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タブレット導入で教育を変えよう! 教育夏まつり2013・二本松
(2013/8/29 12:39)
福島県二本松市で、「教育夏まつり2013」が8月24日に開催された。
このイベントはNPO法人日本教育再興連盟が主催する教育向けイベントで、2006年から開催されている。東日本大震災以降は東北地区の教育再生がテーマとなり、今回は福島県二本松市で開催された。当日は日本教育再興連盟の会長理事で、衆議院議員の河村健夫氏、同連盟の代表幹事で元文部科学副大臣の鈴木寛氏、二本松市長の三保恵一氏、二本松市教育委員会教育長の小泉裕明氏が開催賛同の挨拶を行なってイベントがスタートした。
本稿では、昼に開催された、教育の最新トレンドを紹介する講演の模様をお届けする。このうちの1つとして、タブレットを利用したICT教育を日本マイクロソフト、NECが紹介した。
プログラムの作成、当日の運営については、NPO法人 日本教育再興連盟に所属する大学生が開催プログラムの決定、当日の運営などを担当する。スタッフとして参加した学生の1人、根目沢俊樹氏は、「昼間のプログラムでは、ICT教育の最前線をはじめ、大人を対象とした4講座を開催し、計300人が参加するものとなっている。イベント運営の主体は学生が行なってので、スタッフとして参加すると、開催前の予定を立てることに伴う苦労やノウハウ取得ができるし、当日は色々な方が参加されるので臨機応変な対応の必要性を学ぶことができる」と話した。
学校関係者や両親など大人を対象とした「未来型教育講座」の1つでは、日本マイクロソフトの業務執行役員 中川哲氏が日本マイクロソフトでの働き方を踏まえ、ICTを使った新しい教育を紹介した。
日本マイクロソフトでは、自分の席を持たないフリーアドレス制を導入し、「決められた仕事というのはほとんどない」状況となっているという。決められた仕事ではなく、臨機応変に仕事をしていくためには、決められた枠に従った学習を行なうシングルループだけでなく、固定概念ではなく臨機応変に考えて行動する力を学習するダブルループも必要だと中川氏は語った。
「現実社会では、1回言われたことをその通りにやれば問題が解決するケースは少ない。ビジネス書で紹介されているが、2011年度に小学校に入学した子供達の65%は、現在は存在しない職業に就くだろうと言われている。最近、ビッグデータということばが話題となっているが、IT業界ではこのビッグデータを分析するデータサイエンティストという職業が話題となっている。この職業はまさに数年前にはなかった職業。現在はない新しい職業に就くためには、考える力をもった21世紀型スキルを教育の場で養うことが必要になるのではないか」。
実際に世界各国でICTを導入することで21世紀型スキルを持った人材を育成するための教育が行なわれているが、中川氏は訪問した韓国の授業を紹介した。
「昨年(2012年)訪問した韓国の私立の学校では、全部の授業で利用しているわけではないが、1人1台のPC環境を整え、電子黒板を使って授業を行なっていた。電子黒板には生徒の画面を映し出し、授業以外のことが行なえないよう抑止力としての役割もあるようだった。授業の内容としては、授業専用のSNSを利用し、教科書の内容をシェアして、気になった部分に生徒がコメントをつけるといった使い方をしているのは、大変興味深い内容だった。その一方で、受験に軸足を置いているため、十分に活用されていない場面もあった。全体ではICTを活用した新しい教育を行なってために積極的に取り組んでいることは伝わってきた」。
日本のICT教育についても、2013年に入ってから導入気運が高まり、東京都荒川区でも1人1台PCの導入を決定したニュースや、佐賀県の県立高校で1人1台のPCを用意するといったニュースが伝えられている。
「日本の状況はメチャクチャ遅れているというわけではなく、半歩遅れでついていっている状況。我々日本マイクロソフトとしては、IT屋の立場でしっかりサポートして行きたい」(中川氏)。
導入事例を見てきた中川氏は、「端末をばらまいただけではダメ。使い方を考えて設定していかないとうまくいかない。我々コンピュータ屋はシステムをどう考えるのかを考えるプロだが、先生方は教育のプロ。お互いのスキルをミックスしていきましょう」と呼びかけた。
学校に必要な仕組みとしては、(1)無線LAN環境、(2)電子黒板、(3)タブレット、(4)教育支援システム、(5)授業用・学習デジタル教材の5点をあげたが、「同時に先生方のスキルアップを一緒にやって頂きたい。そのためのサポートは我々も行なっていきます」と訴えた。
会場では、NECが日本マイクロソフトが考える「Windows in the Classroom」を具現化したコーナーを用意。ハードウェアとしては65型の電子黒板「BrainBoard」、Windows 8を搭載した12.5型のタブレットPC「VersaProタイプVZ」を用意。これらを無線LANで結び、授業支援システム「SKYMENU Class」を使って、生徒がきちんと授業に参加しているのかといったことを先生側で把握し、運用管理をする環境を整備した。
模擬授業は、20分の短い時間ではあるものの、中学3年生の科学の授業で使われている東京書籍の「新しい科学」と、そのデジタル版、さらに教材として日本マイクロソフトが無償で提供している「Worldwide Telescope」を利用。電子教科書に記載されている金星の様子を、Worldwide Telescopeを使ってさらに詳細な観察を行ない、“教科書プラスアルファ”となる授業を実施した。
