特集
Windows版の新しい「3DMark」を試す
~低価格PCも視野に入れた3Dベンチマークの新基準
(2013/2/5 11:54)
フィンランドFuturemarkは5日、新しい3Dベンチマークスイート「3DMark」を予告通りにリリースした。PC Watchでは早速プログラムをダウンロードし、4つのシステムで実施した結果をお届けする。
3DMarkシリーズは、Remedy Entertainmentが手がけた「Final Reality」を起源とする3Dベンチマークソフト。DirectXバージョンの進化とともにリリースを重ね、これまでに「3DMark99」、「3DMark2000」、「3DMark2001」、「3DMark03」、「3DMark05」、「3DMark06」、「3DMark Vantage」、「3DMark11」という8つのバージョンをリリース。今回が9番目メジャーバージョンとなる。
これまでは年号などがサフィックスとして3DMarkの後に付く形の“製品名”だったが、今回リリースされたのはそういったサフィックスがなくなり、製品名として純粋に「3DMark」のみとなった。理由は不明だが、マルチプラットフォーム対応化でリニューアルするとともに、いわゆる「iPad」や「iPod」と同様に、シンプルなブランドを前面押し出すためかもしれない。
今回2月5日に公開されたのはWindows版のみだが、Android、iOS、Windows RT端末向けにもリリースを予定しており、これらは各マーケットでのテストが済み次第公開になるとしている。
そのWindows向けバージョンでは、3つのSKUが用意される。1つ目が無料の「Basic Edition」で、3つのテストシーンを全部走らせるモードのみが用意され、結果の表示もオンラインのみとなる。
2つ目が24.99ドルの「Advanced Edition」で、3つのテストシーンを個々に実施できるほか、最も重いシーン「Fire Strike」で“Extreme”プリセットが利用できるようになる。このほか、ループ機能やオフラインの結果保存機能などを搭載する。
最上位の「Professional Edition」は995ドル。商用利用が可能になるほか、コマンドラインによる自動化やイメージテストツール、プライベートのオフライン結果表示や、結果のXMLファイルへのエクスポート機能などを搭載する。
なお、Advanced Editionは現在、直販の「Futuremark store」とオンラインゲームプラットフォーム「Steam」で25%オフセールを実施中。また、MSIとGalaxyがスポンサーになっていることもあり(テストシーンの一部でロゴが表示される)、一部マザーボードやビデオカードにシリアルが無料で添付されるようである(日本での販売は未定)。
実行できる最小PC環境は、1.8GHz駆動でデュアルコアのIntelまたはAMD CPU、メモリ2GB、DirectX 9以降のビデオカード、OSにWindows Vista、3GB以上のストレージ空き容量となっており、推奨PC環境はWindows 7/8、メモリ4GB、DirectX 11対応で1GB以上のビデオメモリを備えたビデオカードとなっている。
今後公開される予定のAndroid版は、Android 3.1以降で、1GBのメモリを搭載し、OpenGL ES 2.0互換のグラフィックスを備えた機種、同様にiOS版はiPhone 4/iPad 2/iPod Touch(第5世代)以降でのみ実施できる。いずれも空き容量は300MB必要とされている。
シンプルで使いやすいUI
それではまずUIとテストシーンについて解説する。今回は「3DMark Professional Edition」の画面キャプチャを用意した。
メイン画面は「WELCOME」、「TESTS」、「CUSTOM」、「PROFESSIONAL」、「RESULTS」、「HELP」の6つのタブに分かれており、初心者でも容易に扱えるベンチマークスイートとなっている。
WELCOMEのタブで全テストを実施できるボタンが用意されているほか、Basic EditionではAdvanced Editionへのアップグレードのページへのリンク、そしてシリアルを入力する欄も用意されている。シリアルを入力しProfessional Editionへアップグレードするとその欄が消え、全テストを実施するボタンのみになる。なお、先述の通りBasic Editionで使えるベンチマーク機能はこのタブにある全テストの実施のみで、後述するTESTS、CUSTOM、PROFESSIONALタブは選択できるものの、項目がすべてグレイアウトするため、説明を割愛する。
