イベントレポート
【詳報】新たな10年へ踏み出す「OS X Mavericks」
~サービス統合が進むOS XとiOS、機能のローカライズには課題も
(2013/6/17 00:00)
サンフランシスコのMoscone Center Westで開催されたAppleの開発者会議「WWDC 2013」は、同社にとって24回目のWWDC開催にあたる。日本でも四半世紀は大きな区切りの1つと考えられるが、米文化ではもう少し大きな意味で捉える。何より流通しているコインの多数を占め、もっとも有効に利用できるのが1ドルの4分の1の価値である25セントコイン(通称クォーター)でもある。終わったばかりで気が早いと言われそうだが、もしかしたら2014年のWWDCはアニバーサリーを伴うものになるかも知れない。
さて、その24回目のWWDCには世界66の国や地域から6,000人もの開発者が参加している。ティム・クックCEOが示したスライドによれば、今年のWWDCのチケットの販売開始から完売までの時間は71秒。Appleの広報担当者によれば、2013年は前年以上に開発者の参加枠を増やしたという。また64%が今回初めてのWWDC参加ということで、開発者の裾野が広がっていることも示唆している。
併せて、基調講演が行なわれる3階のホールも2012年とはやや椅子の配置を変えて、メインホールへの入場人員を増やしたとのこと。我々メディアが指定される位置は例年どおりのステージに向かって左手、中央ブロックからは1つずれているブロックである。例年はそこが左端だったが、2013年はさらに左手にもう1ブロックが追加された。それでも、このホールに入場するにはそれなりの時間に早起きして、入場待機列に並ぶ必要がある。キャパシティを超えた場合は、オーバーフロールームとして用意された別室で、同時中継されている映像をスクリーンで見ることになる。
講演は例年どおりティム・クックCEOによる現状の分析、紹介から始まった。直営店であるApple Storeは14カ国に展開され、現時点で407店舗が世界中に存在する。全世界の1日あたりの総来店者数は100万人に及ぶとのことだ。スライドとビデオでは、ドイツの首都であるベルリンにオープンした店舗の開店日の様子が紹介された。ドイツにはフランクフルト、ミュンヘン、ドレスデンなど複数の都市にすでにApple Storeが開店していたが、首都ベルリンへの出店は初めて。ショッピング街のメインストリートに旗艦店として誕生した。
「iPhone 3G」の登場とともに誕生したApp Storeは5周年を迎えた。日本では出荷されなかった初代iPhoneの時代にはネイティブアプリケーションは導入されず、Apple純正アプリケーション以外はWebベースの運用だった。iPhone OS 2.0と同時に導入されたサードパーティによるネイティブアプリケーションが、今日のiOSの成功を生み出したことは言うまでもない。App Storeからダウンロードされたアプリケーションは5年間で500億本にも及んでいる。iOS向けのアプリケーションは90万本に達し、そのうち93%が現在もアクティブで毎月継続的にダウンロードされている。この90万本のうちiPadにも対応するのが37万5,000本となっている。
App Storeへの登録アカウントは5億7,500万アカウントで、開発者への支払額は累積で100億ドルを突破した。2012年までの累積額が50億ドルなので、過去4年分の累積額を1年で上積みした計算になる。こうしたアプリケーションストアからの収入はApp Storeが全体の74%を占めているというデータを紹介し、あらためて、同社プラットホームでのアプリケーション開発は、開発者にとっての収益につながることを強調している。
こうしたアプリケーション開発企業の1つとして、スタートアップの「Anki」が紹介された。サードパーティとしては今回唯一の登壇者となり、破格の扱いだ。同社が開発しているのは、現在米国で急速に普及しているアプリケーションと周辺アイテムを組み合わせて利用するホビーアイテム。ジャンルこそ違え、「AR.Drone」のような本格的なホビーアイテムや、あるいはハードウェアとアプリケーションを組み合わせるという点で、「NIKE Fuelband」や「Jawbone Up」のようなヘルスケア製品などにも類するものだ。
