【MWC 2011レポート】Honeycombタブレット市場を席巻したNVIDIA
~クアッドコアTegraでさらなるリードの拡大を目指す

NVIDIAブース

会期:2月14日~17日
会場:Fira de Barcelona(バルセロナ国際展示場)



 Mobile World Congress(MWC)では、最新スマートフォンやタブレットが発表、展示されている。その中でも最も熱い製品の1つが、Google Android OSの最新版であり、タブレットに最適化されたバージョンになるHoneycomb(ハニカム、開発コードネーム)ことAndroid 3.0を搭載したタブレットデバイスだ。

 International CESで発表されたMotorolaのXOOM、MWC開催前日に発表されたSamsung ElectronicsのGalaxy Tab 10.1、続く初日に発表されたLG ElectronicsのOptimus Padなど、複数の製品がすでに発表され、注目を集めている。

 こうしたHoneycombタブレットに、ほぼ例外なく搭載されているのが、NVIDIAのSoCであるTegra 250(通称Tegra 2)だ。HoneycombタブレットのSoC市場を席巻したと言ってよいNVIDIAは、クアッドコア版のTegraとなる開発コードネーム「KAL-EL」の実動デモを行ない、その優位性をさらに印象づけることに成功している。

●NVIDIAブースに多数のHoneycomb搭載タブレット

 NVIDIAは、MWC会場の複数あるホールの中で、ホール1にブースを構えており、Tegra 2を搭載したスマートフォンやタブレットを展示している。Tegra 2は、デュアルコアのARMプロセッサ、NVIDIAのGPUなどを1チップに統合したSoCで、従来のスマートフォンやタブレット向けのSoCに比べて、強力な3D描画性能を持つことで注目を集めてきた。

 今回NVIDIAがブースに展示したのは、CESで発表されたMotorolaのATRIX 4Gと、LG ElectronicsのOptimus 2Xという2つのスマートフォン(NVIDIAではスーパーフォンと呼んでいる)と、LG ElectronicsのOptimus Pad、MotorolaのXOOM、ASUSのEeePad Slider/Transformer、DellのStreak 7、AcerのIconia A500、東芝の製品名未定というそうそうたるタブレット製品群だ。スマートフォンに関してはガラスケースの中に入れられており触ることはできなかったのだが、タブレットに関しては、ユーザーが触れる状態で展示されており、その動作を確認することができた。

 なお、Samsung Electronicsが行った発表会の時点では明らかにされていなかったが、Galaxy Tab 10.1もTegra 2を採用していることがNVIDIAより明らかにされている。

東芝のAndroidタブレット。特に表示はなかったが、Android 2.2が搭載されていた
LG ElectronicsのOptimus Pad。Tegra 2を採用したAndroid 3.0タブレット。3Dカメラを搭載しているのが特徴的
DellのStreak 7、Android 2.2搭載のタブレットとしてCESで発表されたAcerのIconia A500、スペックではAndroid 3.0だが、実際にはAndroid 2.2が搭載されていた
MotorolaのXOOM、Tegra 2搭載Android 3.0搭載のタブレットASUSTek EeePad Transformer
ASUSTeK EeePad Slider。Android 3.0搭載のスライド式キーボードを備えるタブレットSamsung Electronicsのブースに展示されていたGalaxy Tab 10.1。発表会からの追加情報としては、microSDHCのスロットは用意されず、内蔵メモリのみとなっている

●Honeycomb搭載タブレット市場を席巻する背景

 今回Android 3.0ベースのタブレット機器が、すべてNVIDIAのTegra 2ベースだったことは、偶然の一致ではないと、業界に詳しい関係者は語る。その関係者によると、「Googleは今回Honeycombタブレットを開発するにあたり、Motorola、Samsung Electronics、LG Electronicsに優先権を与えている」という。

HTCのタブレットとなるHTC Flyer。HoneycombではなくGingerbreadベース

 実際、その3社を除き、いずれのメーカーもAndroid 3.0搭載タブレットと説明している製品でも、展示されている製品に搭載されているのは、Honeycombではなく、Foryo(Android 2.2)ベースだった(唯一の例外はASUSTekのEeePad)。また、HTCも同社として初めてのタブレットとなるHTC Flyerを発表しているが、プロセッサはQualcommのSnapdragonで、OSはGingerbread(Android 2.3)ベースとなっている。

 「GoogleはAndroid 3.0の開発をTegra 2をリファレンスプラットフォームにして開発を進めてきた。このため、最初の世代のAndroid 3.0搭載タブレットはすべてがTegra 2ベースになっている」(前出の関係者)とのことで、今回のMWCではNVIDIAがAndroid 3.0タブレットで、他のプロセッサベンダ(QualcommやTIなど)に比べて大きなリードを築くことにつながったのだという。ではなぜ、NVIDIAがその座を勝ち取ったのかというと、デュアルコア製品を他社に先駆けていち早く出荷できたことが要因だ。

●タブレットでNVIDIAを追いかけるQualcommとTI

 だが、NVIDIAもこの状況に安住していられる状況ではない。というのも、NVIDIAのライバル各社も、着々と反撃の準備を整えているからだ。

 例えば、Snapdragonでスマートフォン市場をリードしてきたQualcommは、MWCの開催初日に、Snapdragonシリーズの新製品として、開発コードネーム「Krait」で呼ばれているARMコアベースの新しいSoCを発表した。

 Kraitは、同クロック周波数比較で150%高い処理能力を実現しながら、65%低い消費電力を実現しいるという。クロックは2.5GHz。内蔵されているGPUのAdrenoも演算器が増やされることで描画性能が従来製品に比べて大きく向上しているほか、Wi-Fi、Bluetooth、FMなどの無線が標準で搭載されている。

