ブラザーのドキュメントスキャナ「ADS-2000」を試す
~USBメモリやAndroid端末への直接出力にも対応

ブラザー「ADS-2000」

発売中
価格:オープンプライス(直販44,980円)



 ブラザーから発売された「ADS-2000」は、同社としては初となるドキュメントスキャナだ。最大50枚の原稿を同時にセットでき、300dpiカラーで毎分24枚のスキャンが可能とされている。PFUの「ScanSnap S1500」やキヤノンの「DR-C125」、エプソンの「ES-D350」といった据置型ドキュメントスキャナと競合する製品である。

 「ScanSnap」シリーズで市場をリードするPFU、それを追うキヤノン、エプソンと、これまで個人向けドキュメントスキャナ市場は3社が争いを繰り広げていたわけだが、今回そこに新たにブラザーが参入することになった。この分野でこそ後発であるものの、複合機の「MyMio」シリーズなどでスキャナ機能を長く手がけてきた同社だけに、どのようなアプローチで新製品を投入するかは気になるところだ。

 事実、今回発表された2製品のうち最上位モデルの「ADS-2500W」はPCレスで動作し、読み取ったデータを直接クラウドにアップロードできるなど他製品にないユニークな機能を備えており、否が応でも注目が集まる。しかしながらこの「ADS-2500W」は発売が10月初旬とやや先であるため、今回は同時に発表されたクラウド非対応モデル「ADS-2000」について、ドキュメントスキャナとしての基本機能の検証と自炊用途での使い勝手のチェック、さらに「ADS-2500W」にも搭載されるUSBメモリおよびAndroid端末への直接出力機能について、レビューをお届けする。

●USBメモリやAndroid端末にPCレスでデータを保存可能

 レビューにあたり、まずはこの分野でトップシェアであるPFU「ScanSnap S1500」と比較した場合の主な相違点をチェックしておこう。ざっとまとめると以下のようになる。

・300dpiで24枚/分の読取速度(ScanSnap S1500は20枚/分)
・解像度1,200dpiまで対応(ScanSnap S1500は600dpiまで)
・本体のUSBコネクタに接続したUSBメモリやAndroid端末にデータを直接出力可能
・JPG、PDF以外にTIFFなどでの取り込みも可能(ScanSnap S1500はJPGとPDFのみ)
・TWAIN対応

 一度にADFにセットできる枚数は50枚ということで、ScanSnapと変わりはない。ただしスピードが若干速いということで、大量のスキャンをする場合は差がついてくるポイントだろう。

 一方、オリジナルの機能として注目したいのが、本体側面に用意されたUSBコネクタにUSBメモリやAndroid端末を接続し、スキャンしたデータをPCレスで直接出力できる機能だ。それぞれ「スキャン to USB」「スキャン to Android」という別々の機能なのだが、競合他社の製品にない機能として興味深い。本稿の後半で詳しく見ていくことにする。

 本体の構造は、ドキュメントスキャナとしては一般的な、背面のADFに原稿をセットして手前の排紙トレイに排出する方式。収納時はADFを手前に倒して蓋の役目を果たす仕組みも、ほかのドキュメントスキャナと同じだ。排紙トレイは手前に引き出す構造になっており、これはScanSnap S1500よりもエプソン「ES-D350」に似ている。本体のサイズはScanSnap S1500よりは大きく、ES-D350よりは小さい。

 導入方法は一般的で、ドライバインストールを行なったのち、USBケーブルで本製品を接続。本製品用のドライバが自動的に導入され、再起動すれば利用できるようになる。他社のドキュメントスキャナと比べても、とくに奇をてらったところはない。

