「先端技術館@TEPIA」、展示をリニューアル
~「ニューロコミュニケーター」から「ひび割れ自己治癒コンクリート」まで

4月11日 リニューアルオープン



 一般財団法人高度技術社会推進協会(TEPIA。2012年4月に「機械産業記念事業財団」から改称)が運営する「先端技術館@TEPIA」(住所:東京都港区北青山2-8-44)が、4月11日からリニューアルオープンした。

 テーマは「SMART TECHNOLOGY 新しい社会・都市・くらしをつくる日本の先端技術」。情報通信、健康・医療、環境・エネルギーなどの分野などの展示のほか、次世代環境・エネルギー社会システムとして期待される「スマートコミュニティ」を紹介するテーマ展示を行なう。開催期間は4月11日から2013年3月3日(予定)まで。

 「TEPIA」では機械・情報産業を中心とするテクノロジーの展示を行なっている。入場は無料(月曜休館)。TEPIAでは定期的に展示品のリニューアルを行っているが、今回のリニューアルの新展示は59点。メイン展示は以下の5つの領域、13の技術分野からなる。

・くらしとコミュニケーション
 「ディスプレイ」「ICT」「生活支援ロボット」

・健康と医療
 「ヘルスケアと福祉機器」「医療機器」

・都市とモビリティ
 「防災・セキュリティ」「モビリティ」

・環境とエネルギー・資源
 「エネルギーと環境」「リデュース・リユース・リサイクル」「都市環境」「燃料電池」「省エネルギー」

・小さな世界と高機能素材
 「高機能素材」

 このほか期間限定のトピックス展示やワークショップのほか、ロビー展示、プロローグ展示がある。

 全100点の展示のうち、59点が新展示とのことだが、以前の展示と共通したものも多い。前年度の展示紹介記事で触れなかったものを中心に、主に写真で紹介していこう。合わせてご覧頂きたい。

5つの領域に分けて出展されているエントランス三菱重工業が開発したロボット「Wakamaru」もお出迎え

●ロビー展示、プロローグ展示、トピックス展示

 株式会社レイトロンはコミュニケーションロボット「Chapit(チャピット)」を出展。音声認識を使って家電製品を赤外線リモコンできるロボット。雑音環境下でも誤認識しにくいという。

 ヤマハ株式会社の「TLFスピーカー」は一見すると、ただの布ポスターにしか見えないが、早稲田大学山崎芳男研究室と開発した薄型軽量の静電型スピーカーだ。巻いて運ぶこともできるほか表面に印刷することもできる。音はほぼ正面のみに届けられる特性を持つため、複数のスピーカーを並べても音が混じりにくいため広告などに向いている。

首都大学東京の学生からのモビリティ提案TLFスピーカーコミュニケーションロボット「Chapit(チャピット)」

●テーマ展示

 テーマ展示は最近大流行の次世代自動車やスマートハウスをテーマとしている。

 アイシン・エィ・ダブリュ株式会社による4WDハイブリッドトランスミッション。6Lクラスの動力性能と3Lクラスの燃費を両立させ、同時に、放射音、振動伝達を低減。静粛性を実現している。

 日立電線株式会社によるEV、ハイブリッド自動車向け充電スタンド「enetus(エネタス)」は家庭で使用することを想定したスタンド。充電コネクタの取り外しが容易で、奥行きも12cmとスリムになっている。電気料金の安い深夜に充電するためのタイマー機能も搭載している。

 東レ株式会社による「炭素繊維複合材料使い電線」は、風力発電や太陽光発電所から都市部まで電力を運ぶための大容量の新型電線。高強度・軽量の炭素繊維を芯材として使うことで軽くて伸びず、発熱による火災などを起こしにくい。また高剛性のため電線をつなぐ鉄塔の間隔も大きくできるという。

4WDハイブリッドトランスミッションEV、ハイブリッド自動車向け充電スタンド「enetus(エネタス)」炭素繊維複合材料使い電線

●くらしとコミュニケーション

 独立行政法人産業技術総合研究所による脳波を使った意思伝達装置「ニューロコミュニケーター」は、小型無線脳波計を使ってリアルタイムに脳波を解析。提示されたなかから装着者が選択したいメニューを推定する技術。重度運動機能障害のコミュニケーション支援のほか、産業応用も期待されているという。

 東京工業大学の実吉研究室は「積層型静電アクチュエータ」を出展。紙バネ構造のアクチュエータで、小型・軽量・大収縮だという。動物の筋線維のように微細な積層型アクチュエータを束ねることで大きな力を出せるアクチュエータも作れるとのこと。