TESTのタブでは、実施するテストを個別に選択できる。Fire StrikeのExtremeオプションもこのタブから選択する。また実施する際は、デモを実施するかどうかも選択できる。CUSTOMのタブでは、解像度やループ、トリプルバッファを始め、テクスチャフィルタリングのモードやアンチエイリアス、シャドウマップサイズなど、さらに詳細を選択できるようになっている。
PROFESSIONALのタブはProfessional Editionのみの機能で、テスト中のレンダリング画像をビットマップで保存できる。異なるビデオカードやドライバ間での3Dイメージの違いがわかるわけだ。
RESULTSのタブでは、各テストの結果が数値化して表示される。また、各テストにおいてのフレームレートが表示されるほか、温度を取得できるシステムであれば、CPUとGPUの温度も取得できるようである。
HELPのタブでは、現在Advanced EditionやProfessional Editionのライセンス情報やバージョン情報が表示されるほか、オンラインサポートへのリンクも用意される。それ以外にも、SystemInfoツールを実施するかどうか、GPUをいくつまで数えるかといった設定が可能である。
“ハードルが下がった”テスト項目
それではそれぞれの3Dシーンについて解説して行く。新しい3DMarkでは、モバイル/エントリーシステム向けの「Ice Storm」、メインストリーム向けの「Cloud Gate」、ハイパフォーマンスゲーミングPC向けの「Fire Strike」という3つのテストシーンが用意される。
3DMark11などでは、「Entry」、「Performace」、「High」、「Extreme」といった、解像度やテクスチャ品質の“プリセット”を用意し、共通のシーンで画質などを変更することで異なる性能のシステムに対応させてきたが、新しい3DMarkではシステムの性能に合わせてシーンを明確に切り分けることで、シンプルな操作で適正なスコアが算出できるよう配慮されている。
「Ice Storm」は最も軽いベンチマークシーンで、タブレットや軽量ポータブルノートPC向けとしている。DirectX 11のエンジンを利用しているものの、使われている機能をDirect3D level 9に抑えており、DirectX 9互換のハードウェアでも利用できるとしている
シーンは、3DMark Vantageの「New Calico」の続編を彷彿とさせるような内容で、宇宙船同士の侵略と防衛を描いたものである。DirectX 9相当の描画ということもあり、動作自体は非常に軽快で、詳しくは後述するが、AMD E-450を搭載したシステムでもそれなりに動作する印象だ。
Graphics test 1では53万の頂点で約18万トライアングルがレンダリングされ、1フレーム当たり470万のピクセルが処理されるという。Graphics test 2ではモーションブラーなどのエフェクトがかかり、ピクセル処理が1フレームあたり1,260万に増加するが、トライアングル数は75,000に減る。
「Cloud Gate」はメインストリーム向けのベンチマークシーンで、A4サイズでディスクリートGPUを搭載するようなノートPCや、1万円台後半~2万円台半ばのビデオカードを搭載するシステム向けとなっている。こちらもDirectX 11のエンジンを利用して描画されるが、使われている機能をDirect3D level 10に抑えており、DirectX 10互換のハードウェアでも利用できるという。
シーンは、霧がかかった上空で、宇宙船がワープゲートのような飛行物体を利用して移動することをモチーフとしたもの。パッと見た感じでは直線が多く「いかにも3Dでモデリングしました」といった雰囲気だが、霧のような柔らかい表現やあふれだす光など、ピクセル処理が多く使われているようである。
実際にIce Stormと比較すると、多めのジオメトリ処理や重いポストプロセッシングが付加されており、ボリューメトリックイルミネーションなどの手法も用いられる。またCPUにはソフト/リジッドボディの物理シミュレーションなどが加わり、CPU/GPU両方の性能が要求される。
Graphics test 1では1フレームあたり110万トライアングルと1,800万ピクセルが処理される。Graphics test 2ではシェーダーの演算負荷が向上するものの、ジオメトリ処理は69万トライアングルに軽減される。
最後に「Fire Strike」だが、こちらは3DMark11の正当後継とも呼べる唯一のシーンで、DirectX11のテッセレーション処理やボリューメトリックイルミネーション、スモークシミュレーションなど、複雑な処理が用いられている。