ADFおよび排紙トレイをたたんだ収納状態。黒のボディカラーが精悍側面から見たところ。高さはそれほどない。USBコネクタは後述する「スキャン to USB」モードで利用するためのものADFおよび排紙トレイを展開した状態
排紙トレイは手前に引き出す方式。やや硬く、片手で引き出すのは困難排紙トレイを引き出し、展開したところ本体正面右側にスタートボタンなど、複数のボタンを備える。液晶画面などは備えない
ADFは最大50枚をセット可能。同梱のキャリアシートでA3サイズの読み取りにも対応する実際に50枚(100ページ)の原稿をセットしたところ。ScanSnap S1500と同等ということになる。両側のガードはScanSnap S1500のようにハの字に開きがちでない点は評価できる紙詰まり時などは本体内部を開くことができる。レバー位置なども含めて構造はScanSnap S1500と近い
背面。電源ジャック、USBコネクタ、ケンジントンスロットが並ぶScanSnap S1500(手前)との比較。フットプリント、高さともに本製品の方が一回り大きい左右に並べたところ。幅はほぼ同等
トレイを展開した状態で占める体積はそれほど極端な違いはない。ADFが折りたたみ式でないため手前に倒すだけで収納できるのはメリット

●使い勝手は競合製品とほぼ同等。解像度は1,200dpiにも対応

 概要を把握したところで、基本的な使い方を見ていこう。

「ControlCenter4」は、Homeモード(左)か、Advancedモード(右)のどちらかを選んで利用する。同社の複合機でもおなじみのユーティリティだ

 本製品をセットアップすると、ユーティリティとして「ControlCenter4」がインストールされる。同社の複合機などにもついてくるユーティリティであるため、名前はお馴染みという人も多いことだろう。

 この「ControlCenter4」はシンプルなHomeモードと、細かい設定ができるAdvancedモードのいずれかを選べる。Advancedモードであれば設定をプリセットしたスキャンボタンを画面上に並べておけるので、今回はこちらを使うことにする。

 設定項目は、ドキュメントスキャナとしては一般的だ。解像度は100、150、200、300、400、600、1,200dpiとやや細かいほか、他社製品では対応しない1,200dpiにも対応しているのも特徴だ。カラーモード(色数)は、自動のほか、白黒、グレー、256階調グレー、1,677万色カラー。ScanSnapで言うところのグレーは本製品の「256階調グレー」に相当する。本製品のグレーモードはいわゆる誤差拡散なので、ScanSnapなどと同じ感覚でグレーを選ぶと間違う。

 補正機能は傾き補正(5度以内)、原稿向き自動判別、白紙削除、裏写り除去/地色除去。裏写り除去/地色除去についてはScanSnapにはない機能だが、キヤノンやエプソンの製品にはあるので、こちらも目新しい機能というわけではない。明るさ、コントラストはスライダで-50から+50までの間で調整できる。

 重送検知はScanSnapなどと同じ超音波センサー方式で、原稿の長さによる重送検知は確認できない。厚手の紙をスキャンする際や、プラスチックカードモードを使う時はこの重送検知をオフにすることになる。このほか、両面読み取りの際に長辺を綴じる/短辺を綴じるというチェックボックスも用意されている。

「ControlCenter4」では、イメージ、OCR、Eメール、ファイルといった目的ごとに読取設定を登録できる。なお、それぞれの目的ごとに設定できる項目には差異があり、例えば「イメージ」ではスキャン後に起動するアプリを指定できるが「ファイル」では指定できないといった違いがある個々の設定項目。一般的なドキュメントスキャナと大きく変わるところはないPDF、JPGのほかTIFFなども設定可能。パスワード付PDFではパスワードを入力する画面も用意されている
解像度は1,200dpiにも対応している。デフォルト値は300dpi色数は、256階調グレーとグレー(誤差拡散)が別々に用意されているのが特徴的詳細設定の画面。「裏写り除去/地色除去」はScanSnapにはない機能

 全体的にはScanSnapにある機能は一通り網羅されている形だが、大きな違いとして挙げられるのは、本体ボタンの役割だ。ScanSnapの本体ボタンは、押すことによってPC側に設定されている読取設定でスキャンを行なう。そのため、PC側で読取設定を切り替えれば、その値でスキャンが行なわれる。

 これに対して本製品は、複数の読取設定を「ControlCenter4」のAdvancedモードで登録しておきPC側で切り替えることはできるが、本体ボタンからこの複数の読取設定を利用できない。本体ボタンによるスキャンは「スキャン to PC」と呼ばれ、イメージ、OCR、Eメール、ファイルといったそれぞれの読取設定の中から1つを選んでスキャンを行なう仕様になっており、「ControlCenter4」のAdvancedモードとは切り離されているのだ。

