レビュー
夏間近! ノートPCを涼しく使うベストなファン付き冷却台を探る
~3メーカー、合計5機種を比較
(2015/7/11 06:00)
梅雨が明ければ、PCには厳しい“夏”がやってくる。デスクトップPCなら、CPUクーラーやケースファンを強化して各パーツの温度を下げることも容易だが、内部へのアクセスやパーツ交換の自由度が制限されているノートPCでは、そういった手段では冷やせない。
そんなノートPC向けに、ファンを内蔵した台上にノートPCを載せて冷却を行なう“ノートPCクーラー”が昔から売られている。調べてみると、大手家電量販店での売れ行きもいいようで、実際のところその効果はどうかなのか、そもそも意味があるのか疑問に思っている人もいることだろう。
今回は現行のノートPCクーラー5製品を集め、その使い勝手と冷却性能を検証した。
ファンの位置を移動できるタイプが便利
個別の製品紹介に入る前に、まずノートPCクーラーを選ぶ上で必要になる基礎知識をまとめておこう。
ノートPCでは、熱源となるCPUやGPU、そしてそれらを冷却するためのファンや吸気口の位置がモデルによってまちまちだ。そのため、ノートPCクーラーは、搭載ファンの位置を変更できる物が望ましい。もしくは、底面全体に風が当たるように大きめのファンを搭載していたり、風がうまく拡散するような仕組みを備えるものがベストと言える。今回取り上げたモデルの中にも、ファンの位置を変更できるノートPCクーラーは多い。
もう1つ、これはノートPCクーラーの選び方自体に関わることではないのだが、冒頭の写真のようにノートPCクーラーによってはかなり厚みを持った物がある。ファンが組み込まれている以上は当然だが、そのためノートPCクーラーの上にノートPCを置くと、手首の位置がかなり高くなってしまうのだ。この状態でも使いやすくするためには、パームレストを設置したり、椅子の座面高を調整したりするなどして対応したい。
Cooler Master「ERGOSTAND III」
実売価格:6,000円前後
Cooler Masterの「ERGOSTAND III」は、230mm径という大型ファンを搭載し、15.6型のA4ホームノートまで対応する。6段階で角度を調整できるスタンド機能を備えており、使いやすい角度に調整できる。PCのUSBポート経由で給電するのは一般的なノートPCクーラーと同じだが、今回取り上げた製品の中では唯一USB Hub機能を搭載しており、ノートPCのドッキングベイのように使うことも可能だ。
本体左側に4本分のケーブルを整理できるスリットを用意しており、ノートPCと周辺機器を接続するケーブルを綺麗に整理できるのは面白い。これもほかのノートPCクーラーにはない機能だ。ファンのオン/オフと回転数の制御は、左上にあるダイヤルコントローラで行ない、500~800rpmの間を無段階で調整できる。
スタンド機能を利用すると、一番角度が浅い状態にしても手首に負担が大きいと感じた。また、キーボードの位置がかなり高くなる。スタンド機能はディスプレイの高さを調整するものとして、別のキーボードを接続して運用した方が使いやすいだろう。
Cooler Master「NOTEPAL U3 PLUS」
実売価格:5,000円前後
続いてもCooler Masterで、「NOTEPAL U3 PLUS」は、14~17型のノートPCに対応し、3基の80mm角ファンで冷却する。その最大の特徴はファンの位置を自由に変更できること。ノートPCを載せる台はメッシュ状で風通しが良い構造だが、このメッシュの空気穴は、ファンを固定する穴としても機能する。ノートPCクーラーの裏側からファンユニットの突起を空気穴に差し込むと、カチッとしっかり固定され、落ちてしまうことはない。
ファンのオン/オフや回転数を調整するコントロールユニットもクリップ式で、アルミフレームのどこにでも固定できる。ファンのケーブルが短めなので、ファンの取り付け位置によっては「ここにしか付けられない」という状況が発生するが、ほかのノートPCクーラーに比べて自由度はかなり高い。ファンコントロールはダイヤル式で、950~1,800rpmの範囲で無段階調整できる。
角度を調整する機能はないが、手前側はかなり低くなっており、ノートPCのキーボードを使って作業する時も手首に負担がかかることはなかった。ノートPCからUSBポート経由で給電するが、ノートPCに接続するUSBポートには追加のUSBポートを装備しており、ここに周辺機器などを接続できるので、貴重なUSBポートをつぶさずに済む。
エレコム「SX-CL22LSV」
実売価格:4,500円前後
