イベントレポート
基調講演でアナウンスされた数字から見るWWDC
(2014/6/6 08:14)
米Appleがサンフランシスコで開催しているWWDC 2014の詳報を、順次お届けする。最初は開発者がターゲットとすることになるインストールベースなど、数字を視点にして紹介していく。なおWWDCの会期は6月2日から6日までの5日間にわたっているが、報道という形で紹介できる内容は、会期の冒頭に行なわれた基調講演のみにとどまる。
2014年のWWDCは、通算25回目の開催にあたる。ルーツをたどると最初の開催は1989年とされており、サンノゼのコンベンションセンターを会場に、約1,600人が参加して行なわれたとされている。ちなみに1989年は、MacintoshのOSとして「Syetem 6」がリリースされた年にあたる。年次開催でなかったせいか、回数としては2014年が25回目。コインにも25セントがあるように、米国では何かと区切りが良い数字だ。
25回目を記念して、今年の参加開発者にはiTunes Storeで利用できる25ドルのGift Cardがパスの受け取り時に配布されている。Cardは各国通貨のようで、日本から訪れた開発者には3,000円のカードが配られたようだ。これは日本で流通しているカードに2,500円がないからと思われる。参考までに国内で流通しているのは、1,500円、3,000円、5,000円、10,000円の各カード。最近は1,000円×3枚のパッケージが家電量販店などで流通している。他に2,000円という額面も存在するが、主にイベント用途で一般流通しているのは見たことがない。
参加者は世界69の国と地域から。最年少は13歳
参加した開発者の数は約6,000人。チケットのソールドアウトが相次ぐようになって、2013年からはキャパシティを増やして対応している。今年は抽選方式でチケットの割り当てを行なっているが、加えて世界各国の学生を対象にスカラーシップで参加できる無料招待枠を200人分設けた。希望者は、開発者サイトの学生枠で任意の手続きを行なうことで、Appleにより選抜される。ティム・クックCEOによれば、今回参加した最年少者は13歳とのことである。
開発者は世界69の国と地域から訪れた。うち70%がはじめてWWDCに参加することになるとクックCEOは基調講演の中でコメントした。開発者の参入が続いているのも事実であり、また今年から抽選方式がとられてはいるが、さすがに70%が初めてを占めるとなると大変である。これまでの経験上、リピーターが多いのもWWDCの特徴であったので、当選確率については必ずしも公平ではなく、意図して未経験者が当選しやすいような係数がかかっていた可能性もある。広報担当者によると、抽選に申し込んだ総数は公表していないとのこと。
WWDCは、こうして記事として紹介している基調講演のほか、分野別のセッション、Appleの開発エンジニアと一緒にCodeのデバッグなどを行なうラボなどがある。WWDCの本流とも言える部分が、このセッションとラボだ。2014年は、100以上のセッションと120以上のラボが設置された。開発者登録をしているユーザーは、後日セッションビデオを参照することができる。このセッションのスピーカーや、ラボで直接開発者に対してアドバイスを行なうのがApple社員の役割であり、期間中約1,000人が会場に訪れる。
半数以上が最新OSへと移行しているOS X
クックCEOによると、Mac製品の出荷は堅実な成長を続けており、PC市場全体としては5%のマイナス成長となっているなかで、Mac製品単体では12%増を続けている点をアピールした。つまりMac向けのアプリケーションを作ることは、今後も開発者にとっての利益となり続けるというメッセージでもある。もちろん、ここには総数が含まれてはいないので注意が必要だ。確かにWindows市場はシュリンクしているのかも知れないが、市場に占めるパイはいまだに大きい。成長する小規模市場にリーチするのか、成長が鈍化している大規模市場にリーチするのかは、アプリケーションの性格や目的にもよる。
さて、そのMac製品のインストールベースだが8,000万台のアクティブなMac製品があるとしている。うち、2013年に出荷をはじめたOS X Mavericksがインストールされているのは約4,000万台にのぼり、約51%を最新OSが占めている。一方、競合であるWindows製品の場合、出荷が約1年先であるにもかかわらず、Windows 8が占める割合は14%に留まる。この比較を加えて、Mavericksの急速な起ち上がりをアピールした。
こちらも、本誌読者の方にはあらためて説明するまでもないかも知れないが、Windoows XPのサポート終了がニュースとして取り上げられるように、主に法人用途で用いられているPCは、特にこうした動きは遅いのが当然だ。
クックCEOが特に強調したいのは、開発者がターゲットを絞りやすいという部分になる。前述のように半数以上が最新OSであれば、最新のOSの機能やAPIを前提としたアプリケーションが開発できるということだ。仮に、ここのシェアが低くなれば、開発者としても、レガシーなOSにも配慮したアプリケーション開発を余儀なくされる。実際にXPからの移行がなかなか進まないのも根っこはほぼ同じことである。
こうした数値を背景に、今秋にリリースされる次期OS Xの「OS X Yosemite」に関しても、同様にユーザーはある程度速やかに移行を行なうものと推定されるため、Yosemiteに対応するアプリケーションをガンガンと制作してくれて構わないということだ。
