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うまい棒にも使われてるHPの印刷技術をシンガポールで見てきた
(2015/6/9 06:00)
米Hewlett-Packard(HP)は8日(シンガポール時間)、アジア太平洋および日本地域の報道関係者を対象とした製品説明会「HP PPS Innovation Day 2015」をシンガポールで開催し、PCおよびプリンタ最新製品を披露した。
開催地にシンガポールが選ばれたのは、ここがアジア太平洋および日本地域を統括するということもあるが、2014年、この地に「グラフィックスソリューションセンターオブエクセレンス」が開設されたばかりということもある。
プリンタと聞くと、多くの人はA4クラスのインクジェットやレーザー製品を思い浮かべるだろう。HP自身もそういった製品を多数取り揃えるが、それ以外にも同社は、産業向けの大型デジタル印刷機で絶大なシェアを誇る。そのラインナップに5月付けで「Latex 3100」、「同3500」、そして「Scitex 17000コルゲートプレス」という製品が加わった。
これらの製品は非常に大型で重量もあることから、検証用の試験導入であっても、物理的な障壁が大きい。そこで、HPでは、顧客が訪れて検証を行なえる環境を社内に用意した。それがグラフィックスソリューションセンターオブエクセレンスと言うわけだ。
今回の説明会では、まだ日本には実機が存在しないこれら最新の大型プリンタの実際に動いてる様子や、出力例などが幅広く紹介された。
デジタルプリンタのメリットは、従来のオフセット印刷で必須となる版が不要となる点だ。そのため、少量の印刷や、量は多くても、1枚1枚をカスタマイズして出力するような場合に、大きな利点が得られる。
実例としては、コカコーラが現在も日本で展開している、オリジナルの名前入りラベル付きコーラを入手できるキャンペーンを目にしたことがある人もいるだろう。正確な数は分からないが、このコーラのラベルの種類はかなりの数に上る。これをオフセット印刷で行なうことは、実質的に不可能と言っていい。
デジタル印刷のシェアはまだ小さく、紙印刷の場合、オフセット印刷の割合が90~95%を占める。しかしながら、HPのディレクター兼ゼネラルマネージャのRoy Eitan氏によれば、「デジタル印刷は、シェアは5~10%でも、市場での価値は20~25%に達する」と説明する。それは、デジタル印刷は、オフセット印刷では困難、あるいは不可能な印刷ができるといった付加価値をもたらすからだ。
実際、その点に目を付けている企業も多く、シンガポールグラフィックスソリューションセンターに展示されている製品サンプルには、日本のメーカーのものも数多く陳列されている。例えば、サッカー日本代表応援の限定ラベルが貼られたキリン一番搾り、季節限定版の「パイの実」、ご当地版の「コアラのマーチ」などがその実例だ。これらのものはそれでも数万、数千の単位で製造されると思われるが、「うまい棒」のように、包装に自分の写真を印刷したものを、最低数50本からオーダーメードできるサービスを用意しているものもある。また、イギリスでは自分の子供の名前を元に、オリジナルストーリーが展開するという、完全オーダーメイドの絵本が販売され、人気を博しているという。
このようにデジタル印刷はオフセット印刷にはできなかった製品、サービスを提供するものだが、オフセットに完全に取って代わるものではない。同じものを何十万と印刷するのであれば、トータルコストはオフセットの方が安く上がる。つまり、印刷量に応じて、棲み分けができるというわけだ。
だが、同じものを大量に印刷する場合でも、デジタル印刷の方が新たな価値を提供することもある。例えば書籍。人気作品となれば、何万、何十万と印刷されるが、平均的に4割程度は売れ残り、出版社へ返品され、最終的には処分される。しかし、デジタル印刷であれば、消費者が購入して初めて、その分だけ印刷して提供するということも不可能ではない。この場合、コストは多少上がるかもしれないが、環境の観点からは従来にはなかった利点が得られると、HPは説明する。
デジタル印刷機が対象とするのは、パッケージのようなものだけに留まらない。大型の製品では、幅数mの用紙・素材に対応でき、デパートの垂れ幕や、大きな看板などにも使われる。布にも印刷できるので、バッグやTシャツなどファッション製品に用いられることもあれば、壁紙に利用されることもある。小ロット対応可能というデジタル印刷のメリットを生かし、小田原にある某ホテルでは、1室ごとに異なる壁紙を作ることで、全ての部屋の内装に変化を持たせ、差別化を図っているという。
一般的なプリンタではHPの日本シェアはまだ小さいが、実はさまざまな製品、場所で、我々は知らず知らずの内に、同社のデジタル印刷機の恩恵にあずかっているのだ。