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【IMW 2016】imec、1兆サイクルの書き換えが可能なReRAM技術を開発

IMW 2016の会場であるフランス・パリ市のマリオット・リヴ・ゴーシュ・ホテル(カンファレンスセンター)の入り口(2016年5月17日に撮影)。テロを警戒しているため、出入り口が1カ所に制限されている。同様の措置(出入り口を1箇所に制限すること)は、パリ市内の百貨店やブランドショップなどでも見られた。なお写真では分からないが、建物の内部からは屈強な男性が常に出入り口を見張っていた

 ベルギーの研究開発機関であるimecとKU Leuvenは、データの書き換え寿命が10の12乗サイクル(1兆サイクル)と長く、データの読み出しウインドウが100倍と大きな抵抗変化型メモリ(ReRAM)技術を共同で開発した。その概要を半導体メモリ技術の研究開発に関する国際学会「国際メモリワークショップ(IMW 2016: 8th IEEE International Memory Workshop)」で2016年5月16日に発表した。

 ReRAMは、電圧パルスあるいは電流パルスによって記憶素子の抵抗値を高抵抗状態または低抵抗状態に制御し、データを記憶するメモリである。データの書き換えを高速に実行できる、不揮発性である、原理的には微細化が可能、製造技術がCMOSロジックと互換、といった特長を備える。

良好な読み出し特性と長い書き換え寿命を両立

 ReRAM用記憶素子の材料には、酸化物が使われることが多い。imecを中心とするReRAMの共同研究チームはこれまで、タンタル酸化物(TaOx)とハフニウム酸化物(HfOx)を選択してReRAMセルを試作してきた。いずれもReRAMの記憶素子としては代表的な材料である。しかし、バランスの良い特性を得られてこなかった。特に問題だったのが読み出しウインドウ(高抵抗状態と低抵抗状態の抵抗値の比)である。書き換えサイクル寿命は10の8乗サイクル(1億サイクル)まで達成できたものの、読み出しウインドウは10程度にとどまっていた。

 そこで今回は、記憶素子にガドリニウム酸化物(GdOx)を採用したことで、100を超える広い読み出しウインドウと、書き換えサイクル数が10の12乗回(1兆回)という長い寿命を達成した。

書き換えサイクル寿命(横軸)と読み出しウインドウ(縦軸)。番号の付いたプロットはいずれも、imecの過去の研究成果。「This study」とあるプロットは今回の研究成果 ※IMW2016の講演論文から引用した

メモリセルは1個の記憶素子と1個のトランジスタで構成

 試作したメモリセルは、1個の記憶素子と1個のトランジスタで構成されている。DRAMセルと類似の標準的な構成である。記憶素子の大きさは40nm角とかなり小さい。トランジスタはかなり大きく、ゲート長とゲート幅がともに1μmである。

試作したReRAMセルの顕微鏡観察写真と構造図。左上(a)は、記憶素子を俯瞰した走査型電子顕微鏡観察像。TEはトップ(最上層)電極、BEはボトム(最下層)電極。左下(b)は記憶素子の断面を透過型電子顕微鏡で観察した写真。右上(c)は記憶素子の断面構造図。BE層は窒化チタン(TiN)で厚さは100nm、ガドリニウム酸化物層の厚さは5nm、キャップ層のHfの厚さは5nm、TE層のTiNの厚さは35nmである。BE層はタングステン(W)のプラグを介してトランジスタのドレインにつながる。右下(d)はメモリセルの回路構成。1個の記憶素子(図中の「RRAM」)と1個のトランジスタで構成されている ※IMW2016の講演論文から引用した

100nsの書き込みパルスで100を超えるウインドウを確保

 ReRAMでは、高抵抗状態(HRS状態)のデータを書き込む動作をリセット(RESET)、低抵抗状態(LRS状態)のデータを書き込む動作をセット(SET)と呼ぶ。リセット動作とセット動作に必要とする電圧パルスの長さが、データの書き込みアクセス時間を大きく左右する。

 試作したメモリセルでは、電圧パルスが100nsと短くても、100以上の読み出しウインドウを確保しつつ、印加電圧を2V以下と低く抑えることができた。LRSとHRSの抵抗値はそれぞれ、20kΩ以下と2MΩ以上である。なお、最適な印加電圧(パルス幅100nsのとき)の値は、セット動作が3V、リセット動作がマイナス1.75Vとなった。

書き込み電圧のパルス幅(横軸)と、印加電圧(縦軸)の関係 ※IMW2016の講演論文から引用した

 発表講演では、100nsのパルス幅、50μAのクリチカル電流で読み出しウインドウを、今回のガドリニウム酸化物とハフニウム酸化物、タンタル酸化物のReRAMセルで比較してみせた。ハフニウム酸化物の読み出しウインドウは約10、タンタル酸化物の読み出しウインドウは約20である。これらに対し、ガドリニウム酸化物では100を超える読み出しウインドウを確保できている。非常に良好な特性だと言える。

10の12乗サイクルの書き換えでも読み出しの劣化がない

 書き換えサイクル寿命のテストは、先ほど示した最適な書き込み条件で実施した。パルス幅は100ns、セット電圧は3.0V、リセット電圧はマイナス1.75Vである。

 25個のテスト用デバイスで書き換えサイクル寿命を測定したところ、10の9乗サイクルに達しても平均的には100以上の読み出しウインドウを確保できた。またいくつかのデバイスを抜き出してテストしたところ、10の12乗サイクルに至るまで、読み出しウインドウの劣化は見られなかった。

書き換えサイクル寿命のテスト結果。上のグラフ(a)は、25個のメモリセルに対して10の9乗サイクルまで書き換えを繰り返したときの抵抗値の変化。特に劣化は見られない。下のグラフ(b)は、ランダムに抜き出したメモリセルについて10の12乗サイクルまで書き換えを繰り返した結果。読み出しウインドウが維持されていることが分かる ※IMW2016の講演論文から引用した

150℃で30日間のデータ保持特性には課題も

 データ保持特性についても、テスト結果が示されていた。85個を超えるメモリセルを150度の高温で30日間放置し、HRS(高抵抗状態)とLRS(低抵抗状態)での抵抗値の変化を測定した。HRSでは時間の経過とともに、抵抗値が上昇する傾向が見られた。抵抗値が上昇する傾向はLRSでも同じであり、なおかつ100倍を超える抵抗値の著しい上昇が起きていた。

 LRSで抵抗値の上昇が10倍程度で済むのは、150度の高温放置だとわずか1時間程度と短い。そこで書き込みのクリチカル電流を2倍の100μAに増やし、書き込みを強化した。するとLRSにおける抵抗値の上昇を、30日後でも10倍程度に抑えることができた。ただし、書き込み電流を増やすことは消費電力の上昇を招くので、あまり好ましくない。今後の課題だろう。

150度の高温放置によるデータ保持特性のテスト結果。上のグラフ(a)はこれまでと同様の条件(クリチカル電流が50μA)で、データを書き込んだ場合。低抵抗状態(LRS)において抵抗値の著しい上昇が起きている。下のグラフ(b)は、クリチカル電流を100μAに増やして書き込みを強化した結果。LRSにおける抵抗値の上昇が抑えられている。なお、いずれもデータ書き込み後のベリファイ(検証と修正)動作は実施していない ※IMW2016の講演論文から引用した

(福田 昭)