イベントレポート

MediaTekのSoC戦略が見えるCMOインタビュー

~LTEモデムのキャリア認証は米国を皮切りに順次進行

MediaTek副社長兼CMO(最高マーケティング責任者)のヨハン・ロデニウス氏

 半導体メーカーのMediaTek(メディアテック)は、台湾のシリコンバレーと呼ばれる新竹科学工業園区(新竹サイエンスパーク)に本社を構える台湾企業。ARMアーキテクチャのさまざまなSoCを製造しており、スマートフォン向けがよく知られているが、それ以外にも液晶TVやHDDレコーダ向けのSoCで大きなシェアを持っており、ここ数年はLTEモデムの市場にも参入するなど、企業規模を拡大し続けている成長企業だ。

 日本のユーザーにとってMediaTekと言えば、低価格なタブレットに採用されているSoCという認識が強いかもしれない。だが、その状況は徐々に変わりつつある。MediaTek副社長兼CMO(最高マーケティング責任者)のヨハン・ロデニウス氏が「昨年(2015年)よりハイエンド市場に参入し、徐々に競合できるようになりつつある」と述べているように、同社が昨年リリースしたARM SoCとなるHelio X10(ヘリオエックステン)に続き、その後継となるHelio X20を発表し、ハイエンドのスマートフォン市場にも徐々に浸透しつつある。

Qualcommに追いつけ追い越せのポジションへと成長したMediaTek

 MediaTekが成長したのは、スマートフォンやタブレット向けのSoCが他社(具体的には業界トップのQualcomm)に比べて安価だったため、主に発展途上国向けの低価格な製品に多数採用されて急成長した。

 しかし、それはMediaTekの一面に過ぎない。ロデニウス氏によれば「弊社のビジネスは多岐に渡っている。特にHDTVやHDDレコーダなどでは大きなシェアを持っており、日本の家電メーカーにもご採用いただいている」と言う通り、日本メーカーのTVやHDDレコーダなどでMediaTekのSoCを採用している例が多い。

 このほかにも、Ralink Technologyを買収して得たWi-Fi関連の製品もラインナップされており、コンシューマ機器向けのSoC、無線チップの企業という意味で、Qualcommに次ぐ存在になりつつある。

 実はロデニウス氏自身も、以前はQualcommで働いていた経歴を持っている。そうしたロデニウス氏をスカウトしてCMOに据えたということは、MediaTekのターゲットがQualcommを追い抜くことにあることは疑いの余地がないだろう。

Ralink Technologyを買収して得たWi-Fi関連製品の内、MU-MIMOとビームフォーミングのデモ。MU-MIMOはハイエンド製品だけの特徴となっていたが、既にMediaTekのメインストリーム向けでもサポートが追加されている

Helio X10、Helio X20でハイエンド市場へ参入するMediaTek

 現在のMediaTekが最も力を入れているのは、ハイエンド市場への参入だ。ロデニウス氏は「ハイエンド市場に向けて我々は力を入れている。昨年出荷したHelio X10は多くのOEMメーカーに採用いただいた。実際、最初に市場にオクタコアを投入したのは我々で、今後もヘテロジニアスマルチプロセッサのソリューションを充実させていきたい」と述べ、これまでミドルレンジ以下の市場にフォーカスしてきた同社が初めてハイエンド向けとしてリリースしたHelio X10の訴求に力を入れているとした。

 Helio X10は、ARMのCortex-A53が8コア(実際には高クロックのクアッドコアと低クロックのクアッドコアが、big.LITTLEで切り替わって動作する)、GPUがPowerVR G6200、LTEのCat.4に対応したLTEモデムが統合というスペックのSoCで、成長市場を中心にビジネスをしているメーカー(Xiaomiなど)のハイエンド製品を中心に採用されている。

 ユニークなところでは、ソニーモバイルのXperia M5というミドルレンジとハイエンドの中間の製品に採用されている。M5はXperia Z5ほどハイエンドなスペックではないが、成長市場においてはハイエンドとして販売されている(このため日本などの成熟市場では販売されていない)。

 elio X10の後継となるHelio X20は、ARM最新のCortex-A72が2コア、さらにはCortex-A53が8コア(実際には2GHzで動くクアッドコアと1.4GHzで動くクアッドコアに分割されている)という合計で10コアのCPUを持つSoC。GPUはARMのMali-T880MP4で、LTEモデムはCat.6。Qualcommの最新製品にも匹敵するようなスペックになっている。

 このように、MediaTekではハイエンド製品の拡充を図っていくとロデニウス氏は説明するが、自社でCPUやGPUのコアデザインを開発するのではなく、今後もIPに関してはライセンシー(ARMやImagination Technologiesなど)から供給を受け、それをSoCに統合していく方針で開発をしていくという。「現在SoCを開発するには、CPU、GPU、そしてモデムといった重要なコンポーネントをプロセスルールに最適化して落とし込んでいくことが重要になっている。特にCPU、GPUを用いてヘテロジニアスなマルチプロセッサとして最適化していくことが重要だ。そうしたコアのマネージメントに我々は力を入れている」(同氏)。

ソニーモバイルのXperia M5、Helio X10を搭載した成長市場のハイエンド向けとなる製品
Xiaomi Redmi Note2、中国市場向けHelio X10搭載スマートフォン
Oppo R7 Plus、中国市場向けHelio X10搭載スマートフォン
MEIZU MX5、中国市場向けHelio X10搭載スマートフォン
HTC E9+、中国市場向けHelio X10搭載スマートフォン

中国向けが先行するLTEモデム、成熟市場でも順次通信キャリア認証を取得

 もう1つMediaTekが力を入れているのが、LTEモデムのビジネスだ。MediaTekのモデムビジネスは、これまでは3G世代が中心で、ターゲットになっていたのも成長市場であって、成熟市場で当たり前になっているLTEモデムは昨年ぐらいから本格的に取り組み始めたものだ。

 ロデニウス氏は「LTEのモデムビジネスは大きく成長している。2014年には1,000万台だった出荷数は、昨年は5,000万台に増え、今年(2016年)はもっと増える見通しだ。中国市場では既にトップシェアになっており、今年はそれをグローバルに広げていきたい」する。

 LTEモデムはQualcommがリードしている市場になる。MediaTekとしてはこれに追随すべくさまざまな取り組みを行なっている。米国では通信キャリアの認証取得の取り組みを既に始めており、今年中には完了する予定だ。

 例えば日本市場については「私は直接の担当ではないので日本市場への取り組みがどうなっているのかお答えできる立場にはないが、やらない理由はない」とする。

 現在、MediaTekのSoC+LTEモデムの製品が日本で正規ルートで販売されていない最大の理由は、モデム部分の通信キャリアのIOT(Inter-Operability Testing)認証が課題だと考えられる。モデムベンダーによるIOT認証が進めば、デバイスベンダーもIOT認証を取得しやすくなる。そうなれば、Helio X10/X20のような、日本市場にも十分通用するSoCを搭載したスマートフォンなりタブレットが販売される可能性は高まるだろう。

MediaTekのLTEモデムは、中国台湾などの市場を皮切りに、北米、欧州、南米などへと進出している
競合他社とのスループットの比較データ
iPhone6との消費電力の比較データ

(笠原 一輝)