レビュー
6年ぶりに刷新されたロジクールのハイエンドマウス「MX Master」
(2015/3/26 06:00)
「満を持して」とはまさにこのことだろう。ロジクールのハイエンドマウス「MX」シリーズの新製品が6年ぶりに発表された。製品名は「MX Master」。前作は「MX Revolution」だったので、マウスの“進化形”が“完成形”に進んだということなのだろう。
ユーザーの期待度も高いようで、24日の遅くに掲載されたニュースは瞬く間にツイート数が伸び、約24時間で1,000を超えた。そのほとんどが、MXシリーズ新製品を待ちわびていた声だった。
かくいう筆者も、MX Revlution、そしてその実質の後継であった「Performance Mouse M950」へと渡り歩いたロジクールユーザー。ロジクールの製品を使い続けているのは、クリック感のあるホイールと、手のひらへのフィット感など総合的に気に入って使っている。その後M950が故障したことで、今はゲーミングマウスの「G700s」を使っている。その意味からも、MXシリーズの新製品には期待を抱いていた。
そんな注目の新製品を発売に先駆けて入手できたので、レビューをお届けする。なお、MX RevolutionやM950と比較しながら試用できれば良かったのだが、旧製品はいずれも手元には残っていないので、細かい比較はできていないことをお断わりする。
発売日は4月2日、税別直販価格は12,880円だ。
シリーズの系譜を継ぐデザイン
まずは外観を見てみよう。親指が当たる部分が深くえぐられた、というより親指が載せられるよう、最下部が左に大きくせり出したデザインは、MXの系譜を継いだもので、一目見てそのシリーズだと分かる。
一方で、ほぼ全体が黒一色だったMX Revolutionから、MX Masterでは上面の縁取り、ホールのセンター、Logicoolのロゴが深みのあるゴールドでアクセントとなっており、基調となるマットブラックと合わさって、渋みを醸し出している。ちなみに、普段目にしない底面は、ほぼ全面がこの色になっている。
もう1つのデザイン上のアクセントが、親指部分で、ポリゴンメッシュのような三角形平面を組み合わせた柄になっており、従来製品とは違うことを訴えている。ちなみに、ユーザーからは見えないが、薬指・小指が当たる左側面も、うっすらこのパターンが入っている。
手に持った時の感触は、申し分ない。筆者はいわゆる「かぶせ持ち」スタイルで手のひらをべたっとマウスに押し当てるが、手のひらにぴったりとフィットする。この点は、手の大きさによって感覚は変わってくるとは思うが、幅広い人が持ちやすいと感じるだろう。
ただ、先端部は少し前に出すぎているように思う。と言うのは、ホイールが接触するのが人差し指の先端だからだ。できれば、ホイールは人差し指の腹にくるくらいがちょうど良い。G700sでは、ホイールが人差し指の腹に来る。指の先端でも問題なく操作できるし、筆者は男性としては手が小さく女性と同じくらいなので、一般的な手の大きさの男性なら、ちょうど良い位置に来る。だが、戻る/進むボタンは筆者の手で、ちょうどいい位置にある。実際、手の大きな人に試してもらうと、ちょっと手前過ぎるという感想が返ってきた。総合すると、本製品は手の小さい人の方が、使いやすいかも知れない。
重量はMX Revolutionが147g、M950が162gだったのに対し、MX Masterは145gで最も軽くなっている。だが、これでもそこそこの重量なので、持ち上げる際には、ある程度挟み込んでやらないと持ち上がらない。また、その際に親指と薬指・小指がやや滑る。G700sは151gと、MX Masterより少し重いが、すっと持ち上がる。つまり、形状が理由で持ち上げる際に滑りやすくなっているのだ。何時間か試用している間に手が順応したようで、指が滑ることはだいぶ少なくなったものの、この点はややマイナス評価だ。
2つのホイールを装備
