1カ月集中講座

旅先でも困らないリモートTV視聴を手にする 第1回

~そもそも“リモートTV視聴”とは?

 「DTCP+」や「デジタル放送受信機におけるリモート視聴要件」などの策定により、外出先からインターネット経由で現在放送中のTV番組や録画した番組を視聴する、いわゆる「リモートTV視聴」が現実的となった。また、NECや東芝などのPC製品にリモートTV視聴を実現するクライアントソフトがプリインストールされるなど、PCでのリモートTV視聴環境も整いやすくなってきている。

 帰省や旅行で出かけることも多い年末年始を前に、リモートTV視聴の仕組みを解説しつつ、実際に利用する場合に必要となる機材や実現方法などを紹介していく。第1回目の今回は、リモートTV視聴の仕組みや、リモートTV視聴に必要になるものなど、基本的な部分を紹介する。

TV視聴スタイルの変化でリモート視聴のニーズが増大

 筆者は自他共に認める“TV人間”で、仕事をしている時ですらTVを点けておきたいと思うほどだ。近年では少数派かもしれない。ただ、そんな筆者でも、以前に比べるとTV番組を放送時に生で見る機会は激減している。大きなスポーツイベントなど、生放送で見ることに意義がある場合を除いて、録画して蓄積した番組を好きなタイミングで見るという、いわゆる“タイムシフト視聴”スタイルが圧倒的に増えている。

 20年前ほどにビデオデッキが普遍的に普及した頃から、そういったTVの視聴スタイルは定着していた。しかし近年の録画機器は、複数チューナを搭載して同時に複数の番組を録画できるようになっている上、HDDを利用することで録画メディアを用意せずとも気軽に多数の番組を録画し蓄積できるようになっている。さらには、特定のチャンネルや複数のチャンネルで放送されている番組を24時間録画し続ける機器も登場しており、以前に比べて圧倒的に多くの番組を録画し蓄積できるようになった。放送時に生でTV番組を視聴することが激減しているのは、以前に比べてTVの視聴/録画環境が大きく変化しているのも理由の1つだろう。

 しかし、そういった環境では、それまでになかった新たな問題が発生している。中でも大きな問題が、録画した多数の番組を視聴する時間の確保だ。実際にこの点に頭を悩ませている読者も少なくないのではないだろうか。筆者も同様で、録画番組は溜まる一方となっている。その問題を解消するには、スマートフォンやタブレットなどの携帯機器に録画番組を転送し、通勤/通学などの移動中に視聴するという方法などの手段があるが、最近注目されているのがインターネット経由でのリモート視聴だ。

 リモート視聴を利用すれば、場所や時間を問わず録画番組を視聴できる。インターネットに接続できる状況が必要という制約はあるものの、通勤や通学の途中といった日常の行動範囲はもちろん、国内や海外への旅行中でも問題はない。家庭の録画機器に蓄積されている録画データにインターネット経由で直接アクセスして視聴できるため、事前に携帯機器に録画番組を転送する手間がかからないという点も魅力。そして、LTE回線や公衆無線LANサービスなどによる高速モバイルネットワーク環境が整ったことで、外出先などで安定したインターネット接続環境が容易に手に入るという点も、リモート視聴が注目されている要因の1つだろう。

アナログベースでのリモート視聴が困難に

 インターネット経由でのTV番組や録画番組のリモート視聴は、ここ数年の間に実現されたものではない。TVのリモート視聴を実現する先駈けの製品として登場したのは、2000年に発売されたソニーの「エアボード」だ。エアボードは、TVチューナを内蔵するベースステーションと、無線LAN経由でTV映像を受信して表示する専用ディスプレイによって構成され、家庭内の好きな場所でTV番組が視聴できるという製品だった。

 当初の製品こそインターネット経由での視聴に対応していなかったが、その後「ロケーションフリー」という名称に変更され、インターネット経由での視聴に対応。そして、2005年10月1日に発売された「LF-PK1」からはPC用の視聴ソフトが用意され、モバイルPCを利用したTVのリモート視聴が可能となった。ロケーションフリー製品群にはTV番組の録画機能は用意されないが、外部入力端子にHDDレコーダなどの録画機器を接続することで、録画番組のリモート視聴も可能となる。

 このロケーションフリー製品群だけでなく、米Sling Mediaの「Slingbox」シリーズや米Monsoon Multimediaの「VULKANO FLOW」など、同様の製品が登場し注目を集めた。

 しかし、ある事象により、これら製品を利用する環境が激変した。その事象とは、2003年12月の地上デジタルTV放送の開始と、2011年7月24日(東北3県は2012年3月31日)に実施された地上アナログTV放送の停波だ。

 先に紹介したリモート視聴を実現する機器は、基本的にアナログ信号をベースとする製品だ。機器に内蔵するチューナはアナログTVチューナで、地上デジタルTV放送は受信できない。そのため、地上デジタルTVチューナやHDDレコーダなどの録画機器を外部入力端子に接続して利用しなければならなくなった。これにより、内蔵チューナ利用時と比べて操作性が大幅に低下し、手軽な視聴が難しくなった。

