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中からは見えるが外からは見えない光学迷彩装置。理研らが理論実証

これまでの光学迷彩(左)と非対称光学迷彩(右)の概念図

 光を制御する特殊なマントやコスチュームを着て、他人から自分の姿を見えなくする光学迷彩。SFの世界ではしばしば見かける光景だが、その実現がいかに困難かは、工学や物理に疎い人でもなんとなく想像がつくだろう。だが、理論的にはこれが可能であるという道筋が、このたび日本の研究者によって示された。

 理化学研究所(理研)理論科学研究推進グループ階層縦断型基礎物理学研究チームの瀧雅人研究員、東京工業大学量子ナノエレクトロニクス研究センターの雨宮智宏助教と荒井滋久教授らとの共同研究チームが8日に発表したリリースによると、外部からは見えないが、内部からは外部を見ることができる“非対称”な光学迷彩を設計することが可能だという。

 光学迷彩装置の設計方法は2006年に海外で理論的な提案がなされており、空間のどの位置にどのような誘電率、透過率の物質を置けばよいかということが具体的に示されていた。ただし、これらの光学迷彩装置は、例え実現したとしても、入射した光を全て迂回させるため、外部からは見えなくなるが、内部からも外部が見えなくなるという“対称性”の問題があった。

 そこで理研らの共同チームは、光子に作用するローレンツ力の概念を用い、光を捕捉する光学的な共振器を格子状に配置し、その共振器間を光が曲がりながら伝播する理論モデルを考えた。そこから、この光子共振機器を拡張し、電場に相当する効果を発生させる光学格子共振器を用いた理論モデルを構築した。

 その結果、光があたかも一般的な電磁場中を運動する電子のように振る舞い、光学格子共振器のパラメータを調整するだけで、かなり自由な電波光路を実現でき、磁場が及ぼすローレンツ力により、完全反対称な光路を実現できることが分かった。また、電場から受けるクーロン力に相当する力により光路を調整することで、より多用で非対称な、つまり外からは見えないが、中からは見える光の伝播経路が実現できるのだという。

 これは言うならば、フレミングの左手の法則として知られる、磁場が電子の及ぼす力の向きは、電子の進行方向を反転させることで逆向きになるのと同様の働きをする力を光に仮想的に作用させる装置となる。

 理論的にはこれで光学迷彩装置が設計できるわけだが、本当に実現可能かどうかは、このような光学格子共振器を開発できるかにかかっている。この点について同チームでは、金属などの微細共振器を電磁波長より小さなサイズで周期配列して、物質の誘電率、透過率を変化させる人口素材「メタマテリアル」の開発により、実現できることが期待されると述べている。

(若杉 紀彦)