イベントレポート
ルネサス開発者会議2015レポート
~基調講演でIoTの開発基盤と自動車の先進運転をアピール
(2015/10/15 12:13)
大手マイコンベンダーであるルネサス エレクトロニクス(以下はルネサス)は、開発者向け会議「Renesas DevCon 2015」を米国で開催した。会期は2015年10月12日~15日(現地時間)、会場は米国カリフォルニア州オレンジカウンティのHyatt Regencyホテルである。実質的な初日となる13日の午前には、基調講演が開催された。
ところでルネサスの開発者向けイベントは、ルネサス エレクトロニクスの前身であるルネサス テクノロジの米国法人が開催したのが始まりである。米国法人が主導して2008年10月にカリフォルニア州でイベント「Renesas Developers' Conference」を開催した。この時に採用された略称「DevCon(デブコン)」が、現在に至るまで使われている。
ルネサス テクノロジとNECエレクトロニクスが統合してルネサス エレクトロニクスが発足した2010年にも、米国法人が開発者向けイベント「DevCon」をカリフォルニア州で開催した。「DevCon」は2年後の2012年にも開催されている。これらのイベントはいずれも米国法人が企画・運営しており、日本の本社は関わっていない。
2014年には、ルネサス本体が日本国内で初めて、開発者向けの大規模なイベント「DevCon」を東京で開催した。米国開催のDevConが3日間程度の開催期間があるのに対して日本のDevConは会期が1日と短かったものの、大盛況で閉幕した。
そして今年(2015年)、米国法人が主導するDevConが前回と同じ、カリフォルニア洲オレンジカウンティで開催された。ルネサスとしては4回目、ルネサス テクノロジ時代から含めると5回目の開発者向けイベントとなる。
オープニングビデオにはパートナー企業の代表者が登場
イベントを代表する講演セッションである基調講演は、オープニングビデオから始まった。ルネサスのパートナー企業(サードパーティ)は数多く存在するが、その中でも代表的な企業のトップあるいは幹部が、ビデオで短い祝辞を寄せていた。登場した企業はカナダのQNX Software Systems、米国のMicrium、ドイツのSEGGER Microcontroller、米国のGreen Hills Software、米国のExpress Logic、スウェーデンのIAR Systemsである。ビデオでは各社の本社所在地を表示しており、世界各地のサードパーティがルネサスのパートナー企業であることをアピールしていた。
米国法人社長のAli Sebt氏が司会進行をつとめる
オープニングビデオが終わると、ルネサスの米国法人Renesas Electronics America(REA)の社長であるAli Sebt氏が登壇した。なお、Sebt氏はルネサス本体のバイスプレジデントを兼務している。Sebt氏は登壇するとすぐに、ルネサス本体の代表取締役会長兼CEOを務める遠藤隆雄氏を紹介した。遠藤氏が登壇して挨拶を述べると、Sebt氏に交代して基調講演の本編が始まった。
パイプラインからプラットフォームへ
本編で取り上げた最初のテーマは「IoT(Internet of Things)」である。携帯電話機がインターネットに接続することでスマートフォンへと変貌を遂げたように、組み込み機器(ThingsあるいはMachine)はインターネットに接続することで「スマートマシン(Smart Machine)」に変貌していくとの見通しを示した。IoTの普及によってインターネット(あるいはイントラネット)に接続されている機器の数は、控えめに見積もっても5年以内には250億個に達しているという。
ここで問題となるのは、250億個ものIoT機器をどのようにして開発するのか、である。従来の製造と販売の手順は、サプライヤあるいは販売者から部材を購入し、組み込み機器を製造し、完成品を倉庫に収め、適切な数量を輸送し、市場で販売する。いわゆる「パイプラインモデル」である。
しかし今後は、IoT機器や組み込み機器などでもプラットフォームをベースとした開発スタイルが重要になってくるとSebt氏は説明する。このためにルネサスが開発したプラットフォームが「Renesas Synergyプラットフォーム」である。スマートフォンと同様に、アプリケーション開発に特化したプラットフォームが組み込み機器にも必要となる。スマートフォンのアプリと同様に、IoT機器でもアプリを開発して新しいサービスを生み出し、利益を生み出していく。
APIから下の層をブラックボックス化
「Renesas Synergyプラットフォーム」では、粗く言ってしまうと外部から見えているのはAPI(Application Programming Interface)だけである。ソフトウェア開発者はAPIに準じ、アプリケーションをプログラミングする。これだけで、IoT機器や組み込み機器などがほぼ完成する(もちろんアプリケーションのデバッグは必要である)。
「Renesas Synergyプラットフォーム」の内部は、ソフトウェア(リアルタイムOSとミドルウェア群)とハードウェア(マイクロコントローラ)、開発環境などで構成されている。ここで重要なのは、ソフトウェア部品は全て動作確認済みであることだ。組み込み機器の開発エンジニアが、ミドルウェアの動作を確認する必要がない。従って開発の手間を大幅に省ける。
ソフトウェア部品の中核となるのが、「Synergy Software Package(SSP)」と呼ぶソフトウェア群である。SSPにはリアルタイムOSやアプリケーションフレームワーク、機能ライブラリ、ハードウェア抽象化層(HAL)ドライバ、ボードサポートパッケージ(BSP)などが含まれる。いずれもルネサスが動作を保証するソフトウェア部品である。
「Renesas Synergyプラットフォーム」のハードウェアは「Synergy Microcontroller」と呼ぶマイクロコントローラ(マイコン)である。ローエンドからハイエンドまで、4種類の製品シリーズを用意する。シリーズ名はローエンド側から「S1」、「S3」、「S5」、「S7」である。これらのマイコンはARM Cortex-MシリーズのCPUコアを内蔵しているのだが、基調講演ではARMコアであることには触れなかった。
「Renesas Synergyプラットフォーム」を利用することで、IoT機器と組み込み機器の開発スケジュールは大きく変化する。ハードウェア設計と基本ソフトウェア設計の期間が大幅に減少し、アプリケーションとイノベーションの開発に時間を割けるようになる。
自動車の先進運転システムを支える衝突防止技術
Sebt氏は「Renesas Synergyプラットフォーム」を説明した後、話題を自動車の自動運転技術と衝突防止技術に移した。ADAS(Advanced Driver Assistance System:先進運転支援システム)を搭載した最先端の開発車両を示していた。
最先端の開発車両は、車載カメラや車載レーダー、車車間/路車間(V2X:Vehicle-to-Everything)通信といったクルマの周囲を把握する機能によって、隣接車両や障害物などの存在を早期に検知し、衝突を防止する。これらの機能を実現するため、車載カメラ・ネットワーク専用SoC「R-Car T2」と、V2X向けの無線通信用SoC「R-Car W2R」を2015年9月に発表した。