前編ではハードウェアおよびアクセサリ、さらに基本的になインターフェイス周りを中心に紹介した。後編となる今回は、連携ソフトである「eBook Transfer for Reader」による「Reader Store」との連携や、手持ちのPDFファイルを用いたビューアとしての使い勝手を見ていきたい。
なお前編と同様、とくに注記のない限り、6型の「Touch Edition」(PRS-650)を前提に説明する。5型の「Pocket Edition」(PRS-350)はサイズの相違だけではなく、メモリカードに対応しないなどの機能差があるので、適宜読み替えていただきたい。
●電子書籍ストア「Reader Store」は質、量ともに充実が不可欠まず、本製品と連携する電子書籍ストア「Reader Store」について見ていこう。
Kindle Store。本稿執筆時点で取扱冊数は75万冊。購入後60秒以内に読み始められることをセールスポイントにしている |
Kindleを例に出すまでもなく、電子書籍端末が一定の支持を得るためには電子書籍コンテンツの充実が欠かせない。例えばKindle Storeは、オープン当初こそ9万冊というラインナップだったが、本稿執筆時点で75万冊にまで膨れ上がっている。一口に何万冊と言っても実感が沸きにくいが、国内で大型と言われる書店は数十万冊の品揃えがあることが普通で、例えば八重洲ブックセンター本店やジュンク堂書店池袋本店といった超大型店では、およそ150万冊の本があると言われている。電子書籍サイトと実際の書店を同列に比較できない面はあるものの、だいたいどのくらいあれば選ぶのに不自由しないのか、選ぶ楽しさがあるかは、お分かりいただけるのではないかと思う。
さて本題。今回本製品の発売に合わせてオープンした「Reader Store」は、発表時点では2万冊のラインナップを取り揃えるとしていた。しかし実際にはこの冊数を大きく割り込み、本稿を執筆している12月19日時点で各ジャンルに表示される冊数を足していくと、合計で10,536冊となる。つい先日、電子書店パピレスの約15,000冊がReaderに対応したとのニュースがあったが、これは別途購入したXMDFコンテンツを転送すれば表示できるという意味であり、タイトルの重複もあることを考えると、単純に加算してよいかは微妙だ。実際にストアをざっと見ても、やはり現状では数うんぬんより質の面で品揃えがイマイチな感が強い。同社によると、本製品のユーザー層は「1カ月に3~10冊以上読む“読書好き”」とのことで、筆者はまさにこの層に入るわけだが、いざ「Reader Store」で本を探しても、読みたいと思えるタイトルがなかなか見つからない。旅行や出張先で持参した本を読み尽くしてしまい、駅前の小さな本屋に飛び込んだものの、いまいちピンと来る本がなく途方に暮れるという、あの感覚によく似ている。
業界の関係者から取材などで話を聞いていると、出版社がコンテンツを出してくれず苦労しているという話が漏れ伝わってくるのだが、そうした事情は利用者からするとあまり関係がない。既存の本をオンラインで購入して読むことを目的に本製品の購入を検討しているユーザーは、もうしばらく様子見でよいかもしれない。シャープのGALAPAGOSにも言えることだが、2万冊や3万冊あればそれでオーケーというものではない。Kindle Storeが3年かけて取扱点数を9万冊から75万冊に増やしたように、本を探す楽しみを提供してくれるストアが出てきてほしいと切に願う。
●購入フローは分かりやすいが、検索性に難あり
冒頭から苦言を呈する形になったが、「Reader Store」における実際の購入手順について、ざっと見ていこう。
連携ソフト「eBook Transfer for Reader」がインストールされた状態で、ブラウザから「Reader Store」にアクセス。ジャンルや著者といった分類、もしくは特集やランキングの中から好きな本を選んでカートに投入。My Sony IDを使ってログインし、クレジットカードを使って購入手続きを行なう。決済が完了するとダウンロードが可能になるのでPCに保存したのち「eBook Transfer for Reader」で開けばReaderへの転送が完了する。余計なステップがゼロというわけではないが、購入フローはAmazonなどとよく似ており、わかりづらいというわけではない。1回試せばすぐ慣れるレベルだ。
購入したタイトルはマイドキュメント内にも保存され、このようにサムネイル表示などが行なえる | ちなみに購入したタイトルをPC上で読むことはできない。また本転送ソフトはWindows専用であり、Mac版は今のところ用意されていない。海外ではMac用の転送ソフトが提供されていることを考えると技術的に難しいわけではなく、XMDF絡みの問題かと推測される |