シーンは、未来都市とマグマが流れる地下の狭間で、3Dモデリングされた人型のキャラクターが剣で戦うもの。テッセレーション処理によるキャラクターの細かさはもちろんのこと、時折マグマの熱で歪む画面や、クラゲのようにひらひらと舞う周囲のオブジェクトも必見である。
また、このFire Strikeのみ「Extreme」のプリセットが用意されているが、こちらはマルチGPUや将来のGPUを想定した、負荷が非常に高いものとなっている。
Graphics test 1は1フレームあたり510万トライアングルと8,000万ピクセルが処理される。一方Graphics test 2はそれぞれ580万トライアングルと1億7,000万ピクセルが処理され、非常に高負荷なテストであることがわかる。このほかにも、100のシャドウキャスティングスポットライト、140のノンシャドウキャスティングポイントライトなど、多くのライティング技術が用いられている。
なお、Ice StormとCloud Gateの標準プリセットでは解像度が1,280×720ドットとなっており、近年のノートPCで一般的な解像度である1,366×768ドットでも実施できるような配慮が見られる。一方Fire Strikeは標準プリセットで1,920×1,080ドット(フルHD)となっており、Extremeプリセットでは2,560×1,440ドットとなっている。ただし、1,366×768ドットの液晶でも実行でき、その時のスコアはあくまでも参考スコアとなる。
以上のようにシーンは3つのみだが、Ice StormがDirectX 9、Cloud GateがDirectX 10ベースのハードウェアでも実施できるあたり、DirectX 11“のみ”に対応した3DMark11からは、実施できるハードウェアのハードルが大きく下がった印象だ(もっとも3DMark11は名は体を表すものだったわけだが)。
また、DirectX 11に対応していても“実質DirectX 11対応タイトルが実用的な速度で遊べるレベルではない”と思われるミドルレンジ以下のGPUに対して、スコアを正当化する意味も強い(これらのGPUを購入する人は、DirectX 9や10ベースのゲームを遊ぶ可能性も大いにあるため)。これは歓迎すべき仕様変更だ。
もっとも、今後登場するAndroid版やiOS版においても、スコアを比較できるレベルにするためには、そもそもAPIレベルでシーンを切り分ける必要があったと言えるだろう。なお、Windows版とWindows RT版では上記の3シーンすべて実行できるが、Android版とiOS版はIce Stormのみ実行できる。
4つのシステムで実施してみた
というわけで、今回は手持ちの4つのシステムで実施してみた。1つ目は3万円を切る価格で購入したAMD E-450搭載の「ThinkPad X121e」、2つ目は8万円台のゲーミングノート「NEXTGEAR-NOTE i300」、3つ目はCore i7-2600KとRadeon HD 7870 GHz Editionを搭載した自作PC「サブマシン」、そして4つ目がCore i7-3770KとGeForce GTX 680を搭載した自作PCの「メインマシン」である。メインマシンのみ、Fire StrikeのExtremeプリセットも実施した。
ThinkPad X121e | NEXTGEAR-NOTE i300 | 自作PCサブマシン | 自作PCメインマシン | 自作PCメインマシン(Extreme) | |
---|---|---|---|---|---|
CPU | AMD E-450 | Core i7-3612QM | Core i7-2600K | Core i7-3770K(4GHz) | ← |
GPU | Radeon HD 6320 | GeForce GT 650M | Radeon HD 7870 GHz Edition(OC) | GeForce GTX 680(OC) | ← |
メモリ | DDR3-1333 4GB×2 | DDR3-1600 4GB×2 | DDR3-1600 4GB×2 | DDR3-2133 8GB×2 | ← |
ドライバ | Catalyst 13.1 | GeForce Release 313.96 beta | Catalyst 13.1 | GeForce Release 310.90 | ← |
ストレージ | Kingmax SMP35 120GB | Micron C400 256GB | Intel SSD 520 120GB | Plextor M5P 512GB | ← |