 QualcommはクアッドコアのAPQ8064、デュアルコアのMSM8960、シングルコアのMSM8930を用意しており、いずれも28nmプロセスルールで製造される。デュアルコアのMSM8960は今年の第2四半期にサンプル出荷を開始し、それ以外の2製品は2012年の初頭にサンプル出荷を開始する予定だ。

 OMAPを擁するTIもNVIDIAにとって強力なライバルの1つで。TIのデュアルコアOMAP4/1GHzがLGのOptimus 3Dに搭載されている。TIはMWCの自社ブースで、RIMのタブレットをHDMIで3Dテレビに接続し、3D立体視コンテンツを再生するデモを行ない、3D立体視での大きなリードを示した。実際、LG ElectronicsはOptimus 2XでTegra 2を採用しているが、3D立体視対応のOptimus 3DではTIのOMAP4を採用している。

Qualcomm会長兼CEOのポール・ジェイコブス博士(右端)とQualcomm CDMAテクノロジーズのEVP & Group Presidentのスティーブ・モレンコフ(左端)Snapdragonシリーズの紹介、次世代の製品はデュアルコアが今年のQ2にサンプル出荷開始、クアッドコアとシングルコアは2012年にサンプル出荷が開始される
新アーキテクチャのSnapdragonでは処理能力が1.5倍になるが、消費電力は60%も削減されるTIで行なわれていた、OMAP4を搭載したRIMのタブレットを利用した3D立体視のデモ

●クアッドコアのKAL-ELでリード拡大を狙う

 当のNVIDIAも、そういった状況は熟知しており、現在のリードを拡大すべく、次世代の開発を続けている。

 同社はMWC会場において、これまで「Tegra3」と通称されてきた次世代のTegra、開発コードネーム「KAL-EL」(カルエル)のデモを行なった。KAL-ELは、昨年の9月に行なわれたGTCにおいて、同社CEOのジェン・スン・フアン氏により、その時点ですでにテープアウトされたことが明らかにされていたが、今回初めて、具体的な詳細と実際に動作している様子が公開された。

 NVIDIA モバイルビジネス事業部 事業部長のマイケル・レイフィールド氏によれば、KAL-ELの概要は以下のようになっているという

【表1】KAL-ELの概要
 Tegra2KAL-EL
プロセッサコアコア世代Cortex-A9Cortex-A9
コア数24
グラフィックスコア世代ULP GeForce新GeForceコア
コア数812
3Dステレオ対応未対応対応
最大解像度1,920x1,080ドット2,560x1,600ドット

 KAL-ELのプロセッサコアは、Tegra 2と同じARMからライセンスを受けたCortex-A9ベースになっているが、Tegra 2がデュアルコアだったのに対して、KAL-ELではクアッドコアになっている。レイフィールド氏によれば、従来のTegra 2に比べて5倍の性能向上を示しているとのことなので、コア数だけでなくクロック周波数も上がっている可能性が高い。

 グラフィックスコアも拡張されており、Tegra 2では8個だったコア数は12個に増やされている。同氏によれば「グラフィックスコアの性能はTegra 2に比べて3倍になっている。コア数だけでなく、クロック周波数も上がっている」とのことだった。また、処理能力が向上したことにより、1080pのBlu-rayビデオを同時に4つ再生可能で、加えて3D立体視の再生、つまり3D Visionにも対応が可能だという。なお、3D立体視は眼鏡無しのソリューションにのみ対応可能ということだった。

 レイフィールド氏によればKAL-ELの製造プロセスルールはTegra 2と同じ40nmプロセスルールになる。このため、おそらくプロセッサコアやグラフィックスコアの数が増えているため、ダイサイズや消費電力はおそらく大きくなっているだろう。実際、消費電力についてレイフィールド氏は、「同じ性能ならTegra 2よりも消費電力は低くなっている」とだけ述べており、おそらくピーク時の消費電力は若干増えていると考えるのが妥当だろう。

 KAL-ELのサンプル出荷はすでに開始しており、8月には搭載したタブレットが出荷される予定だ。スーパーフォンに関しては年末になる。スーパーフォンが若干遅いのは、キャリアの認証などのプロセスがあり、その時間が必要だからだ。レイフィールド氏は、「いずれにせよ我々は年内に実際に搭載された製品を出荷できる」と、ライバルのQualcommのクアッドコアの出荷(サンプル出荷が2012年初頭)に先んじることをほのめかした。

 そして、その先には、毎年1製品という勢いで新製品を投入していく。KAL-ELの倍の処理能力を持つとされる「WAYNE」(ウェイン)を2012年に、その5倍の性能を持つ「LOGAN」(ローガン)を2013年に、そしてTegra 2の75倍近い性能を持つSTARK(スターク)を2014年にリリースするという。

 ただ、今回の発表は、Qualcommがクアッドコアの発表を含む記者会見を行なった2月15日(現地時間)の夜に、急遽欧米の報道関係者だけを呼んで行なわれるなど、NVIDIAには他社の動向から、予定を変更した節がある。そうした意味では、NVIDIAとしても決してリードは大きいと考えている訳ではなく、ギリギリのところでも競争を繰り広げている、そういうところなのだろう。

KAL-ELを搭載したタブレットを利用したデモCPUコアの評価に利用するCoremarkを利用したベンチマーク結果。Core2 Duo T7200を上回っている
NVIDIAが公開したロードマップ。Tegra 2比較でKAL-ELはTegra 2の5倍、WAYNEで10倍、LOGANは30倍、STRAKは75倍近い性能を発揮する

【動画】KAL-ELのデモ。前面に表示されているプロセッサ負荷率のウィジットで4つのコアそれぞれが使われていることがわかる

(2011年 2月 17日)

[Reported by 笠原 一輝]