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千葉工大と日南、初の国産原発対応ロボット「櫻壱號」を原子力緊急事態支援センターに納品
(2014/4/18 06:00)
学校法人千葉工業大学と株式会社日南は2014年4月17日、日本原子力発電株式会社「原子力緊急事態支援センター」に、NEDOプロジェクトの成果を元に開発した新型災害対応ロボット「櫻壱號(さくらいちごう)」を競争入札の結果、導入したと発表し、3者共同記者会見を行なった。日南が千葉工大から櫻壱号の技術提供を受けて事業化して、今後、ロボットの開発製造を実施する。
今回導入された「原発対応版 櫻壱號」は、2011~2012年度に実施されたNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「災害対応無人化システム研究開発プロジェクト」(予算総額:9億9,600万円)で開発した「SAKURA」を元に、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)が独自開発したロボット。幅420mm×高さ800mm×長さは530mm~1,070mm。重量は35kgでさまざまなペイロードを搭載可能だ。
遠隔操作が可能で、全周が見える4つのカメラを装備しており、現場状況のリアルタイム監視が行なえる。また、高所が確認できるようにブームの先にはアクリルケース内にパンチルトズーム可能なカメラを搭載した。そのほか放射線や温度湿度等を計測でき、約8時間の連続走行が可能。防水されており、深さ1m未満なら水中での活動もできる。最小旋回幅は670mmで、原発建屋の階段を昇降出来るスペックを持つ。無線での通信も可能だが、現場では300mのケーブルを装備した状態で有線で運用される。数十グレイの放射線には耐えられることが確認されている。
NEDO ロボット・機械システム部部長の弓取修二氏は「NEDOでは出口を見定めてロボット開発を実施している」と語り、背景を解説した。千葉工大が開発していたロボットの系譜としては、2011年6月から東京電力福島第一原発に投入され、建屋最上階まで調査した原発対応版「Quince」の後継機にあたる。現場の声を反映させて、防水防塵、バッテリ寿命等を向上させた。プラグイン充電にも対応しており、防水性能を維持したままバッテリを外すこともできる。千葉工大ではNEDOプロ終了後も独自に予算をつけて開発を行ない、今回の実用化・現場導入にこぎ着けた形だ。
千葉工大から技術提供を受けた日南は、いわゆる「一品物」のワーキング・プロトタイプ開発や試作を専業とする企業。fuRo所長の古田貴之氏とはロボット開発を通じて以前から付き合いがあり、今回の技術移転・開発・導入を請け負うことになった。ユーザー顧客への導入は同社としても今回が初めて。また、大学で開発されたものを製品化するには、やはりそれなりの苦労があったという。入札時の金額等は公開されなかった。
このほか、千葉工大では「災害対応ロボット操縦訓練シミュレータ」も合わせて開発している。クローラー型レスキューロボットの操縦の基本的練習が可能なシミュレータで、階段昇降、段差走行などの模擬操縦訓練が可能。シミュレータを活用することで事前の操縦訓練やテストが行なえる。環境やロボットのモデルを変えれば異なった状況についての訓練もできる。こちらはまだ試験中だという。
なお千葉工大では2013年に大型アーム付きの原発ロボット「櫻弐號」を開発し、三菱重工にライセンスしている。今回の「櫻壱號」は作業用ではなく、状況確認用のロボットという位置付けとなる。
ロボットが導入された日本原子力発電株式会社の「原子力緊急事態支援センター」とは、2011年に発生した東日本大震災での東京電力・福島第一原発事故を背景に、電気事業連合会(電事連)からの依頼を受けて日本原子力発電が2013年1月に設置した組織。組織は日本原電の敦賀総合研修センター内に置かれており、9人の専任チーム(緊急支援チーム)から成る。1年365日24時間、緊急時に対応できる体制を整備し、支援に必要な遠隔操作可能なロボット等の資機材を管理・運用するとともに、ロボットの操作訓練等を実施しているとされている。
原子力緊急事態支援センターに最初に導入されたロボットは米iRobot製の調査用ロボット「PackBot」が2台、同「Warrior」が1台だった。今回は初の国産ロボット導入となる。なお、電事連は原子力発電所での災害発生時に対応する「原子力緊急事態支援組織」を2015年度を目標に設立する予定で、「原子力緊急事態支援センター」はそれに先立つ組織という位置付けだ。非常時に支援要請を受けた場合にはロボットなどの資機材を使って現場の状況を把握するため、各発電所とも連携して訓練を行なっている。具体的には発電所の所員が事業所にやってきてロボット操作を訓練するほか、発電所まで出向いての訓練なども実施している。
今回の「櫻壱號」は、原子力緊急事態支援センターからの声を反映して、「PackBot」のバッテリを使ってさらに活動時間を延ばすこともできるという。NEDOの植田文雄理事は「実際にロボットが配備されたことが大きな成果」と述べ、「今後もNEDOプロジェクトの成果については災害現場で実際に投入され課題解決に活かされるように各機関と協力して日本の産業競争力発展に寄与していきたい」と語った。また、今回の「櫻壱号」は「原発対応版」だが、日南では今後、さまざまな災害現場に対応できるロボットとして「櫻壱号」を展開していくという。