山田祥平のWindows 7 ユーザーズ・ワークベンチ

Windows 7なら、IE9がさらに便利に



 9月15日にマイクロソフトがInternet Explorer 9(IE9)のベータ版を公開した。すでに日本語版を含む各国語版がダウンロード可能な状態になっていて、誰でもすぐに試せるようになっている。Windows 7との緻密な統合が特徴の1つとなっている次世代ブラウザということだが、その統合の様子を見ていくことにしよう。

●常用にも十分に見える安定度

 IE9の入手は、日本語サイトがすでにオープンしているので、特に迷うことはないだろう。ダウンロードページから、日本語版を含む各国語版を入手できる。

 Windows Vista 32bit版、Windows 7 32bit版、Windows 7 64bit版の3種類が用意され、環境に応じたものをダウンロードする。なお、Vistaでは、SP2以上であることと、KB971644のプラットフォームアップデート適用済みであることが求められる。それ以外は、IE8とソフトウェア要件は同じだ。つまり、OSがVistaか7でIE8が稼働している環境なら問題なく使える。

 なお、IE8とIE9の共存はできない。したがって、必ず、IE8をアップグレードしてのインストールとなる。また、Windows 7用には32bit版と64bit版が用意されているが、これはインストーラを動かすOSのバージョンだ。64bit環境で32bit版IE9のセットアップは動作しないし、64bit版のIE9セットアップは、既存のIE8について、32bit版、64bit版の双方をIE9に置き換える点に注意してほしい。

 手元の環境では、ノートPC2台(うち1台64bit環境)、デスクトップ環境1台のWindows 7環境をIE9に置き換えてみた。発表日から執筆時まで約2週間が経過しているが、特に問題らしい問題は起こっていない。まれに、表示がおかしくなることがあるが、それで困るような場合は、Chromeなどの別のブラウザでしのいでいる。

 IE9を起動して気がつくのは、ウィンドウそのものがかなりすっきりしているところだ。デフォルトでは、お気に入りバー、検索ボックス、ステータスバー、コマンドバーの表示がオフになっている。だから、画面の縦方向が広くなったような錯覚に陥る。

デフォルトのIE9ウィンドウは実にすっきり。タイトルバーにはタイトルがなく、お気に入りバーやコマンドバー、ステータスバーもない

 また、タイトルバーに表示中のページのタイトルが表示されないのもすごい。現在のページのタイトルを知るにはタブの見出しを見ろということだ。これは、WindowsのGUIとして許されていいのかどうかとも思う。

 ちなみに、検索ボックスはアドレスバーに統合され、ワンボックスと呼ばれるようになった。ただし、キーワードを入れて、デフォルト検索エンジンの応答を待つ必要があるので、文字入力後、即座にエンターキーを叩くというような乱暴な方法が通用しなくなった。単独のキーワードなら検索エンジンに送られるのだが、複数のキーワードではダメなのだ。この仕様には不満を感じるユーザーもいるのではないだろうか。

検索ボックスとアドレスバーが一体化してワンボックスとなったが、複数のキーワードを入れた場合、エンターキーだけでは検索されなくなったのが不便

●Windows 7の各種機能に対応

 Windows 7との統合による機能強化の1つは、Aeroスナップに対応した点だ。IE9では、アドレスバーのアドレス表示左頭のアイコン、開いている各タブに表示されているページタイトル左頭のアイコンをドラッグすることで、タブウィンドウ自体が、1つのウィンドウであるかのようにIE9のウィンドウから分離する。そのままデスクトップの左端まで持って行くと、分離したウィンドウは、ちょうど画面の左半分を占有するようにして固定される。Aeroスナップとしてお馴染みの振るまいだが、IE9では、タブウィンドウをAeroスナップできていることがわかる。

 例えば、2つのページの内容を比べたいことはよくある。そんなときは、あらかじめ、2つのタブとして両方のページを開いておき、双方のタブをデスクトップの左右にスナップすれば、ちょうど半分ずつページが表示されて、比較が容易になる。また、デスクトップ上部にドラッグすれば、そのタブウィンドウが最大化され、そのタブウィンドウだけのIE9ウィンドウが開く。つまり、タブインターフェイスでありながら、1つ1つのタブウィンドウを独立したウィンドウであるかのように扱えるのだ。

