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AMD、Radeon R9 280XやRadeon R7シリーズなど5製品を正式に発表
(2013/10/8 13:01)
- 10月8日(現地時間)発表
米AMDは8日(現地時間)、9月に米国ハワイで行なったGPU関連のイベント「AMD GPU14 TECH DAY」(別記事参照)で、概要を明らかにした新GPUシリーズとなるRadeon R9シリーズ、Radeon R7シリーズのうち、トップエンドとなるRadeon R9 290X/290を除く製品を正式に発表した。
今回発表された製品は、いずれも従来製品となるRadeon HD 7000シリーズないしはRadeon HD 8000シリーズに利用されていたダイを改良した製品で、回路設計などを見直す事でクロック周波数を引き上げ、電力効率が改善されているほか、Direct3D 11.2やMantleといった新しい世代のAPIへの対応が追加されていることなども特徴の1つとして挙げられる。
同時にAMDはRadeon R9 290X、Radeon R9 290、Radeon R7 260Xで新たに対応するプログラマブルオーディオの機能「True Audio」の詳細についても明らかにした。
マイクロアーキテクチャは前世代と共通だが、回路周りを改善
AMDが発表した新製品は、Radeon R9 280X、Radeon R9 270X、Radeon R7 260X、Radeon R7 250、Radeon R7 240の5製品。スペックはそれぞれ以下のようになっている。
R9 280X | R9 270X | R7 260X | ||
---|---|---|---|---|
開発コードネーム | Tahiti | Pitcairn | Bonaire | |
製造プロセスルール | TSMC 28nm | TSMC 28nm | TSMC 28nm | |
ストリームプロセッサ | 2,048 | 1,280 | 896 | |
エンジンクロック | 最大1GHz | 最大1.05GHz | 最大1.1GHz | |
処理能力 | 4.1TFLOPS | 2.69TFLOPS | 1.97TFLOPS | |
メモリ構成 | 3GB GDDR5(384ビット) | 2GB/4GB GDDR5(256ビット) | 2GB GDDR3(128ビット) | |
メモリ速度 | 6Gbps | 5.6Gbps | 6.5Gbps | |
TrueAudio対応 | - | - | 対応 | |
追加電源コネクタ | 8ピン×1/6ピン×1 | 6ピン×2 | 6ピン×1 | |
標準消費電力(ボードレベル) | 250W | 180W | 115W | |
PCI Express | 3 | 3 | 3 | |
API | 11.2 | 11.2 | 11.2 | |
OpenGL | 4.3 | 4.3 | 4.3 | |
Mantle | ○ | ○ | ○ | |
市場予想価格帯 | 299ドル | 199ドル | 139ドル |
R7 250 | R7 240 | ||
---|---|---|---|
開発コードネーム | Oland | Oland | |
製造プロセスルール | TSMC 28nm | TSMC 28nm | |
ストリームプロセッサ | 384 | 320 | |
エンジンクロック | 最大1.05GHz | 最大0.78GHz | |
処理能力 | 0.806TFLOPS | 0.499TFLOPS | |
メモリ構成 | 1GB GDDR3/2GB DDR3(128ビット) | 1GB GDDR3/2GB DDR3(128ビット) | |
メモリ速度 | 4.6Gbps | 4.6Gbps | |
TrueAudio対応 | - | - | |
追加電源コネクタ | 不要 | 不要 | |
標準消費電力(ボードレベル) | 65W | 30W | |
PCI Express | 3 | 3 | |
API | 11.2 | 11.2 | |
OpenGL | 4.3 | 4.3 | |
Mantle | ○ | ○ | |
市場予想価格帯 | 89ドル | 未公表 |
