ARM、パイプラインを増強したモバイルGPU「Mali-T658」

Mali-T658

11月10日 発表



 英ARMは10日(日本時間)、従来からパイプラインを強化したモバイル向けGPU「Mali-T658」(Mali:マリ)のフィジカルIPを発表した。

 同社のモバイル向けGPUアーキテクチャ「Midgard」の最上位に位置するモデル。従来最上位だった「Mali-T604」から最大コア数を倍増させ、最大8コア(コア数は可変)としたほか、1コアあたりの演算パイプラインも倍増させ、4基とすることで性能を向上させた。

 グラフィックス性能は同社のメインストリーム向けの「Mali-400」と比較して10倍、演算性能もT604と比較して4倍となった。1コアあたりのテクスチャパイプラインは増加していないため、グラフィックス性能をT604と比較した場合、8コア搭載時で最大2倍としている(T604は最大4コアのため)。

 T658は次期CPUのCortex-A15またはCortex-A7コアベースとの組み合わせを想定し、負荷を各GPUコアに動的に分散させ、CPU負荷を低減できるハードウェアベースの「Mali Job Manger」を実装。このため高性能CPUと低消費電力CPUを組み合わせた異種混合の「big.LITTLE CPUシステム」において、効率的に電力を利用できる。

 CPUやメモリとはキャッシュコヒーレントが可能な独自インターフェイス「AMBA 4」を通じて通信を行なう。メモリへのアクセスもCPUを介さず自律的に行なえる。マルチコアCPUに最適化されており、IPライセンスを受けたメーカーはCPUとGPU双方ともスケーラブルに性能を拡張できるとしている。

 APIは、グラフィックス向けではDirectX 11、OpenGL ESとOpenVG、GPUコンピュート向けではOpenCL,Renderscript(Google)、DirectComputeをサポートする。64bitをサポートしたARM命令セット「ARMv8」への対応も謳う。

 フィジカルIPによるライセンスのため、ARM自身はT658を製造しないが、基本的に28nmプロセス以降で製造されることを想定しており、製品の登場は2013年後半以降としている。位置づけ的にはハイエンドスマートフォン向けを狙う。IPは既に富士通、LG、NUFRONT、Samsungへライセンス供給を開始した。

Mali-T658の概要Mali-T604や400との性能比較T604と比較してGPUの演算パイプライン(図中ではArichmetic Pipline)を倍増
ハードウェアのJob Managerを装備big.LITTLE CPUシステムとの組み合わせを想定想定されるCPUとの組み合わせや市場における位置づけのロードマップ

●OEMベンダーはスケーラブルにシステム全体を構築できる
チューダー・ブラウン氏

 10日に都内で開かれた製品発表会では、英ARMのプレジデント チューダー・ブラウン氏が挨拶。T658を世界に先駆けて日本で発表した理由として、「日本は我々にとって重要な市場であるが、特にゲームやHDコンテンツなど、世界のグラフィックスをリードする市場であるからだ」とした。

 また、「5年前はシンプルなUIを採用したデバイスが多かったが、現在リッチなUIやゲームなどにより、モバイルにおいてもグラフィックス処理は25倍に増えている。現時点で我々のMali-400がこの市場を支えているが、今後は高精細なグラフィックスのみならず、AR(拡張現実)、音声認識処理において、GPUの処理能力を駆使した異種混合コンピューティングもモバイルにおいて重要になってくる。今後この市場のニーズを満たすために、T658を投入する」と説明した。

CPUとGPUの位置づけモバイルにおけるGPUコンピューティングの重要性
GPUコンピューティングの可能性コンテンツにおけるグラフィックス処理の増加

 製品説明を行なったARM メディアプロセシング部門 ストラテジックマーケティング VPのケビン・スミス氏は、「我々のCPUとGPUのIPはフレキシブルに選択可能なため、OEMメーカーはターゲット市場にあわせてスケーラブルなソリューションを提供できるのがメリット。システムレベルでのGPUコンピューティングへの対応、CPUとのシームレスな接続など、競合と比較しても優位性は明らかだ」とアピールした。

 また、600シリーズはソフトウェア面で完全な互換性を持っており、ソフトウェア開発者はコストを削減できるメリットがある。さらにJob Managerのハードウェア実装により、ハードウェアに対して透過的になり、開発者は意識することなくマルチコアに対応できるとした。

 このほか、Mali GPUについてもARMのCPUコアと同様、OSやミドルウェア、フレームワーク、エンジン、サービス、ゲーム開発と協力し、エコシステムを構築していきたいとした。

ケビン・スミス氏ARMにおけるGPUのビジョンMali GPUの現在。IPライセンスも43社となっている
MaliのエコシステムT658のまとめ

(2011年 11月 10日)

[Reported by 劉 尭]