設定した値は「ControlCenter4」のAdvancedモードで個々に保存しておけるが、これら設定を本体ボタンから直接呼び出すことはできない本体ボタンは「スキャン to PC」と呼ばれ、ここに割り当てられるのはイメージ、OCR、Eメール、ファイルに設定されている値のいずれかのみとなる。本体ボタンで行なうスキャンのパラメータを変更したければ、それぞれの設定値を手動で書き替える必要がある

 なので、例えば本製品で自炊を行なう際に「PDFカラー」と「PDF256階調グレー」という2つの読取設定を手動で切り替えつつスキャンしたければ、本体ボタンは使わず、「ControlCenter4」のAdvancedモードに用意されているボタンを、画面上で選んでクリックする方が合理的だ。もちろんこれはこれで便利な使い方もあろうが(例えば通常は画面上のボタンを使い、特定の書類のスキャン時だけは本体ボタンを使う、といったやり方だ)、他社製品で本体ボタンによるスキャン開始の操作に慣れているユーザーは、感覚的にかなり違うので、注意した方がよさそうだ。

●カラーモードがグレー以下のモードよりも高速?

 では、速度や容量をざっとチェックしていこう。テストに使用する原稿は、「DOS/V Power Report」2012年9月号の表紙を除く冒頭100ページを裁断したものだ。なお以下2つのテストはいずれも「PDF、サイズ自動、傾き補正あり、白紙除去あり、OCRなし」という条件で固定している。また本製品については「裏写り除去/地色除去」をオンにしている。

 まず最初に、解像度をもっとも利用頻度が高いと思われる「300dpi」に設定した上で、カラーモードを変えてスキャンし、所要時間とファイルサイズを比較する。なお、ScanSnap S1500のグレーモードは本製品の256階調グレーに相当するので、この表ではグレーの項ではなく256階調グレーの項に測定結果を記載している。

【表1】
色数1677万色カラー256階調グレーグレー白黒
所要時間とファイルサイズ所要時間ファイルサイズ所要時間ファイルサイズ所要時間ファイルサイズ所要時間ファイルサイズ
ADS-20002分52秒126.6MB3分55秒117.4MB3分41秒84.6MB3分39秒17.2MB
ScanSnap S15003分12秒91.6MB3分08秒81.5MB--2分29秒17.1MB
【表2】
色数1677万色カラー256階調グレーグレー白黒
ADS-2000
ScanSnap S1500 

 この結果で面白いのは、データ量がいちばん多いカラーモードがもっとも高速であることだ。実際にスキャンしていても、このカラーモードだけは紙が取り込まれていくスピードが、ほかの3つのモードよりも速い。すべての設定値で同様の傾向を示すかは不明だが、別の単行本サイズの原稿でテストした際も同じ傾向だったので、計測ミスというわけではなさそうだ。

 なお、1枚あたりの所要時間は3.4秒、分あたりに換算すると17.4枚となる。毎分24枚というメーカー公称値にはやや及ばないが、これは今回のテストがスキャンボタンを押してからPDFが表示されるまでの値であり、ソフトの処理時間を含まないメーカーの測定条件と異なるためだと思われる。

 一方、同一条件でスキャンしたScanSnap S1500と比較すると、カラーモードでこそ本製品の方が高速だが、ほかのモードではScanSnap S1500の方が高速だ。また、ファイルサイズについては、ScanSnap S1500の方がカラーおよび256階調グレーで3割ほど小さい。カラーでの読取速度を除けば、ScanSnap S1500の方が(画質面の評価は別にして)優秀ということになる。

 画質については、ScanSnap S1500に比べるとやや彩度が高く、また黒がくっきりとしている。細部はややソフトフォーカス気味で、ScanSnap S1500がもともとシャープネスがかっていることを差し引いても、もう少しシャープ寄りであって欲しい感はあるが、ページ原寸大で見るとそれほど気になるわけではない。傾向がわかるサンプルを以下に掲載する。

