Tegra 3搭載スマートフォンをアピール
NVIDIAは、2011年末に発表したクアッドコアのSoC「Tegra 3」のスマートフォン版をMWC(Mobile World Congress)で発表した。スマートフォン版のTegra 3は、シングルコア時に1.5GHz、クアッドコア時には1.4GHzと、タブレット版(シングルコア時1.4GHz、クアッドコア時1.3GHz)よりも高クロックで動作することを明らかにした。
MWCでは、このスマートフォン版Tegra 3の発表に合わせて、複数のOEMベンダーより搭載スマートフォンが展示され注目を集めている。すでにInternational CESで参考展示を行なった富士通のほか、LG Electronics、HTC、ZTEなどがTegra 3を搭載したスマートフォンを展示して注目を集めた。
また、1月のCESの時点ではプロセッサは未発表だった、東芝の7型と13.3型タブレットに関しても、Tegra 3ベースであることを明らかにし、7型のタブレットを同社ブースに展示して注目を集めた。
●スマートフォン版のTegra 3が、タブレット版のTegra 3よりも高クロックな理由NVIDIAのTegra 3はクアッドコアのSoCで、2011年11月に正式に発表された。2011年末には、ASUSTeK Computer10型タブレット「EeePad Transformer Prime」に採用され、出荷開始されている。日本では2012年1月にEeePad TF201として販売開始された。
今回NVIDIAが発表したスマートフォン用のTegra 3は、従来のタブレット用よりも高いクロック周波数に設定されている。
スマートフォン向け | タブレット向け | |
シングルコア時 | 1.5GHz | 1.4GHz |
マルチコア時 | 1.4GHz | 1.3GHz |
タブレット用としてすでにリリースされているものはシングルコア時1.4GHz、クアッドコア時1.3GHzが最高クロックなのだが、スマートフォン用として提供されるものはシングルコア時1.5GHz、クアッドコア時1.4GHzが最高クロックとなり、いずれも0.1GHzずつ引き上げられている。ただし、チップそのものはどちらも同じTegra 3を利用しており、違いはクロック設定だけということになる。
NVIDIAの関係者によれば、このスマートフォン用とタブレット用の違いはチップのリビジョンという。一般的に考えれば、高いクロック周波数で動いているスマートフォン用のTegra 3の方が、タブレット用のTegra 3よりも消費電力が高くなると考えるのが普通だ。しかし端末の設計時に参照するいわゆるTDP(Thermal Design Power、熱設計消費電力)はどちらも大きくは変わっていないという。つまり、クロックは上がっているのに、スマートフォン用のチップの方は消費電力が増えていないのだという。
NVIDIAのマット・ウェブリング氏は「昨年(2011年)のうちにリリースしたタブレット用に比べて、スマートフォン用の方が最適化が進んでいる。これにより、クロックが上がっても、ほぼ同じ熱設計消費電力を維持している」と述べ、新リビジョンでさまざまな最適化を加えることで、クロックを上げながらも消費電力を変えていないと説明した。
●日本市場向けに設計された富士通のTegra 3搭載スマートフォンNVIDIAがスマートフォン版のTegra 3を発表したことに合わせて、MWCでは5つのOEMベンダーが、Tegra 3を搭載したスマートフォンを発表、参考展示した。それが、日本の富士通、韓国LG Electronics、台湾HTC、中国ZTEとK-Touchの5社だ。このうち、富士通、LG Electronics、HTC、ZTEはNVIDIAブースや自社ブースにおいてTegra 3を搭載した端末を展示した。
富士通のTegra 3搭載スマートフォン |
富士通は、MWCの会場内に設置されたブースで、Tegra 3を搭載したスマートフォンの試作機“クアッドコアCPU搭載ハイスペックスマートフォン”(仮称)を公開した。富士通により公開されたスペックによれば、CPUにはTegra 3を採用し、4.6型ディスプレイ、1,310万画素のカメラ、防水/防塵対応、背面には指紋認証センサー、ワンセグ、FeliCaなどのスペックを備え、OSはAndroid 4.0が標準で搭載されている。
ユニークなのは、ほかのTegra 3搭載スマートフォンは、ルネサス、GCT、NVIDIAの子会社であるIceraなど、Tegra 3との動作が確認されたモデムチップを搭載しているのだが、富士通の製品は富士通自身が製造しているLTEモデムを採用していることだ。
このほか、Android 4.0ではハードウェアボタンが省略されていることが少なくないが、富士通のTegra 3搭載スマートフォンは、ホーム、メニュー、戻るの3つのボタンがハードウェアで実装されており、従来のAndroid 2.xまでの操作性に慣れたユーザーでも違和感無く使うことができる。また、富士通の携帯電話の特徴とも言える、置くだけで充電できるクレイドルも用意されており、使い勝手も良好だと感じた。
富士通の関係者によれば、このTegra 3搭載スマートフォンは現在開発中で、夏頃を目処に出荷したいとのことだったが、具体的な時期は明らかにされなかった。また、搭載しているモデムがLTEということで、キャリアも絞られてきそうだが、現時点ではどこのキャリアから発売されることになるのかも明らかにされなかった。
他の富士通の携帯電話と同じように、クレイドルが用意されている。置くだけで簡単に固定される | 背面にはカメラのほか、指紋認証リーダーが用意されている | HD動画の再生もこのようにスマートフォンで楽々とこなせるようになる |
●LG、HTC、ZTEのTegra 3スマートフォン
