考え方は大きく変わるだろう。日本通信は、デバイスと通信を分離することを提案しているが、その先にあるのは、データ通信と音声通信の融合だ。

 データ通信サービスを契約するのとは別途に、IP電話サービスを契約し、データ通信サービスの上のレイヤーで通話することで、デバイスはもちろん、データ通信と通話に関しても個々の契約を好きなように組み合わせることができる。極端な話、通話用の電話番号はそのままに、データ通信をWiMAXにすげかえるなんてこともありだ。メールアドレスにもしばられない、電話番号にもしばられない。何に拘束されることなく、好きな端末を好きなキャリアで使い、好きなサービスで通話ができる。

 ぼくの身の回りのユーザーには、通話なんてしないからデータ通信だけで十分だという人が多い。自分自身の使い方でも、ほとんど通話することがない。でも、世の中には、連絡はメールでとお願いしておいても、急ぎだからといって電話してくる人が少なくない。それに、自分で使っていても、ブラウザで参照したショップやレストランの電話番号をタップすれば、その場で電話がかけられて、予約や問い合わせができるという便利さは捨てがたいと感じている。

 だから、Android OS搭載タブレットで電話機能が省略されている機種が多いのを見ると、ちょっと残念に思ったりもするわけだが、これもIP電話アプリがあれば解決する。日本でも発信のみという機能限定でサービスが始まったGmailの電話をかける機能なども、そのあたりを見越してのサービスなのだろう。これらのサービスがうまく機能し始めれば、端末が3G音声通話をサポートする必要はない。TV全盛の今もラジオが残っているようなもので、音声通話がなくなることはないだろう。radikoでラジオがIP配信になったのと同様に、音声通話もデータ通信の1つに集約されていくということだ。

 いずれにしても選択肢は多いにこしたことはない。心配なのは、こうして急増していく3Gトラフィックに、バックボーンとなる事業者、つまりドコモの帯域が耐えられるかどうかだけだ。

 正直なところ、これから先、通信のハブとして機能するデバイスが何になるのか、予想ができないでいる。だから、今回の新サービスは過渡期のサービスであるという印象も否めない。今後も、各デバイスがSIMのような原始的な仕組みで独立して通信するのがいいのか、携帯電話がハブになってすべての通信を引き受けるのがいいのか。インテルは、Ultrabookで、Smart Connect Technologyといった機能も提唱しているそうだ。スリープ中のPCがメールやSNSメッセージを定期的にアクセスするものだそうだが、将来、それを引き受ける通信デバイスは何になるのだろう。興味はつきない。