国立大学法人 東京大学、日本マイクロソフト株式会社、レノボ・ジャパン株式会社は5日、ICTを活用した教育の実証実験研究に取り組むと発表した。
東京大学の駒場キャンパス内に9月28日に竣工した施設「21 KOMCEE」で、レノボ製タブレットPCと日本マイクロソフトのクラウドサービスなどを活用し、これまでの受動型教育とは異なる能動型学習(アクティブラーニング)実践を目指す。東大での研究成果については、東京都豊島区教育委員会と協力し、東京都豊島区立千川中学校でも実証研究を行なう。
東京大学では「理想の教育施設を作る試み」を進めており、21 KOMCEEは森ビルの協力のもと、理想の教室を目指して作られている。この建物の中で実証研究が進められる。
東京大学 大学院総合文化研究科長・教養学部長 長谷川 壽一氏 |
東京大学大学院総合文化研究科長・教養学部長の長谷川壽一氏は、「黒板や教卓、固定の机を置かず、まが玉型のテーブルを設置。単独で利用することも、くっつけて共同学習することも可能な作りになっている。教師もあちらを向いたり、こちらを向いたり、学生も自由にディスカッションしながらアクティブラーニングを進める。レノボ、日本マイクロソフトにはコンピュータを寄付してもらい、この中で受動型ではない、能動型教育を実践していく」と話している。
能動型教育にこだわるのは、東大側が現状の教育体制に危機感を持っていることが背景にある。
「情報爆発により、とりあえず必要な知識が欲しければ、パソコンをクリックすれば行き着いてしまう。そうなると知識の収蔵機関としての大学は必要ないのではないか? 職業訓練校、学位授与機関であればいいのではないか? という議論も出てくる。そういう時、大事なことは2つある。1つは知識の構造性、もう1つは学びの構造性。それを具現化することが今回の試みの狙いの1つ。教養学部では、2007年度からアクティブラーニングのための教室『KALS』で色々と実験を行ない、日本マイクロソフトの協力によりアクティブラーニングを支援するソフト『eJounal Plus』を独自開発し、モデル授業を行なってきた。今回、東京大学のキャンパス内で培われたノウハウを初等教育、中等教育ともつなげていくことが重要と豊島区での実証研究を行なうことになった」(東京大学・吉見俊哉 副学長)。
東京都豊島区でも、「小学校3年生から中学校3年生までを対象に、独自テストを実施し、子供達のスキルアップ、授業内容の改善などを進めている。結果を見ると、習熟スキルに対し、問題解決スキルが低いという学力の二極化傾向が明らかになっている。今回の実証研究で二極化を改善することができれば」(豊島区教育委員会・三田一則 教育長)と今回の実証研究を問題点の改善につなげたい考えだ。
東京大学 副学長 吉見 俊哉氏 | 東京都豊島区教育委員会 教育長 三田 一則氏 |
今回の実証研究は、東京大学にレノボ「ThinkPad X220 Tablet」を導入。文系、理系、語学などでアクティブラーニングを実施する。
【11時50分訂正】記事初出時、納入したものがThinkPad X60 Tabletとなっておりましたが、正しくはX220 Tabletです。お詫びして訂正します。
東京大学 大学院情報学環 山内 祐平氏 |
「来週からスタートするモデル授業では、レノボから今回のプロジェクトの責任者である留目真伸常務執行役員、ThinkPadの生みの親である内藤在正氏、日本マイクロソフトからはこのプロジェクトの担当である中川哲 文教ソリューション本部長、Xbox担当の泉水敬氏を招き、情報社会のキーワードというテーマでモデル授業を行なう。グローバリゼーションの最前線の中で働く皆さんに参加してもらうことで、今後の情報社会のあり方について立体的な議論の深掘りをしていく予定だ」(東京大学大学院情報学環・山内祐平准教授)。
千川中学校には、レノボ「ThinkPad X220 Tablet」を40台導入し、2年生を中心に1人、1台環境での授業利用を進め、自宅での利用やクラウド環境の利用も進める計画だ。
「東大からはeJounal Plusの導入支援など授業設計、ICT利用に関する研修行なうと共に、小・中学校教育には無い『問いを立てる』、『対話で支援する』ことの重要性といった専門的助言を行なう。さらに、日本では初めてとなる、日本マイクロソフトのPartners in Learning School Researchを利用した体系的学校評価を行ない、ICTスキルの高い教員だけでなく、普通の教員のICT活用の重要性をアピールする」(山内准教授)。
タブレット、キーボードの両方の操作ができる機種を選んだのは、「ピュアタブレットではないのは、教育コンテンツを経験するにはいいが、21世紀型スキルを育成するという点では知識生産の道具としてパソコンを使う必要がある。そのためのアプリケーションはキーボードがある方が使いやすい。普通のノートを選択しなかったのは、図に書いてみるといった作業には適さない点があるため。ピュアタブレットのいいところと、キーボードのいいところの両方を兼ね備えた機種を選択した。ただし、これは現在の判断で、ソフトウェア環境の発展によっては今後、どうなるのかわからない」(山内准教授)と理由を説明している。
今回のプロジェクトに向けて実施している東京大学による教員セミナー | マイクロソフトの教育支援プログラム | 実証研究におけるICT教育環境 |
教育における可能性を検証 | 日本と成果の状況と課題 | アクティブラーニングとは |
KALSで実施した試行 | 21 KOMCEEの展開 | 21世紀型スキルとは |
千川中学校での実証実験 | 東京大学の支援項目 | 共同事業の価値 |
東京大学が独自開発したソフトeJounal Plus |
今回の支援について、日本マイクロソフトのパブリックセクター統括本部・業務執行役員・中川哲文教ソリューション本部長は、「アクティブ教育の重要性がアピールされていたが、私自身が教育分野を担当することになり、研修で世界各国の子供達の優秀なプレゼンテーションに触れた結果、子供達が優秀な経営者のようなプレゼンテーションを行なう時代になっている。これからの人材には、コラボレーションのリーダーシップをとっていく力がまさに必要になる。マイクロソフトはOSやクラウドを提供し、教育現場のICT活用をサポートしていくので、優秀な人材がたくさん育って欲しい」と話した。
レノボ・ジャパンの留目真伸常務執行役員 エグゼクティブ・ディレクターは、「レノボでは、CSR活動として『U.dream』という名称で、エデュケーションなど4分野をキーワードに活動を進めている。今回、エデュケーションの一環として、この機会を得たことを幸せに思う」と話した。
日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 文教ソリューション本部長 中川 哲氏 | レノボ・ジャパン株式会社 常務執行役員 エグゼクティブ・ディレクター Lenovo/NECプロジェクト担当 留目 真伸 氏 |
(2011年 10月 6日)
[Reported by 三浦 優子]