表を見てわかるように、基本的に今回発表された製品の多くは、従来製品のRadeon HD 8000シリーズ、およびRadeon HD 7000シリーズに採用されていたGPUのダイを活用したものとなる。R9 280XはTahiti(Radeon HD 7900/8900シリーズのダイ)、R9 270XはPitcairn(Radeon HD 8800シリーズのダイ)、R7 260XはBonaire(Radeon HD 8700シリーズのダイ)、Radeon R7 250はOland(Radeon HD 8600/8500シリーズのダイ)がそれぞれ採用されている。
では、これらの製品はいわゆるリネーム品なのかと言えば、実際にはそうではない。AMDグラフィックスビジネス部門 製品担当上級課長のデボン・ネケチャク氏によれば「今回発表するダイはマイクロアーキテクチャこそ、従来製品に利用されていたものと同じで、全て従来製品と同じ28nmプロセスルールで製造されている。しかし、回路設計には手を入れており、クロック周波数が上がっていたり、消費電力あたりの性能が改善されている」とのこと。従って、今回の製品はリネーム品というよりは、半導体の特性などが改善されたリビジョンアップ品であり、それに伴ってブランドが変更されたと捉えるのが正しい評価だろう。
AMDは各製品の価格や位置付けについて、R9 280Xは299ドルで、Battlefield 3がWQHDの解像度でGeForce GTX 760/2GBと比較して20%ほど高速、R9 270Xは199ドルでBattlefield 3がフルHD解像度でGeForce GTX 660と比較して49%高速だと説明している。このほか、Radeon R7 260Xは139ドル、Radeon R7 250は89ドルで、バリュー向けの市場を狙っていく。また、AMD GPU14 TECH DAYでは存在が明らかにされていなかったRadeon R7 240というローエンド向けが追加されており、基板レベルでの消費電力が30Wになるため、OEMメーカーによってはファンレスのデザインも可能になるという(市場予想価格は未公表)。
Direct3D 11.2やMantleなどの新しいAPIに対応
AMDはAMD GPU14 TECH DAYにて、Radeon R9シリーズおよびRadeon R7シリーズで、MicrosoftがWindows 8.1に導入する予定のDirect3D 11.2(いわゆるDirectX 11.2)、およびAMDが独自に導入するPCゲーム向けのAPIとなるMantle(マントル)に対応していることを明らかにしている。
GPUのマイクロアーキテクチャが変わっていないのにDirect3D 11.2のような新しいハードウェアをサポートするAPIを使えるのかという疑問もあると思うがAMD上級フェロー兼グラフィックス&ビジュアライゼーションアーキテクトのマイケル・メンター氏によれば、「Direct3D 11.2のうち新しいハードウェアのサポートを必要とするタイルリソースなどを利用するにはGCNアーキテクチャであることが必要条件となる」とのことで、技術的観点からはGCNであればDirect3D 11.2が利用できるという。
なお、現時点では、既存の製品(Radeon HD 7000/8000シリーズや、Kabini/TemashなどのGCNグラフィックス内蔵のAPU)などでDirect3D 11.2が利用できるかどうかは明確ではないが、将来のドライババージョンアップにより利用できる可能性はある(現時点では従来製品でも使えるかどうかは明確にはなっていない)。
MantleはPCゲーム向けのAPIで、Direct3DよりもよりAMDのハードウェアに最適化されているため、ゲームソフトウェアが対応することでDirect3D経由よりもGPUの持つ性能を引き出すことができるようになる。AMDはエレクトリックアーツ(EA)が発売するPCゲーム「Battlefield 4」に同社のGPUが最適化されていることを発表しており、当初はDirect3D版のみが提供されるが、年内にもMantle版が提供される予定であることを明らかにした。
なお、AMDは今回は発表されていないRadeon R9 290XにBattlefield 4をバンドルした限定版を用意することをすでに明らかにしており、それに加えてMantle版も用意することで、PCゲームユーザーに対してRadeon R9/R7シリーズの優位性を訴えていきたいというマーケティング戦略を推進していく意向だ。
タイルディスプレイに対応したほか、ディスプレイ出力の柔軟性が向上
