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フリースケール・テクノロジ・フォーラム・ジャパン2006レポート

プロセッサの組み込み応用を立て続けに披露

9月13日 開催



 米国の大手半導体ベンダーであるFreescale Semiconductorの日本法人フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン株式会社は9月13日、顧客向け講演会「フリースケール・テクノロジ・フォーラム・ジャパン2006(FTFJ2006)」を東京の目黒雅叙園で開催した。

 フリースケールが日本でフォーラムを開催するのは、今回で2回目である。2005年と同様、午前中に基調講演がいくつか組まれ、午後には技術講演が分野別に並行して開催されるというスケジュールだった。また「Workshop」と呼ぶ実技講習会と、「テクノロジ・ラボ」と呼ぶ展示会も併せて用意された。

 タイミングが悪いというべきか、フォーラムの前日である9月12日(米国時間9月11日)に米The NewYork Times誌は、投資会社数社による連合体とFreescale Semiconductorが同社の買収(LBO:leveraged buy-out)について協議中であると報じた。投資会社が提案した買収金額は160億ドル(約1兆8,000億円)とされる。Freescaleの2005年の売上高が58億ドルなので、異様に高い買収金額である。Freescaleの業績は最近きわめて好調なので、それほどの価値があるのかもしれない。Freescaleはこの件に関し、米国時間11日に「協議中だが、関係者の権利を保護するために適切な時期が来るまでコメントは一切できない」という趣旨の短いリリースを出している。なお日本の一部の新聞はThe NewYork Times誌の記事を引用する形で「フリースケールが身売り」と報じていたが、これは正しくない。LBOを投資ファンドとFreescaleが協議中ということであり、身売り(Freescaleが売却を持ちかけたの)ではないと思う。またFreesaleは上場企業であるから、取締役会がLBOを決定したとしても、株主が応じるかどうかは不明確だ。

 このようなハプニングが米国で起こったものの、FTFJ2006はごく平穏に進行した。まず基調講演である。最初にFreescale本社のTechnology Solutions Vice PresidentであるChekib Arkout氏によるオープニング・スピーチが予定されていたものの、講演者が変更になった。フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの代表取締役である高橋恒雄氏と、Freescale本社のTechnology Solutions OrganizationでDirector of SMARTMOS and MRAM Technologyを務めるSaied Therani博士が講演した。

 オープニング・スピーチでは最初に高橋氏がフリースケールの方向性を短くコメントした。組み込み向け製品が成長を牽引しており、フリースケールは5つの分野に注力すると述べた。5つの分野とは「Automotive」、「Industrial」、「Consumer」、「Wireless Handsets」、「Networking Infrastructure」である。続いてSaied Therani博士が技術開発戦略を説明した。CMOSプロセス技術はもちろんのこと、他社と差異化できる技術を開発していくとした。その例としてSMARTMOSデバイス(パワーMOS IC)とMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)、高密度パッケージを挙げていた。

フリースケール・テクノロジ・フォーラム・ジャパン2006(FTFJ2006)のプログラム。オープニング・スピーチの講演者が変更になっていた フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの代表取締役である高橋恒雄氏。Freescale本社のVice President兼General Managerでもある
Freescale本社のTechnology Solutions Organization Directorを務めるSaied Therani博士 SMARTMOSの応用分野。高電圧、大電流を扱うパワーMOSデバイスと、マイクロコントローラや論理回路などデジタル回路、そしてアナログ回路をワンチップに集積する

 オープニング・スピーチの後は、「フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの戦略説明とソリューション」と題する基調講演のメインプレゼンテーションに突入した。2005年のFTFJでは半導体デバイスの紹介が中心だったこのコーナー、2006年はアプリケーションと結びついた柔らかめのプレゼンが目に付いた。最初に高橋社長から、日本のフリースケールは「コンシューマ」、「自動車」、「ネットワークインフラ」、「ワイヤレス」の4つの応用分野と、個々の応用が融合しつつある分野で市場を牽引する製品を開発していくとの方針が示された。

フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの基本戦略。主要4市場というのは「コンシューマ」、「自動車」、「ネットワークインフラ」、「ワイヤレス」のこと。なお、同社は主要4市場向けの半導体製品ごとにジェネラル マネージャーを配置している 固定通信網、移動体通信網、放送事業を中心に、サービスインフラの市場を拡大していく サービスインフラの市場が融合することで、日本国内だけで32兆円の市場が生まれるとする

 次に「自動車」、「ワイヤレス」、「コンシューマ」、「ネットワークインフラ」の各半導体製品を担当するジェネラル マネージャーが順番に登壇した。各ジェネラル マネージャーが高橋社長に、フリースケールの半導体製品が応用分野にどのように貢献しているかを説明するスタイルでプレゼンが進められた。