Ankiが開発しているのは、ロボティクスなミニカーだ。設定されたコースに複数のミニカーを制御して走行させる。ミニカーは相互に認識しあっているので、それぞれ単独でありながらも、接触などはしないように走行を続ける。そこに、より速いミニカーである赤いクルマを投入すると、これまた接触しないように赤いクルマがほかのクルマをすいすい追い越して行くのはなかなか痛快だ。
さらにAI(人工知能)的な要素をさらに加えている。こうして抜かれることを嫌ったほかの車輌は連携して抜かれないようにブロックを始める。すると“Weapons Enabled!”の命令のもと、赤いクルマは擬似的に武装。仮想弾を発射して強制的に周囲のクルマを排除していった。もちろん実際に弾が撃たれているわけではなく、位置関係などをもとに相互にミニカーを制御して、撃たれたように見せかけている。
iOSアプリに限らずビデオゲームではありがちなゲーム設定ではあるものの、重要なのは、これが実際のミニカーを用いて行なわれていることだ。ホビーであれなんであれ、手に取れる製品を販売し、その可能性をアプリケーションで拡げていく。Ankiのようなデモは、子供のころなら誰もが自分の手とミニカーを使って体験、空想したことのある内容である。これがアプリケーションの力を借りて、より現代化しているのだ。ほかにも米市場では定番のボードゲーム「モノポリー」などがアプリケーション対応版を用意するなど、続々とリニューアルを続けている。
ネコ科からの刷新。新たなコードネームはカリフォルニア州の地名から
講演は本題の1つであるMac関連へと移行する。Macのインストールベースは7,200万台に達し、MacBook製品は全米で最も売れているノートブック製品であると紹介した。もちろん総合的にみれば、Windows搭載ノートの方が総数では圧倒的に多いわけで、これはあくまで単独メーカーとしてという条件が付く。加えて、過去5年間の市場成長率でも、Mac製品がPC製品の成長を大きく上回ったというデータを紹介した。これもまた数字のマジックであり、元々のシェアがまったく異なる。PC製品が、今回紹介されたMac製品のような100%成長を5年間で実現することは、十分に成熟した市場であるPC市場にとっては事実上不可能とも言える。とは言え、Mac製品に継続した強いニーズがあり、成長を続けていることは間違いない。
OSについてもほぼ同義である。現行の最新OSである「Mountain Lion」は、2,800万本が出荷された。これはMac製品にプリインストールされたものと、Mac App Storeからダウンロード販売され従来OSからの更新を含んだ総数だ。こうして全体に占める最新OSの割合は35%に達するが、同じ半年という基準でWindows 8は約5%ととも揶揄した。前述のとおり同列で比較することは必ずしもフェアとは言いがたく、これはあくまでAppleが行なった基調講演で示されたものであることは頭に入れておく必要がある。とは言え、Appleが最新OSの導入には極めて積極的であり(時にはそれが旧OSの切り捨てにもつながるのだが)、OSとハードウェアを同時に進化させるという手段でMac製品の魅力を高めているのは事実である。
ここで講演は、ソフトウェア担当上級副社長であるクレイグ・フェデリギ氏へとバトンタッチする。OS Xは、当初「Mac OS X」として登場して以来、Mac OS X 10.0の「Cheetah(チーター)」をはじめとして、ネコ科の大型動物の名前を開発コード名に用いてきた。当初は現在ほど開発コード名がクローズアップされることはなかったものの、10.6にあたる「Snow Leopard」あたりを境にして、製品名としてもイメージデザインとしても用いられるようになっている。またネコ科という点では10.7で百獣の王たる「Lion」が登場したことで、一連のシリーズとしてはここで打ち止めかとも思ったが、やり残したことがあったのか、想像に反して10.8にあたる「Mountain Lion」が登場したのが2012年のことである。
そこで、次なるLionということで引っ張り出されたのが「Sea Lion(アシカ)」だ。Lionつながりという感じだが、もはやネコ科ですらない。もちろん、これはジョークだ。フェデリギ氏によれば、今後の10年を担うために、初心に戻るという意味も込めてApple本社のあるカリフォルニア州の地名が開発コード名に用いられたという。採用されたのは「Mavericks」。ハーフムーンベイに位置するサーフィンの名所で、会場のMoscone Centerの1階に掲げられた大型バナーは、この波を写した写真だったというわけだ。この写真は「OS X Mavericks」を象徴する壁紙としても用いられる模様だ。数字としての内部バージョンは10.9であると推測されるが、今回の講演においては10.9という数字に関しては特に触れられていない。
