イベントレポート
Appleが次期OSのOS X MavericksとiOS 7を公開
~ 開発者向けのプレビューは当日から。正式リリースは今秋を予定
(2013/6/12 00:00)
6月10日から米サンフランシスコのMoscone Center Westで開幕したWWDCの幕開けを飾る基調講演で、Appleは予告どおりにMacおよびiOS向けの次期OSをそれぞれ公開した。これまで名称が明らかにされていなかったMac向けのOS Xは「OS X Mavericks」と発表された。iOSは順当に「iOS 7」となっている。
次の10年を担うOS X Mavericks、ネコ科コードネームから転換
Mac OS Xとして登場以来10番目のリリースとなるOS Xは、伝統的に続いていたネコ科の動物を用いたコードネームや製品名ではなく、カリフォルニア州のハーフムーンベイに位置するサーフィンの名所「Mavericks」から名付けられたという。Appleの本社にも近く、次の10年を担うOSの第一歩として採用された。前日レポートで紹介した1階バナーの背景は、ここの波を撮影した写真だったというわけである。
OS X Mavericksは、現行のMountain Lion(10.8)のルック&フィールと比べても大きな変更点はさほどない。インターフェイスの部分では、ファイルを管理する「Finder」がタブ対応のウインドウになり、これまで複数ウインドウを開いていたファイルの移動やコピーといった操作が、シングルウインドウでもやりやすくなる。またファイルに任意のタグを付与することで、横断検索や一括処理などが行ないやすくなっている。
また、iOSからフィードバックされる形でOS Xにも導入されていた全画面タイプのアプリケーションだが、マルチディスプレイ環境ではそのアプリケーションを表示する以外のディスプレイが事実上使えなくなるなど、ヘビーユーザーにはLion、Mountain Lionを通じて不評だった。OS X Mavericksはこれが改善されて、デスクトップ画面と全画面アプリケーションという組み合わせはもちろんのこと、こうした全画面のアプリケーションを複数のディスプレイにそれぞれ表示できる。つまり、こうしたアプリケーション間でもドラッグ&ドロップなどによる操作が可能になるというわけだ。ヘビーユーザーでもある開発者が集まる会場だけあって、この発表は熱狂的に受け入れられた。
通知機能の強化も図られる。こちらもiOSからのフィードバックの形でMountain Lionから導入されていた。OS X Mavericksでは、例えばチャットの通知に対して、通知ウインドウの中から返信を行なうことができるなど、より機能的になっている。専用のアプリケーションに切り替えることなく、現在進めている作業の手を止めずに最低限のレスポンスが返せるようになる。
カレンダー機能は、後述する地図機能との連携が図られる。スケジュールの入力手順がより直感的になったことに加えて、例えばスケジュールの項目にレストランなどの目的地が存在する場合は、現在地あるいは任意の位置情報から推定して、予定に間に合うように移動を開始する時間を考慮したスケジュールが組み立てられるようになる。
ほかにも、従来はKeyChainとしてパスワードの一括管理を行なっていた機能が、MobileMeからiCloudへの移行で利用できなくなっていたが、「iCloud Keychain」として事実上の復活を遂げ、機能も強化された。IDやパスワードはもちろん、クレジットカード情報などのAutofill機能を管理できるほか、強固なランダムパスワードの生成機能も加わった。iCloudを利用するデバイス間でデータ共有も可能だ。Macでは、「1Password」を始めとする同じような機能のアプリケーションが存在するが、OSの機能として組み込まれたことでサードパーティ側は差別化が課題になる。
コア機能としては、CPUがアクティブな状態とアイドルな状態をプロセス間で推定して、非同期でまとめられるタスクをアクティブな状態の時にある程度まとめて動作させることで、アイドル状態をできるだけ長く保つようにするTimer Coalescing技術を投入する。CPU側の対応も必要なので、プロセッサの世代によって効果の違いはあるが、最適化されているHaswell世代であれば、CPUがアクティブな状態(消費電力が高い状態)を最大で72%ほど減らすことができると紹介された。
iOS 6の目玉として導入された地図機能は、OS X Mavericksにも単独のアプリケーションとして追加される。地図データ自体はサーバーベースで運用されているので、iOSであろうとOS Xであろうと流用は可能だ。Mac側で検索したルート情報をiOS側へ転送することで、再検索や再設定をせずに済む機能は有効そうだ。スマートデバイスは確かに便利ではあるが、事前に調べられることはMac側で行なう方が明らかに楽だし、連携することでより効率的な運用が可能になる。