「ニューロコミュニケーター」装着者が選択したいメニューを推定する技術「積層型静電アクチュエーター」の概念説明

 三重大学、株式会社D Artの「上肢動作支援ロボット(アクティブ・ギプス)」。力覚信号と筋電位信号を使い分けて動作意志を判断し、支援することができる装具。

 岐阜県情報技術研究所による水田用小型除草ロボット「アイガモロボット」。水田の中で稲をカメラで認識して、潰さないように自律走行できるという。そのときに左右のクローラを使って雑草を踏みつぶしてかきだす。水が濁ることで雑草の光合成を阻害して成長を抑制する効果もあるため、有機栽培農家から注目されているそうだ。

 株式会社知能システム・独立行政法人産業技術総合研究所によるアザラシ型ロボット「パロ」は、アメリカでは医療機器として承認されており、またデンマークでは6割以上の地方自治体に導入されるなど欧米からの普及を狙っている。また東日本大震災後には避難所でも心のケア用に用いられた。

上肢動作支援ロボット「アクティブ・ギプス」水田用小型除草ロボット「アイガモロボット」アザラシロボット「パロ」

●健康と医療

 コニカミノルタビジネスソリューションズが出展している「立体コピーシステム」は、視覚障害者向けの情報伝達をサポートするための機器で、これを使うことで盛り上がり面のある印刷物を簡単に作ることができる。点字だけではなく、図形や絵柄、地図などの伝達において有効だという。

 株式会社ユーグレナからは、ユーグレナ(ミドリムシ)の粉末と大豆タンパクを混ぜた「ユーグレナバー」が出展されていた。栄養補助、携帯食に向いているという。

 ASTI株式会社は「マイクロニードルシステム」を出展。皮膚の浅い部分に刺して予防や治療を行なうための医療デバイスで、将来はワクチン、インシュリン投与などに用いられるという。針先の半径は10μm以下。強度の高く生分解性のPGA樹脂でできており、目的に応じて針の本数や深さを調整できる。

立体コピーシステムを使って出力した紙。印字されている部分が盛り上がっている。ユーグレナバーマイクロニードルシステム(ルーペ越しに撮影)

●都市とモビリティ

 ブラザー工業は片手で振るだけで発電してLEDを点灯させる「セルフ発電型ライト」を出展。かしゃかしゃと振ることでマグネットがコイルの中を往復移動し、キャパシタに蓄電する仕組み。長期間放置していても必要なときに振るだけで使える点が利点。

 株式会社ワイディーエスによる「ホイール・チェア・ビークル(WCV)」は、車椅子利用者が車椅子のまま乗り降りできる電動三輪車。動力は前輪のインホイールモーター。バッテリはリチウムイオン。車両はミニカー登録で、原動機付き自転車扱いとなる。

セルフ発電型ライト車椅子用電動トライク「ホイール・チェア・ビークル(WCV)」

●環境とエネルギー・資源/小さな世界と高機能素材

 富士エネルギー株式会社の真空管ソーラーシステム「Fuji ヒートP・SOLAR FSP-2100」は、新開発の太陽熱集熱器で、従来型と違って急激な熱変化によるヒートショックが発生しない。

 東大生産技術研究所 岸研究室の「ひび割れ自己治癒コンクリート」は、あらかじめコンクリートの中に「自己治癒混和材」を混ぜておくことで、ひび割れ後、外から入って来た水とそれが反応して、炭酸カルシウムの結晶が析出、ひび割れを自律的に修復するというもの。もともとコンクリートにはそのような性質があるのだが、それをさらに高めたものだという。

 自己治癒混和材は膨張剤・膨潤材・ひび割れ部分に析出した生成物の結晶性を高めるための化学添加剤を混ぜたもの。コンクリート練りまぜのときには水と接触しないようにバインダーを混ぜられて作られることで、施工性・自己治癒性能も確保されるという。

 東京大学先端科学技術研究センター、太陽誘電株式会社、株式会社NTTファシリティーズ総合研究所は、「光ディスク型色素増感太陽電池パネル」の試作品を出展。色素増感型太陽電池は弱い光量でも発電できるフレキシブルな太陽電池。構造・製法も簡単で生産性に優れるとされている。セル単位で着脱可能、自由に分離/接続できるパネル基板と組み合わせることで、セル数(発電量)、直並列(出力電圧/電流)を任意に選ぶことができる。

真空管ソーラーシステム「Fuji ヒートP・SOLAR FSP-2100」ひび割れ自己治癒コンクリート光ディスク型色素増感太陽電池パネルの試作品

 「先端技術館@TEPIA」の入場料は無料。技術に興味がある方ならば、一度のぞいて見るのも悪くないと思う。

(2012年 4月 11日)

[Reported by森山 和道]