OS | Windows 8 Pro | Windows 7 Home Premium | Windows 7 Ultimate | Windows 7 Ultimate | ← |
Ice Storm | 15333 | 63997 | 118961 | 147453 | - |
Graphics score | 20076 | 102360 | 237646 | 291808 | - |
Physics score | 8394 | 27684 | 43291 | 53984 | - |
Graphics test1 | 89.95 | 472 | 1074.68 | 1317.49 | - |
Graphics test2 | 84.78 | 421 | 994.89 | 1223.46 | - |
Physics test | 26.65 | 87.89 | 137.43 | 171.38 | - |
Cloud Gate | 1305 | 7686 | 17747 | 20270 | - |
Graphics score | 1931 | 10451 | 37035 | 46676 | - |
Physics score | 612 | 3992 | 6287 | 6802 | - |
Graphics test1 | 9.44 | 42.81 | 157.29 | 196.02 | - |
Graphics test2 | 7.56 | 48.41 | 164.94 | 210.37 | - |
Physics test | 1.94 | 12.67 | 19.96 | 21.59 | - |
Fire Strike | 213 | 1406 | 5094 | 6036 | 2996 |
Graphics score | 228 | 1484 | 5626 | 6793 | 3133 |
Physics score | 753 | 5569 | 8927 | 9740 | 9688 |
Graphics test1 | 0.95 | 6.73 | 26.81 | 32.78 | 16.58 |
Graphics test2 | 1.05 | 6.2 | 22.49 | 26.88 | 11.56 |
Physics test | 2.39 | 17.68 | 28.34 | 30.92 | 30.76 |
Combined test | 0.39 | 2.6 | 10.08 | 11.68 | 5.91 |
サンプルが少ないため、たった4つのシステムの結果からは多くコメントできないわけだが、シーン別にスコアを見て考察していく。Ice StormではメインマシンとThinkPad X121eは9.6倍のスコア差だが、Cloud Gateでは15.5倍、Fire Strikeでは12.9倍の差がある。
しかしながらThinkPad X121eでも、Ice Stormでは多くのシーンが60fps超えとなっており、そのためメインマシンのFire Strike(30fps前後)よりスムーズで、高スコアが得られている。つまり単純に言えば「エントリー向けの3Dゲームなら快適に動く」のがわかるわけだ。
さらに今後登場するAndroid版やiOS版では、当然DirectX非対応のGPUだったり、異なるアーキテクチャのGPUでテストされることも考えられる。これらのシステムではIce Stormのみ実施できるが、その時のスコアをWindowsのエントリーシステムと比較した際のスコアを正当化する意味でも、この切り分けは妥当な判断だ。
また、スコアの詳細の算出方法などは不明だが、おおよそフレームレートに比例しているように思われる。最新のゲーミングマシンでIce Stormを実施すると10万を軽く超えてしまうため、数値がインフレしているように思えなくもないが、ゲームが普通にプレイできるとされる「40fps」を1つの基準とした場合、各シーンにおいて“10,000”のスコアを超えるかどうかが、おおよその目安になりそうである。
3Dベンチマークの新基準
というわけで、簡単に新しい3DMarkを見てきたが、従来の3DMarkであった「新API対応ハードウェアを測るベンチマークソフト」という位置づけから、「ユーザーの利用システムに適した評価を行なうベンチマーク」に変化したのが印象的だ。
ゲームをするためにPCやデバイスを購入しても、当然その上で走らせるゲームは人それぞれであり、一概に「3DMarkのスコアが低いからゲーム性能が低い」というわけではない。そういった観点からすれば、今回、3D負荷とAPIレベルごとにスコアを切り分けた新しい3DMarkは、デバイスの性能をユーザーの視点で正当に評価できるベンチマークとしての可能性があることを挙げておきたい。