さらに、iBooksの機能もOS Xに導入される。iBookstoreなどで購入できる電子書籍をOS Xでも読めるようになるほか、しおりデータやメモ機能なども利用できる。iBookstoreはiOSデバイスに依存していたが、とりあえずOS Xに対応することで対応デバイス拡大へ一歩踏み出した形だ。
OS X Mavericksは、基調講演が行なわれた6月10日(米国時間)付けで、契約デベロッパに向けたプレビューリリースが開始された。リリースは今秋を予定しており、Mac App Storeからのダウンロードという形で提供される。具体的な発売日や価格については未発表。
iPhone登場以来最大の変化、シンプルでフラットなインターフェイスへ一新
大きな見た目の変化を伴わなかったOS Xに対して、その見かけが大きく変化したのがiOSである。同社が「iPhoneの登場以来、最大の変化」と呼ぶように、ルック&フィール、ユーザーインターフェイスともに大幅な変化を遂げている。
iOS 7の公開にあたっては、まずビデオ映像で登場したインダストリアルデザイン担当の上級副社長であるジョナサン・アイブ氏が、スクリーン画面をまじえてそのコンセプトを紹介した。端的に言ってシンプルかつフラットな点が以前と比べて大きく変化した部分だが、デモではiPhone本体の傾きに応じて背景の壁紙が変化して見える様子など、いかにもAppleらしい演出の凝らされたインターフェイスになっている。
ホーム画面、アプリケーションのドックなど基本的なアイコンの配置や構成は変わっていないが、デフォルトでインストールされているアプリケーションアイコンは、全て新しいコンセプトに基づいて描き換えられている。よりカラフルで階調表示は行なわれているが、立体感は影をひそめてフラットなデザインになっている。その一方で、アイコンと壁紙、後述する「Control Center」などの設定メニューのレイヤー間には、一定の空間がイメージされており、タイリング状態であっても、今自分がフォーカスしているレイヤーがどこにあるか一目で分かる工夫が凝らされている。
操作上の大きな変更点としては「Control Center」がある。これまで通知センターで画面上から下へとスワイプするジェスチャー操作はあったが、下から上の操作はなかった。iOS 7で追加されたControl Centerは、この下から上へのスワイプ操作で各種設定や操作を行なえる。従来のようにメニューを辿るのではなく、Wi-FiやBluetoothのオン/オフ切り替え、画面の輝度変更、音楽プレーヤーの操作、カメラや電卓アプリの起動など、よく使う操作が一覧されたレイヤーメニューが表示される。
マルチタスク機能は強化され、バックグラウンドでの動作が全てのアプリケーション対応へと拡大された。アプリケーションの選択もiOS 6までのアイコン単位からサムネイル付きのアプリケーション単位へと分かりやすくなっている。
最大8個のウインドウを開くことができたSafariは、そのウインドウの切り替えがよりグラフィカルになった。Chromeのようなタブ表示の代わりに、先述したような空間を持ったレイヤー表示を行なうことで、ウインドウの並び替えをドラッグ操作で行なったり、フリックで不要なウインドウを削除したりできる。
カメラおよび写真管理機能でも変更点がある。静止画撮影と動画撮影の選択がよりスムーズになったほか、目的別の保存方法が選択できる。スマートフォンの普及が、正方形の構図(アスペクト比)の普及にもつながっているが、撮影時に構図をあらかじめ選択しておくこともできる。サードパーティ製アプリケーションで人気の、エフェクト機能も取り入れた。
撮影した写真の管理にあたっては、写真のサムネール表示に工夫を凝らし、数年に及ぶ写真ストックの中からでも、目的の写真を選びやすくなっている。追加機能として、こうした写真などを含むファイルを転送する「Air Drop」もiOSに加わる。これはOS X側からの導入で、Wi-FiやBluetoothによるP2P接続で直接転送するものだ。
Siriには新しい音声が追加される。例えば、これまでは同じ英語でも米国では女声による応答で、英国では男声による応答だった(もちろんアメリカ英語と、イギリス英語の違いもある)。これが各国語ごとに男声と女声の選択ができるようになる。デモではフランス語の男性版、女性版などが披露されたが、日本語のデモは基調講演では行なわれなかった。ちなみにiOS 6では、日本語は女声で応答されている。