「全ジャンル一覧」を選ぶと小分類がずらりと表示されるが、執筆時にはテキストで記述してあるだけでリンクが張られていなかった。現在はリンクが追加され直接ジャンプできる |
ただし、コンテンツは探しにくい。例えば「文学」というジャンルの中には、小説、ミステリー/推理/サスペンス、ホラー/怪奇、SF/ファンタジーなどといった小分類があるのだが、この小分類に直接アクセスすることができないので、現状では「文学」に属する全6,980件を、20件区切りで見ていくしかない。実は「全ジャンル一覧」というリンクをクリックすると前述の小分類まできちんと一覧表示されるのだが、リンクが張られていないので役に立たない。
【12月22日追記】ジャンル一覧ページの小分類にリンクが足されました。
また、各ジャンル内での本の並び順は書籍名順、著者順、新着順それぞれについて昇順と降順を切り替えて表示できるのだが、ここでいう新着順は電子書籍タイトルとしての新着順であり、底本の発行年月とは関係がないので、感覚的にピンと来ない。ジャンル以外に特集やランキングもあり、検索軸を少しでも増やそうとしている様子は見て取れるのだが、あまりシズル感がなく、クリックしたくなるかというと微妙だ。それよりはリコメンド機能を搭載して各ページ内で付加情報を提供するほうが効果的な気がする。購入までのフローがそれほど悪くないだけに、少々もったいない。
Reader Storeで買ったのと同じ吉田修一氏「悪人」を、電子書店パピレスで購入してみた。価格は同じで、XMDFファイルの内容も基本的に同一。ただしこちらはダウンロード時に自動的にReaderに転送されるわけではなく、後述のPDFファイルなどと同様に、自分でコピーしてやる必要がある |
余談だが、購入フローの最後の購入確認ページでは、メールマガジンの受信がデフォルトでオンになっており、購入のたびにチェックを外さなければいけない仕様になっている。いったんチェックを外しても、別の書籍を購入しようとするとまたチェックが入った状態で確認を求められるのだ。たいへん印象が悪いので、ぜひとも改善を要望したい。
●新品と比較するとたしかに安いのだが……
では電子書籍タイトルの価格についてはどうだろうか。今回は全14ジャンルについて、各ジャンルページの「新着順/降順」で1番目に表示された本をそれぞれピックアップし、紙の本との価格を比較してみた。単行本と文庫版が存在している場合は、価格の安い文庫版を比較対象としている。
【表】書籍価格比較表ジャンル | 書名 | 著者名 | 価格 | 割引率 | |
Reader Store | 書籍 | ||||
文学 | 有頂天家族 | 森見登美彦 | 630円 | 720円 | 12.5% |
社会・経済・法律 | 奇跡のリンゴ | 石川拓治 | 1,050円 | 1,365円 | 23.1% |
語学 | スポーツで楽しむアメリカ英語 | 斎藤文彦 | 620円 | 777円 | 20.2% |
人文・教育・歴史 | 悩みのコントロール術 | 東山紘久 | 588円 | 735円 | 20.0% |
児童書 | グランマの本棚から親と子の100冊 | 山崎慶子 | 420円 | 714円 | 41.2% |
コンピュータ/デジタル機器 | パソコンお助け塾 | 深野暁雄 | 588円 | 735円 | 20.0% |
医学・福祉 | 補完代替医療入門 | 上野圭一 | 588円 | 735円 | 20.0% |
旅行記/紀行 | パレスチナ | 広河隆一 | 651円 | 819円 | 20.5% |
趣味/生活/ガイド | 実践的ライター入門 | 松枝史明 | 600円 | 945円 | 36.5% |
くらし/実用 | 手抜き家事のコツ | 阿部絢子 | 651円 | 819円 | 20.5% |
ファッション・美容 | kyoco流 美人道 | 杉山恭子 | 600円 | 1,575円 | 61.9% |
スポーツ | がんばれ!女子サッカー | 大住良之、大原智子 | 588円 | 735円 | 20.0% |
エンターテイメント | 陰日向に咲く | 劇団ひとり | 473円 | 520円 | 9.0% |
その他 | 女教師 | 団鬼六 | 630円 | 680円 | 7.4% |
今回はいずれのジャンルも、電子書籍版が紙の本に比べて7.4~61.9%安いという結果になった。実際には紙の本より高い場合もチラホラあるのだが、全体的には買いやすい値段に設定されていると感じられる。
ただ、これはあくまで「新品と比較した場合」に限られる。今回調べた14冊のうち8冊はAmazonのマーケットプレイスで100円以下、そのうち5冊は「\1」で売られていた。要するに紙の本ではすでに賞味期限が過ぎており、値崩れしているタイトルがかなりあるのだ。こうした中古品まで含めて考えると、価格面での優位性はあまりない。