こうして初披露された「OS X Mavericks」だが、OS全体のルック&フィールとしては現行のMountain Lionから大変革が行なわれたという印象は少ない。アップグレードは主にその機能面における向上、あるいは改善にフォーカスされている。
まず紹介されたのが「Finder」だ。WindowsであればExplorerにあたり、ファイルの移動やコピー、あるいはディレクトリ(フォルダ)の作成などを行なうOSとしてもっとも身近に利用する部分の1つである。
Mavericksでは、このFinder機能で利用されるウィンドウに、タブ機能を導入する。タブ化することでフォルダをまたいだ移動やコピーに複数ウィンドウを開いていた状況が改善され、タブクリックで任意のタブをシングルウインドウ内で表示を切り替え、ファイルの移動やコピーにも、そのタブ部分にドラッグ&ドロップすることで、移動先などが選択できるようにするものだ。デスクトップ上に無数に開いて散在するウインドウを抑制する。
シングルウインドウ化の試みは、「NeXT STEP」をMac OS Xへと大改修する際にFinderのアプリケーション化およびカラム化という形でも行なわれた例があるが、Mac OS 9に準じた複数ウィンドウ方式への要望は高く、現在は両方が実装されている。このタブ化導入に際しても、複数ウィンドウ表示自体が廃止されるような改良ではなく、ユーザーによる選択肢の増加と見るべきだろう。
さらにFinder機能では「タグ」の概念が導入される。これまでもSpotlight検索機能を使ってストレージ全体から共通性のあるファイルを一覧する「スマートフォルダ」機能は提供されてきた。またFinder上でファイル名に色をつけることで視覚的に区別するラベル機能などもあったが、タグ機能はもう少し能動的にファイル自体を分類する機能のようだ。ファイルの作成時にはファイル名とともに、任意のタグが設定でき、これをもとに、ストレージ内のファイルを横断的に分類し一覧を可能にする。タグの仕組みとは異なるが、Windowsなどでもすでに導入されているファイル管理の考え方だ。
管理するファイルが増えれば増えるほど、フォルダが階層化、細分化していって、ディレクトリ構造をある程度は自分で把握する必要があるのが現行のファイル管理の仕組みのネックである。極論すれば、完全なタグ化を実現すれば、全てのファイルを同一フォルダに置くこともできる。何も考えずに済むという点ではこちらがたやすい。そして、タグに基づいた串刺し検索をすることで、目的のファイルだけを仮想的なフォルダに表示することになる。Flickrなど写真管理のサービスで実現している事例はあるが、ファイルの種類によらずこうした管理を行なうことは、おいそれとは実現しない。我々は、まだタグの付属していない多数のファイルをすでに保持しているためだ。タグ管理への移行は、こうした既存ファイルへの対応も含めて、現行のファイル管理と並行して緩やかに進行するものと想像される。
開発者というヘビーユーザーが多数集まるこの場所において、熱狂的な歓迎を受けたのがマルチディスプレイ機能の強化である。Lion以降、iOSからのフィードバックとして、アプリケーションの全画面表示が導入されてきた。1つのディスプレイで運用する場合や、作業に没頭する場合はこの全画面表示はそれなりに有効でもあり、効率的でもあったかも知れないが、マルチディスプレイ環境下では効率を下げる要因の1つにもなっていた。何しろ全画面アプリケーションを選択した場合は、1つのディスプレイにそのアプリケーションが表示されるだけで、その時にはほかのディスプレイは壁紙だけの表示になってしまっていた。同じ理由で、全画面表示のアプリケーションを使用した際には複数のディスプレイに複数のアプリケーションを同時表示させることができなかった。
正直に言って、これはあまりにも残念すぎた仕様であり、LionからMountain Lionを通じてヘビーユーザーにとっての悩みの種でもあった。例えば筆者のような職業の場合は、PCの運用というのは「ながら作業」が基本である。資料を参照しながら、原稿を書く。撮影した写真を参照あるいは編集しながら、その説明文を付与する。バックグラウンドに音楽が必要なら、iTunesの画面も表示しておきたい。職種によらず、こうした「ながら作業」が重要であるケースは枚挙に暇がないだろう。もちろんウインドウをタイリングして行なうこともできるのだが、タイリングでは隠れる部分があるうえに、切り替えも面倒だ。それを解消するための複数ディスプレイの導入だったわけだが、この改善は約2年間に渡って先延ばしにされ続けてきた。
