イベントレポート
Intel、SoC統合型の5Gモデムなどに取り組んでいく意向を表明
~MWCではGigabit LTEに対応したXMM7560を発表
2017年3月3日 12:47
Intelは、5G(第5世代移動通信システム)の開発に積極的に取り組んでおり、今年のCESでは初めてミリ波(28GHz帯)と6GHz以下帯の両方の周波数をサポートする5Gモデムを発表するなどして注目を集めている。特に、6GHz以下の周波数帯をサポートする5Gモデムでは、競合のQualcommに先行する形になっており、5Gに対応した端末をいち早く開発したいベンダーにとって、注目の製品となっている。
5Gモデムの開発に力を入れているIntel、MWC 2017では第3世代の開発キットを発表
現在、Intelは全社を上げてと言って良いほど、5Gの開発に力を入れている。MWC 2016では、他社に先駆けて「Intel 5G Mobile Trial Platform」と呼ばれる、5Gに対応した機器を開発する開発キットを発表し、顧客に向けて出荷を開始している。
このIntel 5G Mobile Trial Platformは、ミリ波などの新しく5Gで導入される技術をいち早く試し、その知見を来たるべき5Gを搭載した端末の開発に活かせるというプログラム。2016年の秋には、Intel 5G Mobile Trial Platformの第2世代を発表した。第2世代では車載システムなどに搭載できる程度に小型化されており、MWC 2017でも、実際に車両に搭載されている様子などがデモされている。
MWC 2017では、そのIntel 5G Mobile Trial Platformの第3世代が発表された。IntelのFPGA(Intel Stratix 10 FPGA)に準拠しており、第2世代のIntel 5G Mobile Trial Platformと比較して、2倍のプロセッシング性能を持ち、最大で10Gbpsのスループットにまで対応できるようになっている。
Intelは端末側の5Gモデム開発に力を入れており、1月には開発コードネーム“GoldBridge”という5Gモデムを発表した(Intel、世界初のグローバル周波数対応5Gモデム参照)。同時発表の「Monumental Summit」、既に出荷されている「Segula Peak」というRFICと組み合わせると、ミリ波だけでなく、6GHz以下の周波数にも対応可能な5Gモデムを構成できる。サンプル出荷は2017年の後半、搭載製品の登場は2018年が想定されている。
LTE向けにはGigabit LTEに対応したXMM7560を発表、Intelの14nm工場で製造
5G製品の開発だけでなく、現行の4G/LTE製品の開発も加速している。5Gは2G、3G、4Gの延長線上にある通信技術であり、基地局は一挙に5Gに切り替わるということはなく、徐々に5Gに切り替わっていくことになるので、特に端末側には2G/3G/4Gとの下位互換性が欠かせない。従って、現在の4G/LTEに対応した技術の開発は、5G時代に向けても欠かせない。そしてフェアに言って、その市場はQualcommが非常に強い競合であることを否定する人は誰もいないだろう。
Intel コミュニケーション・デバイス事業本部 5Gビジネス・テクノロジー事業部長のロバート・T・トポル氏は、「確かに2Gから4Gまでの製品では、競合他社が非常に競争力が高い。しかし、我々も出荷量を増やしつつあり、このMWCではGigabit LTEに対応した製品を発表した。我々のソリューションも充実しつつあり、差を縮めていると考えている」と述べている。
実際、Intelは毎年新しいLTEモデムをMWCで発表している。現在の主力製品は、「XMM7260」、「XMM7360」などで、特にPCのワイヤレスWANのモデムとしての採用例が多い。例えば、Samsung Electronicsの「Galaxy Book」(Samsung、LTE対応Windows 2in1「Galaxy Book」を発表参照)がその例で、セルラーモデムにはXMM7260が採用されている。
