イベントレポート

パナソニック、ReRAMの記憶容量を10倍以上に高める技術を開発

記憶容量が2MbitのReRAMシリコンダイ。パナソニックとimecの共同研究チームが試作した。シリコンダイの寸法は論文には掲載されなかったが、講演では4.86×5.76mmだと説明していた

 パナソニックとベルギーのimecは共同で、ReRAM(抵抗変化メモリ)の記憶容量を10倍以上に高められる技術を開発し、半導体の最先端技術に関する国際学会「VLSIシンポジウム」で2015年6月16日にその概要を発表した(講演番号T2.2)(「VLSIシンポジウム」に関しては既報を参照されたい)。

現在は8bitマイコンが64KバイトのReRAMを内蔵

 ReRAMは、SRAMに近い高速のアクセス、DRAM並の高い記憶密度と、フラッシュメモリと同様の不揮発性を兼ね備えると期待されている高速・高密度の不揮発性メモリである。記憶素子の電気抵抗値が高い状態(高抵抗状態、HRS)と低い状態(低抵抗状態、LRS)のいずれかを保持することで、1bitのデータを保存する。

 パナソニックはReRAMの研究開発を早くから手がけてきたことで知られている。8bitマイコン(マイクロコントローラ)の内蔵ROMに採用して製品化し、2013年7月に世界で初めて量産を始めたと公表した

 製品化したマイコンの内蔵ReRAMは記憶容量が64KB(512Kbit)である。ReRAMの製造技術は180nmのCMOSプロセス。製品仕様ではデータの書き換え回数(保証回数)を1,000回に制限している。

 パナソニックが過去に国際学会で発表したデータによると、180nm技術で製造したReRAMの記憶素子は0.4~0.5μ角で、決して小さいとは言えない。例えば2012年2月に開催された国際会議ISSCCでは180nm技術で4Mbitと高密度化を試みたReRAMを試作発表しているが、記憶素子の大きさは0.38μm角だった。

32bit大容量フラッシュマイコンの置き換えが可能に

 これに対してVLSIシンポジウムで開発を発表したReRAM技術の記憶素子は0.117μm(117nm)角である。この記憶素子は40nmの製造技術で試作したもので、28nmの製造技術を使うことでさらに記憶密度を高めることが可能だという。単純に0.5μm角と0.12μm角で面積を比較すると、17分の1になる。

 これは、メモリセルアレイのシリコン面積が同じであれば、記憶容量を17倍に拡大できることを意味する。製品レベルで512Kbitが量産できているので、仮に16倍と考えると8Mbit(1MB)になる。現在の32bitフラッシュマイコンが内蔵する大容量フラッシュメモリに匹敵する記憶容量である。言い換えると、32bitフラッシュマイコンの換わりに、ReRAMを内蔵したROM容量1MBの「32bit ReRAMマイコン」を実現可能になる。

40nm技術で2MbitのReRAMマクロを試作

 パナソニックとimecの共同研究チームはVLSIシンポジウムで、記憶容量が2MbitのReRAMマクロを40nm技術で製造してみせた。テストでは、書き換えサイクル寿命が10万回、データ保持期間が10年(温度は85℃)と高い信頼性を得ている。

 高い密度と高い信頼性を両立できたのは、記憶素子の製造技術を改良したことが大きな理由である。記憶素子を加工するときのエッチングにダメージの少ない技術を開発するとともに、記憶素子の側壁を絶縁膜で保護した。この結果、記憶素子の抵抗を下げるフィラメント(書き込み電圧によって形成される極細の導電経路)が素子断面の中央に形成されるようになり、周縁部からの悪影響(具体的には酸素イオンによる酸化)を受けなくなった。この技術開発により、記憶素子を細くしても、製品レベルの信頼性水準を達成できる見通しがたった。

ReRAMマクロの記憶素子部分を含めた多層配線の断面観察像(透過型電子顕微鏡で撮影)。右上の拡大部分がデータの記憶素子

500倍の記憶容量も夢ではない

 このほか、記憶素子の大きさを20nm角ときわめて小さくしても、メモリセルのレベルでは、10万回の書き換えサイクル寿命と10年間のデータ保持期間(温度は85℃)を達成できることを確かめた。仮に20nm角の記憶素子が実用化したと考えると、記憶容量は120nm角の記憶素子の36倍になる。すなわち原理的な記憶容量は288Mbit(36MB)となり、きわめて大きな容量のメモリを内蔵したマイコンを作れる。今後の研究開発の進展が、とても楽しみな成果だと言えよう。

(福田 昭)