米国Freescale Semiconductorの日本法人フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンは、顧客向けの講演会兼展示会「フリースケール・テクノロジ・フォーラム・ジャパン2010(FTFJ 2010)」を9月14日に東京で開催した。
Freescale Semiconductorは毎年、米国本社を含めた世界各地域で顧客向けの講演会兼展示会「フリースケール・テクノロジ・フォーラム」を開催してきた。日本では毎年9月に、日本法人のオフィスに隣接した目黒雅叙園を会場として開催するのが恒例である。またFTFJの会場内では、報道機関向けの説明会(記者説明会)が開催される。本レポートでは、午前の講演会と記者説明会の概要をお届けする。
●日本法人の経営トップが交代FTFJ 2010の午前はいつも、全体講演セッション(ジェネラル・セッション)となっており、最初に日本法人の代表取締役社長が登壇し、米国法人からの来賓による基調講演、日本法人幹部によるプレゼンテーションと続くのが常となっている。ただし今年は、日本法人幹部の顔ぶれに大きな変動が見られた。
まず、2010年4月にDivid M. Uze(ディビッド M. ユーゼ)氏が日本法人の代表取締役社長兼米国本社バイス・プレジデントに就任した。新社長のユーゼ氏は以前に日本AMDの社長を務めたこともあり、PC業界では知られた存在である。前社長の高橋恒雄氏は2009年末に日本法人を退職した。また2010年1月には、マーケティング本部のジェネラルマネージャーを務めていた伊南恒志氏が代表取締役社長代行となり、同年4月には代表取締役専務に昇格している。
FTFJ 2010の全体講演セッションではまず、日本法人社長のユーゼ氏が簡単に挨拶したあと、米国本社のシニアバイス・プレジデント兼チーフ・セールス・アンド・マーケティング・オフィサーを務めるHenri Richard(アンリ・リシャール)氏が講演した。リシャール氏は2007年9月にFreescale Semiconductorに加わっており、それ以前は2002年から米AMDの経営幹部をつとめていた。またユーゼ氏の日本法人社長就任を知らせるプレスリリースにはリシャール氏がコメントを寄せている。
リシャール氏は「エンベデッドプロセッシングで世界のリーダーになる」と述べ、4つの重要な市場分野に注力していくと述べた。4つの重要分野とは「自動車」、「ネットワーク」、「インダストリアル」、「コンシューマ」である。
続いて日本法人の代表取締役専務を務める伊南恒志氏が登壇し、14日に発表した報道機関向けリリースの一覧を示した。それからフリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの活動を、デモンストレーションを交えて紹介した。
●自動車:機能安全規格に対応したデュアルコア・マイコン
まず、自動車用半導体事業への取り組みをマーケティング本部オートモーティブ・マーケティングの部長を務める遠藤千里氏が説明した。
自動車用電子機器は、環境(グリーン)と安全(セーフティ)、インフォテインメント(車載情報システム)の3つの方向に進化している。特に安全への要求は強く、シャーシ・セーフティ向けECUの市場規模(金額ベース)は2010年~2015年の年平均成長率でみるとエアバッグECUが8%、姿勢制御ECUが11%、衝突防止・ドライブアシストECUが30%で拡大していくとの予測を遠藤氏は見せていた。
また自動車用電子機器の設計時に安全を考慮する機能安全の標準仕様「ISO 26262」が2011年に規格化されるとの見通しを示し、この規格に対応した自動車用マイコン「MPC5643L」を紹介した。「MPC5643L」はPower Architectureのe200コアを2個内蔵するデュアルコア・マイコンで、CPUコアのほかにクロスバースイッチやIOブリッジなどを2個内蔵しており、ハードウエアの二重化を容易に実現できる。
さらに、現行世代の自動車用マイコン「MPC56xxxシリーズ」は90nm世代の製造技術を採用しているのに対し、次世代の自動車用マイコン「MPC57xxxシリーズ」では55nm世代の製造技術を導入し、マルチコア化をさらに進めることを明らかにした。
