イベントレポート

まずはUWP、話はそれからだ

 アメリカ サンフランシスコでMicrosoftが開催したソフトウェア開発者向け年次会議「Build 2016」が閉幕して1週間が経過した。今年(2016年)のカンファレンス全体を通した、具体的なメッセージとしては、何はともあれUWP、つまり「Universal Windows Platform」に対応したアプリを作って欲しいというものだ。

 基調講演や各種のブレークアウトセッションでも、Windows 10 Mobileに特化した話がほとんどなかったことから、MicrosoftはもうPhoneデバイスをあきらめてしまったのではないかと憶測されたりもした。

 Windows 10の次期メジャーアップデートとして、Aniverssary Updateの話は出たものの、そのSDKのプレビュー版が公開されたことがアナウンスされただけで、Aniverssary Updateの詳細が話されることはほとんどなかった。

 そもそもWindows 10 SDKは、すでにPC用のWindowsのためだけのものではない。Windows 10 Mobile Emulatorとともに提供され、開発環境である Visual Studio 2015のセットアップ中のカスタマイズオプションとしてインストールする。オプションなのだ。そして、PC用もMobile用も関係ないわけだ。

 Win32 APIはこれからどうなるのか、Windows 10 Mobileの将来はどうか、といったことはとりあえず考えないで置いておく。とにかくUWPアプリを作りさえすれば、Windows 10が稼働するあらゆるデバイスで実行できることが保証される。さらに、UWPを作るという作業の一部として、Microsoftが提供するXamarinなど各種のツールを使ってiOSやAndroid向けのアプリも用意することができる。迷うことはない、まずは、UWPの開発、UWPへの移行から始めて欲しい。それがMicrosoftのメッセージだ。

 そしてMicrosoftはConversation as a Platformという概念を打ち出し、UIとしての自然言語の可能性を示唆した。フレームワークとしてのボットを提供し、そこでの会話がPC、いや、クラウドサービスとの対話になるという。こうした環境のお膳立てとして、Cognitive Servicesを用意し、さまざまなAPIを無償提供する。

 もう、そこには、世界標準のアーキテクチャとしてのPCで稼働する「OS=Windows」という考え方は希薄だ。もうWindowsはプラットフォームでもなんでもない。極端な話、Microsoftにとっては、WindowsもiOSもAndroidも同列だと考えているようにも見える。すでにWindowsで彼らのビジネスを成立させようとは思っていないのかもしれない。

 今回のBuildは、Microsoftがそのことをかなり具体的に提示した点で、これまでのBuildとは趣を異にするイベントとなった。将来のWindowsの姿が曖昧だったのではなく、露骨にその将来を明示したのだ。

 これからのMicrosoftを支えるのは「Cortana」と「りんな」だ。これは間違いない。片や役に立つエージェント目指すAI、片や情緒を持った人間性をめざすAIだ。合体するのか、平行線のように別の道を歩み続けるのかは分からないが、彼女たちの進化が、そのままMicrosoftの将来を決めることになるだろう。

 それに加えて彼らがカンバゼーションキャンバスと呼ぶアプリの1つSkypeの進化に注目しておこう。MicrosoftのAI戦略は、以前も紹介したように(別記事「シャオナ、君がコルタナだったのか」)、人間とAIをエモーショナルなコネクションで結び、そこから生み出されるニーズをパートナーシップやオープンなAPIを使って活用することを指向している。

 Cortanaやりんなの故郷としての、Microsoft Research Asia 所長のDr. Hsiao-Wuen Hon氏は、AIとマシンラーニングとビッグデータは95%が重なった領域の研究であるとする。データがなければAIは存在し得ないとも。コンピュータネットワークは、未知の発想を集合知に変えるのに5分もかからない。変革はそこに起こるのだと氏は解説する。

 その一方で、ビッグデータ解析によるAIの限界に挑むNECのような企業もある。今週は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所との連携が発表され、未知の状況での意思決定という新分野を確立し、自律型AIの実現に向けて可能性を探ろうとしていることが表明された。MicrosoftのAI戦略を真っ向から否定するような方向性だが、そこには共通点もある。それは、人と機械が協調すればスーパーマンになれるということだ。

 こうしてWindowsは、これら将来の世界と人間を媒介するシェルの1つに過ぎないということが明らかになった。それが今年のBuildカンファレンスだったといっていいだろう。

(山田 祥平)