エレコムの「SX-CL22LSV」は、15.4型から17型のノートPCに対応し、200mm径の大型ファンを搭載する。Cooler MasterのERGOSTAND IIIとよく似た角度調整機能を搭載しており、金属棒をはめ込むスリットの位置によって4段階の調整ができる。角度を大きくするとノートPCがズレて落ちてしまう可能性があるが、これを防止するためのラバーパーツを用意しており、状況に応じて取り付けたり、外したりできる。
電源はPCのUSBポートから取得し、そのための端子や電源ボタン、回転数の調整機能を背面に装備する。側面に装備するタイプと比べると、やや操作しにくいのが気になった。ファンの回転数は、最大値は800rpm。2段階で回転数を調整できるが、動作音を聞いてみると最小回転数は500rpmくらいではないだろうか。
スタンド機能を有効にしてノートPCを乗せると手首に負担がかかりやすいのは、ERGOSTAND IIIと同じだった。またノートPCの落下を防ぐためのラバーパーツを付けると、キーボードが非常に打ちにくくなる。これもまた別のキーボードを付けて運用することが前提の機能と言えそうだ。
エレコム「SX-CL23LBK」
実売価格:7,500円
同じくエレコムの「SX-CL23LBK」は、15.4型から17型のノートPCに対応し、140mm角ファンを2基搭載する。風を取り込むためのスリットを設けたプラスチックの筐体に、アルミのフレームをかぶせた高級感のあるデザインを採用する。角度の調整機能はないが、その分ガッチリと安定しており、力を入れてノートPCのキーを打っても、角度調整ができるERGOSTAND IIIやSX-CL22LSVのようにノートPCが揺れることはない。
ちょっと面白いのが、吸気と排気で風向きを変更できるという機能だ。一般的にはファンを逆回転させることは難しく、またブレードの形状の関係で、単に逆回転させるだけでは十分な風量が得られない。どうやるのかとマニュアルを読んでみると、本体をひっくり返して風向きを変更する、というコロンブスの卵的な発想だった。上面と底面の両方に、アルミの本体カバーをネジ留めするネジ穴を設けており、自分の好きな方向に本体カバーを付けて風向きを調整するわけだ。
電源はほかと同じくUSBで得る。ファンの最大回転数は1,300rpmで、ダイヤルコントローラで回転数を調整可能。最小回転数の記載はないが、音からすると600~700rpmのような印象を受ける。本体はかなり分厚く、椅子や机の置き場所によってはノートPCのキーボードはかなり使いにくくなる。パームレストなどを用意して手の位置を調整するか、別のキーボードを接続して使った方がいいだろう。
サンワサプライ「TK-CLN16U2RN」
実売価格:5,000円前後
サンワサプライの「TK-CLN16U2RN」は、12.1~14型までのノートPCに対応し、80mm角ファンを2基装備する。手前と奥側で間でファンの位置をある程度自由に移動でき、最適な位置にファンを置けるので冷却効率は良さそうだ。
奥側のシリンダーのような部分には、左右からトレイを引き出せる小物入れが組み込まれており、スマートフォンと接続するための短いUSBケーブルや、小型USBメモリなどを収納しておくと便利だ。今回取り上げた製品の中では薄型で、ノートPCを乗せてタイピングしても手首に負担を感じにくい。さらに角度が欲しい場合は、天板奥にあるネジ穴に、付属するゴム足を追加するといいだろう。
ファンの最大風量が2,500rpmで、ダイヤルで回転数を調整できる。最小回転数は動作音を聞く限り1,000rpm前後といったところか。ほかの製品と比べると回転数は高めだが、最小回転数ぐらいであれば騒音で不快になるほどではない。
各製品の性能を検証、負荷の低い状況ならCPU温度は最大で13℃低下
今回は、マウスコンピューターの「m-Book P MB-P921B」を各ノートPCクーラーに乗せて、CPU温度とGPU温度、動作音を検証した。m-Book P MB-P921Bは、CPUにCore i7-4720HQ(2.6GHz、4コア8スレッド)、GPUにGeForce GTX 970M、500GB HDDを搭載する高性能ノートだ。各ノートPCクーラーを組み合わせることで、各部の温度がどう変化するかに注目したい。ノートPCクーラーはファンを最大回転数で回した場合と最小回転数で回した場合の強弱2段階でテストしている。
なお、検証には外部GPUを装備していないCore i3-5010U搭載モデルの「LuvBook F LB-F521EN」も用意してテストを行なったが、高負荷時の温度はほとんど変化がなかった。そのため、計測データは掲載していない。内蔵GPUモデルで、Core i3くらいの性能の場合、ノートPCクーラーによる大きな効果は望めなさそうだ。