ADS-2000ScanSnap S1500
本製品(左)の方があきらかに彩度が高い。ベタ面のざらつきも気になる
こちらもやはり本製品(左)の方が彩度が高いが、さきほどの画像に比べるとやや控えめ。また基盤のディティールなどはあまり差を感じない
本製品(左)の彩度の高さが一目瞭然だが、ScanSnap S1500(右)はむしろオリジナルに対して彩度が低いので、どっちもどっちである。本製品は文字のぼけ具合も気になる
こちらも彩度の違いが顕著。背景に色がついていると黒字が太る傾向にあるようだ。本製品(左)はグラデーションがざらつき気味なのもやや気になる

 続いて、色数を1,677万色カラーに固定した上で、代表的な解像度(150/300/600dpi)ごとに所要時間とファイルサイズを比較したのが次の表だ。

【表3】
解像度150dpi300dpi600dpi
所要時間とファイルサイズ所要時間ファイルサイズ所要時間ファイルサイズ所要時間ファイルサイズ
ADS-20002分33秒48.2MB2分52秒126.6MB9分48秒394.0MB
ScanSnap S15002分32秒28.8MB3分12秒91.6MB10分07秒355.4MB
【表4】
色数150dpi300dpi600dpi
ADS-2000
ScanSnap S1500

 いずれの解像度でも、本製品とScanSnap S1500のスキャンの所要時間は最大10%程度の違いしかない。一方でファイルサイズはどの解像度でもScanSnap S1500の方が小さく、なかでも150dpiではScanSnap S1500の方が約40%も小さくなるという結果が得られた。先の結果とあわせて見ると、やはりファイルサイズについてはScanSnap S1500が有利なようだ。

 ちなみに600dpiを超えると所要時間が大幅に伸びるのは両製品とも同じなのだが、ScanSnap S1500では紙送りのスピードが低下するのに対して、本製品では紙送りのスピードは変わらず、その分PC側での処理に時間がかかるなど、両者で挙動がまったく違っているのは面白い。

1,200dpiカラーでスキャンしようとしたところ、開始直後にエラーが発生した

 ところで本製品では1,200dpiという高解像度にも対応しているのだが、今回の条件でスキャンを試みたところ、開始直後にメモリ不足のエラーが表示され、スキャンを完了させることができなかった。今回測定に使ったPCが、CPUはCore 2 Duo E6420/2.13GHz、メモリ4GBというVista時代のPCにWindows 7を載せたものであり、ハードがやや古いことが影響していると思われるが、600dpiでは問題なく使えており、裏を返せば1,200dpiのスキャンではPC側にも高いスペックが求められるということだ。1,200dpiで利用することを前提に本製品の購入を検討しているユーザーは、こうした点は注意した方がよさそうだ。

 参考までに、1,200dpiのまま色数を256階調グレーに切り替えてスキャンしたところ、所要時間およびファイルサイズとも、600dpiカラーの倍以上の値となった(所要時間24分14秒、ファイルサイズ859.8MB)。さすがに今回のように50枚もの大量の原稿を1,200dpiでスキャンするケースは少ないと思われるが、参考にしていただきたい。

●「余白と影」および「ゆがみ」が気になるスキャン結果

 さて、ここまでは文字や写真、図表などにおける画質や色味の違いを紹介したが、実はこれとは別に大きく気になる点が2つある。

 まず1つは、読み取った原稿の上下、場合によっては左右にも、まるで枠があるかのように余白がつき、その境目に影がつくこと。明るさやコントラストを調整しても、この余白はほとんど変化がない。以下の拡大画像をご覧いただくと一目瞭然だ。なお、端の状態が分かりやすいよう、Acrobat上で表示した状態でキャプチャしている。

左が本製品、右がScanSnap S1500で読み取った画像を、左上を原点として拡大したもの。本製品で読み取った画像は、上端と左端に余白および影がついてしまっている
左が本製品、右がScanSnap S1500で読み取った表紙画像。全体に色がついているため余白の存在が一目瞭然だ。余談だが、この画像のように赤は彩度が低めに出ることが多い