しかし、いよいよマルチディスプレイはあるべき姿に戻る。全画面アプリケーションは各ディスプレイに独立した表示、および複数の同時表示が可能になり、「Mission Control」はディスプレイ単位で独立して動作する模様だ。デスクトップ上部のメニューバーや、Dockも独立して各ディスプレイごとに表示できる。さらにAir Play機能を使って、Apple TVを接続したTV画面などをMacのディスプレイとしても利用できるようになる。ミラーリングに留まらないこの対応は、プレゼンテーションなどでも有効に機能するはずである。
コア技術の改善も図られる。フェデリギ上級副社長が「Advanced Technology」として紹介したのは、「Timer Coalescing」と「Compressed Memory」だ。
Time Coalescingは、CPUのアクティブ状態とアイドル状態を効率的に切り替える技術。プロセッサは常に平均的に稼働しているわけではなく、アクティブ状態とアイドル状態を繰り返している。言うまでもなくアクティブ状態では負荷が高く電力消費も激しい。こうしたアクティブ状態にもいくつかの段階や必要性があって、稼働上では避けられないものがある一方、あるいはタイミングをずらすことができるものがある。そこでTime Coalescingでは、こうしたある程度ずらすことができるものの稼働タイミングを、ずらすことの難しいタイミングに近づけることで、プロセッサのアイドル状態をより長く維持するようにスケジューリングする。Haswellによる省電力化の大きな要素でもある。
フェデリギ上級副社長の説明によれば、こうした細かなアクティブ化の状態を最大で72%減らすことを実現したという。もちろんこれは、CPUとOSの相互の技術によって実現するものだ。もちろん従来のCPUと組み合わせた場合でも、省電力性能の向上は見込めるかも知れないが、現時点ではHaswellとの組み合わせで最大の効果を発揮する。同時に発表されたHaswell搭載のMacBook Airの省電力化についても同様だ。MacBook Airのバッテリ持続時間の延長はMavericksを前提にしたものか、あるいは同等の技術がAir向けのMountain Lionには投入されている可能性もある。もしくは、Mavericksの導入によって、さらにAirの公称稼働時間が延びるということも考えられる。
Compressed Memoryは、アクティブではないアプリケーションなどが確保しているメモリ領域を圧縮することで、フリーなユーザーメモリ領域を確保し、アクティブアプリケーションの動作を軽くする機能である。スライドによれば、レスポンスはMountain Lionに比べて1.4倍程度に向上し、いわゆる軽い動作が期待できる。
OS Xの更新にあわせて標準のWebブラウザである「Safari」も更新される。競合するGoogleのChromeはWebkitから自社によるBlinkへの移行を表明していることからも、Appleは継続してWebkitの優位性をアピールする立場を取る。そのためChromeやFirefoxと比較するスライドが目立った。あくまでAppleによるデータという注釈は付くものの、JavaScriptでは「SunSpider JavaScript benchmark」で、Chromeを1とした場合に、Safariは1.44倍のスコア、「JS Bench Suite JavaScript benchmark」ではFirefoxを1とした場合に3.8倍といった感じである。このあたりは体感的に使ってみないと分からない部分ではある。
一方でタブごとのプロセス管理を行なうことで、パフォーマンスの最適化がなされている。デモンストレーションでは、負荷の高いJavaScriptで構成された周期表のデモページが表示されたが、同時に起動したiTunesでSafariのウインドウを覆い隠すことで、プロセッサの負荷が減少する様子が紹介された。つまりOS側が表示状況を把握して、Safari側のプロセッサ負荷を抑制しているのだ。
そのほか、ブックマーク、ReadingListなどの一覧をサイドバーに表示しながらサイトを閲覧する2ペイン表示にも対応した。この2ペイン表示ではTwitterのタイムラインの中からURLがリンクされているツイートのみを抽出して、そのリンク先を表示する機能も含まれる。
