鈴木直美の「PC Watch先週のキーワード」
第159回:3月19日~3月23日


■■キーワードが含まれる記事名
●キーワード


3月13日

■■ 富士通とソニー、GIGAMO 2.3GB規格を策定
  --対応ドライブとメディアを今秋発売へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010322/gigamo.htm

磁気超解像(Magnetically induced Super Resolution[MSR])

 GIGAMOやiD PHOTOに用いられている、ビームスポット内の温度分布と磁性を利用したマスキング効果によって、ビーム径よりも微小な磁気情報を読み取る技術。

 光磁気ディスク(Magneto-Optical disc[MO])の記録は、磁性体が一定の温度(キュリー点)を越えると保磁力を失ない、冷める際には外部磁界に並行した磁化が表れるという性質を利用したもので、レーザー光による加熱と磁界を加えることにより、記録層の磁性体の微細な領域(記録磁区)を特定の方向に磁化して行く。再生は、光が磁場によって偏光する性質を利用しており、照射したレーザー光の反射光を検出し、偏光面の違いで記録状態を読み取る。

 GIGAMOやiD PHOTOに使われている磁界変調方式(Magnetic Field Modulation[MFM])は、ハードディスクなどと同じように磁気ヘッドを使い、磁界を変化させて記録している。

 磁界変調方式は、一般的なMOに使われている光変調方式(※1)よりも高密度な記録が行なえる方式なのだが、記録密度が上がれば、それだけ微細なマークの検出能力も要求される。ビームスポット内に複数のマークが存在するほど微細な記録ができても、従来の検出方法では、これらを個別に検出することはできず、書けても読めないメディアになってしまうのである。MOに限らず、光学的に読み出すメディアの場合には、ビームスポットの大きさをどこまで絞れるかが高密度化を実現する重要な要素であり、記録密度の向上に伴なって、通常はレンズの開口数(Naumerial Aperture[NA])を上げたり、より波長の短いレーザー光を使用している(※2)

 MSRは、このビームスポットを絞るのと同じ効果を、磁気的な方法を使って実現する技術で、スポット内の温度分布が一様でない(※3)ことを利用し、記録層の不要なマークをマスク。必要なマークだけを順に再生層に転写し、隣接するマークの影響を受けずに検出できるようにする。具体的な実現方法には、色々な手法があるが、一般にはビームスポットの前方(スポットが移動していると見た場合の移動方向前方)で検出するタイプをFAD(Front Aperture Detection)型、後方で検出するタイプをRAD(Rear Aperture Detection)型、中央部で検出するタイプをCAD(Center Aperture Detection)型と呼んでいる。

・FAD型
 記録層とそれを映す再生層の間に、低い温度で保磁力を失う切断層を挟み、再生層の磁化を初期化方向に揃えるための弱い再生磁界をかけておく。高温になるスポットの後方では、切断層が磁力を失い記録層と再生層を分離してしまう。このため、記録層と再生層の結合力が弱まり、再生層に転写されていたマークが再生磁界で初期化され、マスクされる(スポットが移動し温度が下がると再び記録層のマークが転写される)。

・RAD型
 一定の温度で記録層のマークを再生層に転写して読み取る方法で、再生層の磁化をあらかじめ初期化方向に揃えておく。ここにビームスポットをあてると、高温になるスポットの後方で再生層の保磁力が低下し、記録層のマークが転写され、前方はマスクされた形になる。

・CAD型
 常温では磁化容易軸(磁化されやすい方向)が面内に向き、高温になると垂直方向に向く特殊な素材を再生層に使用。スポット内の高温領域でのみ、記録層のマークが再生層に転写されるようにして読み取る。

・ダブルマスクRAD型
 これは、GIGAMOに用いられているMSR技術で、より安定した高い検出特性を得るために上記の技術を組み合わせたものである。GIGAMOでは記録層と再生層の間に、常温で磁化容易軸が面内に向き、高温では垂直方向に向く中間層を置き、再生層の磁化を初期化方向に向ける再生磁界をかける。スポット前方の低温部は再生磁界で初期化され、温度が上がり中間層が垂直磁化になると記録層が転写。さらに温度が上がると、今度は中間層が保磁力を失い、記録層と再生層を分離。再び再生磁界で初期化されるという仕組みになっている。