 また、これら機器の外部映像入力端子はコンポジットやS端子、コンポーネントと、基本的にアナログ映像信号の入力となっている。しかし、著作権保護規格「AACS」(Advanced Access Content System)で制定されている「ICT」(Image Constraint Token)という映像出力信号に関する規制により、2014年1月以降はBDレコーダなどからのアナログ映像信号の出力が禁止となった。そして実際に、アナログ映像出力端子のない録画機器が販売されるようになっている。アナログ映像出力端子を備える録画機器を持っているならそれを利用し続ければいいが、故障などで利用できなくなった場合には、上記の機器でのリモート視聴は難しくなる。

ソニーが2000年12月に発売したネットワーク視聴対応TV「エアボード」。インターネット経由でのリモート視聴は行なえないが、IEEE 802.11b規格の無線LAN経由で家庭内の好きな場所でTVが楽しめるという製品だった
インターネット経由でのリモート視聴に対応した「ロケーションフリーベースステーション LF-PK1」。Windows用クライアントソフト「LFA-PC2」を利用して、PCでのリモート視聴が行なえた
米国Sling Mediaの「Slingbox」。北米ではLF-PK1よりも早く販売を開始。日本でのアナログ地上波放送も受信でき、PCなどを利用したリモート視聴が可能だった
2014年に登場したBDレコーダなどでは、アナログ映像出力端子が省かれており、アナログ仕様のリモート視聴機器との連携が行なえなくなった

「DTCP+」の策定でインターネット経由での録画番組視聴が可能に

 アナログベースでのリモート視聴が難しくなってきている反面、ここ数年でデジタルベースでのリモート視聴環境は大きく前進してきている。

 まず、2012年1月に策定された「DTCP+」(DTCP-IP 1.4)。著作権保護規格の策定やライセンシングを行なう団体「DTLA」(Digital Transmission Licensing Administrator)が策定するデジタルコンテンツの著作権保護方式「DTCP-IP」の最新版だ。従来のDTCP-IPでは、同一LAN内であることを条件として、ネットワークを介した録画番組のムーブ(移動)やダビング(複製)、リモート視聴が可能となっていた。そしてDTCP+では、インターネット経由のリモートアクセス機能が新たにサポートされた。これにより、DTCP+に対応する機器を用意することで、外出先からインターネット経由でのリモート視聴が可能となった。

 BDレコーダなどの録画機器がDTCP+に対応すれば非常に便利なのだが、現在市販されているBDレコーダやHDDレコーダでは基本的にDTCP+に対応する製品は存在しない。それは、DTCP+がデジタルチューナを搭載する機器でのサポートを対象外としているためだ。そのため、DTCP+はネットワークストレージ(NAS)での対応が中心。運用時には、BDレコーダなどの録画機器で録画した番組をDTCP+対応のNASにダビングまたはムーブしておくことで、その録画番組のリモート視聴が可能となる。そして、この制限のため、現在放送中のTV番組のリモート視聴は不可能だ。

 なお、パナソニックの一部BDレコーダで、DTCP+対応アダプタ「DY-RS10-W」の接続によるDTCP+への対応を実現する製品もあるが、アダプタに取り付けたSDカードに転送された持ち出し用の録画番組のみがリモート視聴でき、運用方法自体はNASを利用する場合とほぼ同等だ。

 まとめると、DTCP+による録画番組のリモート視聴を実現するには、DTCP-IP対応でネットワークを介した録画番組のダビングやムーブが可能な録画機器と、DTCP+対応のNAS、視聴ソフト、視聴ソフトを導入できる携帯機器などが必要となる。

必要となる機材

  • ネットワーク経由の録画番組のダビングやムーブに対応した録画機器
  • DTCP+に対応するNAS(別途トランスコーダーが必要になる場合もある)
  • DTCP+に対応する視聴ソフト
  • DTCP+対応視聴ソフトを導入できるPCまたは携帯機器
バッファロー製のDTCP+対応NAS「LS410DX」シリーズ。一部の録画機器と連携し、録画機器で録画した番組データを自動でダビングする機能も有する
パナソニックが販売する、同社製BDレコーダ用DTCP+対応アダプタ「DY-RS10-W」。対応レコーダに接続して利用する。ただし、レコーダのチューナを利用した放送中番組のリモート視聴は行なえない

「デジタル放送受信機におけるリモート視聴要件」で放送中番組に対応

 2014年2月に、リモート視聴に関する新たな規格が策定された。それは、次世代放送推進フォーラム次世代スマートTV関連委員会が策定した「デジタル放送受信機におけるリモート視聴要件(NEXTVF TR-0001)」というものだ。この規格は、BDレコーダなどの録画機器やTVなど、デジタルチューナを搭載する機器で受信している放送中の番組や、それら機器に保存されている録画番組のリモート視聴を実現するための要件を取りまとめたもので、この規格に準拠した機器を利用することで、録画番組だけでなく放送中番組もリモート視聴が可能となる。そのため、DTCP+以上に注目を集める存在となっている。

