ARM、GPU戦略と今後のロードマップを紹介
~2012年にWindows 8向け製品が登場

西嶋貴史氏


 アームは7月25日、都内において同社のGPU戦略についての記者説明会を開催。昨年発表した「Mali-T604」に続く、2016年までのGPUロードマップなどを紹介した。

●アームが考えるGPUの今後のトレンド

 説明会の冒頭、同社日本法人の社長である西嶋貴史氏は「当社は英BBCの放送で取り上げられるなど知名度が高まっているが、多くの人はマイクロプロセッサのIPをライセンスする会社であると思っている。しかし、ほかの分野のビジネスも行なっている」と述べ、その1つである、4年前に開始したグラフィックス製品に関する説明会を開催した。

ランス・ハワース氏

 説明にあたったのは、ARM本社でGPUを担当するランス・ハワース氏(メディア・プロセッシング部門上級副社長兼ジェネラル・マネージャ)。同氏は「メディアプロセッサのチームを6年間担当して、その革新の速度と進化に驚いている」と、現在のコンシューマ分野においてGPUに対する要求がどのように変化してきたかの見解を紹介した。

 現在コンシューマが求めるデバイスのトレンドとして、メディアリッチであること、タッチパネルのようにスムースで直感的に操作できるユーザーインターフェイス、カジュアルゲームが楽しめること、コンテンツの移植可能性、といったことが求められるとし、そうした要求を満たすためにスマートフォンからSTB、デジタルテレビに至るまでGPUのテクノロジが採用されているとした。

 続いて同氏は、現在のARMの主力GPU製品である「Mali-400」がどのような製品に利用されているかの例として、Samsungのスマートフォン「GALAXY S2」を例に紹介。各種ベンチマークで非常に優秀な結果を残しているが、GALAXY S2では性能に余裕があることと省電力のため、フルスピードに対して60%程度の性能しか発揮させていないことを紹介し、ARMがGPUテクノロジのリーダシップであるとアピールした。

 GPUの性能やトレンドについては、「4K2KやDirectX 11の世界では、低解像度/低クオリティのものに対して、レンダリングに500倍の処理性能が求められ、かつ消費電力は一定範囲でなければならない。他方、GPUコンピューティングの広がりによって、コンシューマデバイスにおけるユーザーの体験が大きく変わってくるのではないか」と述べた。

Mali-400を搭載するGALAXY S2のベンチマーク結果。左が各種ベンチマークの結果で、右は他社のGPUを搭載し同じ液晶解像度を持つデバイスとの性能と比較したランキング結果

 公開されたロードマップでは、現在のMali-400の次に登場する、「Mali-T604」を紹介。Mali-T604は2010年10月に発表されたもので、今年後半にはエンジニアリングサンプルを提供し、実際の搭載デバイスの登場は2012年後半になるという。

 Mali-T604はGPUコンピューティングに適応できるアーキテクチャとなっており、IEEE準拠の倍精度浮動小数点演算をサポート。4コアのシェーダコアを持ち、演算性能は68GFLOPSとなっている。

 グラフィックスAPIは、DirectX 11のほかOpen GL ESの次バージョンである「Halti」のサポートも表明されている。DirectX 11のサポートは、ARMがサポートされるWindows 8を見据えたものである。ちなみにWindows 8搭載デバイスのプロセッサについては、最初にサポートされるデバイスではCortex A9、後にCortex A15を搭載したものが登場するという流れになるのでないかとし、来年後半に登場予定のMali-T604がWindows 8デバイスで採用される場合には、Cortex-A15との組み合わせが多くなるだろうとの予想を述べている。

 SoCのデザインにおいて、メモリバンド幅の拡張が消費電力増加における大きな要因になっているとした上で、その点も含めた消費電力効率を重視した設計になっているという。また4コアのシェーダコアは独立して電力管理が行なわれる。

 ハワース氏は今後について、「グラフィックスが将来のデバイスにおいて演算システムの鍵を握っていると考えている。ARMとパートナーは、2016年のユーザーエクスペリエンスを創造し、ビジュアルコンピューティングを現実のものにしていくことができる立場にあることを自覚をもっている」と述べた。

 具体的な計画としては、今年10月に行なわれるARM Developers Conferenceでは、Mali-T604の姉妹品のアナウンスを予定しているほか、その後もフォトリアルな体験を提供するためにより高性能なGPUを開発していくと説明。将来のGPUについて「基本的なアーキテクチャはMali-600シリーズと同じもので、コアの数やコア当たりのパフォーマンスを向上させるが、ソフトウェアの互換性は保たれる」とした。

ARMのGPUロードマップ。来年後半にMali-T604搭載デバイスが登場の見込み。製造プロセスについては、Mali-T604が28nm、その次の世代で20nmプロセスが採用されるのではないかとの見通しも示したMali-T600シリーズの特徴。Windows 8を見据えたDirectX 11への対応や、GPUコンピューティングへの対応がポイントARMのエコシステムやそこに対する投資もアピール。今後、CPUとGPUのロードバランスなどが課題になることから、ARM DS-5 Streamlineという分析ツールを提供していることも紹介した

(2011年 7月 26日)

[Reported by 多和田 新也]