Siriによる操作は各種設定のオン/オフに加えて、WikipediaやTwitterの検索機能にも対応する。また、2012年に発表された運転時のSiriを使った操作「Eyes Free」を進化させる形で、車載システム上でSiriによるコントロールやナビゲーション、通話やメッセージの送受信を行なう「iOS in the Car」の構想も公開された。これは自動車メーカー側の対応も必要で、2014年から実現していく模様。対応を目指す自動車メーカーはEyes Freeより増えて、12メーカーのロゴがスライドに表示された。
また、音楽機能として、インターネットラジオサービスの「iTunes Radio」が音楽機能に追加される。聴き放題のサービスで、広告収入型モデル。年間24.99ドルの「iTunes Match」の契約者はこのサービスにオーバーライドする形で、広告表示がなくなる。なお、サービスは米国での開始のみが発表されており、各国ごとの対応は後日案内される見通しだ。
そのほか、ノックアウト強盗などスマートフォンの盗難被害の増加への対応策の1つとして、アクティベートロック機能が導入される。従来の「Find My iPhone」に加えて、この機能を解除するときや再アクティベーションを試みるときにApple IDの入力を要求するものだ。盗難品を容易に転売できないということで犯罪の抑止効果を狙う。
App Storeではアプリケーションの自動更新に対応する。前出の「Control Center」などを含め、Androidではすでに実装されている要素も取り込んで、スマートフォンOSのトレンドを吸収している。まったく新しい機能はさほどないが、見た目の大幅な変更に加えて、土台部分にも手が加えられている大規模更新であることは間違いない。
前日レポートでも紹介したように、このユーザーインターフェイスに採用されている書体は“Helvetica Neue”の細い書体だ。確かに刷新されたルック&フィールにマッチしている軽快さがあるが、基調講演では欧文のみで構成されているデモンストレーションだったので、日本語書体と組み合わせたときのイメージは正式リリース後にどうなっているかは気になる部分だ。
iOS 7も、当日からデベロッパに向けたプレビューリリースが開始された。当日開始されたのはiPhone向けのみで、追ってiPad版のプレビューリリースが行なわれる見通し。一般ユーザーに向けた正式リリースは今秋の予定で、アップグレードは無償で行なわれる。対象機種は、iPhone 4以降のiPhoneシリーズと、iPad 2以降のiPad/iPad miniシリーズ、第5世代以降のiPod touch。iPad 2とiPad miniを除いては全てRetina Display搭載機であることから、iOS 6に比べてやや要求仕様が高くなっている。旧製品の中では最も長く最新OSに対応してきたiPhone 3GSが、ついに対象機種から外れた。なお、機種によってはiOS 7の全ての機能が使えるわけではない。
iCloud対応のWeb版iWorksや、IEEE 802.11ac技術の採用
基調講演では、iCloudに対応するWebベースの「iWork」もアナウンスされている。MacとiOS向けに単独のアプリケーションとしても提供されているワードプロセッサの「Pages」、表計算の「Numbers」、プレゼンテーションの「Keynote」が、Webアプリケーション版として、プラットホームを問わずに利用できるようになる。作成されたドキュメントはiCloud上に保存され、デバイスをまたいで編集、更新などを行なえる。
開発者向けには同日よりβサービスを開始。一般ユーザーに向けた公開βサービスを今年後半に予定している。βサービスの終了後はMicrosoftのOffice 365のようなサブスクリプション型の有料サービスに移行する可能性があるが、こうしたβ以降の展開に関しては、現時点では言及されていない。
ハードウェア関連では、速報で紹介した次世代「Mac Pro」のSneak Peekと、Haswellプロセッサを搭載する「MacBook Air」の製品更新があった。MacBook Airはすでに日本国内向けにも販売が始まっており、本誌でもニュースを掲載している。
MacBook Airは、従来モデルから大きなデザイン変更は伴わなかったものの、Haswellプロセッサを搭載することで大幅な省電力化を実現。バッテリによる駆動時間を、従来の11インチの5時間、13インチの7時間から、それぞれ9時間、12時間へと延長した。
併せてIEEE 802.11acの無線LAN技術を採用。対応するアクセスポイントとの接続時には従来以上に高速な無線LAN通信接続を実現する。IEEE 802.11acの採用に伴い、同社の無線LAN関連製品にも更新があり、「AirPort Extreme」(日本ではAirMac Extreme)および「Time Capsule」が新デザインのIEEE 802.11ac対応製品へと変わった。
WWDCの基調講演におけるそれぞれのOSの詳細については、順次掲載を続けていく。