(※1) 光変調方式(LIM~Light Intensity Modulation)は、メディアに一定の磁界をかけておき、レーザー光を制御して部分的に磁化していく方式である。

(※2) 再生可能なマークは、光学系の回折限界で決まるので、「2分1波長÷開口数」というのが、検出可能な最小のマークとなる。一般的な3.5インチのMOでは、128MBメディアの場合には825nm、230MBで780nm、640MBで685nmとより短い波長のレーザー光を用い、高密度化を実現している。

(※3) 停止しているディスクにビームスポットをあてると、スポットの中心が最も高温になり、外縁部は低い温度になる。これにディスクの回転が加わるので、高温部は、スポットの中心から後方へとずれていく。

□MO Forum Japan
http://www.mo-forum.gr.jp/
【参考】
□GIGAMO
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990121/key61.htm#GIGAMO
□iD PHOTO
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001124/key144.htm#iD
□MO
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981112/key54.htm#MO
□ダイレクトオーバーライト
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980224/key19.htm#DirectOverWrite


3月23日

■■ CeBIT 2001 Hannoverレポート PCパーツ編
  ~正式デビュー間近のSamuel2コアのCyrix IIIやPC2700などが展示される
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010323/cebit02.htm

Cyrix III
サイリックススリー

 VIA Technologiesが2000年にリリースした、Socket 370互換CPU。2001年にリリースされた後継チップからは、「C3」という名称に変更された。

 Cyrixは、'88年に設立されたチップベンダーで、89年には、387互換のFPU(Floating-point Processing Unit[※1])をリリース。その後も互換FPUを次々にリリースし、純正品よりも高性能な「FasMath」シリーズとして、広く知られるようになった。'92年には、386互換で486の性能とうたわれた「Cx486SLC」がリリースされ、AMDとともに、互換CPUの一時代を築いた。Cyrixの互換CPUは、IBMラインの製品もあり(Cyrixは元々生産部門を持たないファブレス企業で、製造はIBMやTexas Instrumentsなどが行なっていた)、Cx486シリーズの高速版には、「Blue Lightning」などという名が付けられていた。

 同社はその後も、486互換の「Cyrix 5x86('95年)」、Pentium互換の「Cyrix 6x86('96年)」、MMX対応の「Cyrix 6x86MX('97年)」と互換CPUを次々にリリースするが、'97年にはNational Semiconductor(NS)に吸収合併。Cyrixブランドは、NSの一部門として引き継がれ、6x86MXの名称を変えた「Cyrix M II('98年)」をリリースするが、'99年には、PC向けCPU市場撤退を表明。Cyrixのブランドとx86部門はVIAへと売却。その後の「M II」は、「VIA Cyrix M II」としてVIAから販売された。

 「M II」の後継とされていたコード名「Gobi」は、「Joshua」のコード名に変更され、VIAで開発を継承。2000年にリリースされたのが、この「Cyrix III」である。仕様は、「Socket 370」ピン互換で、FSBは66~133MHz。CPUのクロックはPR433/PR466/PR500/PR533だが、実クロックは、PR533で400MHz(133×3)。64KBのL1と256KBのL2キャッシュを搭載し、MMXと3DNow!に対応となっていた。しかし、リリース間もなく(※2)、「Cyrix III」は、同社がIDTから買収したWinChip4のコアを用いた製品(コード名「Samuel1」)にリプレイスされる。新タイプでは、クロックは533/667MHz(実クロック)、L1は128KB、L2なしとなり、Enhanced 3DNow!対応となっている。