さらに、先生役のNECスタッフが、太陽の周りを回る金星の動きを把握するために、太陽代わりのライトと、金星代わりの球形のオブジェを用意。ライトの周りを回る金星の動きを、タブレットに搭載されているカメラを使って録画。録画したデータは、OneNoteに貼り付け、必要な時に再生することができる、PCならではのデジタルノートとして活用する。
NECで学校向けソリューションを担当するスマートデバイスビジネス本部 橋本欧二本部長は、「今回の模擬授業は、日本マイクロソフトとNECが連携し、日本全国で行なっているもの。すでに30回から40回の実施実績がある。これだけの実践回数を重ねたことで、参加者が一緒に授業を行なっていく気分を高めるような話しかけ方をどう行なっているのかといったノウハウがたまった。だからこそ、最初は戸惑っていた参加者も積極的に模擬授業に参加してくれるようになる」と時間をかけて、現在の模擬授業スタイルができたと説明する。
授業の内容でポイントとしているのが、生徒は先生が行なってデモを見るだけでなく、撮影、発表といった能動的に授業に参加することを取り入れた点だ。「以前はPowerPointでの説明を見るだけといった授業スタイルが多かったのだが、現在はICTを活用するからこそできる授業を目指している。意欲がある先生は、紙の模造紙を使うなどして生徒自身が発表を行なって体験型授業とするための取り組みをされてきているが、ICTを使うことで参加型授業がやりやすくなることを体感して欲しい。模擬授業は、ICTを活用することで体験型授業を実践できることをアピールするために、考え、作り上げたプログラムとなっている」(橋本氏)。
NECには、日本の学校にPCが導入された黎明期から、PCに留まらず運用管理ソフトなどをトータルで提供してきた歴史がある。「学校にPCを導入したものの、PCが教室内でホコリをこかぶっているという例も過去にはあった。タブレットPCを1人1台導入する際には、皆が楽しく授業に参加できるようなスタイルを、トータルなシステムで提供していかなければならないと考えている」。
今回、授業で利用したタブレットは12.5型だが、生徒が家に持ち帰る場合にはもっと軽量で、サイズの小さいタブレットを勧めることができるようラインナップも揃え、対応している。
会場には、NPO法人日本教育再興連盟代表理事で、「100マス計算」で知られる、立命館大学教授の陰山英男氏も登場した。陰山氏は2006年、タブレットPCの登場前、当時は「Ultra Mobile PC(UMPC)」と呼ばれていた日本マイクロソフトの「開発コードネーム:origami」の発表会にも登場した人物である。自身が関わっている立命館小学校に、UMPCを試験導入し、小学生が家にUMPCを持ち帰って学習する環境を作った。学校現場でタブレットPCを使った先駆者でもある。陰山氏に学校でのタブレットPC導入について聞いた。
「グローバルに知識を吸収する、未来の学び、学問にはネットを通じて情報を取得することが不可欠となる。ネットの利用はインフラといっていい。ネットを通じて情報を受け取り、加工し、さらに発信していくための道具となるのは、やはりタブレットを搭載したパソコンしかない。理由は明確で、単にタイピングだけでなく、手書き機能を持ったエンジンを搭載し、デジタイザ機能を持ち、タッチとスタイラスペンの2通りの入力ができるタブレットが必要だと思います」。
UMPC登場時とは異なり、現在ではさまざまなタブレットPCが登場しているが、「教育に適したタブレットPC」という観点では、まだ不十分だと陰山氏は指摘する。
「PCといっても、紙と鉛筆と同じくらい自由に使えるものにならなければダメでしょう。ただ、現状の製品では足りないから今は使わないではダメだと思います。不十分な現在の状態から使ってみて、教育現場からも意見を出すことが大切。『教育用PC』というジャンルに限定して考えると、海外から最適なものが登場する可能性よりも、日本で生まれる可能性は高いと思う。なぜならば、日本ほどネットワークインフラが整っている国はないからです。韓国のブロードバンドが先行していると言われているが、LTEレベルの通信環境が日常的に使える環境が整っている点では、日本の方が先行しています。しかも、読んで、書いて勉強する、そのための教科書、ノート、参考書といった総合的な環境で日本は優れている。タブレットの手書き機能のように、アメリカにはないニーズがあることを考えると、日本から学校に最適なPCが登場することになるのではないか。それを実現してくれるよう、日本のPCメーカーさんには期待しています」と説明した。
とはいえ、現実的に学校にPCを導入して運用していくことは決して容易なことではない。1人1台環境での導入で先行した経験があるだけに、「最近では、地域全体でPCを1人1台環境で利用していくことを発表している自治体さんが登場しているが、あれは悶絶の苦しみを味わうと思います。私のところは1校だけではあったがPC導入による苦労は大きかった。一番難しいのはネットワークでのセキュリティ問題です。これは実際に使って行きながら、起こる問題に順次対処していくしかない。運用のノウハウを蓄積して、どう対応するべきか学んでいくしかないのです。導入を決めた地域の皆さんは、繰り返し起こる問題に繰り返し対処して、失敗の向こう側にある答えを探して行くしかないでしょう。苦労は多いですが、そこで得た運用ノウハウは先行者ならではの大きなものとなると思います」と経験を踏まえ、エールを送った。