このほか、LG Electronics、HTC、ZTEがTegra 3を搭載したスマートフォンを自社ブースなどに展示し、大きな注目を集めた。
LG ElectronicsはTegra 3を搭載した「Optimus 4X HD」を展示した。Optimus 4X HDは4.7型液晶を搭載したスマートフォンで、液晶パネルは1,280×720ドット(720p)のIPSパネルが採用されるなど、液晶の表示品質にこだわっていることが1つの特徴となっている。内蔵フラッシュメモリは16GBで、メモリは1GB、800万画素のカメラを搭載するなどのスペックになっており、OSにはAndroid 4.0が採用されている。Optimus 4X HDにはドッキングステーションが用意されており、ドッキングさせることで充電できるほか、テレビに接続してHD動画や3Dゲームなどを楽しむ様子がデモされていた。
LG ElectronicsのOptimus 4X HD。1,280×720ドットのIPS液晶が採用されるなど、液晶にこだわりが感じられる製品 | Optimus 4X HDの底面 | このように、本格的な3Dゲームもスマートフォンで楽々と楽しめるようになる。内蔵されているモーションセンサーを利用して操作が可能 |
HTCの「HTC One X」は720pでゴリラガラスの4.7型液晶を搭載したスマートフォン。Tegra 3、1GBメモリ、HSPA+といったスペックになっている。なお、HTC One Xにはデュアルコア+LTE版も用意されており、そちらはQualcommのSnapdragonが採用されている。
HTC One Xはゴリラガラスの4.7型液晶(1,280×720ドット)を採用したスマートフォン |
ZTEの「Era」は、モデムにIcera 450(HSPA+モデム)を採用したTegra 3スマートフォン。4.3型960×540ドットの液晶を採用しており、メモリは1GB、内蔵ストレージは8GBとなる。スペックからもわかるように、どちらかと言えばミドルレンジを狙った製品となる。さらに、ZTEはTegra2+Icera 450の組み合わせのMimosa Xも発表しており、こちらは普及価格帯を狙った製品となる。つまり、今後は低価格帯のスマートフォンにもデュアルコアプロセッサというのが登場する可能性があるということだ。
ZTEのEraはTegra 3に、NVIDIAの子会社であるIceraのHSPA+モデムを組み合わせたスマートフォン | Tegra2とIcera 450の組み合わせのスマートフォンZTE Mimosa X。低価格セグメント向けの製品となる |
また、NVIDIAブースには東芝がCESで発表した7.7型タブレットも展示されており、CESでは未発表だったプロセッサがTegra 3であることが明らかにされた。さらに、上位モデルになる13型の製品もTegra 3であるとアナウンスし、ASUSだけでなく、東芝のタブレットもTegra 3を搭載した製品の選択肢として日本で購入できるようになる可能性が高まってきたと言えるだろう。
Acer Iconia A510はTegra 3を搭載した10型タブレット | CESでもデモされた東芝の7.7型タブレットのSoCがTegra 3であることが明らかにされた | NVIDIAの子会社であるIceraのLTEモデムIcera 410 LTEのデモ。LTE経由で1080pの動画をストリーミング再生 |
●Tegra 3に最適化されたゲームの作成をソフトウェアベンダーに働きかける
さらに、NVIDIAはMWCにおいて、Tegra 3上で動作する3Dゲームのラインナップの拡充をアピールした。NVIDIAはゲーム開発者に対して、Tegraシリーズ上で動く3Dゲームを開発するための開発キットを提供しており、それを利用することでPCやゲームコンソール向けに作られたゲームを移植することが容易になるのだ。
今回NVIDIAは、ゲームソフトウェアメーカーのセガとの提携を発表し、その第1弾として有名なキャラクター「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」が登場する3Dゲーム「Sonic 4: Episode II」のTegra 3版を作成し、今後提供していくことを明らかにした。Sonic 4: Episode IIはPlayStation 3、Xbox 360、iOS、Android、Windows Phone 7など複数のプラットフォームに対応しているが、Android版はTegra 3のハードウェアに最適化されたバージョンがリリースされることになる。
また、日本のゲームソフトハウスのイニスの「Eden to Greeeen」のTegra 3対応版もNVIDIAブースなどでデモされるなど、NVIDIAは3DゲームのTegra 3への最適化に力を入れ、コンソールゲームやPCゲームなどが、Tegra 3を搭載したタブレットやスマートフォンなどで十分動くとアピールされていた。
NVIDIAとしては、PCゲームでやっているように、自社のハードウェアへの最適化をソフトウェアベンダーに対して働きかけ、ユーザーがより高品質でゲームを楽しめるようにすることで、自社のハードウェアの売り上げを伸ばしたいという狙いがある。今後もTegra 3に最適化されたタイトルを増やしていきたい意向だと言う。
Eee Pad Transformer Prime(日本名TF201)を利用したSonic 4: Episode IIのデモ | イニスのEden to Greeeenは無料の3Dゲームだが、アイテムをおいていく形で敵を撃退したりする。Tegra 3対応版では、より多くのキャラクターを登場させたり、よりリアルな3D描画が可能になるという。 |
(2012年 3月 1日)
[Reported by 笠原 一輝]