「相変化メモリはNANDフラッシュに勝てない」、Numonyxが断言
フラッシュメモリの置き換えを狙う次世代不揮発性メモリの有力候補に、相変化メモリがある。特定の材料の相が結晶相とアモルファス相の間を高速にスイッチする現象を利用した不揮発性メモリだ。相変化メモリはPCM(Phase Change Memory)またはPRAM(Phase Change RAM)などとも呼ばれ、大手半導体メモリのベンダーを中心に、研究開発がなされてきた。
相変化メモリの開発で先頭を走っているのは、半導体業界ではNumonyx(ニューモニクス)とされる。同社はSTMicroelectronicsとIntelのメモリ事業部門が分離統合して2008年3月に設立された合弁企業で、主要な製品はNORフラッシュメモリとNANDフラッシュメモリである。Numonyxは、STMicroelectronicsとIntelが共同で実施してきた相変化メモリの研究開発を引き継いでおり、現在では唯一、製品の相変化メモリを出荷している企業でもある。
そのNumonyxがMemCon 2009で23日に基調講演し、相変化メモリの現状と将来を展望した。講演者は同社の最高技術責任者(CTO)を務めるEd Doller氏である。非常に興味深い講演内容だったので、本レポートではその概要をご紹介する。
始めにDoller氏は特定の技術の一生(ライフサイクル)について述べた。ライフサイクルは「誕生」、「市場への初期導入」、「市場の拡大と標準的地位の獲得」、「市場の縮小(標準的地位はそのまま)」、「陳腐化」と進む。例えばNANDフラッシュメモリは「市場の拡大と標準的地位の獲得」の段階にあり、NORフラッシュメモリは「市場の縮小(標準的地位はそのまま)」の段階にあるとした。相変化メモリは、「誕生」の段階に入ったところである。今後は「市場への初期導入」へと進むことが期待される。
システムで使われている主要なメモリは、NANDフラッシュメモリとDRAMである。相変化メモリは、NANDフラッシュメモリまたはDRAMを置き換えられるのだろうか。Doller氏はNANDフラッシュメモリとDRAM、相変化メモリをコスト、性能、信頼性で比較してみせた。低コスト化ではNANDフラッシュメモリが圧倒的に優勢であり、性能と信頼性ではDRAMが圧倒的に強い。相変化メモリ(PCM)はNANDフラッシュメモリとDRAMの中間に位置する。飛び抜けて強い点がない。
半導体メモリ技術のライフサイクル | DRAMとNANDフラッシュメモリ、相変化メモリの特性を比較 |
DRAMとNANDフラッシュメモリ、相変化メモリの特性を比較したチャートを筆者が独自にまとめたもの |
シリコンダイのコストでみると、相変化メモリ(シングルレベルセル)とDRAM、NANDフラッシュメモリ(シングルレベルセル)のコストには理論的に大きな差はない。相対値で示すと相変化メモリが1.2、DRAMが1.4、NANDフラッシュが1.0である。
DRAMとNANDフラッシュメモリ、相変化メモリのシリコンダイ製造コストを比較 |
ここでDoller氏は、8倍程度のコスト差がないと、直接的な置き換えは難しいと表明した。製造技術で先行したり、量産規模で圧倒したりといった手法によってコスト差を大きく広げる必要がある。しかし相変化メモリは現状、NANDフラッシュメモリを置き換えるレベルにも、DRAMを置き換えるレベルにも達していない。現実的だが厳しい見方である。
それでは、相変化メモリはどのような市場を狙うのか。Doller氏は市場導入は「ハイエンドから始まる」と述べていた。NANDフラッシュメモリに比べ、優位な点を活かす。その1つが、書き換え寿命である。相変化メモリの書き換え寿命は、NANDフラッシュよりもはるかに長い。それから、書き込みのレイテンシが比較的短いことだ。相変化メモリの書き込みレイテンシはNANDフラッシュの約100分の1、ハード・ディスク装置(HDD)の約1万分の1と短い。
エンタープライズ向けのコンピュータでは、メモリ階層の数が多い。主記憶であるDRAMの下にHDDがあり、さらにその下にテープ記憶装置が存在するとの図式をDoller氏は示した。そしてNANDフラッシュメモリを内蔵するSSD(Solid State Drive)がシステムの性能向上のため、DRAMとHDDの間に入りつつあるとする。
Numonyxはさらに、DRAMとSSDの間に、相変化メモリを新たなメモリ階層として挿入することで、システムの性能をより高めることができるとした。このメモリ階層で新たな市場を期待する。
DRAMと相変化メモリ(PCM)、NANDフラッシュの定量的な性能比較 | エンタープライズ向けコンピュータシステムのメモリ階層 |
●NumonyxとSamsungが相変化メモリの共通仕様を策定へ
Doller氏は講演の最後に、NumonyxとSamsung Electronicsが相変化メモリ製品の共通仕様を策定することで合意したことを明らかにした。23日付けで両社がリリースを発表した。
Samsung Electronicsが試作した512Mbit相変化メモリのチップ写真。チップ面積は91.5平方mmである。製造技術は90nmのCMOS、3層金属配線。メモリセルの面積は0.0467平方μm |
Samsung Electronicsは、相変化メモリを積極的に開発してきた企業である。2007年2月には512Mbitと相変化メモリとしては最大容量のチップを国際学会ISSCCで試作発表した。この6月には、2bit/セル方式の相変化メモリセル技術を国際学会VLSI 2009で発表している。
リリースによると、共通仕様を2009年中にまとめ、共通仕様に準拠した製品を2010年に出荷する予定である。また策定する共通仕様は、米国の半導体規格策定団体JEDECの低消費電力メモリ仕様「LPDDR2」をサポートする。
半導体メモリの大手ベンダーであるSamsungとNumonyxが製品仕様を共通化することは、半導体ユーザーにとって有り難い。相変化メモリを普及を加速するためは、非常に重要な業務提携といえる。
(2009年 6月 25日)
[Reported by 福田 昭]