Yosemiteの詳しい紹介は別稿に譲るが、OS Xとしては11番目のリリースにあたる。最初のリリースが10.0(Cheetah)で、2001年3月に正式リリースされた。10.0からスタートしているので、11番目のOSであり10.10にあたる。なお、ブラウザのSafariはバージョン8.0となることが、ニュースリリースの中で記載されている。
OS X Yosemiteは、基調講演の同日から登録開発者向けに配布を開始した。エンドユーザー向けの正式リリースは今秋を予定している。既存のOSからのアップグレード価格は無料。現時点で、インストール可能なMac製品や、アップグレード可能なOSの詳細は正式に発表されてはいないが、概ねMavericksに準じるものと想像される。
今夏には、パブリックβとして開発者登録をしていないエンドユーザーにも提供を行なうこともあわせて発表されている。パブリックβは100万人規模で実施される見通し。OSのメジャーアップデートにおけるパブリックβの実施は、Mac OS X (10.0)以来。マイナーチェンジでは、Mavericksの10.9.3からパブリックβを実施している。これまでは正式発表時までは基本的に開発者を対象にテストを行っていたが、出荷後のマイナートラブルも多いことで、事前のデバッグに限界があるという判断に至ったものと想像される。
Yosemiteにアップグレード可能なMac製品の詳細は、このパブリックβの時点である程度明らかになるものと思われる。
5億台を出荷したiPhone。Touch IDの導入でセキュリティ意識も向上
iOSのセクションでは、クックCEOが立て続けにiOSデバイスの出荷状況を紹介した。iPod Touchは1億台、iPadは2億台、iPhoneは5億台を累計出荷している。また、2013年にはじめてApple製品を手にしたユーザーは1億3,000万人にのぼり、依然として新しい顧客の獲得が続いていることをアピールした。クックCEOによれば、iOS 7への顧客満足度は97%と非常に高い数字を示している。
Mac製品同様に、最新のOSであるiOS 7にアップデートしているユーザーは89%。おそらくこの数字は、iOS 7へのアップデートが可能なiOSデバイスが基数になっているものと思われる。一方、競合であるAndroidでは、最新OSであるKitKatのインストールベースが9%であることもあわせて紹介した。いわゆるAndroidの分断化である。
ただ、この場合のパイは、KitKatへの更新が可能なデバイスの中でKitKatにしている数ではなく、Android全体の中でのKitKatの占める割合と見られる。KitKatでは、OSを軽量化してインストール可能なハードウェア要件を低くしているが、日本の市場を見ても分かるように、インストール可能なハードウェアであっても、キャリアからのアップデートがまだ提供されていないケースも多い。これらは数字に含まれないことになる。もう1つ、クックCEOが問題として取り上げたのはMobile Malwareの数だ。全体の99%をAndoroidが占めるとしている。
iOSに関してもクックCEOが挙げた数字の意味は同じで、Mac製品以上にユーザーの最新OSへの移行がスムーズであるという点だ。この日、公開されたiOS 8に含まれる機能や、解放されたAPIを使って、積極的に最新OSに対応するアプリケーションを開発して欲しいというメッセージになる。
App Storeの現状についても紹介されている。現在、App Storeには1,200万タイトルのアプリケーションが登録されている。App Storeに接続するユニークユーザー数は、一週間あたり3億アカウントにのぼる。累積ダウンロード件数は750億件。これだけ大きなマーケットなので、アプリケーションを開発することは、開発者にとっても大きなメリットであることを強調した。
一方で、ここ数年続いていた小切手のビジュアルとともに示される開発者への累積支払額は今年はスライドに登場しなかった。同様にお馴染みの数字として登場しなかったものには、直営店に関連する店舗数や、来店者数などがある。今年の基調講演では、直営店に関する言及は一切なかった。
興味深いのはクレイグ・フェデリギ上級副社長が紹介したパスコードロックの割合だ。iPhone 5sで指紋認証機能である「Touch ID」を導入する以前は、パスコードロックを使っていた比率が49%にとどまっている。半数以上がスワイプするだけで、個人情報が満載の機器を使っていたことになる。その後、Touch IDが導入されたiPhone 5sで同じデータをとってみると、Touch IDあるいはパスコードロックを使っていたユーザーの比率が83%に向上している。パスコードの解除手続きよりは指紋認証の方がラクであるという理由から、これまでパスコードを敬遠していたユーザーもデバイスのロックへと意識を変化させていったものと見られる。面倒くさいのハードルがTouch IDで下がってきたということだろう。
iOS 8も、OS X同様に同日から開発者向けのプレビューリリースを開始。やはり今秋にエンドユーザー向けの正式リリースを予定している。iOS 8にアップデート可能なiOSデバイスだが、iPhoneは、iPhone 4s以降となっている。長く続いたiPhone 4のサポートだがiOS 7が最後のリリースとなる。iPadは、iPad 2以降。iPad miniは、標準解像度、Retinaディスプレイモデルともに対応する。iPod touchは第5世代以降が対象だ。