 NEXTVF TR-0001に対応する録画機器は、ソニー、パナソニック、シャープ、東芝など各メーカーから続々登場している。また、発売時には非対応だった製品でも、ファームウェアのアップデートで対応する製品もある。例えば、ソニー・コンピュータエンタテインメントが発売するネットワークレコーダ「nasne」シリーズは、NEXTVF TR-0001に準拠したリモート視聴機能「Anytime TV」に2014年9月25日より対応となった。さらに、NECはデジタルチューナ搭載デスクトップPCとリモート視聴対応クライアントソフトを導入したモバイルPCとの組み合わせでリモート視聴を実現している。放送中の番組や、録画機器に蓄積されている録画番組を直接リモート視聴できるため、これから主流となる仕組みと見ていいだろう。

 NEXTVF TR-0001に準拠した録画機器によるリモート視聴を実現するには、NEXTVF TR-0001に準拠した録画機器の用意に加えて、各製品が対応するリモート視聴対応クライアントソフトの用意と、そのクライアントソフトを導入済みまたは導入できる携帯機器やPCが必要となる。また、あらかじめ録画機器とリモート視聴を行なう子機を宅内(同一LAN内)でペアリングを行なう必要がある。さらに、ペアリングは最長3カ月まで維持される仕様のため、3カ月に1度の割合で再度ペアリングを行なう必要がある。ペアリング可能な子機は最大6台までとなる。

必要となる機材

  • NEXTVF TR-0001に準拠する録画機器
  • NEXTVF TR-0001に対応するクライアントソフト
  • NEXTVF TR-0001対応クライアントソフトを導入済み、または導入できるPCや携帯機器
ソニー・コンピュータエンタテインメントが発売するネットワークレコーダ「nasne」。2014年9月25日のアップデートによってNEXTVF TR-0001準拠のリモート視聴機能「Anytime TV」に対応した
NEC製ノートPCやタブレットPCにプリインストールされる「SmartVision/PLAYER」は、NEXTVF TR-0001準拠のリモート視聴機能をサポートし、TVチューナ搭載のNEC製デスクトップPCと連携しリモート視聴が可能

本命は「DLPAリモートアクセスガイドライン2.0」対応機器か

 2014年8月に、リモート視聴に関するガイドラインが登場した。それが、一般社団法人デジタルライフ推進協会が策定した「DLPAリモートアクセスガイドライン2.0」(僚誌AV Watchの記事参照)だ。

 DLPAリモートアクセスガイドライン2.0は、これまでに紹介したDTCP+とNEXTVF TR-0001の双方に準拠したガイドラインで、実現できることはNEXTVF TR-0001と変わらない。しかし、このガイドラインに準拠した録画機器やクライアントソフトであれば、メーカーの垣根を越えてリモート視聴が可能になるとしている。

 現在、NEXTVF TR-0001対応の録画機器では、特定のクライアントソフトにのみ対応する場合がほとんどで、基本的に同一メーカー内でのみ完結するような仕組みとなっている。しかし、DLPAリモートアクセスガイドライン2.0に準拠する製品が増えれば、メーカーの違いを気にせずリモート視聴が可能となるため、ユーザーの利便性が大きく向上する。

 現時点では、DLPAリモートアクセスガイドライン2.0に準拠する録画機器やTVはまだ登場しておらず、DTCP+対応NASやリモート視聴対応クライアントソフトの一部が対応するに留まっている。ただ、今後は録画機器やクライアントソフトでDLPAリモートアクセスガイドライン2.0への対応が進んでいくものと思われる。そういった意味で、DLPAリモートアクセスガイドライン2.0対応機器は今後リモート視聴の本命的存在になってくるだろう。

DLPAリモートアクセスガイドライン2.0に準拠することを示すロゴ。このロゴの付いた録画機器やクライアントソフトを利用すれば、メーカーを問わずリモート視聴が可能となる
【表】各規格/ガイドラインの違い

DTCP-IPDTCP+NEXTVF
TR-0001
DLPA 2.0
LAN内ムーブ・ダビング
録画番組のLAN内リモート視聴
放送中番組のLAN内リモート視聴
インターネット経由ムーブ・ダビング××××
録画番組の
インターネット経由リモート視聴
×
放送中番組の
インターネット経由リモート視聴
××
対応の他社製機器や
クライアントソフトとの相互接続

(不可能な場合あり)
録画機器と
クライアント機器とのペアリング
不要最大20台最大6台最大6台
ペアリングの有効期間なしなし3カ月3カ月

 さて、次回からは、DTCP+やNEXTVF TR-0001、DLPAリモートアクセスガイドライン2.0に準拠する製品を利用し、実際にリモート視聴を実現する具体的な手順や設定方法などを解説していく。

(平澤 寿康)