タブをつかんでウィンドウのようにドラッグし、Aeroスナップなどができるようになった

 さらに、各タブは、タスクバーにピン留めすることができる。この機能は、Webアプリを、あたかも独立したネイティブアプリのように使うために用意されたようだ。IEでは、複数のページを開いても、タスクバー上では、IEのボタン1つに集中して、開いているドキュメントが増えていくだけだが、タスクバーにタブをドラッグすることで、そのページのアイコンを持つボタンが表示されるようになる。これは、IEとは別のもう1つのIEであり、IEを意識させず、独立したアプリケーションであるかのように見える。

 そのボタンをクリックすると、そのページをスタートページとするIEが開く。残念ながら、オプションによるバー類の表示、非表示は、本家IEと共通のようで、あるページを表示するときは全画面表示といった個別指定はできない。それどころか、ツールボタンをクリックしても、インターネットオプションも表示されない。

 通常のIE9は、ウィンドウの右上に、スタートページに戻るためのボタンが用意されているが、ピン止めしたIEでは、そのボタンがなく、左上の戻るボタンの左側に、そのページのアイコンが表示され、それをクリックすると、最初に開いたページ、つまり、ピン止めしたページに戻る。通常の戻るボタンで戻りきったときも、当初のページが行き止まりだ。

 さらに、タブウィンドウは、タスクバーにピン止めできるだけでなく、スタートメニューにも常時表示させることができる。最初はお気に入りバーがなくなったことが不便で仕方がなく、表示を元に戻して使っていたのだが、超お気に入りとしてのお気に入りバーは、タスクバーボタンやスタートメニューに常時表示しておけば、かなりの範囲で不便を解消できることがわかったので、ノートPCのような解像度の低い環境では、デフォルトの非表示に戻した。タスクバーにボタンとして表示すると横幅が足りなくなってしまうくらいにボタンの数が多い場合は、IEのボタンにリンクをドロップし、いつも表示しておくようにすれば、超お気に入りとして使うには十分だ。

 ちょっと不便を感じるとしたら、階層化ができない点くらいだろうか。たとえば、PC Watchのタイトルページをボタンとして表示するように設定したとしよう。そのボタンに、AV WatchやInternet Watchなど、他のチャンネルを常に表示できるようになっていれば便利なのだが、残念ながらそれはできない。通常のIEのボタンには、ページ内のリンクをドラッグすることで、いつも表示するページへのリンクとして固定しておくことができる。ピン止めしたページは、それと同じようには振る舞ってくれない。こうした点を見ていると、なかば、強引な実装であることは否めない。

PC Watchをタスクバーボタンとして常に表示するようにしたところ。IEのボタンとは別のボタンとして表示される
ボタン表示したPC Watchを開くと、PC WatchをスタートページとしてIEが開く。ウィンドウの左上を見ると、戻るボタンの左にPC Watchの最初のページに戻るボタンがあるのがわかる

●IE独自はもうない

 Windows 7では、タスクバー上のボタンを右クリックしたときに、さまざまなアクションを実行できる「ジャンプリスト」が登場した。対応アプリによっては、そのアプリの持つ機能をダイレクトに実行できるので、とても重宝している。

 IE9では、対応ページをボタンとしてピン止めしたとき、ジャンプリストを表示することができるようになっている。たとえば、米国版のMSNのトップページをピン止めすると、右クリックで表示されるジャンプリストから、各カテゴリの情報ページをダイレクトに開くことができる。これは、米国のAmazonでも同様の対応がなされている。

米国版のMSNはすでに対応済みでジャンプリストに各種のタスクが表示される
日本版のMSNは未対応でジャンプリストには特に何も表示されない

 Aeroスナップ対応、タスクバーボタンとしてのピン止め、ジャンプリスト対応など、Wiindows 7で紹介された新しい機能を統合したIE9だが、今後は、IE独自の機能をクローズアップするような実装はなくなる方向にあるという。どんなブラウザでも、ページ記述の内容にしたがって同じように表示されるのが理想であり、ブラウザが競争するのは、その他の部分にしたいというのがマイクロソフトの現在の方針だそうだ。

 IE9では、高速化やより安全なブラウズが主たるテーマとしてクローズアップされている。HTML5への対応などは、他と違うのではなく、他と同じであることのプライオリティが高い。そして、それをさらに差別化するのが、Silverlightなどのテクノロジであり、デベロッパーにはより多くの選択肢を提供することが彼らのミッションだという。

 仕方がなくIEを使うのではなく、IEだからIEを使うというフェイズに入ったということなのだろう。