 まず自動車担当のジェネラル マネージャーである林章氏が、自動車のワイヤーハーネスを台車で運びながら登場した。運んできたのは自動車1台分のワイヤーハーネスで、40kgもの重量があるという。車載用ネットワークの最新版であるFlexRayを使うと、ワイヤーハーネスの重量を半分に減らせると説明していた(フリースケールは業界に先駆けてFlexRayコントローラ搭載マイコンを製品化している)。またリレーやヒューズなどの機構部品を電子スイッチで置き換えることで軽量化を図れるとともに、自動車内部で部品レイアウトの自由度が高まることを示した。さらに、車載レーダー用の77GHzトランシーバチップをシリコンゲルマニウム(SiGe)技術で開発中だと述べた。現在使われているガリウムヒ素(GaAs)技術に比べ、半導体チップのコストを約3分の1に減らせるという。

自動車1台分のワイヤーハーネス。左がトランスポーテーション&スタンダードプロダクツグループ オートモーティブ ジェネラル マネージャーの林章氏、右が高橋社長 左手にリレーやヒューズの入ったボックスを持ち、右手に代替製品である電子スイッチのボードを持つ林章氏

 続いてワイヤレス担当のジェネラル マネージャーである友眞衛氏が、第3世代携帯電話の高速データ通信技術「HSDPA」(High Speed Downlink Packet Access)による実際のデータ通信を実演してみせた。NTTドコモが販売するHSDPAデータ通信カードにフリースケールの製品が採用されたとしている。

左がワイヤレスグループ ジェネラル マネージャーの友眞衛氏。右は高橋社長 HSDPA(High Speed Downlink Packet Access)によるデータ転送速度をモニターした波形 NTTドコモが販売するHSDPAデータ通信カード。上部中央にモトローラのマークが見える

 それからコンシューマ担当のジェネラル マネージャーである薄井明英氏が、2006年内に発表予定のVoIP電話機を披露した。フリースケールのマルチメディアプロセッサ「i.MX21/266」を搭載している。またWindows Vistaの新機能「SideShow」に対応したリファレンスボードを使い、音楽再生や電子メール受信などを実演した。さらに、3軸加速度センサーとRFトランシーバICを使った無線タイプのマウスを開発し、実際に操作してみせた。

2006年内に発表予定のVoIP電話機 SideShowに対応したリファレンスボード。i.MXSプロセッサが載る
SideShowに対応したリファレンスボードを操作しているところ 3軸加速度センサーとRFトランシーバICを搭載した無線マウス 無線マウスを手に持ったところ。マウスを持っているのはコンシューマ ビジネス グループ ジェネラル マネージャーの薄井明英氏

 最後に、ネットワークインフラ担当のジェネラル マネージャーである伊南恒志氏が、動画配信を実演した。まず、PowerQUICCプロセッサの応用として、2chのTV番組を同時に配信できるアイ・オー・データ機器製のLAN接続TVチューナを示した。次に、メディアサーバーからMPEG-2のトランスポートストリームを8chと数多くのチャンネルを同時に配信することにトライし、8個のディスプレイに同時に動画像を表示してみせた。このメディアサーバーにはPowerQUICCII Proコアを搭載したプロセッサ「MPC8349」を搭載している。

PowerQUICC搭載のLAN接続TVチューナ メディアサーバーからMPEG-2のトランスポートストリームを数多く送出。PowerQUICCII Proコア内蔵の高性能プロセッサ「MPC8349」をメディアサーバーに搭載した
HDDに蓄積した画像をメディアサーバー経由で8チャンネルのMPEG-2ストリームとして送出し、モニターディスプレイに表示したところ。モニター手前に立っているのがネットワーキング&コンピューティング・システムグループ ジェネラル マネージャーの伊南恒志氏 左がアイ・オー・データ製のLAN接続TVチューナ(PowerQUICC搭載)、右のボードがメディアサーバー

□フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンのホームページ
http://www.freescale.co.jp/
□関連記事
【7月14日】Freescale、MRAMの量産開始~究極の不揮発性メモリへの期待と現実
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0714/freescale.htm
【5月29日】Windows Vistaの新機能「SideShow」~既存の液晶デバイスがサブディスプレイに
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【5月23日】Freescale、次世代車載LAN「FlexRay」搭載32bitマイコン
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0523/freescale.htm
【2005年9月16日】【FTF2005】オリジナルRISCコアColdFireの現状
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0916/ftf04.htm
【2005年9月13日】【FTF2005】ARMコアを使ったシステムオンチップ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0913/ftf03.htm
【2005年9月12日】【FTF2005】PowerPCとPowerQUICC
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0912/ftf02.htm
【2005年9月9日】Freescale Technology Forum Japan 2005レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0909/ftf01.htm

(2006年9月14日)

[Reported by 福田昭]

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