MX Revolutionで注目を浴びつつも、M950でやや簡略化されたのがホイールだ。MX Revolutionで「MicroGearプレシジョンスクロールホイール」と呼ばれていたホイールは、ホイールを回した際のクリック感の有無を任意に切り替えられた。また、クリック感がない時は、高速かつ長時間回転させることができる。
その点はM950も同じなのだが、MX Revolutionでは、手動での切り替えに加え、一定速度以上で回した際、クリック感なしの高速回転に自動的に移行する機能があった。MX Masterでは、「オートシフト機能」としてこの機能が復活した。
筆者は、写真編集ソフトに画像を何枚も並べ、それらを頻繁に拡大縮小する。こういった際、クリック感があると何段階調整したかが指先でも分かるのでやりやすい。また、最近はめっきりプレイしなくなったが、FPSゲームをする際、ホイールで武器を変更するわけだが、この時もクリック感がある方が断然やりやすい。
そういうわけで、クリック感が全くないマウスは、それだけで購入候補から外れてしまう。ちょっと余談となるが、以前、Microsoftのマウス担当者に取材した際、同社はゲームではクリック感がある方が好まれるが、オフィス作業ではない方がいいと考えているので、ゲーミング以外の製品ではクリック感なしのホイールを採用していると言われた。現在でもこの方針が保たれているのかは確認していないが、筆者はそうは考えない。もちろん、このあたりは個人差が大きいので、どちらが正しいというわけではなく、好みの問題だ。
そこで、この問題に対する最適解としてロジクールが投入したのが、MX RevolutionMicroGearプレシジョンスクロールホイールであり、MX Masterのオートシフト機能だ。MX Masterのホイールは、通常は非常に軽めではあるが、きっちり一定角度回す毎にコリコリとしたクリック感が伝わってくる。この状態で、ホイール手前のボタンを押すとクリックなしモードになり、再度押すとクリックありに戻る。この操作を行なわなくても、クリック感のある状態で、勢いを付けて回すと、クリックなしになり、高速で回転し続ける。そして、指で止めると、またクリックありになるのだ。プログラマーなどは、長い文書を扱うことが多いと思うが、ずっと後半の方を見たい場合など、この機能は非常に有効に働く。この機能こそ、この製品の価値と考える人も少なくないだろう。
そして本製品では、もう1つ親指にもホイールが追加された。MX Revolutionにも親指にホイールがあったのだが、これは手前に引くか、奥に押すかしかできないものだった。MX Masterのホイールは自由自在に回転するものになっている。
デフォルトではこれに水平スクロールの機能が割り当てられている。横に長いスプレッドシートを扱う際などに重宝するだろう。縦方向にせよ、横方向にせよ、スクロールする時は、スクロールバーをドラッグしたり、スクロールボタンを押せば実行できる。しかし、仕事で日々使うソフトでは、なるべくマウスの移動距離を短くしたいもの。その点で、縦にも横にもマウスを動かさずスクロールできるのは、積み重なると、生産性で大きな差を生むことになる。
個人的には、音楽ソフトで横に長い波形トラックを左右スクロールするのに使えたら便利だと思ったのだが、手持ちの「Cubase 7」ではスクロールできなかった。このソフトだとタッチパッドでも横スクロールできなかったので、残念ながらソフト側が水平スクロールに対応していないようだ。
なお、親指ホイールを利用するには、「Logicool Options」ソフトをインストールする必要がある。このソフトを使うと、それ以外に各種ボタン/ホイールの役割を変更できる。例えば、親指ホイールにアプリケーションの切り替えを割り当てると、Alt+Tabの操作を右手親指でできるようになる。