これがKindleなどであれば、端末上で購入してそのままダウンロードしてすぐ読める即時性が差別化ポイントになるわけだが、ネットワーク機能を持たない本製品は、いったんPCにダウンロードしてから転送しなくてはいけないため、優位性はあまりない。もちろん紙の本を注文して手元に届くのを待つよりは断然速いのだが、これだけの価格差があると、やはり躊躇してしまう。
余談だが、Amazonマーケットプレイスのほうがはるかに安いという事実は、さまざまな見方をすることが可能だ。ある人は「中古品が市場を破壊している。古本屋はけしからん」と言うかもしれないし、またある人は「中古が出回っていない新刊書籍であればこのようなことは起こらず、Reader Storeに新刊書籍を提供していない出版社が悪い」と見るかもしれない。また「電子書籍ならではの楽しみ方を訴求できていないメーカーが悪い」と言う人もいるかもしれない。このあたりは各々の立場によって、受け取り方にかなりの差がありそうだ。
●PDFを美しく表示するには解像度の設定が重要左から、GALAXY Tab、Kindle 3、Reader Touch Edition(PRS-650)、Reader Pocket Edition(PRS-350)。GALAXY Tabはビューアに「ezPDFReader」を使用。表示しているのはうめ氏「東京トイボックス」第1巻 |
iPadのような汎用機と違い、本製品は読書専用の端末である。したがってストアから購入した電子書籍タイトルはある意味読めて当たり前である。ここではその他のファイル、具体的には独自ルートで配布および販売されているPDFデータや、裁断機とスキャナで取り込んだいわゆる「自炊」データについても見ていこう。
まずはpaperboy&co.の電子書籍作成・販売サイト「パブー」で販売されている、うめ氏の「東京トイボックス」第1巻のPDFファイルを表示したところだ(許可いただいたうめ氏/幻冬舎に感謝)。動作そのものは(もちろんE Ink的な意味で)スムーズなのだが、いかんせん縮小表示の過程でドットが間引かれてしまうようで、細かい文字がかなりかすれる。具体的に言うと、明朝体の細い横棒がかすれやすい傾向にある。ただ以前GALAXY Tabのレビューで同じページをAdobe Readerで表示した際も同じ傾向が見られたので、これだけでは原因はわかりづらい。
GALAXY Tab(左)、Kindle 3(中)、Reader Touch Edition(右)で表示した画像の拡大図。Kindle 3とReader Touch Editionは細部の字のカスレがよく似た傾向を示している。とくに明朝体の横棒が欠けやすいようだ。なお、Reader Pocket Edition(PRS-350)はほぼ同じ傾向なので割愛した |
左から、GALAXY Tab、Kindle 3、Reader Touch Edition(PRS-650)、Reader Pocket Edition(PRS-350)。表示しているのは赤松健氏の「ラブひな」第1巻 |
続いて「Jコミ」で配布されている、赤松健氏の「ラブひな」第1巻を表示させてみた(許可いただいた赤松氏に感謝)。こちらも読めないわけではないのだが、やはり縮小時にジャギーが発生してしまっており、細かい文字は読み取りづらい。余談だが、本製品はネット接続機能を持たないことから、Jコミの掲げる「広告入りマンガPDF」というビジネスモデルにそもそも合わないという問題もある。
GALAXY Tab(左)、Kindle 3(中)、Reader Touch Edition(右)で表示した画像の拡大図。こちらもやはりKindle 3とReader Touch Editionは細部の字のカスレがよく似た傾向を示している。モアレも気になる |
といった具合に、既成のファイルについては「読めなくはないがジャギーが気になる」という結論になるのだが、もし自炊などによってPDFファイルを自分で生成するのであれば、こうしたジャギーの発生を抑制する方法が2つある。1つは読み取り時に白黒モードにすること。白黒モードであればリサイズ時のジャギーが目立たないので、細かい文字でも快適に読める。またデータ容量が小さくて済むため多数のファイルを保存できるメリットもある。ただし白黒2値にするとグラデーションが全部飛んでしまうので、写真などが入っている本は向かない。
もう1つの方法は、本製品の画面サイズに合わせて最適化すること。本製品の解像度は600×800ドットだが、実際に有効なサイズは584×754ドットなので、これに合わせて画像を作ってやり、拡大縮小が発生しないようにしてやる。縦横比が異なる場合は余白を付け足すか、あるいは一方の辺を合わせる(例えば縦長の画像であれば縦を754ドットに合わせる)。これによってドットバイドットで表示され、ジャギーの発生を抑止できるというわけだ。言うまでもないが、白黒モードでは飛んでしまっていたグラデーションも問題なく表示される。
