山田祥平のRe:config.sys

MVNOは本家インフラ増強の大義名分




 身の回りのスマートデバイスは増える一方だ。それぞれのデバイスは、ほぼ例外なくWi-Fiデバイスでもあるのだが、やはり単体で通信ができた方が便利だ。だからこそ、WiMAX内蔵PCや、3G内蔵タブレット、スマートフォンがいい。かといって、デバイスの数だけ回線契約をするというのも非現実的だ。でも、続々登場しているMVNOのサービスを利用すれば、コストを最小限に抑えることができそうだ。今回は、そんなサービスの1つであるIIJmio高速モバイル/Dを試してみた。

●低速定額、高速従量のハイブリッドサービス

 IIJmio高速モバイル/Dは、ドコモのLTEに対応したデータ通信サービスだ。具体的にはサービスの加入によってIIJからSIMが提供され、ユーザーは、それを任意のデバイスに装着してドコモのLTEインフラを使ったデータ通信を楽しむことができる。

 サービスには2つのプランが用意されている。なお、いずれも初期費用として月額料金のほかに3,150円が必要になる。

・ミニマムスタート128プラン 月額945円
無制限のデータ通信を128kbpsの帯域で利用できるプラン。SIMが1枚提供される

・ファミリーシェア1GBプラン 月額2,940円
無制限のデータ通信を128kbpsの帯域で利用できるプラン。SIMは最大3枚まで提供される。1GB高速データ通信容量つき(5,250円分相当)

 どちらのプランも、クーポンを購入することで、100MBのデータ量を購入することができる。価格は525円だ。ファミリーシェア128プランは、月額料金内に1GB分、すなわち、クーポン10枚分の料金が含まれると考えればわかりやすい。クーポンがなくなっても、128kbpsの通信は可能なので、通信ができなくなってしまうことはない。

 また、この128kbps制限は、LTE網ではなくIIJ網で制御されるようなので、DNSは最高速のベストエフォートで参照できる上、もし、IIJ網にメールサーバーがあれば、そちらも同様に広帯域で利用できると、サービスの説明にも明記されている。

●これなら使える128kbps

 実際にLTE網における128kbpsというスピードがどのようなものなのか試してみたのだが、思ったよりも使いものになる。実感としては、中国やら米国やらで日本のサイトをブラウズするよりも速いかもしれない。スピードテストをしてみたところ、1Mbps近いスピードが出ている。LTE網でのスピード制限がないからかもしれないが、あまりストレスを感じないのだ。YouTubeなどで動画を再生してみても、720p程度のものなら、ギリギリついてくる。

 このスピードではガマンできないというのであれば、100MB/525円単位でクーポンを購入すれば、ウェブで購入したその直後からスピードはグンと上がる。これを繰り返して使うわけだが、たくさん買って余ってしまっても、購入したクーポンの容量は3カ月後の末日まで繰り越せる。

 1カ月に1GB程度の見込みであれば、クーポン10枚分5,250円となるので、このくらい使うことがわかっているならファミリーシェアプランを選べばいいし、使ったり使わなかったりで、月ごとにまちまちだというのならミニマムスタートプランで様子を見るという使い方ができる。

 基本的な使い方としては、そんなところだが、このサービスの最たる特徴は、なんといっても1契約で3枚までのSIMを発行してもらえるファミリーシェアプランだ。プラン名の通り、家族でシェアしてもいいし、1人で複数台のデバイスを持っている場合は、それぞれのデバイスにSIMを装着しっぱなしにできる。しかも、このプランで3枚のSIMを発行してもらった場合、その3枚を同時に利用することができる。1枚が通信中は、他の2枚が通信できないといったことは起こらない。複数台のデバイスを所有しているユーザーには願ってもないサービスではないだろうか。

 加入時に発行されるSIMは標準SIMとMicro SIMを任意に組み合わせられるので、仮に人気の新型iPadのSIMロックフリー版を香港などで調達し、このSIMを装着して日本で使うというのも悪くない。

 iPadのWi-FiモデルはGPSがついていないので、個人的には、どうしても4Gモデルが欲しい。初代iPadはけちってWi-Fi版を買って失敗した。そして、せっかくだから、単独でいつでも通信ができるようにSIMを装着しておきたい。だから、こうしたことを考えているわけだ。本当に高速な通信が必要なときには、WiMAXルータを使ったり、公衆無線LANを使えばいい。

 多くのユーザーはまだLTE端末を所有していないだろうから、このサービスの醍醐味である高速なLTE通信の恩恵を得られるケースは少ないかもしれない。ドコモのFOMA網の最近の遅さを考えると、LTEで使わない限り先行きには、ちょっと不安がある。

 でも、一般的な3Gのサービスと考えても、けっこうリーズナブルな価格になっているとは思う。LTE網を使えた場合の話だが、もし、現時点での128kbpsスピードが維持されるのであれば、かなりの実用性も期待できる。それに、東京をちょっと離れれば、大阪のような大都市でもFOMA網はまだ比較的快適に使えるのだ。

●すべてのデバイスに求められる常時接続

 各種デバイスの通信機能は、Wi-FiやWiMAXのように、勝手につながるのが理想だ。Windows 7世代の3G通信は、まだ、ダイヤルアップの操作が必要で、ユーザーがつなぐという行為を意識しなくてはならないが、スマートフォンでは一足先に「勝手につながる」を実現しているし、そこが使いやすさにつながっている。

 そして、勝手につながってくれるデバイスは、モバイルルータのような別のデバイスの力を借りなくても、自分自身で通信手段を確保してほしい。だからこそ、持てるデバイスのすべてに有効なSIMを入れておきたい。

 Wi-Fiしか通信手段を持たないデバイスは、今の世の中のインフラでは非力だ。アクセスポイントにそばに来てもらうか(モバイルルータ)、自分がアクセスポイントのそばに行かなくてはならない(公衆無線LAN)。これは、一昔前なら、Ethernetでしかネットワークにつながらないデバイスに相当する。せっかくのワイヤレスが場所に縛られるなんて、ちょっとナンセンスだ。

 どっちにしても、さあ、インターネットにつなぐぞ、という時代ではないということだ。とにかく勝手につなぎ、そのつながった状態を細々としてでもいいから維持できて、それがローコストのサービスとして、手持ちのデバイスの台数を気にしないで利用できるのが望ましい。

 今回紹介したIIJのサービスは、決して格安とはいえないのだが、ユーザーが所有する端末を生きた状態に保つためのバリエーションをたくさん用意した点を評価したい。1つの契約で複数枚のSIMというのは少なくともこれまではなかった。携帯電話における余った通話料を翌月以降に持ち越してさらに家族で分け合えるようなイメージを、データ通信に持って来たような印象もある。

 そもそも、携帯電話端末が、Wi-Fiにオフロードするということ自体、おかしいような気もしている。破綻してもらっては困るが、高まる需要に対応すべく、さまざまなアプローチで電波という有限の資源を効率よく使っていってほしい。MVNOの台頭は、各事業者が依存する本家のインフラ増強の大義名分にもなるはずだ。そのトラフィックが、最終的には、ぼくらエンドユーザーのメリットにもつながっていく。


 いつものご愛読いただき本当にありがとうございます。手元のフォルダでは、この連載も今回が400回目となったようです。すでに広告バナーなどにお気づきかとは思いますが、MAGonのサービスでは「おもてなしのプロトコル」の配信も始まりました。気をひきしめてがんばります。今後とも、引き続きご愛読いただけますようお願いいたします。