もう1つこのソフトを入れると、親指部分のジェスチャーボタンが有効になる。ぱっと見はボタンがあるように見えないが、親指が乗る部分は下方向に押下できる。このボタンは単体でも機能するが、押しながらマウスを動かすことでジェスチャー操作もできる。標準では、ボタンの押下は「ウインドウの管理」となっており、Alt+Tabの画面が出る。一方、押しながら上にマウスを動かすと、ウインドウの最大化、左に動かすとウインドウを画面の左半分にスナップ、右に動かすと右にスナップ、下に動かすとデスクトップの表示/非表示となる。これ以外にも、いろいろな動作をジェスチャーに割り当てられる。
これ自体は便利なのだが、ボタンが結構重いので、なかなかスムーズに操作できない。また、ジェスチャーが移動距離に応じて反応するというのにはちょっと馴染みにくい。
どういうことかと言うと、例えば、ボタンを押しながら右に1cmほどマウスを動かすと、アクティブウインドウが右半分にスナップされる。この移動距離も、もう少し短くていいのではと思うのだが、さらに1cm右に動かし続けると、今度は左半分にスナップされる。なぜなら、このジェスチャーはWin+→を距離に応じて繰り返しているからだ。Winキーを押しながら、→キーを繰り返し押していくと、ウインドウは、右スナップ→左スナップ→元の大きさという風に変化していく。これはキーボードで操作する際は、明確にステップを踏めるので問題ない。しかし、MX Masterのジェスチャーでやると、ボタンが重いので、つい2cmくらい移動してしまい、右にスナップするつもりが左にスナップという誤操作が起きてしまうのだ。距離は関係なく、止めるまでを1回の動作とした方が良かった。
Bluetoothに対応
機能面で目新しいところは、Bluetoothに対応した。本製品はロジクール独自のUnifyingにも対応し、レシーバが1つ付属する。Unifyingレシーバーは1つで6台までのマウス/キーボードを繋げられる。サイズも、いわゆるナノ型なので、ノートPCに挿しっぱなしにしていてもほとんど邪魔にならない。それでも、レシーバが不要なBluetoothには一歩劣るので、Bluetooth対応を歓迎するユーザーは多いだろう。Bluetoothのペアリングは3台までのPCを記憶でき、底面にあるボタンで即座に切り替えられるのも良い。
センサーは、ガラス面でも使える高精度を謳う同社独自の「Darkfield技術」搭載LEDセンサー。解像度は1,000dpi。今回、特にガラス面では試していないが、カーソルの動きはスムーズ。試しに、写真から被写体の縁をなぞって背景を消す作業をやってみたが、快適に作業できた。また、ソールの摩擦の具合もいい塩梅で、軽々と滑らせるように動かすことができる。
本製品は満充電で1回の充電で最大40日間動作する。無線マウスは取り回しの面では有線より好適だが、不意にバッテリが切れた時が困る。だが、バッテリが切れても、USBケーブルを繋げば、すぐに充電しつつ使えるようになるので、ダウンタイムはほぼ皆無と言っていい。なお、従来製品はバッテリを出し入れできるが、本製品は基本的にはめ殺し。底面のネジを開ければ、バッテリを取り出せるが、そうするのは廃棄時のみだ。
結論
既存製品を使ってきた立場で本製品を使ってみて感じるのは、何かが大幅にグレードアップしたわけではない。例えば、ホイールのオートシフト機能は、M950からは進化だが、MX Revolutionからすると先祖帰りしただけとも言える。しかし、Bluetoothへの対応や、親指ホイールなど、細部に渡り6年という月日をかけて洗練させたのが本製品だと言える。
もう1つ感じたのは、鳴り物入りで登場したMX Revolutionは、価格帯こそ同じだが、専用の充電台が付いていたりと、豪華主義的な雰囲気もあった。それと比べるとMX Masterは、MXシリーズとしての基本部分を地道に改良させており、質実剛健な製品に仕上がったと感じた。
これが完成形かと言われると、まだできることはあると思うし、個人の好き嫌いが大きく関与するマウスだけに、万人が満足することはないかもしれない。だが、少なくともMXシリーズを名乗るだけの完成度は持っていると言えるだろう。