さきほどのPDFデータから画像をJPGで書き出してリサイズし、それを再度PDFに変換したもの。左から順に、1,469×2,234ドット、526×800ドット、496×754ドット、421×640ドット。有効表示サイズに合わせた高さ754ドットの画像(この例では496×754ドット)がジャギーも発生しておらず、明らかに見やすい |
ただ、いずれの場合もそうなのだが、同じファイルをiPadで読もうとした場合、解像度を落としているためかなり汚く表示されてしまう。これを回避したければ、オリジナルのJPGファイルは別途保存しておき、「ChainLP」などの外部ツールで本製品向けに最適化したJPGファイルを作成、そこからPDFを別途生成するほうがよい(残念ながらZIP圧縮JPGには対応しないので、PDFへの再変換が必要)。これらの手間を許容できるのであれば、自炊データのビューアとしての本製品は合格となるだろうし、そうでなければちょっと見送り、ということになりそうだ。
●余白カット機能はPDFでは使いづらい手持ちのPDFデータについて検証してきたが、その過程で気づいた点をいくつか補足しておきたい。
Kindle(左)ではページの余白は白だが、本製品(右)ではグレー。新書など縦長のページを表示するとグレー部分の面積が広くなり、かなり目障りだ |
やや難があると感じるのは、手持ちのPDFデータを表示する際、ページ左右の余白の背景がグレーで表示されることだ。Kindleであれば余白は白なのでページと地続きで表示されるのだが、本製品のそれはグレーであるが故にページとの境目がはっきりしており、見た目に圧迫感がある。余白がグレーというのはiBooksもそうなのだが、いかにも画面の上にページを乗せましたという体裁になり、読書に集中しづらくなる。ぜひとも白に変更してほしいと思う。
前編で「便利な機能」として紹介した余白カット機能だが、自炊データに対して用いる場合はあまりおすすめできない。理由はここまで述べてきたように、データの拡大縮小によってジャギーが発生する原因になるからだ。XMDFファイルなどに対してのみ利用価値がある機能、とみたほうがよいだろう。また同様に、濃淡を調整できる「画質の調整」機能についても、あまり好ましい結果は得られない。というのも「濃い」にすると、背景色も含めて濃くなってしまうのだ。このあたりはKindle 3のほうが明らかにインテリジェントだ。
SDカード経由でコンテンツを読み込ませると、SDカードの「SONY READER」というフォルダ内に表紙画像のサムネイルが作成される。JPGの場合は1枚ごとにサムネイルが作成されるので、その間ハングアップしたかのようになってしまう |
PDFデータの転送はメモリカード経由、USBマスストレージとして認識させた上でのコピーなど多彩だが、ファイル転送時にサムネイルが作成されるため、ファイルの種類によってはとてつもない時間がかかるので注意したい。例えば今回は、自炊データを中心に、合計272個、13.8GBのデータをSDカードから読み込ませたのだが、ものの10秒ほどでもとのメニュー画面に復帰した。これはとくに問題ないのだが、別の機会に何百枚もの写真が入ったSDカードをうっかり差し込んだ際は、サムネイルの生成だけで十数分かかり、その間ハングアップしたかのような状態になってしまった。レアケースではあると思うが、手持ちのSDカードを使い回す際は注意したほうがよさそうだ。
透明化テキストを埋め込んだPDFはマーカーを引くことができる。見た目には透明化テキストが埋め込まれていても区別がつかないので、ちょっと不思議な感覚ではある |
あと、OCR処理で透明化テキストを埋め込んだPDFは、本製品のマーカー機能などを利用できる。検索も可能になるので、手持ちのPDFでもこうした機能を使いたいと考えているユーザーにとっては便利だろう。
●ハードはすでに合格点、ソフトとサービスの進化に期待
本製品の発売イベントでは、同社担当者が本製品について「自炊派に人気」と語ったそうである。通信機能がないこと、またReader Storeでの取扱点数の少なさを意識しての発言だったかは不明だが、先の解像度によるジャギーの問題さえクリアできれば、自炊データのビューアとしての利用は、極めて現実的な選択肢ではないかと思う。あとはファイル数が増えてきた時のために、一覧画面における1ページあたりのファイル表示数を増やしてくれれば、そこそこ実用に足りうると感じる。
細かい作り込みやコンテンツ数など、まだまだ課題は多いが、かつての「LIBRIe」のように書籍がレンタル方式だったり、PDFに対応しないといったこともなく、ユーザーの使い方を意識した製品に仕上がりつつあると感じる。なかでもハードウェアとしてはすでに一定の水準に達していると感じられるだけに、今後ソフトウェアやサービスの改良により、どのように進化していくのか注目したい。
(2010年 12月 22日)
[Reported by 山口 真弘]