 Cyrix直系のCPUは、初代の「Cyrix III」である「Joshua」で打ち止め。Cyrixのx86互換CPUは、10年を待たずに幕を下ろすことになった。後継チップとなるコード名「Samuel2」は、その名の通りWinChip系の製品であり、2001年のリリース時には、遂に「Cyrix」のブランドも消え「C 3」という名でのデビューとなる。「Cyrix」の名が再びPCの歴史を飾る日は、もう二度と訪れないのかもしれない。

(※1) 浮動小数点演算を行なうためのプロセッサ。現在は、この機能がCPUに統合されているが、386時代までは、CPUは整数演算だけをサポートしており、実数演算は外部のプロセッサを必要とした(もしくはソフトウェアでエミュレートする)。

(※2) 初代Cyrix IIIは2月にリリースされ、6月には新バージョンにリプレイスされている。

【参考】
□Socket 370
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990210/key64.htm#Socket_370
□FSB
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981105/key53.htm#FSB
□L2キャッシュ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971209/key10.htm#L2cache


TSOP(Thin Small Outline Package)
ティーエスオーピー
CSP(Chip Size [Scale] Package)
シーエスピー、チップサイズ(スケール)パッケージ

 表面実装用のICパッケージの種類。TSOPは、パッケージの両側に端子(リード)を並べたタイプ。CSPは、チップ本体とほぼ同じ大きさまで小型化したタイプ。

 ICといわれて誰もが思い浮かべる姿は、プラスチックやセラミックの細長いパッケージの両側に細長い端子(リード)が並んだ、DIP(Dual In-Line package)と呼ばれるタイプだろう。もっともオーソドックスなこのDIPは、ソケットや基板に空けた孔に差し込んで実装する挿入実装用のパッケージだが、80年代に入ると、基板の表面に直接半田付けする表面実装用のパッケージが登場する。

 SOP(Small Outline package)は、DIPをそのまま表面実装型にしたもので、DIPと同様、パッケージの両側に端子を並べたタイプである。ちなみに、四辺に並べたタイプはQFP(Quad Flat Package)といい、SOPをDFP(Dual Flat Package)と呼ぶこともある。

 基板の表面に実装するため、SOPの端子は通常L字型になっており、JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)では、このタイプをSOL(Small Outline L-lead package)、チップの内側に向けてJ字型にしたタイプをSOJ(Small Outline J-lead package)と呼んでいる。

 標準的なチップは、端子の間隔が100ミル(2.54mm[※1])で作られているが、これを50ミル(1.27mm)や1mm、0.8mmという様に縮めて(シュリンク)小型にしたパッケージもあり、これを特にSSOP(Shrink Small Outline package)という。TSOPは、パッケージの高さも50ミル以下に押さえた薄型タイプで、マザーボードや拡張カード上の各種チップ、DIMM(Dual In-line Memory Module)のDRAM等に広く採用されている。

 DIPやSOP、QFPは、いずれもチップの周りに端子を並べた周辺端子型のパッケージだが、チップのさらなる小型化や端子数の増大に対処するためには、周辺端子型では自ずと限界がある。端子数が極端に多いCPUパッケージでは、早くからチップの裏面に格子状に端子を配置したPGA(Pin Grid Array)を採用していたが、90年代に入ると、その表面実装型ともいえる、端子の代わりに球状の半田を並べたBGA(Ball Grid Array)が登場する。小型化では、チップ本体のサイズに限りなく近づけたCSPが90年代半ばに登場。小型化が進む携帯機器を中心に、90年代後半から盛んにCSPが使われるようになった。端子数の少ないCSPには、TSOPの構造をさらに縮小したタイプもあるが、小型化と多ピン化を両立させるために、BGAの構造を縮小したパッケージが今後の主流と考えられている。

(※1) 1ミル(mil)は1,000分の1インチ。100ミル(2.54mm)は、最も基本的なピッチになっており、コネクタ等で使われている「フルピッチ」も、通常は端子間隔が100ミルのタイプ。「ハーフピッチ」はその半分の50ミル(1.27mm)のタイプを指す。

[Text by 鈴木直美]


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