「Radeon HD 6990」速報レビュー
~Cayman世代のハイエンドデュアルGPUカード


 米AMDは8日(現地時間)、Radeon HD 6990を発表した。これまで「Antilles」のコードネームで呼ばれ、1枚の基板上にRadeon HD 6900シリーズ(コードネームCayman)GPUを2基搭載するデュアルGPUカードだ。ここでは速攻レビューという形で製品とその性能をチェックしていきたい。

●クロック以外はRadeon HD 6970ベースのデュアルGPUバージョン

 まずは仕様を確認しておこう。スペックは表1に示すとおりで、部分部分でRadeon HD 6970と6950から仕様を引き継ぎつつ、これを2基搭載した形になる。

【表1】Radeon HD 6990の主な仕様と比較
製品名Radeon HD 6990Radeon HD 6970Radeon HD 6950Radeon HD 5970Radeon HD 5870Radeon HD 5850
コードネームAntillesCaymanCaymanHemlockCypressCypress
SIMD数24x2242220x22018
SP数3,0721,5361,4083,2001,6001,440
テクスチャユニット数19296881608072
ROPユニット数643232643232
GPUクロック(MHz)830880800725850725
メモリクロック(MHz)5,0005,5005,0004,0004,8004,000
メモリタイプGDDR5GDDR5GDDR5GDDR5GDDR5GDDR5
メモリ接続バス幅(ビット)256256256256256256
メモリ容量(MB)4,0962,0482,0482,0481,0241,024
Typical Gaming Power/最大消費電力(ワット)350190140294188151
Typical Idle Power(ワット)372020422727
補助電源レイアウト(ピン)8+88+66+68+66+66+6

 SIMDエンジン数やROP数、テクスチャユニット数など、コアスペックはRadeon HD 6970に準じている。GPUクロックは830MHz。Radeon HD 6970と6950の間となるがこれは性能や消費電力等の兼ね合いで決まったものだろう。メモリまわりの仕様は、バス幅が1GPUあたり256bitで、動作クロックが6950の仕様に準ずる5GHzとなっている。容量は2GB×2の計4GB。

 旧アーキテクチャのRadeon HD 5970よりも若干SP数などが少ないが、これはRadeon HD 6900シリーズからアーキテクチャが変わったためだ。逆に、SIMDエンジン数やテクスチャユニット数などは増えている。

 今回テストする製品は、AMDから借用したリファレンスカードである(写真1)。カードの中央にファンを配置し、その左右にGPUを搭載している(資料1、2)。ベイパーチャンバーを用いたヒートシンク部は左右に分割されており、理論上では両GPUが均等に冷却される。AMDの資料によれば、Radeon HD 5970よりも20%ほどエアフローを改善したとある。

【写真1】Radeon HD 6990のリファレンスカード【資料1】PCI Expressブリッジチップはやや中央左寄りだが、そのほかは左右対称デザイン【資料2】中央にファンをレイアウトし、前後にベイパーチャンバーを配置し、最大450Wの冷却をサポートしているという

 カード長はRadeon HD 5970と同等(写真4)。ただし、クーラー全体を含めたサイズであり、Radeon HD 5970の意匠に凝ったクーラー部分を加味すると、若干だが体積は増えていることになるだろう。かなり長いカードであるため、ケース側にも十分なスペースを確保したい(写真2)。

 消費電力は最近AMDが用いる「Typical Gaming Power」で350W。300Wを超えたことから、電源コネクタは8ピン×2基の構成になっている(写真3)。また、今回は最大消費電力も併記されておりこちらは375Wとなる。Radeon HD 5970は8ピン+6ピン仕様で最大消費電力294Wだったから、正しく比較すれば81W増となる。さらに、Radeon HD 6900シリーズから導入されたPower Tuneのリミットを外した際には、それぞれ最大415W/450Wとされているので、組み合わせる電源には注意したい。

 ディスプレイ出力端子はDVI-I(デュアルリンク対応)×1基およびminiDisplayPort×4基という構成(写真4)。メリットとして2スロット厚の内、1段を全て排気スリットに利用可能となっている。ただし、これまで2つ以上のDVIでマルチディスプレイを構成していたユーザーは要注意だろう。さらにWUXGA超のディスプレイでマルチという人は、高価なDP-デュアルリンクDVIの変換ケーブルなど追加出費を要する場合もある。

 CrossFire端子は1基。つまり2枚でQuad CrossFireXというのが、Radeon HD 6990の最大構成となる。また、Radeon HD 6970で搭載されていたBIOS切り替えスイッチもある(写真5)。このスイッチを片方に入れると、コア電圧が上がり、強制オーバークロック状態となる。

【写真2】カード長比較。Radeon HD 5970とほぼ同じ【写真3】補助電源コネクタ。カードの最大消費電力は標準状態で375W、OCでは450Wにも達し、補助電源コネクタも8ピン×2基を用意している
【写真4】ブラケット部はDVI×1基にミニDP×4基で構成されている【写真5】BIOSスイッチ。デフォルトがポジション2で定格& 1.12V動作、ポジション1がコアを880MHzにオーバークロック& 1.175Vにカツ入れする

●前世代デュアルGPUカードとシングルGPU最上位カードで比較検証

 それではベンチマーク結果の紹介に移りたい。テスト環境は表2に示したとおり。比較対象としては前世代のデュアルGPUカードであるRadeon HD 5970と、シングルGPUのRadeonとして最上位である6970、そしてデュアルGPUの指標としてGeForce GTX 580のSLI構成を用意した。

 ドライバはRadeon HD 6990がテスター向けに配布されている「Catalyst Software Suite 11.4」。その他のRadeonは検証時点で最新のCatalyst Software Suite 11.2、GeForceはGeForce Driver 266.58(GTX 580用)を用いている。