 本件についてメーカーに質問したところ「お客様の原稿を絶対に切らないようなスキャン範囲設定を心がけて」いるが故の仕様である、との説明を受けた。つまり四隅が切れてしまうくらいなら、多少余白があってもいいという考え方だ。なるほどそれは納得できるのだが、用途に応じてオン/オフできるオプションは欲しいところだし、そもそも余白ができることと影がつくことは別問題だろう。背景が白のページならともかく、自炊本のカラー表紙の上下左右に余白と影が入るのは、ちょっと耐え難い。

 もう1つ気になるのは、画像のゆがみが発生しやすいことだ。何種類かの原稿を本製品およびScanSnapとでスキャンして比較してみたのだが、紙がまっすぐ送られず、画像がゆがむケースが何度も見られた。最初から最後まで同じ傾きのままスキャンされるのならまだ斜行補正で直せるし、いざとなればスキャン完了後に画像編集ソフトで修正も可能だが、途中からカーブを描くように斜行されると修正しようがない。

さきほどと同じ画像だが、よく見ると全体的に傾いているだけではなく、下に行くほどカーブを描くように左に曲がっているのが分かる。ちなみにこれでも傾き補正はオンの状態傾き補正が正しく働いていないのかと思いオフにしてみたところ、さらに傾きがひどくなった例。ただしカーブはさきほどより緩和されている
別の原稿で試したところ。左が本製品、右がScanSnap S1500。全体的に傾いている上に、下に行くほどカーブしている(さきほどとは逆に右寄りに曲がっている)。一方ScanSnap S1500(右)ではこうした問題は発生しない

 試した限りでは、読取枚数が1枚、かつ厚みがある場合にこの症状が多発するようなので、後ろに何枚か余分な原稿をつけておいて読取完了後に削除することにより、ゆがみを緩和できなくはないのだが、それは製品として正しいあり方ではないだろう。本の自炊では表紙やカバーだけを単独でスキャンすることもしばしばだが、こうした原稿に限って曲がっていくので、サムネイルが不揃いになってしまう。さきの余白の問題と合わせて、あまり自炊に向いた製品ではないと感じる。

 と、クリティカルな問題点を2つ挙げたが、自炊で多用する256階調グレーではクセもなく、きわめて良好なスキャン結果が得られる。筆者がScanSnap S1500で使う設定値(300dpi、サイズ自動、傾き補正あり、白紙除去あり、OCRなし)でスキャンを行なったが、むしろScanSnap S1500に比べると黒がしっかりと出るので、絵的にはScanSnap S1500よりこちらが好みという人も多そうだ。それだけに、さきの余白と影の問題、およびゆがみの発生が、なんとも惜しいというのが率直な感想だ。

ADS-2000ScanSnap S1500
本製品(左)は、裏写り除去をオンにしているにもかかわらず、同等機能を持たないScanSnap S1500(右)よりも裏写りが目立つ。グレーバックだと機能しにくいようだ
コントラストは本製品(左)の方がはっきりしており、黒もきちんと黒として出力される
こちらも濃淡に差が出ている。細部のディティールはほぼ同等
テキスト中心のページ。濃淡に若干差があるがこちらもほぼ同等といっていいだろう
アップで表示したところ。本製品(左)の方がややシャープネスがかっているように見えるのは濃淡の差によるものだろうか

●紙詰まりやプレビュー表示に見られる「不親切さ」

 このほか、使っていて気になった点をいくつか挙げておきたい。

 1つは紙詰まり時の挙動だ。ちょうど手元にあった水道料金の明細の束をスキャンしてみたところ、数枚もたたないうちに紙詰まりが発生した。それもまるごとローラー内に巻き込まれて詰まってしまうという、かなり重症の紙詰まりである。

ローラーに詰まった明細(中央赤点線内)。手に持っているのは詰まったものと同じ長さの明細。完全に巻き込まれてしまっている詰まった原稿を取り出してシワを伸ばしたところ。ちなみにその後ScanSnapでまったく問題なく読み取れた