Radeon R9/R7シリーズにおけるもう1つの大きな改良点は、ディスプレイ出力にある。従来の世代(Radeon HD 8000/7000シリーズ)では、ボード上に用意されている4つの出力(DVI×2、HDMI、DisplayPort)のうち、3つ以上の出力を行なう場合に必ずDisplayPortを1つ利用しなければならないという制限があった。しかし、Radeon R9/R7シリーズではその制限が撤廃されており、4つの出力のうちどの組み合わせを利用しても3つ以上のディスプレイへ出力できるようになっている。
もちろん従来通りDisplayPortのHubを利用することで、最大で6枚までのディスプレイに1枚のカードで出力することが可能だ。なお、搭載されているディスプレイコントローラは、R9シリーズは6基、R7シリーズは260Xが6基で、それ以外(250と240)に関しては4基となる。
また、新製品ではタイルディスプレイに対応。これはVESAが新たに規定したDisplay IDのバージョン1.3に追加された機能で、DisplayPortを利用してタイルディスプレイが複数接続された場合にシステムからは1つの超高解像度ディスプレイがあるように見えるようする。これにより、やや複雑だった超高解像度ディスプレイでの設定をより簡単に行なうことができるようになる。今後、PC向けにもWQHD(2,560×1,440ドット)を超えるようなディスプレイが登場した場合でも、簡単に設定ができるようになる。
なお、HDMIに関しては従来と同じHDMI 1.4aまでの対応となる。このため、HDMI経由で4Kディスプレイを接続した場合には、30フレーム/secまでの対応となる。トランスミッタが60フレーム/sec出力に必要なHDMI 2.0に対応できていないためだ。ただし、OEMメーカーが独自にHDMI 2.0に対応したトランスミッタをボード上に実装した場合ではこの限りではないため、そうした独自デザインが出てくる可能性はある。
TensilicaのDSPコアを複数内蔵したTrue Audioテクノロジの機能
AMDはAMD GPU14 TECH DAYにおいて、Radeon R9/R7シリーズで導入する予定の新しいプログラマブルオーディオ機能であるTrue Audioに関する機能の詳細を明らかにした。True Audioは、GPUの内部にプログラマブルなDSPを内蔵し、それを利用してオーディオの処理を行なうことで、オーディオ処理時にCPUにかかる負荷を減らすことが可能になる。それにより、これまで難しかった多チャネルのオーディオを実装させ、リアルタイムで、より臨場感のあるオーディオ再生が可能になる。
True Audioの機能はGPUの内部にTensilicaのHiFi EP Audio DSPコアを内蔵することで、実現されている。DSPコアは複数個内蔵することが可能になっており、何個内蔵するかは製品により異なっているという。現在の製品では3基内蔵されており、将来よりオーディオへの負荷が高まった時には、数を増やせるスケーラブルな設計になっている。
それぞれのDSPにはTensilicaのHiFi2-EPという命令セットに対応した単精度の浮動小数点演算のエンジンが搭載されており、32KBの命令/データキャッシュ、8KBのローカルメモリを内蔵しているという構造になっている。
AMDではISVに対して、TrueAudioの仕様やAPIなどを公開して利用を促していく。すでに主要なゲームエンジンデベロッパーやミドルウェアベンダに対してアプローチを終えており、AMD GPU14 TECH DAYではそのデモが行なわれている。
なお、True Audioが利用できる製品は、今回は発表されていないRadeon R9 290X/290と、今回発表されたRadeon R7 260Xのみとなる。すでに述べた通り、今回発表された製品は、いずれも従来のマイクロアーキテクチャのダイの回路部分を手に入れたリビジョンアップ品となるが、そのRadeon R7 260XだけがTrue Audioに対応しているのは奇異な印象を受けるかもしれないが、ネケチャク氏によれば「確かにいずれの製品もマイクロアーキテクチャは前世代と同じモノになっているが、Radeon R7 260Xに採用されているダイはその中でも比較的新しい世代のダイとなる。言ってみれば、0.5世代だけ進化しているような世代になっており、True Audioの機能が利用可能になった」とのことで、Radeon HD 8000世代の時にもTrue Audioの機能が実装されていたが、使われていなかっただけで、今回その機能が有効になったということを明らかにした。
なお、Radeon R9 290X、290に関して同社は、Radeon R9 290XのBattlefield 4バンドルの限定版の予約をすでに米国で開始しており、さほど遠くない時期発表が行なわれるだろう。