【表2】テスト環境
CPUCore i7-980X
MotherboardIntel DX58SO
ChipsetIntel X58+ICH10R
MemoryDDR3-1066(4GBx3)
HDDWD2002FAEX(2TB/7,200rpm)
OSWindows 7 Ultimete 64bit

【写真6】Radeon HD 6970のリファレンスカード【写真7】Radeon HD 5970のリファレンスカード【写真8】GeForce GTX 580のリファレンスカード(2枚)

 まずはDirectX 11対応タイトルのベンチマークから結果を紹介していこう。テストは「3DMark11」(グラフ1)、「Unigine Heaven Benchmark」(グラフ2)、「Lost Planet 2 Benchmark」(グラフ3)、「Stone Giant DirectX 11 Benchmark」(グラフ4)の結果である。

 Radeon HD 6990のスコアは、今回用いた3つのRadeonカードの中で最も高いスコアである。そしてさすがにGeForce GTX 580のSLIには敵わないものの、そこまで大差では無いことがわかる。今回、シングルGeForce GTX 580との比較をしていないが、Radeon HD 6970ではつけられていた差を大きく詰めているものと想像できる。

 1つ不思議なのがStone Giantの結果(グラフ4)。Radeon HD 6990のスコアはRadeon HD 6970の2倍以上となっている。他のスコアと比較するとRadeon HD 6990のスコアは妥当なので、Radeon HD 6970のスコアが低すぎると考えられる。

【グラフ1】3DMark11
【グラフ2】Unigine Heaven Benchmark
【グラフ3】Lost Planet 2 Benchmark
【グラフ4】Stone Giant DirectX 11 Benchmark

 次はDirectX 10/9世代のベンチマーク結果を見ていきたい。テストはテストは「3DMark Vantage」(グラフ5、6)、「Tom Clancy's H.A.W.X」(グラフ7)、「World in Conflict」(グラフ8)、「The Last Remnant」(グラフ9)だ。

 比較対象が少ないこともあり、テスト結果の傾向自体はDirectX 11のものと大きく変わらない。Radeon HD 6990の特徴が出ていると言えるのが、3DMark VantageのFeature Testだ。Pixel ShadeテストはRadeon HD 6970から大きく伸ばしている。他方、Stream OutやGPU ParticleなどはRadeon HD 5970と比べれば向上しているものの、あまりデュアルGPUの効果は無いようだ。Perlin Noiseは特に興味深い結果で、Radeon HD 6970の値からはほぼ倍増しているが、同じデュアルGPUカードとしてはRadeon HD 5970よりも低いスコアとなっている。

 Tom Clancy's H.A.W.XはRadeon HD 6990と同5970との間の差が小さい。一方、差が小さいのは同じでも、World in ConflictはGPU以外の箇所にボトルネックがあり頭打ちとなっている。とはいえ、Radeon HD 5970は1,920×1,200ドットのアンチエイリアスと異方性フィルタを適用した際に若干スコアを落としているので、より高解像度だったり、より高画質な設定を適用しようという際にはRadeon HD 6990のリードが広がると思われる。

【グラフ5】3DMark Vantage
【グラフ6】3DMark Vantage Feature Test
【グラフ7】World in Conflict
【グラフ8】World in Conflict
【グラフ9】The Last Remnant

 消費電力(グラフ10)は、Radeon HD 6990がかなり増加していることを示している。前世代のデュアルGPUカードであるRadeon HD 5970に対し、ピーク時では100W近い増加だ。一方でアイドル時の消費電力は、Radeon HD 5970に対し7Wほどの改善がみられる。さらに言えば、GeForce GTX 580のSLIのように、カード2枚で構成する場合と比べれば、ワットあたりのパフォーマンスで優れるということが言えるだろう。

 動作音は、ファンが1基であることからも分かる通り、かなり大き目と表現しておこう。回転数制御は細かく、アイドル時は静かでも、ひとたび負荷が上がり、最大回転数に引き上げられると爆音が響き渡る。このあたりの事情はRadeon HD 5970とさほど変わらない。静かさを求めるならばサードパーティ製のオリジナルクーラーを待つのが良いだろう。

【グラフ10】消費電力

●シングル最速の称号はRadeon HD 6990に

 今回は、時間の関係などからGeForce GTX 580の1枚構成とは比較ができていないが、過去記事の結果も考慮すると、「シングルカード」というくくりにおいて、Radeon HD 6990は最強GPUの座を奪還したのは間違いないだろう。特にDirectX 11など、処理の重いベンチマークにおけるスコアの高さはハイエンドゲーマーにとって注目だ。

 価格は検証時点でAMDからはまだ明らかにされていないが、サードパーティ情報ではおよそ85,000円前後であろうと予想されている。一方でRadeon HD 6970は価格がこなれ、安いものでは3万円前後で流通しているから、多くのユーザーはこれを2枚でCrossFireXするか、1枚で済むRadeon HD 6990にするかを天秤にかけることになるだろう。

 1つ言えることは、Radeon HD 6990が現時点のRadeonで最強のパフォーマンスを持つシングルカードであるということだ。つまり、2枚で容易にQuad CrossFireXに拡張できる。カード本数を押さえつつパフォーマンスを最大にしたいというニーズには向いている。

 前回、Radeon HD 5970では供給不足が話題となった。一方、現在のRadeon HD 6970の流通量を見ると比較的潤沢だ。その上位となるRadeon HD 6990がどのくらい生産されるのかは読めないが、極度の供給不足になりそうな気配は無い。今回のRadeon HD 6990は、満を持して登場した最上位GPUと言えるだろう。

 なお、Radeon HD 6990については、改めてより詳細なベンチマーク測定を行なう予定だ。

(2011年 3月 8日)

[Reported by 柚ノ木 護]