今回発表された「XMM7560」は、3GPP Release.13に準拠しており、下りはLTE-Advancedのカテゴリ16で通信できる。1つのRFチップで、最大で5xのキャリアアグリゲーション、4x4 MIMO/256QAMに対応しており、XMM7560に合わせて投入された新しいRFIC「Smarti7」を採用すると、最大で35バンドに対応可能で、現在グローバルにサポート可能なLTEバンドのほとんどに対応できるようになる。
また、従来のXMM7000番台のモデムは、Intelの工場ではなく、ファウンダリで委託生産されていた。これは、Intelのモデム事業が2010年にInfineon Technologiesから買収した事業部であることが関係していたのだが、この製品からIntelの14nmプロセスルールの工場を利用して内製できることになったことも明らかにされた。
Intelによれば、XMM7560は2017年の前半にサンプル出荷が予定されており、その後量産が開始される予定だという。
Intelもマルチモード・シングルチップ5Gモデム、さらには将来のSoCへの統合も計画
トポル氏は「5Gに関して、既にマルチバンド、マルチモードに対応したモデムを発表しており、標準化が終了して互換性検証などが終われば、すぐに製品として出せる体制が整っている。ほかのどのベンダーと比べても非常に競争力のあるソリューションを有していると考えている」と述べ、5G世代のモデム開発では、Intelが優位に立っているという見解を明らかにした。
確かに、現状でQualcommがOEMメーカーなどに提供できている5Gのモデム(Snapdragon X50 modem)は、ミリ波のみのサポートで、6GHz以下の通常のセルラー回線で利用できる周波数帯はサポートできていない。それに対して、Intelは6GHz以下の周波数帯をサポートした5Gモデムを2017年後半にサンプル出荷し、2018年には製品に搭載できる。
2018年の段階では、ミリ波のみをサポートするQualcommと、ミリ波と6GHzの両方をサポートするIntelという構図になると見られ、ポルト氏がIntelが優位に立っていると表現するのは決して誇張ではない。
ただ、MWC 2017でQualcommは、5Gモデムに関して新しい発表を行なった(Qualcomm、5G NR対応モデムを2019年に商用化参照)。Qualcommが明らかにしたのは、Intelも含めた業界全体の取り組みとして行なわれている、5G標準規格を先取りした製品を2019年にリリースする取り組み「5G NR」に対応した5Gモデムを、2019年に商用化するという発表だ。
それはマルチバンド(つまりミリ波と6GHz以下の両方に対応し)、5Gだけでなく4G/3G/2Gとの下位互換性をもったマルチモード・シングルチップになるという。現在のIntelの5Gモデムは、4G/3G/2Gとの互換性は別チップを搭載して実現しなければならないため、チップ数が増えてしまうという課題がある。その問題を、Qualcommのシングルチップモデムはクリアしてきている。それを、2019年という5G標準規格に準拠した端末が登場するタイミングに合わせてきたということのインパクトは小さくない。
だが、実のところIntelのロードマップにも、Qualcommが発表したようなマルチモード・シングルチップの5Gモデムはあるという。トポル氏は、「現在発表している5Gモデムは第1世代。5Gモデムは非常に複雑なアーキテクチャで、スループットを上げれば消費電力が増えるので、それを上手く管理し最適化できる仕組みを作っていくことが重要。このため、最初のソリューションはそうしたさまざまなテスト要件に対応できるように、高い柔軟性があるように作られており、まだ最適化が済んでいるとは言えない。
我々は次の2年間に強力なロードマップを持っており、まずは5Gのモデムを出し、3GPPの標準規格に準拠し、より優れたRFをリリースしていく。その先にはマルチモードへの対応が用意されており、最適化された5Gモデムに、LTE、3G、2Gのモデムを統合していく。さらに、その先には適切なSoCとの統合の計画も用意されている」と述べた。
さらに重要なことは、Intelのロードマップには、何らかのSoCとの統合も含まれているということは重要だ。それがどんなSoCであるのか、トポル氏は言及しなかったが、Intelの最近の動きを見れば、例えばIoT向けのSoC、車載システム向けのSoCに5Gモデムを統合するといったことは十分に考えられるだろう。