「iCloud Keychain」は、MobileMeからiCloudへの移行で失われていたクラウド同期のパスワード管理機能である。1つのマスターIDによるログインで、WebサイトなどのIDやパスワードを一元管理する。iCloudで同期されることから、iCloudを利用するほかのデバイスでも利用でき、例えばMacで保管したWebサイトのIDやログイン情報が、同じApple IDを利用するiOSデバイスであらためて登録することなく呼び出すことができる。
「AutoFill」機能も強化され、クレジットカード情報の保管も可能になった。強固なランダムパスワード生成機能も搭載する。iCloud Keychainのマスターパスワードで管理することで、各サイト単位ではランダムパスワードを登録して、いわゆるパスワードの使い回しによるリスクを軽減することが可能になる。
一方で、こうした機能はこれまで「1Password」などのサードパーティ製アプリケーションで利用できていた機能でもある。OSにほとんど同一といっていい機能が搭載されたことは、エンドユーザーにとっては便利かも知れないが、言葉は悪いがサードパーティ側からすればパクられた感は残るだろう。特に1Passwordは、Mac、Windows、iOS、Andoroidのデバイス間で同一の機能を模索しながらiCloud側の非対応によって実現せず、現実的な手段としてクラウド対応をDropboxに依存してきた。開発ノートでもiCloud側の対応を待ってメジャーアップグレードを行ないiCloudへ移行するというスタンスだったが、一気に状況が変化した。Appleによるいいとこ取りはOSのメジャーアップデートごとにいくつか目立つが、今回はこのiCloud Keychainが最たるものと言えるかもしれない。
iOSからのフィードバックで、Mountain Lionから実装されている通知センターは機能アップが図られる。「iMessage」など返信が必要なものは、アプリケーションを起動することなく、通知ウインドウからそのまま返信できるようになる。Mailなども同様で、累積通知は異なるが、1通単位の着信であれば表題だけで返信や削除なども選べるようになる。またiOSデバイスの通知センターとの同期機能も追加され、同じ通知がデバイス間にまたがって出ないようになる模様だ。
カレンダー機能の改良は、煩雑だったスケジュールの入力手順がより直接的になった。Facebookのカレンダーやスケジュールも統合できる。また、スケジュール設定にあたっては、実際のスケジュールのほか、目的地への移動予測時間を含むリードタイムが考慮されるようになった。スケジュールの入力時に目的地のほかに、現在地あるいは出発地の情報を加えておくことで、スケジュールに間に合うように到着するために、移動を始めるべき時間がカレンダー上で案内されるようになる。
こうしたカレンダーの機能追加の基礎となっているのは、iOS 6から実装が始まっているAppleによる地図サービスだ。OS X Mavericksでも「Maps」という単独のアプリケーションとして新たに標準搭載される。地図データ自体は言うまでもなくWebベースのサービスで、店舗情報などは「Yelp」などを参照しているようだ。単独のアプリケーションになってはいるが、実装はWebブラウザに近いものと考えられる。iOS 6の地図サービスと同様に、「Turn by Turn」のナビゲーション機能も搭載。OS X上で設定したナビゲーション情報はiOSデバイスに送信でき、iOSデバイスで再検索することなくデバイスを開くだけでナビゲーションが開始される。旅行の際など、事前に予定をいくつかMac上で立てておくといった使い方にも利用できる。
iOS 6同様にFlyOverのような見映えのよい機能も搭載される。一方で、この地図サービスが、特に日本でどれだけ有効に使えるかは未知数と言わざるを得ない。iOS 6の例を挙げるまでもなく、地図に求められるのは何よりデータが肝心であるということは骨身に染みて分かっただろう。目的地が検索できなかったり、あるいはその目的地が間違っていたりしては役には立たない。
もちろん、Appleは地図サービスを諦めたわけではなく、iOS 6の地図も当初よりは改善が進んでいる。日本の地図においてもパチンコガンダム駅はなくなった。少なくともGPS情報とオブジェクトの位置ズレは解消されている。ベクターベースのグラフィックスでも、東京タワーは東京タワーとして描かれるようになった。とはいえ、それは言わば当たり前の話で、データはまだまだ不足しているのが現状だ。