CPU温度とGPU温度は、HWMonitor 1.27を使って計測した。行なったテストは動画再生と3DMarkのループ実行である。再生した動画は、解像度が1,920×1,080ドットで、MPEG-4 AVC/H.264、ビットレートは14~16Mbpsだ。これを30分連続で再生した。3DMarkはCustom実行でループを有効化、同じく30分連続で実行した時の最高温度を計測した。動作音はノートPCから20cm離れた場所で計測している。測定環境の室温は約24℃、暗騒音は約31.2dBだった。
結果はグラフ1~3の通りだが、概ねどのノートPCクーラーを使っても、使わない状態よりCPU温度やGPU温度は低下した。その差が顕著だったのは、負荷の低い状況をイメージした動画再生時だ。ノートPCの吸気口に合わせてファンの位置を変更できる「NOTEPAL U3 PLUS」、そして大型の140mm角ファンを2基搭載する「SX-CL23LBK」では、ノートPCクーラーを利用しない時と比べて、ファン高回転時は13℃も低い結果になった。
一方、3Dゲーム中の高負荷状況をイメージした3DMarkのループ実行では、ノートPCクーラーを組み合わせてもCPU温度はほとんど低下しない。負荷が低く、CPUクーラーの冷却に余裕がある状況ではノートPCクーラーは有効だが、CPUクーラーの冷却性能が限界に近い状況では、多少風を当てても改善は難しいのだろう。
動画再生時のGPU温度は、アイドル時とほとんど違いがない。そもそも特に設定しない限り動画再生時にGPUは利用されていないので、当然の結果と言える。3DMarkのループ実行時はGPUをフルに活用して描画を行なうため、アイドル時に比べて大きく温度が上がる。ここで成績が良かったのは、CPUと同じくファンの位置を最適な位置に変更できるNOTEPAL U3 PLUSと、ファンの位置を変更できる「TK-CLN16U2RN」で、ノートPCクーラーを使わない時と比べて高回転時は6℃低下する。
動作音は、ノートPCクーラーが装備するファンの回転数によって大きく変わる。最大回転数では、どの製品もかなりうるさいと感じた。特にファンの回転数が高いSX-CL23LBKやTK-CLN16U2RNだと、最大回転数で利用するのはかなりの苦痛だ。
なお、この2つを除く製品は、3DMark実行時の動作音がほぼ同じだった。しかしこれは「ノートPC自身の動作音」である。とくにCPUファンの風切り音はかなり大きかった。前述した通り、ノートPCクーラーを使っても3DMark実行時のCPU温度に変化はない。そのためCPUファンの回転数は低下せず、CPUクーラーの騒音レベルを動作音として拾ってしまったわけだ。純粋なノートPCクーラー単体の動作音は、アイドル時の数値を参照して欲しい。
ただし幸いなことに、どのノートPCクーラーも最小回転数と最大回転数で、冷却性能に大きな違いはなかった。あくまでm-Book P MB-P921Bと組み合わせた時の結果ではあるが、最小回転数で運用しても、ノートPCクーラーの効果は十分得られると考えて良さそうだ。
高負荷時の温度変化は微少なので過大な期待は禁物
自作PCなどのデスクトップPCでは、ケースファンを増設/強化すれば、冷却性能してCPUといった主要パーツの温度が下がるため、ノートPCの場合もノートPCクーラーと組み合わせることで温度が下がるのではないかと予想したのだが、負荷の高い状況では、特にCPU温度に関してはそれほど大きな影響はないようだ。また、処理の重い3Dゲームを安定して遊ぶために導入しても、あまり効果はないと見た方が良さそうである。
ただ、だからといって「ノートPCクーラーには意味がない」ということでもない。少なくとも負荷が低い状況ならCPU温度はかなり低下するし、PCの利用時の大半は負荷の低い状況である。より長い間各部の温度が低く保たれるのであれば、故障といった不具合の発生率は下がるだろう。長時間および長期間の使用や大切に使いたいという場合には、陰ながらノートPCを支えてくれる存在となるかもしれない。
今回取り上げたノートPCクーラーの中では、適切な位置にファンを移動できるので汎用性が高く、最小回転数時の動作音が小さいCooler MasterのNOTEPAL U3 PLUSがベスト。ただし、NOTEPAL U3 PLUSを最小回転数で利用するとGPU温度が高くなる。GPUの冷却も重視するなら、動作音はともかくとしてサンワサプライのTK-CLN16U2RNが次点と言うことになるだろう。