 この原稿を始めとする感熱紙は、紙自体が薄いこと、また先頭と終端がミシン目に沿ってちぎられており断面が不均一なことから、ドキュメントスキャナが苦手とする用紙ではある。しかしScanSnapではせいぜい2枚が同時に送られてしまって重送エラーが出るか、あるいは1枚目を読み取っている最中に2枚目も巻き込まれてしまってサイズエラーが出るかのいずれかであり、どちらの場合も早いタイミングで停止するのでそれほど大きな問題にはならない。

 しかし本製品の場合は、紙が完全に巻き込まれてもしばらくモーターが回り続け、本体を強制的に開いてようやく停止した。薄い紙に弱いのは仕方ないとしても、早めに検出して巻き込みをストップしてくれるようでないと、貴重なデータを扱うのはためらわれる。付属のキャリアシートを使えばよいのかもしれないが、他のドキュメントスキャナではそのままで扱える場合が多いだけに、わずらわしく感じてしまう。

明細のスキャン結果。縦長の原稿の左右に大きな余白がついてしまっている。このサイズの用紙で常時発生するわけではなく、今回は32枚テストしたうち20枚は適切なサイズに切り抜かれ、残り12枚でこのような余白が発生した

 さらに、これは前回レビューしたエプソンの「ES-D350」にも見られた症状だが、用紙サイズの自動検出がうまく働かず、本来の原稿サイズよりも大きなサイズで保存されてしまうことがよくある。さきの「原稿を絶対に切らない」という設計思想からすると方向性にブレはないのだが、縦に長い原稿が、正方形に近いエリアの中央にポツンと位置するような形で保存され、しかもそれがランダムに発生するというのはストレスだ。

 また、さまざまな利用シーンを想定したテストが不完全に思える挙動もみられる。例えばJPGでスキャンする場合、使用するアプリケーションに「Windows フォトビューアー」を指定すると、全ページをWindows フォトビューアーでプレビューしようとするので、本1冊分をまとめてJPGでスキャンすると200~300ものウィンドウを同時に立ち上げようとし、PCがハングアップしてしまう。自炊用途ではPDFではなくJPGでスキャンすることはよくあるだけに(筆者は現状すべてZIP圧縮JPGに統一している)、注意が必要だ。

 実はこの問題は、プリセットされている設定から「ファイル」ではなく「イメージ」を選んでJPGを指定した場合にのみ発生する。「ファイル」を選んだ場合は「使用するアプリケーション」の項目は表示されず、かわりに「保存先フォルダーを開く」という項目が表示されるので、こうした問題は起こらない。つまり「ファイル」、「イメージ」のどちらでもJPGが選べてしまうが故に起こる問題ということになる。仕様の意図は不明だが、複数枚のプレビューが出る時はアラートを出すなり、「使用するアプリケーション」で「使用しない」という選択肢を設けるなり、「イメージ」からはJPGを選べなくするなり、なんらかの改善は必要だろう。

スキャンの際「イメージ」画面からJPGを選択してスキャンすると、完了後にすべてのファイルをプレビューしようとするので、対応ソフト(ここではWindows フォトビューアー)が大量に立ち上がる。ハングアップは必至だ「イメージ」画面からJPGを選択すると、「使用するアプリケーション」に必ず何らかのソフトを指定しなくてはならず、こうした症状が発生しがち「ファイル」画面からJPGを選択すると、「使用するアプリケーション」の代わりに「保存先フォルダーを開く」が表示されるので、同時に大量のプレビューが起動する問題は発生しない

 また、スキャン品質とは直接関係がないが、本製品を使っていてかなり気になるのが、本製品の発する「騒音」だ。動画でもある程度お分かりいただけるかと思うが、音はうるさく、しかもかなり甲高い。モーターの駆動音がかなりのもので、隣室にも響くので、夜間の作業がためらわれる。

 ちなみに本稿執筆時点では未実装となっているが、本製品には「静音モード」が用意されるという(すでに説明書には設定方法まで記載されている)。しかしながらこのモードでスキャンすると、読取速度が毎分24枚から12枚に半減するとのことで、読取速度が他社製品に大きく水を開けられる結果となる。現状では静音モードにどの程度の効果があるかは不明だが、物理的なスイッチではないこともあり、通常はオフ、夜中にオンと気軽に切り替えるには難がありそうだ。