前述したような移動に要するリードタイムを計算するような際は、車を使った移動時間はもちろん、列車やバスなどの公共交通機関を考慮にいれなければ日本の社会では事実上使いものにならない。こうしたデータの統合には関係する機関の協力が不可欠で、また飲食店などをはじめとする店舗情報についても、Yelp並みを求めるのであればそれなりのサービスとの提携は必須とも言える。ここにどれだけ踏み込めるかが地図アプリケーションの総合的な評価だろう。
Mapsと同様に「iBooks」もOS Xで利用できるようになる。iBookstoreのサービスは日本でも開始されており、iOSデバイスで電子書籍の購入や閲覧ができるようになった。OS X向けにiBooksが導入されることで、閲覧可能なプラットホームが1つ増えることになる。マーキングによるハイライト機能やメモ機能と、そのデバイス間の同期は操作性の向上も含めて便利に使えることは間違いない。
ただしWWDCの基調講演で公開されたのは横書きの英文書籍だけだったので、縦書きかつ日本語フォントを利用した際に、OSX X上でどのような表示が行なわれ、どのような機能が実装されるかはOS X Mavericksの登場を待つ必要がある。
電子書籍プラットホームとしては先行かつ最大規模のAmazonという存在がある。規模はもちろんのこと、最大のメリットは参照するデバイスを選ばないという部分だ。自社デバイスの「Kindle」をはじめとして、iOSデバイス、Android、加えてOS X、Windowsなどありとあらゆるデバイスで同じ電子書籍の閲覧が可能だ。仮に将来的になんらかのデバイスの継続性が失われてしまっても代替手段が残る。今回iBooksがOS Xに対応したことは、iOSデバイス依存からの脱却の第一歩にすぎない。
なお、iOS 7に関しては、先日のレポート中で、「ロック解除はボタンのスライドから、下から上へのスワイプ操作に変わる」と記載した。この点について、読者の方より、ボタンではなくなるものの、左から右へのスライド操作であることに変更はないという指摘があった。限られた情報の中ながら、これが間違った内容を示唆したのであれば訂正してお詫びする。一方で筆者がβリリースをもとにしてこれを検証し、情報を今すぐに開示することができないことはご了承いただきたいと思う。
iOS 7と同様にOS X Mavericksでも基調講演では10のトピックスが紹介された。OS X Mavericksには200以上の新機能が搭載されると発表されているが、これは機能の大小をあわせたものだ。現行のMountaion Lionに際しても200以上とされており、OSのバージョンアップとしては、これまでも続いてきた基準と同等と考えられる。
OS X Mavericksは、WWDC 2013の基調講演が行なわれた6月10日から、契約デベロッパに対してのプレビューリリースが開始された。今後、数回にわたってクローズドでプレビューリリースを更新しながら、今秋にエンドユーザーに向けた正式リリースが行なわれる。LionとMountaion Lionに際しては、WWDCで提供価格の発表と月単位の発表日のアナウンスも行なわれていたが、Mavericksでは未発表。後日、具体的な提供開始日とともに価格も案内されるものと思われる。
なお、前日レポートでは、米国価格と日本価格の差から、App StoreおよびMac App Storeにおける為替レート調整がある程度予測できると書いたが、今回価格面での発表がなかったことで、こちらの見通し予測は難しくなっている。とは言え、価格発表のタイミングを注視し続けておくに越したことはないだろう。急激に進んだ円安は反動をともなって95円をはさんだレートまで揺り戻している。iPadやMacの本体価格は、短期的な相場観では調整額が大きすぎたほどだ。App Storeのレート調整はより慎重なタイミングが図られるだろう。
速報や初期レポートでも紹介しているとおり、WWDC 2013ではHaswell化されたMacBook Airをはじめ、次世代Mac ProのSneak Peek、IEEE 802.11ac関連製品、そして「iWork for iCloud」のβリリースなどのトピックスもあった。これらに関してはいずれ製品レビューといった形での続報をお届けしていく。