マーケティング本部オートモーティブ・マーケティングの部長を務める遠藤千里氏 | シャーシ・セーフティ向けECUの市場規模(金額ベース) |
機能安全規格対応のデュアルコア・マイコン「MPC5643L」の内部ブロック | 自動車用マイコンの現行世代品と次世代品 |
●ネットワーク:マルチコア化を強力に進める
続いてネットワーク用半導体事業への取り組みを、マーケティング本部ネットワーク、インダストリアル、コンスーマ・マーケティングの部長を務める岩瀬肇氏が説明した。
岩瀬氏は、効率の高いネットワーク・システムの構築にはマルチコア化と開発期間の短縮、マルチコアへの円滑な移行が必要だとして、それぞれについて解説した。
Freescaleは通信用プロセッサでは世界市場でトップシェアを獲得しており、通信用プロセッサ「QorIQシリーズ」とマルチコアDSPを幅広く展開している。QorIQシリーズにはハイエンドのQorIQ P5からローエンドのQorIQ P1まで5つのファミリがあり、最多で8個のCPUコアを内蔵する。
開発期間の短縮では、CPUモジュールを活用したり、開発プラットフォームを活用したりする。マルチコアへの移行(ソフトウエアの並列化)では、サードパーティが提供する開発環境やプログラム分析ツールなどを利用することで、ソフトウエアを円滑にマルチコア対応に修正可能であるとした。
マーケティング本部ネットワーク、インダストリアル、コンスーマ・マーケティングの部長を務める岩瀬肇氏 | 通信用プロセッサ「QorIQシリーズ」の概要 | 「QorIQシリーズ」の製品開発ロードマップ |
マルチコアDSPの製品開発ロードマップ | 開発期間の短縮手法。CPUモジュールや開発プラットフォームなどを活用する |
マルチコアへの移行を支援する分析ツール。データ依存部分を見つけ、プログラムに修正を加えることでプログラムを仮想実行し、マルチコア対応(プログラムの並列化)を円滑に進める | プログラムの並列化とCPUコア数の増加によってタスク実行時間を短縮した結果 |
●コンシューマ:電子ブックとタブレット、RFリモコンに集中
コンシューマ用半導体事業への取り組みは、代表取締役専務の伊南氏が説明した。コンシューマ分野では、スマートモバイル機器向けプロセッサとRFリモコン用ICに注力している。
スマートモバイル機器向けでは、電子ブックリーダ(eReader)用アプリケーション・プロセッサとスマートブック/タブレット向けプロセッサを製品化している。いずれもARMコア内蔵のアプリケーション・プロセッサ「i.MXシリーズ」である。その最新製品として、電子ブックリーダー用の「i.MX508」とスマートブック/タブレット用の「i.MX535」を紹介していた。
●インダストリアル:スマートグリッドを実現するソリューション
インダストリアル用半導体事業への取り組みは、引き続き伊南氏が説明した。まず、省エネルギーの実現手法としてスマートグリッドにふれ、スマートグリッドを実現する双方向通信と電力監視・制御のソリューションをFreescaleが提供していくと述べた。
そしてスマートグリッド・ソリューションの一環として、ホームエリアネットワーク向けのソリューションをデモンストレーションした。電力メーター(スマートメーター)、スマート家電(エアコンと洗濯機)、ホーム・エナジー・ゲートウエイ(スマートメーターやスマート家電などを一括制御する機器)で構成する。電力会社から電力需要の情報を受信して家電機器を制御したり、電力会社から電力料金の安価な時間帯だとの通知を受けて家電機器を動かしたりするデモンストレーションを見せていた。
FTFJ 2010の全体講演を聴講して感じるのは「スリムになったフリースケール」だ。前年までの多彩なデモンストレーションはほとんどなくなり、スライド中心の講演となった。講演内容からは選択と集中がうかがえる。余裕が少ないと言えるし、無駄がないとも言える。新しくなったフリースケールがどのような展開を見せるのか。引き続き見守りたい。
(2010年 9月 17日)
[Reported by 福田 昭]