【動画】10枚20ページの原稿をスキャンしている様子。騒音がかなり耳につきやすい

●本体に接続したUSBメモリやAndroid端末にデータを直接転送可能

 本製品独自の機能である「スキャン to USB」と「スキャン to Android」機能についても触れておこう。

 これは本体側面のUSBポートに、USBメモリ、およびAndroid端末を有線接続することにより、スキャンしたデータを直接転送できる機能だ。この場合、PCとつながっている必要はなく、スタンドアロンな状態で使用できるので、小規模なオフィスなどで本製品だけが離れた場所に設置されているケースや、PC側にデータをいっさい残したくない場合などに有効だろう。

「スキャン to USB」では、本体側面に接続したUSBメモリに、スキャンデータを直接保存できる「スキャン to Android」も同様で、ケーブル接続したAndroidデバイスにスキャンデータを直接保存できる。なお、この写真では専用アプリ「Brother Image Viewer」を起動しているが、特に起動しなくても取り込みは可能「スキャン to USB」の設定画面。本機能はPCレスで使用するため、スキャン時のパラメータは本体側に保存されている値を使用する。この値はPCからリモートでセットアップを行わなくてはならず、少々ちぐはぐな感はある

 察しのいい方はお分かりかと思うが、これは要するにUSBマスストレージに対応してさえいればどんなデバイスにでも保存できる、という機能である。唯一Androidの場合は、取り込んだデータを閲覧するビューア「Brother Image Viewer」までセットになっている点が異なる。USBメモリは直接プレビューする機能はないので、PCにつなぐまではスキャンした内容を見ることができない。

 また、これらのスキャン実行は本体側のボタンで操作するのだが(PCが接続されていないので当然といえば当然だ)、この際の読取設定は、本稿前半で紹介した「スキャン to PC」と同様、あらかじめPC側で設定しておく必要がある。複数の読取設定を用意しておいて、本体側で切り替えて使うことはできず、1つの設定を書き換える形になる。実質的には、利用頻度の高い1つの設定に固定して使うことになるだろう。

 ちなみに今回試用した限りでは、Android端末(Xperia acro HD)への直接書き出しはできたものの、保存先のパスが認識できなかったのか、専用アプリ「Brother Image Viewer」でのプレビューができなかった。もっとも、スキャンデータのフォーマットは一般的なJPGやPDFなので、とくに専用アプリを使わなくとも、関連付けられたアプリで参照できる。

●現時点での最大のメリットは価格か

 以上ざっと見てきたが、ポテンシャルは高いものの、完成度はまだまだというのが現時点での評価だ。中でも個人的に気になるのは、スキャン時の「余白」と「ゆがみ」、そして「騒音」の3つだろうか。もっとも、同社のドキュメントスキャナとしては本製品はまだ初号機である。これから先の改善および機能追加に期待したい。

 現状で目立つのは性能や付加機能より、むしろ価格だろう。PDF編集ソフトがAdobe AcrobatではなくNuance PDF Converter Professional 7だったりという違いはあるが、家電量販店店頭での実売価格ベースではScanSnap S1500よりも1万円近く安い場合も見られる。こうしたリーズナブルさに魅力を感じる人もいそうだ。

 ただ、USBメモリやAndroidへの直接出力といった付加機能はさておき、このクラスでトップシェアであるScanSnap S1500と比較した際、あまり際立った性能差がないのも事実だ。前回紹介したエプソンのES-D350のように同時にセット可能な原稿枚数が極端に多かったり、あるいは読取速度が圧倒的に速いといった、わかりやすい違いはない。クラウド対応の上位機種「ADS-2500W」に比べ、普及帯のモデルである本製品の方が台数は多く出るはずであり、次以降のモデルでは他社製品と比べて「ここが圧倒的に有利!」という、尖った部分をぜひ見たいところだ。

(2012年 8月 31日)

[Reported by 山口 真弘]